アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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第44話 ベルノライトの偵察

  

 タマモクロスからの依頼を受け、ベルノライトは福山トレセン学園までやってきていた。

 

「見学の方ですね、ここに来るのは初めてですか?」

「は、はい!」

「では、説明しますので、よく聞いておいてください」

「わかりました!」

 

 ベルノライトは受付を担当する福山トレセン学園の生徒会のウマ娘から説明を受けた。

 

 現在の彼女は、ショルダーバッグに穴をあけて中に尻尾を入れ、ハンチング帽で耳を隠し、普通の人間に変装をしていた。

 

(見学者専用ゾーン…ここかな…うん、ここならよく見える)

 

 ベルノライトは双眼鏡を構え、アラビアントレノがどこに居るのかを探した。

 

「…いた、今やってるのは…ウッドチップの坂路か…」

 

 ベルノライトはアラビアントレノを発見し、そのトレーニングをどんどんメモしていった。

 

「よし…次は…?」

「珍しい…県外からの方ですか?」

「ふぇっ!?」

 

 急に話しかけられたベルノライトは驚いて変な声を上げた。

 

「すいません、驚かすつもりは無かったんです」

「いえ、大丈夫です」

「…そのカメラ…記者か何かの方ですか?」

 

 相手はベルノライトの持つカメラを指差し、質問する。

 

「いえ…私は記者ではないです。福山トレセン学園の生徒達を見に県外から来ました」

「そうでしたか、先程はご無礼を致しました、ここに来られる方は地域の皆様が多いので、つい…」

「そうなんですね、えーと…貴女は?」

 

 ベルノライトは相手に対して質問した。あいては制服を着ている。

 

「あっ、私はこの学園のサポートウマ娘、サカキムルマンスクって言います」

 

 サカキムルマンスクはベルノライトに対して、丁寧にお辞儀をした。

 

「私は生徒会長さんから案内役を仰せつかっています、興味のある生徒さんとかが居るのであれば、その方との交流の橋渡し役もなります。誰か興味のある生徒さんはいませんか?」

「あ、私はあそこにいるアラビアントレノさんのファンなんです」

 

 サカキムルマンスクにそう質問されたベルノライトは、変に誤魔化すのは怪しまれるかと思い、アラビアントレノを見に来たことを素直に言った。

 

「ああ…あそこの娘ですか、あの娘の予定はだいたい把握していますから、交渉してみましょう」

「ほ、本当ですか!?」

「はい、仕事ですから」

 

 サカキムルマンスクは礼を述べるベルノライトに微笑みかけた。

 

────────────────────

 

 そして、福山トレセン学園の生徒会室からは、ハグロシュンランとエコーペルセウスがそのその様子を眺めていた。

 

「ペルセウス会長、トレーニングを見学できるようにして良かったんですか?偵察の人が来るかもしれませんよ」

「うん、そこは問題ないよ、皆偵察が来るのは予想していると思うし、それにウチは自由主義の学園だ、トレーニングの数は千差万別、偵察に来た者はまず、どのトレーニングを見るのが良いのかに悩まされるはずだ、それに、うちのエース達のトレーニングは特殊なものが多いから、真似するのは難しいし、真似したところで上手く行かないか、最悪失敗して怪我をする」

「会長…そんなところまで考えておられるのですね…」

「私は競走ウマ娘じゃあなくて、サポートウマ娘、脚じゃなくて(ここ)で勝負する、脚では勝負にならないけれど、頭ではあの皇帝に負けてるとは思ったことは無いからね」

「………!」

「私は偵察に来るのなら、どんどん来いと思ってるんだ、もちろん、余裕をかましているわけじゃない……偵察に来た相手は、こちらの情報を持ち帰る、そうすると、向こうはこちらの強さの理由を知ることになる、ここまでは分かるかな?」

「は、はい…」

「…大切なのはそこからだ、私は偵察を通して、中央のウマ娘たちに、情報と一緒に“今のままでは駄目だ”という気持ちを持ち帰ってほしいんだよ、そして、そういった存在の受け皿となるのが、夏合宿に参加したチームメイサ、チームフロンティアのウマ娘達だ、彼女達は夏合宿を通して、次の時代を担うウマ娘達に進化を果たすきっかけを手に入れた。必ずや、中央を改革してくれる存在になる………良いかい、シュンラン、私達のやることは、いわば共同作戦だ、相手の内側にも味方を作り、外から、内から、日本のウマ娘レース界を変えていく」

「……!」

 

 ハグロシュンランは目を丸くした。

 

「そして、こちらからも偵察は送。、ん…?シュンラン、あのハンチング帽子の娘は、おそらく中央からの偵察だね」

 

