アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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第50話 厚遇

   

 

 管理教育プログラムの導入から数週間後、トレセン学園は新たに新入生を迎えていた。

 

「会長、お疲れさまでした」

「ありがとう」

 

 新入生歓迎の挨拶を終えたシンボリルドルフは生徒会室まで戻り、エアグルーヴがそれを迎える。

 

「会長はそろそろお休みください、あとは私がやっておきます」

「いや、まだ私にはやることがある、気持ちだけ有り難く受け取っておくよ」

 

 そう言うと、シンボリルドルフは生徒会室を出ていってしまった。

 

「…会長は…また出ていったのか…」

「ああ、恐らく例の転入生の所だろう」

「……会長があそこまでやりたがるのが、私にはよくわからない」

「愚痴はそこまでにしておけブライアン、会長のことだ、きっとしっかりと考えているんだろう」

 

 エアグルーヴは腕を組み、シンボリルドルフと入れ替わりで入ってきたナリタブライアンはため息をついていた。

 

 

 

 その頃、トレセン学園の面談室ではサカキムルマンスクが一人、椅子に座っていた。彼女は無事に転入試験に合格し、サポートウマ娘として中央に転入することになったのである。そして今日が初日であった。

 

「待たせたな、サカキムルマンスク」

「…い、いえ!」

 

 面談室に入ってきたのはシンボリルドルフだった。

 

「そう硬くならなくても良い、君は転入試験を好成績でパスした。優秀なサポートウマ娘になってくれるだろう。君を歓迎するよ、サカキムルマンスク」

「あ、ありがとうございます」

「さて、サカキムルマンスク、今日は暇かな?」

「………?」

「暇ならば、私にこの学園を案内させてほしい。君には一日でも早く、ここに慣れてほしいからね」

「…よ…よろしくお願いします」

 

 サカキムルマンスクは物腰柔らかな物言いをするシンボリルドルフを見て、恐る恐るそう言った。

 

 

────────────────────

 

 

「皆!大変!」

「サンバ、どうしたの?」

 

 一方、部室では、メイサのメンバーがトレーニングの準備を行っていた。そこに、慌てた様子でサンバイザーが駆け寄ってきた。

 

「ルドルフ会長が直々に、サカキを案内して回ってるわ!」 

「本当ですか!?」

「本当よ、さっき見たもの!」

 

 サンバイザーの言葉に、メイサの面々は驚く、シンボリルドルフが他の生徒に頼まず、学園の案内を行うのは、ほとんど例の無いことであったからである。

 

「もしかして…ルドルフ会長…」

「…ミーク…?」

「サカキを、リギルに入れようとしてるんじゃないかな…?」

「そうなりゃ、辻褄は合うな、福山は最近の地方でも勢いのある学園の一角、そしてそこのサポートウマ娘なら、知ってることも多いだろうし」

 

 ハッピーミークの予想に、ツルマルシュタルクは同意する。

 

「……トレーナーさん…遅いね…」

 

 そして、ジハードインジエアはまだ来ていない桐生院を気にかけていた。

 

ガチャ…

 

「すいません皆さん、遅れました」

「トレーナー……何か…あったんですか?」

 

 ハッピーミークらは桐生院に近づき、彼女の目を見る。

 

「新人さん達が喧嘩をしていて、その仲裁をしていたんです」

「…喧嘩?」

「皆さんを心配させたくないので、あまり言いたくは無いのですが、現在、私達トレーナーは、保守派、革新派に分かれてるんです」

「……派閥抗争…?」

 

 サンバイザーは腕を組み、そう言う。

 

「…言いにくいですが、そうなっていますね」

「それ…大丈夫なんですか…?」

「………理事会は“意見の突き合わせは大いに結構だが、熱を入れすぎてトレーニングに影響を出さないように”と言ってくれては居ます…ただ、心配です。この学園の全てのトレーナーが良い人物であるとは限りませんから」

「確かに…慈鳥トレーナーの面接のことを言った人も、いましたね…」

「はい…そういえば皆さん、先程までなにか話していたようですが、何を話していたのですか?」

 

 桐生院はハッピーミーク達にそう質問する。

 

「さっき、サンバがルドルフ会長に学園を案内されているサカキを見たらしいんです。それで、もしかしたらルドルフ会長は、サカキをリギルに迎える気何じゃないかって」

「サカキさんですか……まさかルドルフさんと一緒にいたとは…」

 

 桐生院はサカキムルマンスクが転入するという情報を慈鳥を通じて知っていた。それ故、彼女を探し出し、チームに引き入れる為にトレーニングを見てもらおうと思っていたのである。

 

(…サカキさんは、我々が変わるのに必要な存在…しかし彼女は福山の元生徒、リギルからすると、地方の秘密を知るために、どうしても確保したい人材のはず……そしてそれは…私も一緒…ならば…)

 

 桐生院は暫く考え込んでいた。

 

 

────────────────────

 

 

「これで、この学園の案内は終了だ、長い間付き合わせて済まなかったな、サカキムルマンスク」

「いえ、懇切丁寧に教えて頂き、ありがとうございます」

 

 シンボリルドルフはサカキムルマンスクに対して、なるべく丁寧に学園中を案内して回った。外部から見ると、異例の厚遇である。それには理由があった。それは、秋の天皇賞の後のエコーペルセウスとの対談が、シンボリルドルフの脳内に深く刻み込まれていたからである。あの時にエコーペルセウスが示した“次は無いぞ”という無言の意思は、シンボリルドルフにサカキムルマンスクに対して無下な扱いをしないようにさせていた。

 

 

「……それで、君は今後どうするつもりなんだ?君も知っていると思うが、この学園のウマ娘は基本的にチームに所属する。それらの点について、今のところ何か考えているかな?」

