アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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第41話 思い

 

「以上が、我が福山トレセン学園の夏合宿にて実施したトレーニングの内容です」

 

 説明を終え、俺は目の前にいる多くの人々に向けて礼をした。

 

「素晴らしい…」

「これが、福山の最近の快進撃の理由ですか…」

 

 色々と褒めてくれてはいるが、これは俺一人で出来たことではない、福山トレセン学園の全員、そして、桐生院さん、氷川さん達中央の人々の……すなわち、多くの人々の力、経験があってこそなのだ。

 

 そして、多少の質疑応答を終えた後、俺は司会者の所に行き、マイクを借りた。

 

「皆さん、実は我が福山トレセン学園では先ほど説明したウマ娘達のトレーニング以外にも、やっていることがありまして、それを今から皆さんにもやっていただきたいと思います」

 

 俺がそう言うとその場にいるほぼ全員が、なんだなんだという反応をした。

 

「これから、我が福山トレセン学園で行っている話し合いの形式、“ワイガヤ”を行ってみたいと思います。皆さん、つけている名札を一旦外して、今日お渡しした資料の封筒の中に入っている名札を取ってください、そして、そこに“フルネームのみ”書いて付けて下さい、そして、会話時、相手の名前を呼ぶときは、“トレーナー”、“教官”、などといった肩書きをつけず、必ず名札に書いてある名前にさんをつけ“〇〇さん”と呼ぶようにして下さい。」

「………?」

 

 皆、大小はあれど驚きと疑問の表情を顔に浮かべている。

 

「今、ここにいる皆さんは、私と同じ地方トレセン学園のトレーナー、教官、NUAR本部の方々……立場も違えば、年齢や経歴も千差万別、ですが、このワイガヤでは、そういった垣根を越え、お互いに接して頂きたいのです。議題は“今後のウマ娘レースについて”です。今日話したトレーニングでも良いし、AUチャンピオンカップの事でも、中央についての議論だって構いません、とにかく、今後のウマ娘レースを発展させていくために、意見交換をどんどんしていきましょう、聞きたいことがあれば、どんどん聞いていきましょう、皆さんの周りにいるのは、苦楽を共にする“同志”です!どんどん意見を突き合わせていこうではありませんか」

 

 俺はそう言って、マイクを置き、名札をつけ、段上からホールまで下りた。

 

 そして、壇上から一番近いところに座っている九重委員長の所に向かう。

 

「九重さん、九重さんは過去、船橋にてトレーナーをやっていたと聞きました、トレーナーとしての経験から、今回の説明会で説明した各種トレーニングに関しての意見をいただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

「……!ええ、では意見を言わせて頂きましょう」

 

 九重委員長…いや、九重さんは微笑んでそう答えてくれた。

 

「トレーニング後のストレッチ方法についてなのですが、もっとしっかり、そして効率よく行った方が良いですね、南関東で使っているものがあります。それを導入してみてはいかがですか?あまり絵は得意で無いのですが…」

 

 九重さんはそう言ってメモ帳とペンを取り出し、簡単な図などをスラスラと描いていった。

 

「その話、私も加わって良いですか?」

「貴方は…!」

「水沢の(ぬえ)です」

 

 突然話しかけてきたのは、水沢のエース、“真紅の稲妻”のトレーナー、鵺さんだった。

 

「は…はい!ど、どうぞ!」

「よろしくお願い致します」

 

 俺達は鵺さんを受け入れ、話を続けた。

 

 そして、俺は少しの間、周りを見渡す、俺達が会話し始めた事を皮切りに、他の皆も会話し始めているようで…“ワイガヤ”の名の通り、会場は段々とワイワイガヤガヤしつつあった。

 

────────────────────

 

「今日はお疲れ様でした、ワイガヤ、楽しかったですよ、慈鳥さん」

「ありがとうございます、九重委員長」

「ハハハ、九重さんで結構ですよ、我々は同志ではありませんか」

 

 俺は九重さんと握手を交わした。そして、様々な人に見送られ、NUAR本部を後にした。

 

 日は傾き始めている…さて、これからどうしようか。

 

「行ってみるか…府中、電車で行けるし」

 

 俺が宿泊している場所からは遠いが、電車で行けないことはない。

 

 …学園では、ペルセウスがローカルシリーズの目的について話していることだろう。

 

