アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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今回も拙い挿絵が入っています。


第39話 癌を取り除け

 東京から戻って来た翌日、俺は大鷹校長に呼び出された。

 

「慈鳥君、実は君に折り入って頼みがあるのです」

「…頼み…ですか?」

「はい、君の開発したV-SPTを始めとした夏合宿で実施したトレーニング、あれを正式にローカルシリーズ全体のレース教育の一つとして盛り込みたいのです」

「あれを…ですか?」

「はい、夏合宿に参加した生徒たちは皆、良い実績を残しています、そして、同時にローカルシリーズにも注目が集まりつつある、これが現在の状況です」

「なるほど…」

 

 大鷹校長の言っていることは事実だ、夏合宿に参加した生徒は皆、良い実績を残している。アラは菊花賞を取ったし、コンボはジャパンカップを取った。ワンダー、チハ、ランスも重賞を取っている。桐生院さんの育成しているミークも有馬記念への出走が決定した。氷川さんも、デビューしていないウマ娘達を校内戦で勝たせているらしい

 

 そして、ローカルシリーズに注目が集まりつつあるのもまた事実、最もこれは俺達の夏合宿の成果だけじゃなくて、全国交流レースを増やしているローカルシリーズの上の方の功績も有るのだろうが。

 

「そして、今後のローカルシリーズの為に君に協力して頂きたいのです。全国交流レースが増えている今、全国に強いライバルが居たほうが、レースもより良いものとなる、そうは思いませんか?」

「…同感です、一強体制は驕りを生みますから」

「君ならそう言ってくれると信じていました、そして君には東京のNUARの本部にて、説明会を開いていただきたいのです」

 

 大鷹校長はそう言って微笑んだ。

 

 しかし、俺には不安な要素が一つあった。

 

「ですが…どうすれば良いのでしょうか?説明会となると、多くの準備が必要なはずです。私はアラの福山大賞典がありますし、準備にはかなりの時間がかかるかと…」

「心配には及びません、校長の私が言ってしまうのも何ですが、我が校の生徒会のウマ娘達は優秀でしてな、ここに夏合宿のトレーニングを纏めたものがあります、どうぞ、ご覧になって下さい」

 

 大鷹校長はそう言ってファイルを取り出し、俺に渡した。

 

 俺はファイルを開き、見る。

 

そこには夏合宿の時に行ったトレーニングの全てが、写真、イラスト付きで分かりやすく解説されていた。こんなに上手くまとめられた資料は、そうそう見ることはできないだろう。

 

 こんなことまでやってくれていたとは…

 

 しかし、気になることが一つだけある…どうしてこんなことを思いついたのだろうか?まだ夏合宿が終わって3ヶ月ほどしか経っていないのに…急に思いつくことにしては、スケールがデカすぎるように感じる

 

「…大鷹校長、質問してもよろしいでしょうか?」

「ええ、良いですとも」

「…夏合宿が終わって、まだ3ヶ月程度しか経っていません、他の一部の地方トレセン学園と共有するのならまだしも、いきなり全国規模でというのは…いささか早すぎると私は思います…何が理由というものがあるのでしたら……教えていただきたいものです」

「……君には言っておくべきですね、では、お教えしましょう、ですが、これは秘密にしておくと約束して下さい、男の約束です」

「…分かりました」  

 

 理由…どんなものなんだ…?

 

「今回の夏合宿のトレーニングをローカルシリーズに普及させたい理由は、この国のウマ娘レース界のためなのです」

「この国の…ウマ娘レース界のため…?」

「現在、中央が海外遠征強化を推進しているのはご存知ですね」

「はい、エルコンドルパサー、それと、怪我で中止になってしまいましたがサイレンススズカもそうですね…ですが、それがどうかしたのですか?」

「その二人の共通点というものを、挙げてみてください」

 

 

 “異次元の逃亡者”と呼ばれるサイレンススズカ。

 “ターフを舞う怪鳥”と呼ばれるエルコンドルパサー。

 その二人の…共通点…?

 

「…強いという、事でしょうか…?」

「半分正解です」

「半分…?」

「あの二人は“絶対的な強さを持つ”巷ではそう言われています」

 

 確かに…秋の天皇賞の時は世の中はサイレンススズカ一色だったし、ジャパンカップもエルコンドルパサーが優勝候補として大々的に報道されていた。

 

「…確かに、そうですね…ですが、それに何かあるのですか?」

「はい、慈鳥君、先程私が言った“絶対的な強さ”この評価を最初に下したのはどこであるか分かりますか?」

 

 最初に…メディアか?

