アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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第31話 会議

「表明ッ!!アラビアントレノ、彼女が菊の冠を取ったという事態に、我々は驚愕している!」

 

 トレセン学園の理事長であるやよいは菊花賞の結果に驚愕していた。

 

「たづな、学園の生徒はどういった反応を示している?」

「“驚いた”、という意見が有りますが…やはり、“ありえない”というのが大多数を占めています」

「憂慮ッ!!その“ありえない”という意見はローカルシリーズへの理解不足という何よりの証拠ッ!!オグリキャップを始めとしたローカルシリーズからの移籍者もおり、トラブルの原因となる可能性は否定出来ない!!」

「確かに…その意見も分かります…AUチャンピオンカップの事もありますし…」

 

 たづなは顎に手を当て、考え込んだ。

 

「そこで発案ッ!!現在控えられているローカルシリーズからのスカウトを行い、生徒に現在のローカルシリーズを知ってもらい、理解を深める事を行いたい!」

「ですが、URA本部はどう仰っているんです?」

「“方針に影響が出ない範囲”では可能であると言ってきた!心配は無用ッ!!これより理事会との調整に入るッ!!」

 

 やよいの言う、方針とは近年のURAの目標である、“海外遠征の強化”であった。

 

 そして、前理事長であるしわすはその海外遠征強化方針にのっとり、その土台をより盤石なものにするべく、海外に渡ったのである。

 

 ただし、海外遠征には多大なる資金が必要となる。そしてこれはここ数年、URAがローカルシリーズからのスカウトを控えてきた理由の“一つ”であった。

 

 生徒を増やすことにより各種費用の負担が増加する、たづなが気にかけていたのはここであった。

 

 

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「まさか…菊花賞をローカルシリーズのウマ娘が取るとはな…」

「ああ、私も信じられない…」

「しかも、現在絶好調のヤコーファーのウマ娘、キングヘイローを逆に弾き飛ばすとは…」

「私が一番驚いたのはそれだ、“瀬戸内の怪童”……か…」

 

 やよいが理事会との調整に入って数日後、トレセン学園の生徒会室にてエアグルーヴ、ナリタブライアンは会話を交わしていた。

 

 二人の目の前には、新聞が広げられていた。

 

「それで、会長は広島県に向かったんだな?」

 

 エアグルーヴはナリタブライアンにそう確認する。

 

 当初の予定では、菊花賞の結果がどうであれ、トレセン学園はアラビアントレノをスカウトする方針であった、それ故、前もって生徒会のスカウト担当の生徒が福山トレセン学園に一番近い、広島のURA事務所に向かっていた。

 

 しかし、菊花賞でアラビアントレノが勝利した事により、そのスカウトをより確実なものにする為に、理事長であるやよいの願いを受け、急遽、シンボリルドルフが先に広島へ向かっていた者たちを追いかけ、直接スカウトへと向かったのである

 

 そして副会長、エアグルーヴはジャパンカップへの準備の為、ナリタブライアンはシンボリルドルフ不在時の学園運営のために、遠出ができないという事情があり、学園に残っていたのである。

 

「なあ、エアグルーヴ、あのウマ娘…いや、最近の地方は、なぜここまで強い?」

「私にもよく分からないな、だが地方の改革が進んでいることは知っている、それが関わっていることは確かなことだろう」

「そうか…高度な実力を身につけるためには、それなりの設備が必要だ、しかしらウチと地方とでは、その資金力に雲泥の差がある、それらをどうやってなんとかしているんだろうな」

「…分からない、だが、今の私達に出来ることは、目の前のレースに集中することだけだ」

 

 この二人は中央と地方の設備や資金力の違いを知ってはいたものの、その差を埋めるものが何なのかまではほとんど知らなかった。

 

 

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『何故…私はあそこを通ろうとしたのでしょうか?』

『───……お前の判断は間違って無い、大丈夫だ、私がお前を守る』

『その気持ち、嬉しく思います、フェザー先輩…………でも、皆…皆、あのレースを見て言うのは、あの娘の事ばかり………フェザー先輩、私は…もう走りません、勝っても…嬉しくないですから』

 

 

ピリリリリ…!ピリリリリ…!