────────────────────

 

 NUAR本部近くの赤羽橋駅から電車で揺られ、およそ一時間、府中駅にたどり着いた。

 

 駅を出て少しばかりくと、商店街に辿り着く。

 

 俺の故郷と違い、ここの商店街は賑わっている、近くにトレセン学園があり、そこのウマ娘達がよく訪れているからだろう、ジャージや制服を、ちらほらと見かける。

 

 …俺も前世は、よく世話になったもんだ、新聞配達のバイトを終えて、肉屋に向かう。

 

 そこで、熱々のコロッケを買い、ソースをかけてもらうわけだ、五臓六腑に染み渡る味だったのを、よく覚えている。

 

「ありがとうございましたー!って…うわぁっ!?」

「…!!」

 

ドサッ…

 

 過去の思い出に耽っていたところ、俺は店から出てきた誰かにぶつかりかけ、それを避けようとして尻もちをついてしまったようだ。

 

「…っ…たたた」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 指先が見える、手を差し出してくれているのだろうか、声は若い、中高生ぐらいか。

 

「ああ、すまんな…よく避けてくれた」

 

 俺はその手を取り、立ち上がった。

 

 そして、相手の顔を見て、お互いに驚いたら。

 

「……スペ…!」

「…慈鳥…トレーナー」

「…久しぶり…だな、ここだと通行の邪魔だどうだ、少し歩かないか?」

 

 スペの目には少なくとも敵意は宿っていない。

 

「……」

「……はい、分かりました」

 

 スペはそう言って頷き、俺達は歩くことにした。

 

────────────────────

 

 俺はスペの持つビニール袋に目をやる、それには蜜柑や林檎などが入っている、一度ゼロからになったが、50年ほど生きてきた身だ、誰に渡すのかは、分かる。

 

「それは…サイレンススズカにか?」

「はい」

「彼女はどうしている?」

「ギプスが…取れました」

「そうか…良かったな…彼女はネットとかを見て、どんな反応をした?」

「…“信じてはいけない、あの時は私が走りすぎたから、こんなことになった”と皆に言ってくれています」

「そうか…良かった」

「あ、あの!」

 

 スペは少し声を大きくして俺を見た。

 

「…わ、私は慈鳥トレーナーが悪い人じゃないって、信じてますから!」

「……スペ…」

「…だから、私に教えて下さい!慈鳥トレーナーは…今、何を思って、トレーナーをやっているんですか?」

 

 スペの目は真っ直ぐ俺を見つめている。

 

「……俺は自分の考えが危険とされて、中央に落ちた、そのことについては、もう気にしていない。そして、俺はAUチャンピオンカップの開催をきっかけに、日本のウマ娘レース界に新たな風が吹くことを願っている。まず、お前さんにはこれを理解してもらいたい」

「…分かりました」

「そして俺は、その新しい風によって変わってゆく俺の担当を含めたウマ娘達…つまり、新しい時代を見てみたいんだ、そして、俺もそれを作っていく手伝いをしたいと思ってる……これが、今の俺の思いだ、スペ…どうだ、信じてくれるか?」

「…私は…信じます」

 

 スペはそう言った、目や言葉の様子から、嘘ではない、本心だ。

 

 …恐らくスペはこれからサイレンススズカのところにでも行くんだろう、なら、早く行かせてやるべきか。

 

「そうか、ありがとう、スペ……それじゃあ、俺は行くぞ」

「は…はいっ!」

「あ、最後に一つ……日本ダービー、見てたぞ、おめでとう」

「あ…ありがとうございます!!また…どこかでお会いしましょう!」

 

スペは走り去っていった

 

────────────────────

 

 俺はスペと別れた後、しばらく一人で歩いていた。

 

 思えば、説明会の時から立ってばっかだったので足はクタクタだ、腹も減ってきたのでどこかで食事をとることにしよう。

 

 そんな俺の目に入ったのは、居酒屋の看板だった。

 

 金は十分にある。

 

 今日頑張った自分へのご褒美として、ちょっとばかり贅沢をするのも良いだろうと思い、俺は扉に手を掛けた。

 

「へいらっしゃーい!!」

 

 扉を開けると陽気な声で迎えられた、店内は満席とはいかないものの、賑わっている。 

 

「じゃあ…とりあえず、これとこれを」

 

 俺は適当な席に座り、軟骨の唐揚げや土手焼きなどの小皿を注文した。

 

「へいらっしゃーい!!」

 

 注文を終えたのと同時に、また客が来たようで、店員が声を張り上げている……………は? 

