「…ん…いったたたた…」
「あっ!葵先輩!目が覚めたんですね!」
「ゆ…結さん…!?」
「覚えてますか?昨日、先輩寝ちゃったので、慈鳥トレーナーが私を電話で呼んで、ここまで運んできたんですよ、朝ごはん買ってきますから、待っててください!」
部屋に一人残された桐生院は痛む頭を抑えつつ、昨日あったことを思い出し、それについて考えを巡らせた。
彼は、どういうわけか、両親と喧嘩をしたことを一瞬で見抜いてきた、だが、不快感は抱かなかった。
その他の人間…例えば同期のヤコーファーのトレーナーとで、同じような状況になった場合、そうなるだろうか?
それだけでではない、自分の実力不足から両親に折檻を受けたことを話しても、一度ではあるが気持ちが昂り、グラスを叩きつけた姿を見ても、大学時代からの親しい仲である氷川でさえうんざりするであろう量の愚痴を聞かされても、彼は落ち着いていた、時に同情し、しっかりと反論をし、叱ってくれたのだ。
『はい、家を変えるんです……桐生院さん、同い年の俺が言うのも何ですが、貴女は柔軟性があるじゃないですか、その柔軟性は天賦の才です。貴女の家族にも…備わっているはずです。貴女の両親は、貴女にトレーナーとして大成してほしいのでしょう、でも、それはおそらく、“名門桐生院家”のトレーナーとしての桐生院さんです。だから…桐生院さん、家を…“チームメイサ”のトレーナーとしての桐生院さんを応援してくれるように、変えてみましょうよ』
桐生院の脳内に慈鳥の言葉が何度も何度もこだまし、彼女は、チームメイサの桐生院葵としてでなく、名門桐生院家の桐生院葵として今までトレーナーをやっていたことを悔やんだ。
そして、自分を『桐生院家のトレーナー』としてではなく『チームメイサのトレーナー』として見てくれていた慈鳥に、深い感謝を覚えるとともに、名門の名に縛られた自分を変える決意をしたのである。
「……ありがとう、慈鳥さん」
桐生院は一人、そう呟いた。
「先輩、朝ごはんを買ってきましたよ」
そして、呟いたすぐ後、氷川がおにぎりやサンドイッチ、カップサラダ等をいれたコンビニの袋を持ち、部屋に帰ってきた。
氷川は素早くそれらを並べる。
「ありがとうございます、結さん」
「いえ、お礼なら慈鳥トレーナーに言ってください、あの人、酩酊した先輩をおぶって店から運び出してくれたんですよ」
「えっ……」
「先輩…ひょっとして…覚えていないんですか?」
桐生院は驚いた、自分は慈鳥と氷川の二人によって店から運び出されたと思いこんでいたからである。
(でも……私…そういえば…)
桐生院は再び記憶を呼び起こす。
「みんなぁ……ほんとうに…ごめんねぇ…」
桐生院は慈鳥に対し、どんどん愚痴や相談をしていった、そして、同時にどんどん酒に呑まれていったのである。
「桐生院さん、そろそろ帰りましょうか」
「うう…ごめん…」
「…駄目だ…完全に酔ってる……取り敢えず……水だけでも飲んでもらうか……お冷を一つ!」
慈鳥は水を受け取り、桐生院の方まで持っていく。
「桐生院さん、取ってください」
「では…しつれいして……」
桐生院はグラスではなく、慈鳥の手を取った。
「おおきいてなんですねぇ…」
「……!」
「……」
「はい、取るのはそっちじゃないですよ…失礼します……さあ、ごくっといってください」
慈鳥は一瞬驚いた様子を見せたものの、桐生院の手を掴み、グラスを持たせ、水を飲むように促した。
「ふぅ……」
水を飲み干し、桐生院は少し落ち着いた。そして、彼女の記憶はここで途切れていた。
「それで…あの後……私は…」
「なるほど…だから慈鳥トレーナー、先輩をおぶってたんですね」
氷川は冷静にそう言うものの、桐生院の方は顔を真っ赤にしていた。
「結さん、わ、私…慈鳥トレーナーが来るまで、何かまずいことしちゃったとか…そんなのは無いでしょうか…」
「特に無いとは思いますよ、慈鳥トレーナー、ずーっと、先輩を落っことしたりしないように頑張ってたみたいですし」
「……」
「あっ、でも先輩、車に乗せるときに中々離れなかったんですよ…“嫌”って言ってて」
「えっ…」
そう氷川に言われ、桐生院は頭の中をもう一度整理する。
慈鳥の背中に揺られている間、桐生院は心地よくなっていた、他の人間とは異なる安心感を感じていたからである。
桐生院は、自分が小さい頃よく、父親におんぶをしてもらっていたいた事を思い出した、その心地よさから、一分一秒でも長くおぶわれていたいと思い、下ろされる時に「嫌」と駄々をこねたことも──
「何で…あの人からは…そんな感じが…」