 エコーペルセウスはベルノライトを見てそう言った、なお、ハグロシュンランはファン感謝祭の時に、オグリキャップに会うことが出来たものの、ベルノライトには会っていなかったので、二人に面識は無い。

 

「ですが…なぜそのようなことが分かるのですか?」

「ウチのウマ娘達、特にアラとハリアーが活躍してくれたお陰で、ウチへの注目度は上がっている、そして、プレ大会も開催されることになった……だから私は、年始めからトレーニングを見学出来るようにしたんだ、もちろん、一番の理由は、生徒を集めやすくする為だ、でも、もう一つの理由は偵察を釣るため、つまり、ここに用意してある見学しやすい環境は言わば餌だよ………プレ大会前の…このタイミング…偵察が来ても…おかしくない時期だと思わないかい?」

「はい」

「それに、ここに見学に来てくれてる人たちを、思い出してご覧よ、地域の人々は私達とは顔見知り、入学を考えている娘達は原則親同伴にしている、記者達は礼儀として名刺をくれる…」

「……なるほど…ここに見学に来てくださる方々は…それぞれに特徴があるということですね」

「うん、そうだよ、この特徴に当てはまらないものは…偵察と思っても良いんじゃいかな?」

「…なるほど…勉強になります」

「アハハ、それなら良かった、もちろん、偵察されっぱなしってわけにもいかない、シュンラン、見てご覧」

 

 エコーペルセウスはハグロシュンランに、見学スペースにて会話しているベルノライトとサカキムルマンスクを見るように促した。

 

「サカキさん、楽しそうに喋っておられますね」

「うん、あれなら“中央でもやっていけそうだ”」

 

 エコーペルセウスはサカキムルマンスクを見て、満足そうな表情を浮かべた。その時、ハグロシュンランの携帯が鳴った。

 

「はい………あれ…メール…お父様から…」

 

 ハグロシュンランはメールを見た後、残念そうな顔をした。

 

「どうしたの?」

「プレ大会の日…アラさんの応援に行くはずだったのですが…お父様がその日、“大事な用事があるので帰って来なさい”と…」

「あ…それは大変だね…」

 

 エコーペルセウスは苦い顔をして、そう答えた。

 

 

────────────────────

 

 

「ありがとうございました!!」

 

 ベルノライトは、慈鳥とアラビアントレノに対して礼を言い、サカキムルマンスクと共にほくほく顔で帰途についた。

 

「良かったですね、サインを頂けて」

「はい、トレーニングについての話も色々聞けたので、すごく有意義な時間を過ごせました、一緒に行ってくれてありがとうございました」

「いえ、お客さんは新入生を集めたい私達にとって、宣伝の力となってくれる大切な存在ですから」

 

 二人はこの数時間で仲良くなっていた、ベルノライトは、オグリキャップのチームのサポートを行うサポートウマ娘である、そして、サカキムルマンスクも、サポートウマ娘である。二人の距離が縮まるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

────────────────────

 

 

 数日後、ベルノライトはカフェでタマモクロスらとともに、自らが入手したアラビアントレノの情報を見ていた。

 

「……これが…」

「アラビアントレノさんの…トレーニング…」

 

 オグリキャップ、メジロアルダンはアラビアントレノの行っていたトレーニングを見て、疑問を顔に浮かべていた。

 

「…坂路や併せなどは、私達のところでもやっていますが………寒い中川を渡るトレーニングや寒中水泳…なんと言うか…独創的なトレーニングが多いですね…」

 

 スーパークリークも苦笑いしてそれを眺めていた。

 

「…レースにおいて、重要なものは忍耐力、アラビアントレノさんはそれを重視しておられるのかもしれません、私も冬に滝行などもやっていましたので」

 

 しかし、ヤエノムテキはアラビアントレノの行うトレーニングに理解を示し、その意味を分析していた。

 

「だけど、ベルノ、よく一日でこんなにたくさんの情報を集めることができたな」

 

 そして、オグリキャップはベルノライトが多くの情報を持ち帰ったことに感心していた。

 

「あ、それはねオグリちゃん、たまたまそこの学園の人と仲良くなって、その人が良くしてくれたんだ」

「なるほど…その生徒には、感謝しないとな…タマ、どう思うんだ?」

 

 オグリキャップはタマモクロスに質問を振った。

 

「……アラビアントレノ…おもろいやん…!相手にとって不足はあらへん…久しぶりに熱く()りあえる相手と出会えた気がするで」

 

 タマモクロスは手のひらに拳を打ち付け、その場にいるウマ娘達にそう言った。

 

====================================

 

 トレーニングの日々はあっという間に過ぎ、ついにプレ大会の日がやってきた。

 