 

ガバッ!

 

「………!」

 

 夢…か…………何故…今になって…

 

 私は記憶のせいか、重い頭と身体を起こし、鳴っている携帯を手に取る。

 

「………ペルセウス」

『…フェザー!やっと繋がった……今日は大事な会議なんだから、早く身支度を整えて生徒会室に来て!』

「…わかった…すまない…」

 

 私は預かり物の耳飾りを付け、急いで身支度を整えた。

 

 

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『では、これより、ローカルシリーズトレセン学園生徒会長会議を行います、皆さん、よろしくお願いします』

 

 エアコンボフェザーがエコーペルセウスに起こされて約一時間後、全国の地方トレセン学園のオンライン会議が行われた、まず挨拶をしたのは、佐賀トレセン学園の生徒会長である。

 

『それで、今日の議題は“声掛け事案の急増について”やったな』

 

 発言したのは園田トレセン学園の生徒会長である。

 

『うちの生徒にスカウトが来たよ』

『怪我の療養中の私のところのシャトーアマゾンにも』

『こっちにも』

 

 その議題が上がるのと同時に、各方面の生徒会長から声が上がった。

 

「まあまあまあまあ、落ち着こう落ち着こう、ごっちゃになって何もわからないから」

 

 エコーペルセウスは取り敢えず場を鎮めようとする。

 

『いやいやいやいや!!エコーペルセウス、アンタんとこが一番心配やで!!』

『そうだ!』

『それには激しく同意』

『君の所のアラビアントレノ、どうなっているんだい?』

 

 各トレセンの生徒会長からエコーペルセウスに質問が飛んだ。

 

「…恐らく今、彼女の担当トレーナーにURAからの使者が接触しているだろう、現在の状況は把握しようがない、とりあえず、各学園の現状報告を進めていこう」

 

 エコーペルセウスの代わりに、彼女の隣にいたエアコンボフェザーが質問に答え、会議を進めるように促した。

 

 

 

────────────────────

 

 

(わざわざ広島市内の事務所まで呼び出すとは…中央もやってくれる、ソアラの燃料代を都合してくれる訳では無いだろうに…まあ、新幹線使ってこっちまで来ることを考れば、適切なのかもしれんが)

 

 一歩その頃、慈鳥はそんなことを考えながら、部屋で待機していた。

 

「…おまたせ致しました、私はトレセン学園生徒会、スカウト部門のガルマと申します、この度は遠路はるばる、ご苦労さまでした」

 

 すると、ガルマと名乗る生徒会の生徒が入室して挨拶を行い、慈鳥と対面する。

 

「どうも…そっちこそご苦労さん」

 

 慈鳥は姿勢を強張らせることなく、返した。

 

「…それで、今日来ていただいた要件なのですが…」

「そちらの言いたいことは分かっている、“アラビアントレノを中央(トゥインクルシリーズ)にスカウトしたい”だろう?」

「は、はい!」

「でも、俺から見るに、そっちは誰かを待ってる、違うか?」

「は、はい…そうです」

「なら…一緒に待とうじゃないか」

 

 慈鳥はガルマをじっと見つめ、そう言った。

 

 

 

────────────────────

 

 

『……それでぇ…あの娘が中央に行ぐことが決まった後のクラスと来たら…それはもう…御通夜状態でぇ…グスッ…ユキちゃあ"あ"あ"あ"ん"!!』

『………』

 

 一方、オンライン会議では、盛岡トレセン学園の生徒会長が号泣していた。

 

「うんうん…つまり、あの娘はスターであれども、皆と共に歩む大切な存在であったという訳だね…」

 

 エコーペルセウスは口調を優しくしてそのウマ娘をなだめる。

 