「…先輩、どうかしたんですか?」
「……!」
自分の気持ちがこぼれていたことに、桐生院は驚いた。
「…ひょっとして、先輩、おぶわれていたとき、心地よくなってたりしてました?」
「え、ええっ!?な、なんで?」
「何となく、人の考えていること…分かっちゃうんですよ、子供の頃から、父や祖父に擦り寄る人達を見てきたので」
「あっ…」
氷川は政治家一族の出であり、一族の者が様々な世界の人間と関わりを持っていたことを幼少期から見ていた、それゆえ、桐生院の思考を理解することは容易いことだった。
「……確かに、慈鳥トレーナーは普通の人とは違う何かを持ってるかなって思うときはあります、先輩…慈鳥トレーナーの事…どう思ってるんですか?」
「……変わった人ですけれど…安心して悩みを打ち明けることのできる優しい人だなって…」
「………なるほど、先輩、良い人に出会えましたね」
「はい!」
桐生院の笑顔を見て、氷川は安心した。
氷川は桐生院のことを尊敬していたが、同時に心配していた、桐生院は大学時代、親しい友人というものが、氷川以外に存在しなかったからである。
いくら優秀な才能を持った人間であっても、人間関係に恵まれなければ大成することはない、それは政治家でも、トレーナーであっても変わらないと氷川は思っていた。
「……確かに、変わってますね、慈鳥トレーナーだけじゃない…福山トレセン学園も」
「そうですね…」
夏合宿に参加した桐生院と氷川から見て、福山トレセン学園は良い意味で異質だった。
まず、校訓の違いである
中央の校訓は「
また、中央は生徒の自主性を重んじてはいるものの、基本的にトレーニングは徹底管理主義が主流である、自由主義のトレーナーは非常に少なく、桐生院らの交友関係内であればそれは伊勢ぐらいのものであった。
しかし、福山のトレーニング方針は、オーバーワークの防止や食事量など、必要最低限の管理は行っているものの、中央のそれに比べ遥かに自由主義的だった。
生徒がトレーナーにトレーニングを改良するよう提案したり、意見を突き合わせることもあった。
そして、そのトレーニングも変わったものが多かった。
軽鴨とキングチーハーが行っている、瞬発力、とっさの判断力を鍛えるための千本ノック。
火喰とエアコンボハリアーが行っている、バランス感覚を養わせるためのプールの上で行うバランストレーニング、通称鉄骨渡り
雀野とセイランスカイハイが行っている、バ群を躱す技術を鍛えるためのボール回避。
雁山とワンダーグラッセが行っている、長距離を走る精神力を身につけるための着衣水泳。
慈鳥とアラビアントレノが行っている、瞬発力、踏ん張る力を鍛えるためのジムカーナ。
これらのトレーニングは、桐生院らにとっては目を点にして驚くほど、見たことがないものであった。
今までの桐生院は自らの家に代々受け継がれている秘伝の教本『トレーナー白書』に乗っ取り、ウマ娘を鍛えてきた。それ故、異質なトレーニングに、最初は密かに疑問を抱いていた。
しかし、夏合宿によって、その疑問は一気に吹き飛んだ。
そして、二人が一番驚かされたのが“ワイガヤ”である。中央において、全てのトレーナーが一堂に会し、平等な立場で議論する場など無かったからである。議論の場においては、実績のあるトレーナー、経験のあるトレーナー、それらが常に優位な立場にあるのが基本であった。
そして、同時に桐生院には、ある別の気持ちが湧いてくるようになった。
「結さん……今、私達中央は“世界に羽ばたくウマ娘づくり”を進めていますよね?」
「はい、そうですね、エルコンドルパサーはフランスに飛びましたし、怪我でオジャンになりましたが、サイレンススズカにはアメリカ遠征の予定がありました、サイレンススズカと同世代だとシーキングザパールが海外に行ってましたね…それがどうかしましたか…?」
「今の中央に世界に羽ばたく資格は…あるのでしょうか?新感覚の独創的なトレーニングを異端といって危険視したり、海外遠征計画に影響が出てはいけないからといって騒動の原因に自ら処分を下さなかったり……私は中央の一員として…恥ずかしいです」
桐生院は過度に150年もの歴史の上にあぐらをかき、保守的で、さらに、ノブレス・オブリージュすらも失われつつある自らの組織を恥ずかしく思っていた。
「……」
「結さん?」
「先輩、前に私が言ったこと、覚えてますか?“今は見えなくとも、道標は必ず浮かんでくる”…今、道標は浮かんでいるんじゃないかって、私、思いますよ」
「……?」