 

俺は驚いた

 

「ええっ…じ、慈鳥トレーナー!」

 

 何故なら、入ってきたのは桐生院さんだったからだ。

 

「おっ!姉ちゃん、そこの人の知り合いさんかい、すまねぇな、客がこれからもっと来ると思うんで、良ければ一緒に座ってくれねぇか?」

 

 俺達の反応を見て、店員は俺達が知り合いであると判断したようで、桐生院さんに俺の前に座るように頼んだ、桐生院さんはこちらを見る、その顔は少し暗い。

 

「俺は良いですよ」

 

 俺がそう言うと彼女は…

 

「失礼致します…」

 

 と言って席に座った。

 

「あ、この人にもさっき頼んだのと同じやつを」

「かしこまりました」

「それで……どうしてここに?」

 

 桐生院さんの分の小鉢も頼み、俺は彼女にここに来た理由を聞くことにした。

 

「えっと…あの…」

「ああ…俺ですか?俺は出張でたまたまこっちの方に来ただけです」

「………っ…」

 

 …この顔…何かあるな…?

 

「……誰かと喧嘩でもしたんですか?」

「………」

 

 桐生院さんはこっちを見た後、目をそらして黙ってしまった…聞いてみるか…

 

「安心してください、俺は秘密は守ります、去年の夏は色々と助けてもらいましたから、今度はこっちの番です」

「………実は…」

 

────────────────────

 

「…というわけなんです…慈鳥トレーナー、貴方は…どう思いますか?」

「……難しい話です」

 

 話をまとめるとこうだ、桐生院さんは年末年始に帰省したらしい、そして、両親から色々と折檻を受けてしまったようだ。

 

 一年でチームを任されるのは当たり前で、浮かれていたのではないかと。

 

 G1レースを一つも取れないのはどういうことかと。

 

 そして、挙句の果てに、地方のウマ娘に菊花賞を取られてしまったのはどういうことかと。

 

 そして、年末の有記念での敗北はどういうことかと。

 

 桐生院さんの家は名門だ、一般家庭から出てる俺には分からんしきたりや、出来て当たり前のことがあるということだろう。

 

 そして俺は頼んだ料理をつつきながらも、見るときはしっかりと桐生院さんの目を見て話を聞いた。

 

 桐生院さんの方も、酒の力があったとはいえ、しっかりと話してくれていた。

 

「…では、メイサのサブトレーナーをやっていたのは…」

「はい、三冠ウマ娘であるミスターシービーさんを育成した伊勢先輩に師事すれば、家の願いを実現する近道になるかと思って…………貴方は…凄いですね…私なんて…桐生院家の出来損ないです」

 

 桐生院さんは顔を曇られせ、目を潤ませ、そう言った。

 

 片方がもう片方に、望みを実現するように求める……桐生院さんと家との関係は、アラとセイユウのそれに似ている。

 

 ならば、どうすれば良いだろう。

 

 …セイユウは人間を恨んでいる、俺はその理由…人間がアングロアラブに行った仕打ちを見せられた、恐らくセイユウが人間への恨みを忘れることは無いだろう。

 

 …桐生院さんの家は、由緒正しい名門の家、桐生院さんの大叔母に至ってはURAの重役を努めているらしい、いや、そんなことはどうでも良い、大事なのは、アラが俺と共にまた走ってくれる事を決めてくれたように、桐生院さん本人がどうするかだ。

 

 それに、桐生院さん自体は若さもあるだろうが、柔軟性に溢れた女性だ、トレーナーの名家という、おカタい場所だと思われるのに…だ。

 

 つまり、桐生院さんの家族にも、名門という肩書に縛られず、柔軟性を持って行動出来るモノがあるのではないかと言うのが、俺の推理だ。

 

「桐生院さん」

「は、はい…」

「貴女にとって大切なのはどちらなんです?実家の願いですか?それとも、ミーク、ハード、マルシュ、サンバ、ロブロイ達メイサのメンバーですか?」

「そ、それはもちろん、ミーク達メイサのメンバーです」

「なら、なぜ実家で折檻を受けたのをそこまで気にしているんです?」

「だって!」

 

ドン!