「暫く、学園の各チームを見て、決めようかと思っています」

「…そうか、だが、君ならチーム探しには困らないだろう。君のその性格、そして、転入試験を好成績でパスしたという実績は、多くのチームが欲しいと思っているはずだ、君の将来に、学園生徒を導く者の一人として、期待を寄せさせてもらうよ」

 

 そう言って、シンボリルドルフはサカキムルマンスクを寮に帰した。

 

「……ふぅ…」

 

 生徒会室に戻ったシンボリルドルフは、椅子に深く腰掛け、視線を外にやり…

 

「……分からない」

 

 とつぶやいた。

 

 まず、彼女は福山トレセン学園の行為が理解できなかった。秋の天皇賞の一件、そしてグラスワンダーの勝利した有記念の日でのエアコンボフェザーとのやりとりは、シンボリルドルフに“福山は中央にウマ娘を送るつもりは無い”と思わせるのに十分な出来事だった。

 

 そして、そんな状況の中、転入してきたのがサカキムルマンスクである。当然、シンボリルドルフは彼女を警戒した、彼女を福山トレセン学園から送られてきたスパイではないかと疑っていたのである。だが、同時にシンボリルドルフは彼女に興味を持っていた。それは彼女が福山トレセン学園のウマ娘であったからである。何故、アラビアントレノのような強いウマ娘を福山が作り上げることができたのか、シンボリルドルフはそれが純粋に気になっていた。しかし学園の案内をする中で、シンボリルドルフはサカキムルマンスクに福山トレセン学園のトレーニングを少しばかり聞き、その個性的さに理解がついていかなかった。

 

 そして、彼女の中では色々な考えや思いが混ざり合い、「分からない」という言葉として口に出たのである。

 

 

────────────────────

 

 

 一方その頃、福山トレセン学園では、エコーペルセウスがエアコンボフェザーと電話を行っていた。

 

「フェザー、サカキは無事に一日目を終えたみたいだよ」

『そうか、ルドルフがサカキをリギルに勧誘したということは…』

「無かったよ」

『フッ…そうだろうな』

 

 エアコンボフェザーは電話の向こうで表情をほころばせた。

 

「これで、第一関門は乗り越えたね」

『ああ、一応サカキには断り方も教えておいたが、使わなくて良かった……これからサカキには、苦労をかけるだろうな…』 

「大丈夫だよフェザー、サカキなら上手くやってくれるさ」

 

 サカキムルマンスクは、自分の志で中央に転入した。これは紛れもない事実である。そして、彼女はV-SPTをハッピーミーク達に伝えるなどの重要な役割を帯びていたのであった。

 

 

────────────────────

 

 

 中央に転入してから一週間後、サカキムルマンスクは食堂で飲み物を片手に自分で作った資料を見ていた。彼女はシンボリルドルフに言った通り、トレセン学園内部の様々なチームを見て回り、調べていたのである。

 

 そして彼女は、今の所、3つのチームから勧誘を受けていた。1つ目は、桐生院率いるチームメイサ、2つ目は、氷川率いるチームフロンティア、3つ目は、プレ大会でアラビアントレノとぶつかったタマモクロスの所属しているチームベガである。そして、この3つのチームはすべて革新派のチームだった。

 

(ペルセウス会長は、ミークちゃんたちだけでなく、中央の開明的なウマ娘達にも、V-SPTを教えることを許可してくれた。そして、この3つのチームは条件に合致してる…メイサとフロンティアは、みんなが友達だから、スムーズに教えることができるはず、でも、私が福山から来たことは、もうかなりの生徒に知れ渡っていると思うから…)

 

 サカキムルマンスクは迷っていた、彼女は本来は、協力者的存在であるメイサとフロンティアのどちらかを選ぶべきであると感じていた。しかし、その2つのチームは現在最も好調と言われている、新興勢力である。そしてそこに最近の地方の躍進の筆頭となりつつある福山出身の自分が加われば、更に警戒され、レースで勝ちづらくなることを彼女は理解していた。

 警戒はレースでどのようなことをされるかに繋がる。事実、ハッピーミークは菊花賞での大健闘から警戒され、有記念の際に多くのウマ娘からマークを受け、その結果敗北していた。

 様々な要素を頭の中に入れて考えた結果、彼女はメイサとフロンティア以外の選択肢も用意するべきだと判断したのである。

 

(…うーん…どうすれば…)

 

 彼女は資料を置き、飲み物を一口に口にした。

 

「やあ!」

「ミ…ミスターシービーさん!」

「シービーで良いよ、ここ、良いかな?」

「は、はい、どうぞ!!」

 

 彼女は、ミスターシービーが今回の協力者であることは知っていた。しかし、相手が三冠ウマ娘ということもあり、驚いていた。

 

「確か、転入生のサカキムルマンスクだったね?」

「は、はい!」

「さっきは何をしてたのかな?」 

「…スカウトされたチームの情報を見ていました」

「ふむ…どれどれ〜」

 

 サカキムルマンスクの返答を聞き、ミスターシービーは彼女の正面に座り、資料に目を通す。

 

「……」

「……」

 

 資料に目を通すミスターシービー、そしてそれを見るサカキムルマンスク、二人の間に、しばし沈黙が流れた。

 

「なるほどね、君がここまでやってきた理由が、良くわかったよ」

 

 ミスターシービーはそう言って笑顔で資料をサカキムルマンスクに返した。そして、サカキムルマンスクの目を見つめ…

 

「サカキムルマンスク…私のサポートウマ娘にならないかい?」

 

 と言ったのであった。




お読みいただきありがとうございます。

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この物語ですが、70話ほどでの完結を目指したいと思っています。

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