氷川の言葉に、桐生院はキョトンとした顔をした。
「4月になれば、新人のトレーナーや新入生達がやってきます、その人達の力を借りるんです」
「………!」
「…秋の天皇賞の時点では、私達は多勢に無勢でした、ですが、4月になれば、新しい人員を取り込むことができます……ここにはいませんが、伊勢先輩だって、今の中央に疑問を呈する人の一人です。そして…つい先日情報の入った3月のAUチャンピオンカップのプレ大会…あれで活躍して、私達は新人や新入生の目標になるんです、そうすれば…」 「私達の知名度は上がり、仲間も得やすくなる…ということでしょうか?」
「そうです、プレ大会、メディアも絶対に注目しているはず、そして私達はメディアの凄さを知っています、利用してやろうじゃないですか、日本のウマ娘達が海外へと羽ばたくために、それに、レースで活躍することが、今までお世話になった慈鳥トレーナー達への、恩返しになるじゃないですか」
氷川は桐生院の両肩に手を置き、そう言った。
俺は東京から帰ったあと、アラから俺がいない間、何が起きたのか聞かされていた。
「なるほど…やっぱり聞いたか、サクラスターオーとヤシロデュレンの事を……」
「うん」
「前の世界では…サクラスターオーはサクラチヨノオーが勝ったダービーの少し前に死んでる、この世界では…どうなんだろうな」
「分からない」
「でも…サイレンススズカが生きてるんだから、俺は彼女も助かってると信じたい」
「うん、あともう一つ、ヤシロデュレンって名前も、違和感がある。おやじどのは確か…メジロデュレンって言ってた」
「…つまり、前世通りなら、メジロ家のウマ娘が出てたってことか…メジロ…そういえばあいつ…メジロの牧場とか何とかって…言ってたな」
「メジロ牧場…」
「知ってるのか?」
「うん、私がおやじどのに世話されるようになってからのことだけど、障害競走でメジロの馬が最終障害で力尽きた*1って聞いたことがある。その時も…その馬は勝ってたって、皆言ってたらしい」
俺が死んだ後の事だから、良くはわからないが…言えることは一つだ。
「この世界と同じだな、結局、勝負は最後までどうなるか分からないものなのに…〇〇なら絶対勝つなんて、退屈じゃないか」
「…そうだね……トレーナー…私、決めたんだ、日本のウマ娘レースを、ライバルたちと競い合えるこの日常を守るって、そのためにAUチャンピオンカップ…いや、まずはプレ大会に勝とう」
「そうだな…だが、いずれはセイユウとの決着もつけなければならんな」
「……」
俺がそう言うと、アラは表情を少し曇らせ、耳をペタンとさせた。
「…」
「…前の世界のお前は…サラブレッドにどう思われてた?どういった印象を抱いてた?」
「……私は10年以上働いてきた…サラブレッドには、よく『チビ』、『のろま』って、バカにされてた…だから…同僚だった子たち以外に対してはあまり良い印象を持ってなかった」
「そうか、でも、この世界にいるウマ娘の恐らく全てはサラブレッド…そうだろ?」
「うん」
「……お前は凄いな」
「えっ…」
アラは耳を立て、顔を上げた。
「過去を水に流すことは…そんなに簡単なことじゃない…だが、お前は、暮らす世界が違うとはいえ、サラブレッドと分かりあってみせた」
「トレーナー……それはつまり…セイユウとも…分かりあえるかもってこと?」
「そうだ……歪んだ形であるとはいえ…あいつの子孫を思う気持ちは本物だった、それは認めなくちゃならん、だが、自らの夢のために、他人を壊して良い訳じゃない、俺達は、走りを通して、それをセイユウに伝えていかなけれりゃならないんだ」
「………」
不安なのか、アラは黙ってしまう、俺はアラの頭に手を置いた。
「……お前は、“小さいウマ娘は不利”、“地方は中央に劣る”…いろんな常識をその脚を使って変えてきた、今度は…その脚を…様々なものを繋ぐのに使っていこうじゃないか」
「トレーナー……うん…!」
アラの目に、迷いは見られなかった。
氷川と会話を交わしてから約一週間後後、桐生院は河川敷にて、新たなトレーニングを行っていた。
「わわっ、わわわっ!?」
メガネを外し、ヘルメットとプロテクターをつけたゼンノロブロイはリヤカーの上で必死でバランスを取っていた。
「そこでカーブです、ロブロイさん、踏ん張り時ですよ!!サンバさん、倒れないように気を付けてください!!」
「は、はい!!」
「了解!!行くわよ!」
桐生院はリアカーを引っ張るサンバイザー、荷台に乗るゼンノロブロイにメガホンで指示を送る。
ガラガラガラガラガラガラ!!