 

 桐生院さんは空のグラスを叩きつけた、しかし、すぐに不味いと気づき、申し訳無さそうな顔をした。

 

「…ごめんなさい、私は父も、母もトレーナーなんです。だから…家の言っていることが…正しく」

「…桐生院さん、貴方のあの言葉は何だったんですか?ダービーの日の“今のままではいけない”と言っていたじゃないですか」

「………」

「…家を、変えてやろうと思わないんですか?」

「…家…を…?」

「はい、家を変えるんです……桐生院さん、同い年の俺が言うのも何ですが、貴女は柔軟性があるじゃないですか、その柔軟性は天賦の才です。貴女の家族にも…備わっているはずです。貴女の両親は、貴女にトレーナーとして大成してほしいのでしょう、でも、それはおそらく、“名門桐生院家”のトレーナーとしての桐生院さんです。だから…桐生院さん、家を…“チームメイサ”のトレーナーとしての桐生院さんを応援してくれるように、変えてみましょうよ」

「私が…?」

「はい、貴女がです、そして、貴女にはチームのウマ娘、氷川さん、伊勢さん、夏合宿で出会った福山の皆…色んな仲間がいるんです、もし悩んだりしたら、迷わず頼るべきです」

 

 正直、桐生院さんはメンタルがあまり強い方ではないとは思う、だが、一人じゃない。

 

「慈鳥トレーナー、また、話に付き合ってくれませんか?」

 

 桐生院さんは優秀な人だ、きっと、今後の日本のウマ娘レースを牽引するような人物になる。

 

 そんな人が自分を責めて潰れてしまうのは正直言って見てられんモノがある。

 

 カーレースの世界でも、素質のあるドライバーが精神的に潰れることは、チームや業界、ライバル達にとってかなりの痛手となるからだ、だから俺は…

 

「…分かりました」

 

 とだけ言い、桐生院さんの話を聞くことにした。

 

────────────────────

 

「はい、ありがとう、それにしてもアンタ、重くないかい?」

「…大丈夫です」

 

 俺は今、桐生院さんをおぶっている。

 あの後、話を聞けたのは良かったのだが、予想以上に桐生院さんが酔ってしまった、氷川さんはどういうわけか電話が繋がらず、トレセン学園ももう電話のつながる時刻ではない。

 

 だから、俺はおぶってトレセン学園のトレーナー宿舎まで桐生院さんを連れて行くことにした。

 

ガラガラガラ…

 

〜♪

 

 店を出たのと同時に、携帯が鳴る…氷川さんからだら。

 

「氷川さん、慈鳥です、急にかけてすいません」

『こちらこそ出れなくて申し訳ありません、少々居眠りしていたみたいで…それで、何かご用でしょうか?』

「はい、実は…」

 

 俺は氷川さんに事情を説明した、氷川さんはすぐに車で来てくれる事になり、俺は近くの公園に移動してそれを待った。

 

────────────────────

 

「葵先輩!……これ、完全に酔っちゃってますね…」

「とりあえず、揺らさないようにして車まで移動します、吐くとまずい」

 

 飲んだ後は、吐瀉物(ゲロ)がいちばん怖い、俺が汚れるのは構わないが、食ったものにもよるが、胃から上がってきたやつが喉に詰まって死ぬこともある。

 

 だから俺は氷川さんの誘導に従い、桐生院さんを運んでいった。

 

────────────────────

 

「葵先輩、車に乗りますよ、もう、下りて良いですよ」

 

 氷川さんは落ち着いた口調で桐生院さんに話しかけた。

 

「…ぃ…嫌…いやぁ…」

 

ギュッ…

 

 しかし、桐生院さんは俺から離れようとしなかった、それに小柄な割にかなり力は強い。

 

「困りましたね……俺をぬいぐるみか大型犬かと勘違いしてるみたいです」

「…………………………………あ…じゃあなら一旦葵先輩だけ車内に入れるようにしてください、私が後ろから指を一本一本解いて、後席に横倒しになってもらいますから」

 

 氷川さんの返事が遅かったのが気になったものの、俺は氷川さんに、桐生院さんを預けることに成功したのだった。

 