『はいぃ…』

『なるほど…盛岡の生徒にとって、ユキノビジンはでかかったった存在やったちゅー事やな……よし…ここで、一旦これまでのウマ娘達についてまとめよか、船橋のサトミマフムトと門別のレジェンドキーロフが拒否、福山のアラビアントレノが交渉中、佐賀のエイシンコレッタ、ウチのロードトーネード、金沢のがスカウトに来る連絡が来た、そして了承したのが盛岡のユキノビジンと札幌のアローキャリアー、カサマツのオガワローマンか…せや、水沢を聞くのを忘れとったな、どうなんや?そっちの“真紅の稲妻”は?あの強さ、そしてあのサイレンススズカと同い年っちゅー将来性、中央のスカウトは見逃すはずは無いと思うんや』

『あの娘?かなーり強くスカウトされたわ、でも安心して、あの娘なら断ったわよ、“東京の水は合わない”って理由でね』

『流石は“真紅の稲妻”や、安心したで、胆力が違う』

 

 園田の生徒会長は胸を撫で下ろした。

 

『とりあえず、現状はこんな感じってことかぁ……はぁ…ヤになっちゃうなぁ…全国交流レースを増やしてトレーニングも研究して…やっと成果が出てきたってのに……無駄だと思っちゃうヨ…』

 

 そう言って溜息をついたのは札幌の生徒会長である。

 

『それには激しく同意ですわ、これから面白くなっていくであろうローカルシリーズ、いくらウマ娘達本人の意志を尊重するとはいえ…中央移籍という形でその担い手を奪われるというのは………憤りを隠せませんわ』

『それには私も同意です、ペルセウスさんから頂いたトレーニング方法を研究し、やっと実行段階に入ろうというのに…』

 

 姫路、そして金沢の生徒会長は耳を後ろに反らせ、声を絞り出した。

 

『オグリキャップの時はまだ、情状酌量の余地があるとは言えるが…』

「…うん、確かにそうなんだけど、ね?」

「…」

『…悪ィ…』

 

 エコーペルセウスは横にいるエアコンボフェザーの方に目をやり、大井の生徒会長の方に向き直る、それを見た彼女は頭を下げた。

 

 

 

────────────────────

 

 

コッ…コッ…コッ…

 

 一方、シンボリルドルフは広島のURA事務所まで到着していた。

 

「どうだ様子は?」

「会長!!」

 

 生徒会の生徒はシンボリルドルフを見て姿勢を正した。

 

「ガルマが話しているローカルシリーズのトレーナーはどこにいる?」

「は、はい!あちらの扉の中に」

「…ありがとう、ここからは私が行こう」

「会長自らが…?」

「この交渉、失敗する訳にはいかないのでね」

 

コッコッコッコッ…

 

 シンボリルドルフはガルマと慈鳥のいる部屋に入っていった。

 

 

 

「……失礼致します」

 

 ドアを開け、挨拶と共に入室したシンボリルドルフは少し驚いた、彼女の目にはどこか落ち着かない様子であるガルマ、それと腕を組んでガルマをずっと見ている慈鳥が映ったからである。

 

 

=============================

 

 

「ガルマ、ここからは私が代わろう、外で待っていてくれ」

 

 入ってきたウマ娘、シンボリルドルフは俺の前にいるウマ娘と交代し、席につく。

 

「お初にお目にかかります、トレセン学園の生徒会長の…」

「わかってるよシンボリルドルフ、自分だって、中央を“目指していた”人間だ、それで、今日はどういった要件でここへ?」

 

 俺はそう言ってシンボリルドルフに目をやった、返答は分かりきってはいるが、答えは聞いておく。

 

「分かった…単刀直入に言おう…アラビアントレノを中央(トゥインクルシリーズ)にスカウトしたい」

「ふむ…理由を聞かせてもらおうか」

「彼女はかつてのオグリキャップを彷彿とさせるような強さを持っているウマ娘、是非とも中央に移籍し、その強さを更に伸ばして欲しいと思っているからです。」

「ほう…納得がいく理由ではある……だが、そっちは絶対に思っているはずだ、“俺にウマ娘を任せるのは危険だ”とな」

 

 俺は相手の目を見て、そう言った、というのも、中央の面接試験の試験官にはベテランのトレーナーが居るからだ。

 

 それ故、俺が危険だとかいう情報は、必ず伝播している筈なのだ。

 