「…凄い」
ザッザッザッ…
ハッピーミークはそれを見て、そう呟いた
そして、そこにやってきたのは伊勢である。
「葵ちゃん、頑張ってるみたいねぇ」
「伊勢トレーナー…いつの間に」
「さっき、ビーちゃんとのミーティングが終わったから、散歩してたのよぉ、あのトレーニング、面白そうねぇ」
「あれは…トレーナーが考えた“タチャンカ”っていうトレーニングです、ロシアのシシ
慈鳥とアラビアントレノがいた世界と同様、この世界でも人力車が存在していた、そしてその車力は用途によって分けられており、観光のためにゆっくりとした運用が求められる場合は人間、荷物運びなど、速さとパワーが求められる場合はウマ娘と言う風になっていたのである。
そして、“タチャンカ”とは、ロシアにて多く使われていた、シシ車…すなわちヤックルの引っ張るリヤカーの後部に機関銃を据え付けていた簡易的な兵器のことである。3、4頭のヤックルで引っ張られるシシ車の上に乗る兵士は、バランス感覚、そして度胸が求められた。
そしてこのトレーニングは、荷台に乗る役のウマ娘は、振り落とされないためのバランス感覚、そして度胸を養い、車力役のウマ娘はパワー、スタミナ、そして荷台のウマ娘を落とさないようにする力の緩急をつけることを目的としたものであった。
「良いですね、二人はストレッチをして、休んでください、ミーク!引っ張って下さい!」
「分かりました、トレーナー…でも、私達のチーム…奇数だから…」
ハッピーミークはそう言って息の上がっている残りの四人を指した。
「6人目がここにいるではありませんか、私が後ろに乗ります」
桐生院はそう言うと、鞄の中からプロテクターとヘルメットを取出し、装着する
「葵ちゃん…成長したわね…」
伊勢は大切な後輩の成長に、思わず頬を緩めるのであった。
「…私にも、何かできることがあるかしらねぇ…?」
「…今度のプレ大会、私は出ないですけれど、長距離にロブロイが、中距離にハードが出ます…応援…してあげてください」
「…分かったわ、葵ちゃん…皆…頑張るのよ」
伊勢は桐生院を見てそう言い、その場を去った。
AUチャンピオンカップのプレ大会、福山トレセン学園からは、アラビアントレノとセイランスカイハイ、それと高等部から一名が出走することになっていた。
「……よし!そこでスパート!!」
「………!!」
「まだまだ抜けるな!限界までスリップストリームを行うんだ!!」
そして、アラビアントレノは先輩のウマ娘を相手に併せを行っていた。
「よし!!タイムが良くなったぞ!!」
「……よしっ…!」
アラビアントレノは滝のような汗を流しつつ、小さくガッツポーズをした。
「先輩、ありがとうございます」
「いやいや、強い後輩と併せをやれて、私も光栄だよ、確か、もう教導隊が活動を始めているんだっけ?今回のプレ大会、面白くなりそうだね」
「そうですね」
エアコンボフェザーら教導隊は既に活動を開始しており、最初の仕事場である門別トレセン学園にて、ウマ娘達の指導に当たっていた。
「確かアラは長距離に出るんだっけ?頑張ってね」
「はい!」
先輩の激励を受け、アラビアントレノは大きな声で返事をした。
────────────────────
「スペ!そこでペースを上げるんだ!!テイオー!スペに抜かれるんじゃないぞ!!」
「スペちゃん、ボクに追い付けるかな!?」
「抜いてみせます!!」
そして、中央トレセン学園でも、プレ大会に備え準備が行われていた。
チームスピカのスペシャルウィークは、5月に開催される春の天皇賞のために、プレ大会の長距離部門に出走する事になっていたのである。
