「シービーさんの…サポートウマ娘に…ですか?」
「うん、これから時間は空いてるかい?」
「は、はい!」
「なら、トレーナーさんも交えて話がしたいんだけど、良いかな?」
「大丈夫です!」
「なら、アタシについてきて」
ミスターシービーはサカキムルマンスクが飲み物を飲み終えるのを確認した後、サカキムルマンスクを連れ添い、伊勢のもとに向かったのだった。
「トレーナーさん、連れてきたよ」
「ありがとうね、ビーちゃん…あなたがサカキムルマンスク、いや、サカキちゃんね、去年の夏は、葵ちゃん達がお世話になったわねぇ」
「い、いえ、こちらこそ」
伊勢は、笑顔でサカキムルマンスクに語りかける。サカキムルマンスクは緊張気味に返事をした。
「トレーナーさん、挨拶は程々にしないと」
「そうね、サカキちゃん、単刀直入に言うわ、さっき、ビーちゃんから聞いたと思うんだけど、サカキちゃんには、サポートウマ娘として、ビーちゃんと私を支えてほしいの」
「私が…ですか…?」
相手が三冠ウマ娘と、それを育て上げたトレーナーということもあり、サカキムルマンスクは恐る恐るそう言った。
「そう、葵ちゃんと結ちゃんはチーム、そして、あの娘達のチームは今、学園で一二を争う注目株、そして、あなたの出身校は福山トレセン学園、もし組めば、必ず警戒されるわ、ひょっとしたら、あなたを手に入れるためにチーム仲を引き裂こうとする人も出るかもしれない」
伊勢は、サカキムルマンスクと同じ事、そしてさらに先を考えていた。
「トレーナーさんは学園の中でも実力者、だから他の人からも手を出しづらい。それにアタシはドリームトロフィーシリーズのウマ娘、レースは年に2度しか無いからね、だから、メイサやフロンティアの方に助っ人として行くこともできる」
ミスターシービーがそう続ける。
「それに……」
「シービーさん…?」
「今のアタシは、何よりもルドルフに勝ちたいんだ、そして、フェザーと仲直りもしてもらいたいんだよ…また、楽しかったあの頃に、戻りたいからさ」
ミスターシービーは、彼女なりに、現状をなんとかしようと考えていた。そのためにはまず、シンボリルドルフに勝つことが最重要であると考えていたのである。
「そのために…サカキ、君の力が必要なんだ、君もそのためにここに居るんだろう?」
「はい」
サカキムルマンスクが中央に来たのは、エコーペルセウス達が進めている中央を変えるための計画の一環である。そして、エコーペルセウスにメールを送ったミスターシービーも当然そのことを知っていたのであった。
「…」
サカキムルマンスクは目を閉じ、考えを巡らせる。
「シービーさん、伊勢トレーナー、私をスカウトしてください」
こうして、サカキムルマンスクはミスターシービーのサポートウマ娘となったのであった。
数週間後、この日は皐月賞当日である。
クラシックレースに出走できる年齢となったベルガシェルフは、初のG1レースである皐月賞当日を迎えていた。彼女は右腕に槍が描かれた薄紫色の勝負服を身に纏っている。そのデザインはどこか古風だった。
そして、ベルガシェルフの応援にはチームフロンティア、チームメイサ、その他友人たちが、応援に駆けつけており、パドックへ出る前の地下バ道に集まっていた。
「ベルちゃん、体調はどう?」
「体調は万全、だけど…緊張で……押しつぶされそう」
その言葉を聞き、ハッピーミークは出走表を見た。
| 1 | ワンダーファングル | アルタイル(取消) |
| 2 | アドマイヤベガ | デネブ |
| 3 | アドマイヤランプ | アルデバラン |
| 4 | タイキヘラクロス | ポルックス |
| 5 | マイネルトーキー | トリマン |
| 6 | トウカイダイドー | アターラ |
| 7 | ヤマニンアクロマ | アルタイル |
| 8 | ナリタトップロード | エニフ |
| 9 | オーガブライアン | リゲル |
| 10 | ニシノリュウオウ | アンカア |
| 11 | オースミブースター | ジュバ |
| 12 | テイエムオペラオー | リギル |
| 13 | ハタノデロイテル | 水沢 |
| 14 | カシマアーチテイル | エニフ |
| 15 | シルクガーター | ナオス |
| 16 | メレーティルピッツ | 名古屋 |
| 17 | ベルガシェルフ | メイサ |
| 18 | マイノープラチナム | アルタイル |
「…今回の相手は…強敵が多い…テイエムオペラオーさん、アドマイヤベガさん、ナリタトップロードさん…それに、地方からは名古屋と水沢の娘が出てきてる…でも、ベル…負けないで、ベルならできる…」
ハッピーミークはベルガシェルフの両肩に手を置き、安心させようとした。
彼女が言及したテイエムオペラオー、アドマイヤベガ、ナリタトップロードは最近の注目株のウマ娘であり、管理教育プログラムによって大きな力を得ていたのである。
「ミーク先輩……ありがとうございます」
ベルガシェルフはそう言い、ハッピーミークに笑いかけるものの、その表情はまだプレッシャーを感じているようだった。
「ベル!レース前に気持ちで負けちゃ駄目よ!私がピーマンを食べられるようになった事を思い出しなさい!」
スイープトウショウはベルガシェルフを叱咤激励する
「…スイープ…?」
「私達全員の、アンタに勝ってほしいっていう気持ちよ、ベル、アンタならやれるわ、目をつぶりなさい!」
スイープトウショウはベルガシェルフの正面に立ち、そう言う、彼女は少々わがままさは残るものの、夏合宿を通じて仲間思いなウマ娘へと成長を遂げていたのであった。