 

「…メディア…でしょうか?」

「これもまた、半分正解です、メディア、そして…URA」

「URAも…ですか?」

「はい、現在のURAは、“絶対”を体現するスターウマ娘を求めています、私達は日本のウマ娘レース界から、この“強いウマ娘に絶対を体現する存在となるよう促す”という癌を取り除きたいのです」

「癌…ですか?」

「はい、今のURAの方針では、いつか日本のウマ娘レースの権威は失墜し、ファンも離れていくでしょう」

 

 …レーサーとして、そればかりはあってほしくない、だが、大鷹校長が癌と言うぐらいなのだから、今までに何かがあったのだろう。

 

「…そうおっしゃられると言うことは、URA内で何かが起こったということですか?」

「はい、今からその出来事をお話しましょう」

 

────────────────────

 

 大鷹校長は、中央に起こったある出来事について話してくれた、俺はそれを断片的ではあるが知っていた。

 

 馬とウマ娘……種族が違うとはいえ、走るという役割は同じ…前世で起きたことと似たようなことが、この世界でも起きていた。

 

「……では、サイレンススズカの怪我の時に、もしかしたらそれが繰り返されてしまうかも知れなかったということですか?」 

「はい、そうです、そして、この騒動を受けたペルセウス君達はAUチャンピオンカップの理念を実現し、中央の改革を促すことを決めたのです。慈鳥君、協力して頂けないでしょうか」

「…ウマ娘達はどうするのですか?」

「ウマ娘達には、生徒会の皆さんから話してもらうようにします、今のローカルシリーズのウマ娘達は、高い志を持って走っている娘達が多い、必ずや協力を得ることができるはずです」

「分かりました、説明会を開く仕事…引き受けさせて頂きたく思います。ですが、アラと相談して了承をもらい、もう一度ここに来たいと思います」

「はい、よろしくお願いします」

「それでは失礼致します」

 

 俺は大鷹校長に挨拶をして、校長室を出た。

 

 その後、俺はアラに事情を話して了承を貰い、ローカルシリーズの本部に行くことが決まった。

 

 行くのは年始、福山大賞典の直後、旅費は出る。

 

 …大変な仕事を任されたモンだ。

 

 

====================================

 

 

 慈鳥が大鷹の頼みを受けて一ヶ月ほど経った後、地方トレセン学園の各校の生徒会長はNUARのトレセン学園運営委員長である九重を交えてオンラインの会議を行っていた。

 

「それで、提案というのは、どういったものなのですか?」

 

 九重がそう問いかける。

 

「私達ローカルシリーズのトレセン学園の生徒会長全て、そしてトレセン学園の運営委員長である九重委員長が署名し、中央にAUチャンピオンカップのプレ大会を開催するよう提案するというものですわ」

「今回のAUチャンピオンカップはこの国のウマ娘レースが始まって初めての大きな試み、観客の動員数や運営方法を確認しておくためにも、中央はプレ大会の開催を受け入れざるを得ないでしょう」

 

 姫路の生徒会長に水沢の生徒会長が続けた。

 

「なるほど…確かにこちらには大規模大会実行のノウハウは存在しない…これは行けそうですね、分かりました、協力致しましょう」

「ありがとうございます、九重委員長」

 

 カサマツの生徒会長に続き、全員が頭を下げた。

 

────────────────────

 

 そして、その後も会議は順調に進み、プレ大会の開催を提案する文書の草案が完成した。

 

「皆さん、今日はありがとうございました、この国のウマ娘レース界のため、これからも共に頑張って参りましょう」

 

 会議は無事に終了し、九重はそう言って退出した。

 

 その後は、残された生徒会長達が談話を行っていた。

 

「本格的な活動開始は、来年のアタマから…燃えてくるねぇ!」

「来年の頭といえば、福山の福山大賞典ですね、勝たせていただきますよ」

 

 そう高知の生徒会長に続けたのは名古屋の生徒会長である。

 

 福山大賞典はローカルシリーズの改革により全国交流競走となっており、出走ウマ娘の一部を他地域から募るようになっていたのである。

 

「ああ、そうか、名古屋からは確かキョクジツクリークが出るんだったね、面白い勝負になりそうだ」

 

 エコーペルセウスはそう言った、キョクジツクリークは過去、白梅賞にて、14番人気ながらもダービーウマ娘スペシャルウィークをハナ差で交わして勝利を収めたウマ娘である。彼女は中距離以上を走れるようにするべく、長い時間を肉体改造に費やし、そして福山大賞典への出走を決めたのだった。

 

「ああ…熱くなってるとこ悪ィけどよ…前の会議で決めてた地方トレセンの裏方のウマ娘達を集めて全国を回る教導隊を作る話を進めないか?」

 