「うむ!気合十分、天晴ッ!!」
その様子を見て、トレセン学園理事長のやよいは声を上げた。
「理事長!」
「スペシャルウィークの調整は上手く行っているようだな、西崎トレーナー!確か彼女は長距離で走るのだろう?」
「はい、実質、春の天皇賞の前哨戦になります」
「うむ!精一杯励んでくれたまえ!」
AUチャンピオンカップのプレ大会は、本番同様、短距離、マイル、中距離、長距離、ダートのレースが行われる事になっていた。
そして、集客状況や最適なレース場を調査するために、プレ大会は、それぞれの部門で2つの会場を使用し、春と夏に分けられていたのである。
一方その頃、食堂ではオグリキャップ達が談笑していた。
「タマ、シチーから聞いたぞ、今度のプレ大会、長距離に志願したというのは本当か?」
「そうやで、ウチの走り、見てくれるか?」
「ああ、もちろんだ」
「確か…タマモクロスさんの出走する長距離部門のコースは、京都の3200mでしたね」
ベルノライトがそう質問する、今回のプレ大会は、ドリームトロフィーリーグのウマ娘に対しても門戸が開かれており、タマモクロスは自ら志願したのである。
「せや、あの春天と同じや、よう知っとるコースとはいえ、気ィ引き締めて挑まんとな」
「すごい闘志ですね…そう言えば、今回のプレ大会、菊花賞ウマ娘のアラビアントレノさんが出られるのですね」
メジロアルダンは出走表を眺めてそう言った。
「そう、ウチはアラビアントレノと闘いたいんや、同じ芦毛のウマ娘として、負けるわけにはいかんからな」
タマモクロスはそう言って闘志を燃やす。彼女は自分と同じ芦毛のウマ娘であるアラビアントレノに、かつて自分がオグリキャップに感じた物と同じものを感じていたのである。
「ベルノ、一つ頼みがある、ウチはあのジャパンカップで、情報戦の大切さを思い知らされた…アラビアントレノの情報、集めてきてくれへんか?」
「えっ、は、はい!」
タマモクロスはかつてのジャパンカップ前にベルノライトが行った偵察作戦を、今回のプレ大会においても依頼した。
(…タマがここまで備えを講じるとはな…私も一度…アラビアントレノと戦ってみたい…)
オグリキャップは二人の会話を聞きながら、自分もいつかアラビアントレノと走りたいと考えていた。
「私達皆で、タマちゃんを応援に行きませんか〜?」
そして、スーパークリークは、タマモクロスの応援に行くことを提案した。
「…行こう、タマがあそこまで言っているんだ、私もアラビアントレノの走りを見てみたい」
「オグリさんが行くのであれば私も…」
オグリキャップに続けて、メジロアルダンが賛成した、他のウマ娘達も、賛成に回る。
このように、中央でも、地方でも、AUチャンピオンカップのプレ大会に向け、様々な準備が行われていた。
様々な場所の、様々なウマ娘とトレーナーが、それぞれの思いを胸に、プレ大会に挑もうとしていた。
ある者は、恩に報いるため。
またある者は、ウマ娘レースの将来のため。
そしてある者は、強敵と闘うため。
これらの者たちは、目的が違うとはいえ『勝ちたい』という勝利への願いは同じである、それを実現するためのプレ大会の日は、少しずつ近づきつつあった。
お読みいただきありがとうございます。
新たにお気に入り登録、誤字報告をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m、心から感謝申し上げます。
スピカのトレーナーの名字ですが、初期設定に西崎とあるそうなので、この物語では西崎とさせていただきます。
ご意見、ご感想、評価等、お待ちしています。