「これは…アンタが勝てるようにするための魔法よ…ヴィオラ…ムスカリ…ゼラニウム!!」
スイープトウショウはそう言って、ベルガシェルフの額に手を触れた。彼女の魔法の言葉は、花の名前が使われている「信頼」「明るい未来」「真の友情」の意味を持ったその言葉は、ベルガシェルフの目に、勝利への情熱の炎を燃やさせた。
「ありがとう、スイープ……皆…行ってきます!!」
ベルガシェルフはそう言って、パドックへと向かっていった。
一方、トレセン学園の近くの河原では、ミスターシービーがサカキムルマンスクと共に皐月賞のラジオ中継を聞いていた。ミスターシービーはV-SPTの習得をするべく、サカキムルマンスクと共にトレーニングを重ねていたのである。
『最終直線の坂!!大外からテイエムオペラオーが来たが、ここでベルガシェルフも後方から一気に抜け出てきた!!速い!中山の直線は短いぞ!かわせるか!?ベルガシェルフ来た、ベルガシェルフ来た!!テイエムオペラオー、ベルガシェルフ、もつれるようにゴールイン!!』
激闘の皐月賞は、テイエムオペラオーとベルガシェルフがもつれてゴールインするという結果に終わった、そして…
『勝ったのはベルガシェルフ!!ベルガシェルフです!!』
勝ったのはベルガシェルフであった。
「…ふふっ…ベルが勝ったようだね」
「そうですね」
「アタシも負けないようにしなくちゃね、時代の流れってのは、君の故郷のそばの瀬戸内海のように、激しい気がするんだ」
そう言うとミスターシービーはドリンクを流し込み、シューズの紐を結び直した。その時…
『おや、掲示板の5着に審議のランプが灯っているようです』
「おや、珍しいね」
「そうですね」
『先着したのは名古屋のメレーティルピッツのようですが…何があったのでしょう?』
「ケータイで確認しよう」
ミスターシービーは自らの携帯を取り、皐月賞のライブ配信を開いた。サカキムルマンスクもそれを覗き込む。
『記録を再生しています、最終コーナーになります、これは…尻尾で相手をつついて居ますね』
そこに写っていたのは、キョクジツクリークと同じく、尻尾で相手をつつく技を使用するメレーティルピッツの姿だった。
「サカキ、この技は…?」
「名古屋トレセン学園の生徒が使っている、尻尾で相手に触れる技です、地方のルールも、中央と同じものを使っていますから、レースでは普通に使われています」
ウマ娘レースでは、相手の姿勢を崩す行為は妨害行為の一つとされている。そして、この尻尾を相手に触れさせる技は、相手の姿勢を崩さず、隙を作り出すわざである。それ故、地方ではOKとされてきたのであった。
「ルール的には…全く問題は無さそうだね」
「はい、ですから審議は…」
『確定しました、5着はメレーティルピッツとなりました!』
「ふぅ…流石に審議はちゃんとしてたみたいだね」
審議の結果を見て、ミスターシービーは安心する。
「驚かないんですね」
「まあ、アタシが見学してきた海外のレースは、ラフプレーが多かったからね」
ミスターシービーは海外のレースを見た際に、ラフプレーを多く見てきた。それ故、メレーティルピッツの行為に対しては特に何も言わなかった。
『…ザワ…ザワ…』
しかし、会場には、動揺が広がっていた。
「しつこい人も居るものね」
「あたしはこの人達全員に、アラの福山大賞典の映像を送りつけたい…」
チハとハリアーは、タブレットの画面をしきりにつつく、皐月賞でベルが勝った、それは良い。だけど、話題になったのは、名古屋の生徒、キョクジツクリークの後輩、メレーティルピッツだった。
彼女は尻尾で相手をつつく技を使い、審議になった、もちろんルールには反していなかったので、降着にはならなかった。
でも、中央のレースでその技がお披露目されるのは初めてだった。だから、今までに無かった未知の技に、反感を抱く人もいたというわけだ。
トレーニングの時間になり、私はトレーナーと一緒に次のレース、“オグリキャップ記念”に備えたミーティングを行なっていた。
「アラ、今回のレースは地方の全国交流、だから中央からウマ娘は出てこない、だけど、偵察は必ず来るはずだ」
「うん、分かってる」
「今回はオグリキャップが観戦に来る、つまり、皆例年以上に気合いを入れてくるっことだ。俺の言いたいことは分かるか…?」
「うん、悔いの残らない、良いレースをしろってことだよね?」
「そうだ、堂々と、自分の力を見せつけていけ」
「…うん」
ただ、心配なことがある、タマモクロスと走ったときに出てきた、あの力だ。他人の領域を打ち消す…あの力だ…
「……悩んでるな…タマモクロスのときに出た、あの力の事か?」
どうやら、トレーナーはお見通しのようだ。
「……うん、私…あの力に呑まれそうな気がする…」
「お前には家族がいる、福山のライバルがいる、サトミマフムトやフジマサマーチ、キョクジツクリークにタマモクロスとかの遠くで頑張ってるライバルがいる。俺や…相棒だって、お前の事を見守ってる。お前が皆と共に有りたいと思えば、大丈夫だ」
トレーナーはそう言って私の頭に手を置いた。おやじどのと似た力加減で、とても安心できる。
「…でも、お前がいくらメンタルが強いからって、無理はするんじゃないぞ」
「…うん、ありがとう」
「……よし、ならトレーニングに行くとするか」
「分かった」
私達は部屋を出て、トレーナーと一緒にトレーニングに向かった。
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