 大井の生徒会長は話がこれ以上脱線するのを防ぐべくそう言った。この教導隊の計画というのは、ローカルシリーズのさらなるレベルアップを図るべく発案されたものであり、その内容とは各学園から一線を退いた実力あるウマ娘を募り、全国を回って未デビューウマ娘向けの講習会を開くといったものであった。

 

「ああ、ごめんごめん、ウチのフェザーとほか数名は協力できるってさ」

「姫路からも二、三人ほど出せますわ」

高知(ウチら)はマーチ達が協力をしてくれるって言ってくれたよ」

「すいません、盛岡はちょっと難しいです」

「ウチは……」

 

 こうして、各トレセン学園の生徒会長は自分達の学園から人を出すことができるか否かを話していった。

 

 そして、話が一段落ついたところで、ふと、金沢の生徒会長が。

 

「そう言えば、エアコンボフェザーさんはどこにいるのですか?」

 

 とエコーペルセウスに質問した、エコーペルセウスは一言。

 

「中山だよ」

 

 とだけ答えたのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 丁度その頃、中山レース場では、有記念の決着がついていた。

 

『やはりジュニアチャンピオンはクラシック期でも強かった!!勝ったのはグラスワンダー!!』

 

 有馬記念に勝利したのはグラスワンダーであった、ハッピーミークは体調、調整ともに万全であったものの、それを警戒した多くのウマ娘達からマークを受け、良いポジションにつくことができなかった。

 

 しかし、その状況下でも5着と健闘していた。

 

「よし、これならば来年も期待が持てるな」

 

 グラスワンダーの勝利を見届けた東条はそう言った。

 

「グラス!ベリーベリーストロング!!」

「流石はグラスデース!!」

「…やるな」

 

 チームリギルの面々は皆、嬉しそうにしていたものの、シンボリルドルフは険しい顔をしていた。

 

「………」

「…ルドルフ?」

「…少し外します」

 

 シンボリルドルフは観客席を立った。

 

 

────────────────────

 

 

(ミークはV-SPTを持っていない、だが、身につけるとどうなる?マークされるような位置につくことは無くなるのでははないだろうか…?)

 

 エアコンボフェザーはレースの結果を振り返り、分析を行っていた。

 

「…やはり君も来ていたのか、フェザー」

「……ルドルフ…」

 

 エアコンボフェザーに声をかけたのは、シンボリルドルフだった。

 

「君は白毛だから、一目で気づいたよ」

「…そうか…何の用だ?」

「ジャパンカップの時に、君の妹が行っていた情報収集、あれは君の作戦だろう?」

「…そうだ」

 

 エアコンボフェザーは、誤魔化すこと無くそう答えた。分析が得意である彼女は、もちろん情報収集にも長けいたのである。そしてそれは中央にいた頃からのものであった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 エアコンボフェザーとシンボリルドルフは向き合い、互いの目を見る。エアコンボフェザーは耳をほぼ垂直に立てて獲物を射抜くような目をしており、シンボリルドルフは表情こそ感情を見せないものだったが、耳は若干前に傾いており、少し申し訳無さそうな様子が出ていた。

 

 その場はしばらく、沈黙に支配される。それを破るべく口を開いたのはシンボリルドルフだった。

 

「フェザー…今の中央は、今までに無かった偉業がなせるかもしれないんだ」

「……」

「君にすまないことをしたのは分かっている、だが…どうか…また私と共に…」

「……」

「フェザー…世間は偉業を望んでいる…頼む、君の力が必要なんだ」

 

 シンボリルドルフは言葉、そして目で訴えかけた。それを見ていたエアコンボフェザーは…

 

「ルドルフ…世間というのはお前じゃないか?」

 

 と言い、歩き去っていった。

 

「……」

 

 一人残されたシンボリルドルフは視線を地面に落とした。

 

「ルドルフ、探したのよ」

「マルゼンスキー…」

 

 ルドルフに声をかけたのはマルゼンスキーだった。

 

「……その顔、何かあったのね」

「…フェザーがいたんだ」

「………それで、何か話したの?」

「ああ、もう一度、トレセン学園に戻ってきてくれないか…とな」

「それで…どうなったの?…いや、その顔を見れば分かるわ、ノーだったんでしょう?」

「…貴方の気持ちも分かるわ、あの娘が抜けてから、トゥインクルシリーズのダート戦線は…いえ、学園だって、寂しくなったもの。それに…副会長の椅子だって、用意していたんでしょう?」

「……そうだな」

「……」

 

 シンボリルドルフはそう答えた、そしてマルゼンスキーはシンボリルドルフを見つめていた。

 

「…仕方がなかったんだ、人々が望む以上……私達はその期待に応えなければならないんだ」

 

 シンボリルドルフは、すでにいないエアコンボフェザーに語りかけるように、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 




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