「ごめんサカキ、出走表取って」

「はい!アラちゃん」

 

 サカキは笑顔で私に出走表を手渡した。こうやって私達をサポートしてくれるサカキとも、4月からしばらくお別れとなる。

 

 サカキはとんでもない努力を重ねて、中央のサポートコースの転入試験に合格し、4月から中央に通うことになった。そしてこれはサカキ自身の意志でもあった。

 

 サカキの中央での役割は、ミーク達のチームに、鉄砲(V-SPT)を伝えること。そしてそれを通じて、改革の種をまくことだ。

 

 皆はそれに対して複雑な気持ちだったけど、最終的には、サカキの意志を尊重して送り出そうということで一致した。

 

 私は出走表を眺める。

 

1スペシャルウィーク中央:スピカ

2クラウゼヴィッツカサマツ

3ヌーベルスペリアー中央:アンタレス

4メジロランバート中央:デネブ

5トーセンイムホテプサガ

6ヘルゴラント名古屋

7シンボリマルモン中央:アグラブ

8アラビアントレノ福山

9トウショウメッサー水沢

10エリモコマンドー中央:アリオト

11マチカネグランザム大井

12キングヘイロー中央:ヤコーファー

13イスパニアカフェ金沢

14タマモクロス中央:ベガ

 

 今日は強敵揃い、しかもベテランが多いから、かなりマークされる可能性が高い。

 

「よし…!」

 

 私はパーソナルカラー体操服に袖を通した、今回は格付けとしてはG1相当で、本当は勝負服を着るレースだ。

 

 だけど、勝負服を作るのに時間が足りないウマ娘達がどうしても多く、今回、地方所属のウマ娘は全員、パーソナルカラー体操服で出走することになった、見栄えは劣るけれど、性能は同じ、そして何よりもこれは私達にとって立派な勝負服の一つ、胸を張ろう。

 

「アラちゃん、頑張ってね」

 

 サカキは私の手を握り、そう言う。

 

「うん、ありがとう」

 

 私は笑顔でそう返した。そしてサカキに見送られ、私はパドックに向かった。

 

====================================

 

 パドックでの紹介が終わった後、アラビアントレノは出走位置まで移動した、すると、共に走るスペシャルウィークが彼女に話しかけた。

 

「あの!アラビアントレノさんですよね?」

「…うん、私がアラビアントレノ、貴女は…スペシャルウィークさん…で合ってる?」

「はい、スペシャルウィークです!今日はよろしくお願いします!」

「……うん、よろしく、良いレースをしよう、スペシャルウィークさん」

 

 アラビアントレノとスペシャルウィークは握手を交わした。

 

『おーっと!!ここでスペシャルウィーク、アラビアントレノが握手をかわしたぞ!!』

 

ワァァァァァァァ!!

 

 注目株の二人の握手に、会場の熱気は高まる。

 

「…………」

「…もうすぐ始まるのね」

 

 シンボリルドルフ、マルゼンスキーはその様子を観客席から見守っていた。

 

 

「瀬戸内の怪童!!」

「!?」

 

 熱気の中、スペシャルウィークとの握手を終えたアラビアントレノに後ろから声をかけた者がいた。

 

「…タマモクロス…さん…」

「せや、ウチが“白い稲妻”タマモクロスや!!」

「……」

「ウチはアンタと本気で闘うために、ここに来た…“怪物”ならぬ…“怪童”のアンタの実力、見せてもらうで」

 

 タマモクロスの目は、アラビアントレノを狙っていた。

 

「…負けません、勝たせてもらいます」

「それはこっちの台詞や、稲妻が輝くか、雷鳴が響くか、白黒はっきりつけようや!!」

 

『続いてタマモクロスがアラビアントレノに宣戦布告!!』

 

オオオオオオツ!!

 

 タマモクロスのこの行動は、先程行われたアラビアントレノとスペシャルウィークのやり取りで高まった熱気を更に高め、最高潮のものにした。

 

「どうやら、役者は揃ったみたいだね……さァ…見せてもらうよ、アラビアントレノ」

 

 そして、シンボリルドルフらがいるのとは別の場所ではミスターシービーが一人、アラビアントレノら出走ウマ娘を眺めていた。

 

────────────────────

 

『最後に大外、タマモクロスがゲートインします、出走準備完了のようです』

 

 タマモクロスがゲートインし、他のウマ娘はそれぞれスタート体制を取った。

 

『第1回、AUCC(チャンピオンカップ)プレ大会、長距離第1レース…今…』

 

ガッコン!!

 

『スタートしました!!』

 

 雷鳴(トレノ)稲妻(レビン)の対決が、幕を開けた。

 

 




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