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 トレーナーが出張に行った日の放課後、ペルセウス会長が全校集会を開き、AUチャンピオンカップの開催にあたって、ペルセウス会長たちがどういった目的で動いているのかが伝えられた、その目的は…

 

 “AUチャンピオンカップの理念を実現し、今の日本のウマ娘レース界から、絶対を体現するウマ娘になるよう周りが促すという風習を取り除き、日本のウマ娘レースを、世界に羽ばたくのにふさわしいものとする”

 

 というものだった、サイレンススズカの件から日が浅いこともあり、私達はその目的に賛同した。そして、集会の中では、フェザー副会長が仕事のためしばらく学園を離れるということが発表された。

 

『皆、日本のウマ娘レース界に、新しい風を吹き込もう!』

 

 その言葉を締めくくりに、全校集会は幕を閉じた。

 

────────────────────

 

「終わらぬ夢轍に…君の…影…揺れた…」

「………」

「どうかな?」

 

 ランスが私達に向けてそう問いかける、寮に帰ってきた、私達はウイニングライブ用に使おうと思っている曲の発表会をやっていた、ここにいるメンバーは私、ワンダー、チハ、ランスだ。

 

「……全体的に悲しすぎるわね、もっと明るい曲は無いの?これじゃあ会場全体が重い空気になるわ」

「えぇ〜、でも、ユメヲカケルは大人数ライブ用だし、他の明るい曲も被っちゃうし…あと私、少し落ち着いた感じの曲が好きなんだ〜」

「ランスなら…えーと…」

 

 中央のウイニングライブはかなり動くダンスが多いけど、地方のウイニングライブはソロで歌うことが多いし、動きも少ない、なのでダンス用の曲でなくても、ほとんど問題はない。

 

 ワンダーはスマホの上で指を滑らせて曲を探している。

 

「…“いつか空に届いて”とか、どうです?」

「…聞いたことないわね、いつの曲?」

「1999年ですね…」

「かなり昔なのね…」

「あら、でも、チハだってこの前カラオケに行った時に、“ふりむかないで”を歌っていたではありませんか…あれは何年の曲ですか?」

「…1962年よ」

「まあまあ、ここまでにして、とりあえず再生してみるね」 

 

〜♪ 

 

コンコンコン

 

 ワンダーが音楽を再生してすぐ、部屋をノックする音が聞こえた。

 

「はい、どうぞ」

「ごめん、少し良い?」

「…え、ええ…」

 

 ワンダーが扉を開けると、そこに立っていたのはコンボとサカキだった、そして、その表情は真剣なものだった。

 

「大丈夫です」

「皆さん、失礼致しますね」

「シュンラン副会長…!」

 

 コンボに招かれ、入ってきたのはシュンラン副会長だった。

 

「皆さん、少しお時間よろしいですか?」

「はい…」

「大丈夫です」

「では…アラビアントレノさん、ワンダーグラッセさん、キングチーハーさん、セイランスカイハイさんさん、着いてきなさい」

「は…はい!」

 

 シュンラン副会長の言葉遣いが、いつもと違う、私達は顔に動揺の色を浮かべながらも、ついていった。

 

コンコンコン

 

「お連れしました…………どうぞ」

 

 私達は寮の応接室まで案内された、シュンラン副会長は扉を開け私達に中に入るように促す。

 

「…失礼します…………!」

「ふ、ペルセウス会長!」

「急に呼び出して悪かったね、さあ座って」

「は、はい…」

 

 私達は促されるままに、用意された席に座った。

 

「…あの…私達にどういったご要件なのですか?」

「今回、4人を呼び出したのは、あることを伝えるためなんだ」

 

 ワンダーの質問に、ペルセウス会長は答える。

 

「アラ、チハ、ランス、ワンダー、4人は、名実共にこの福山トレセン学園のエース、そしてこれからの皆は、全国的な活動だけでなく、中央の生徒とも競う機会がこれから更に増えていくことだろう、だから、話しておきたいんだ……君たちたちがここに来る数年前、中央で何があったのかをね」

「数年前…」

「そう、数年前だ、そして、これからの私の言葉は、今はここに来られないフェザーのものとして、受け取って欲しい」

 

 ペルセウス会長はそう言うと、横に置いてあった紅茶を一口飲み、こちらを向いた。

 

 

 




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