「…そっちがどう答えようと批判するつもりは無い、正直な回答を期待する」

「……否定はしません」

「なるほど」

「それよりも、貴方の気持ちをお聞かせ願いたい」

 

 シンボリルドルフはこちらを見つめ、そう聞いてきた。

 

「……正直な事を言うと、天皇賞秋直前というこのタイミングで声掛けをして欲しくなかった、単刀直入に言わせてもらう……“迷惑”だ」

「………!」

 

 相手は表情を強張らせる。

 

「……とまぁ、そうは言ったが、あくまで最優先するべきは本人の気持ちだと俺は思う。あの娘にとって何が一番良い選択なのか、それは、天皇賞秋を戦い、そんでもってあの娘と二人で考えさせて貰いたい、それならば、文句は無いだろう?」

「…我々はあくまで招請を乞う立場です、異存はありません、最後に一つお願いが、貴方には一番の選択を考えてあげて欲しい…彼女(アラビアントレノ)にとって、一番の選択を……よろしくお願い致します」

 

 そう言うと、シンボリルドルフは一礼をして部屋を出ていった。

 

 …アラにとっては…どちらが良いのか……

 

 だが、アラは俺に夢を与えてくれた、離れ離れになってしまうというのは…複雑なものがある。

 

 どういう訳なのか…あいつとの出会いは…偶然の気がしないからだ。

 

 

 

────────────────────

 

 

「……という訳です、大鷹校長」

 

 シンボリルドルフが帰った後、俺は話の内容について大鷹校長に話した。

 

『…ふむ…やはり、そうでしたか…先程ペルセウス君から報告があったのですが、他の学園でも同じ事が起きているとの事です。』

「…本当ですか!?」

『…はい、事実です………慈鳥君、これは私のトレーナーの端くれとしての意見なのですが、今のアラ君の移籍は、学園のウマ娘達にとって大きな損失になります…君の心を乱してしまう発言ではあると思います、ですが、どうかこの事は心に留めて頂きたい』

「…分かりました」

 

 電話は切られ、俺は携帯を閉じた。

 

 

=============================

 

 

 一週間後は秋の天皇賞だというのに、最近どうもトレーナーの様子がおかしい、だから、私は練習後にトレーナーを問い詰める事にした。

 

「それじゃあ、また明日」

「待って」

 

 私はトレーナーの腕を掴んだ。

 

「……どうした?」

「…トレーナー、私に何か隠してない…?」

 

 私は睨むようにトレーナーを見る。

 

「……分かった、話す…だから、その怖い顔をやめて、手を離してくれ」

「………分かった、ごめん」

 

 私は手を離す、トレーナーの手には紅葉のような跡がついていた。

 

「…良いかアラ、よく聞いてくれ、実は……」

 

 それから、トレーナーは全てを話してくれた、中央の生徒会長、シンボリルドルフが私をスカウトしに来た事、天皇賞秋の前というタイミングにトレーナーが不快感を示したこと、天皇賞秋を終えたら私と一緒に今後の進路を考えてくれるつもりだったこと……

 

「アラ、全部言ったこの際だ、聞いておく………中央に行きたいか?」

 

 トレーナーはそう言って、私の目を真っ直ぐ見た。

 

「……正直、分からない、確かにミーク達は良いライバルだと思ってる…でも私は福山(ここ)にいたから、トレーナーが担当してくれたから、ハリアー達ライバルや、フジマサマーチさんみたいな壁がいたから…強くなれた…そう思ってるから……」

「…そうか」

「でも…今は、そんな事は気にしてられない、目の前のレースに集中したい、結果はどうであれ、目の前の勝負に全力で挑まないのは、レーサーとして、失格だと思うから」

 

 私はトレーナーにそう言った

 

「…だな、よし…取りに行くぞ、秋の盾を…」

「…うん」

 

 私達は、秋の天皇賞に注力することにした。

 

 相手は、現役最強の大逃げウマ娘と呼ばれる、“サイレンススズカ”を始めとした強敵達。

 

……必ず…勝って見せる…

 

 




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