アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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今回の描写は一部、読者様のコメントを参考にさせていただいています。


第53話 喜びと焦り

 

 

『アラビアントレノさん、登壇してください』

 

 私の名前が呼ばれる。こんなに緊張したのはいつぶりだろうか。キョクジツクリークの方に目をやる、相手は“今日の勝利を誇ってください”と言わんばかりに、ニコリとした。

 

 そんな彼女にアイコンタクトを取り、一歩一歩、歩みを進め、段を登り、目の前を見る。そして、また緊張が走る。

 

「………」

 

 私と対面した相手…オグリキャップは、私の目を見て、微笑んだ。私達はお互いに礼をする。

 

 今回のオグリキャップ記念は、翌年にAUチャンピオンカップを控えていることもあり、来賓としてオグリキャップを呼ぶという試みが行われていた。

 

「アラビアントレノ、キミの激闘を、この目でしっかり見せてもらった。ライバル、キョクジツクリークとの激闘は、私にここで走っていたときの記憶を思い出させてくれたよ。そんな君に、ここカサマツで走った全てのウマ娘を代表して、この優勝盾を贈らせて貰いたい」

 

 オグリキャップは盾を受け取り、私に手渡す。

 

 パチパチパチパチ!!

 

 私達には拍手が送られる。オグリキャップはマイクを持ち、拍手が収まるのを待っている。今回のオグリキャップ記念は、表彰だけじゃなく、オグリキャップが直接、優勝者であるウマ娘に激励の言葉をかけるというものも、用意されている。

 

「AUチャンピオンカップの開催まで、あと一年を切った。それで、これまで私は考えていたんだ。AUチャンピオンカップの理念である“新しい風”とは、どういったものなのかを」

 

 そう言って、オグリキャップは私に近づく。

 

「そして、このレースを見て、それに対する自分なりの答えが見えた。今まで私達ウマ娘は、主に自らの持つ圧倒的な走りの強さで、ファンを魅了し、世の中を沸かせてきた。私もそう称されていたようだし、ライバルであるタマ達もだ。でも、これからは違う、キミが勝利した菊花賞も、タマと対決したプレ大会も、そしてこのレースも、ファン達は強さよりも、キミとそのライバル達の戦いに、興奮し、声援を送ってきた。そう、これからは、その出自も、所属も関係なく、ライバルと競いあい、互いの健闘を称え合う。そんなウマ娘の姿がファンを魅了し、沸かせていくと思いたい。つまり、キミのようなウマ娘が今後の時代を作っていくと私は思うんだ。次の時代の担い手として、これからもライバル達と走り、競い合い、ゴールを目指していってほしい。」

 

 そして、オグリキャップは、タマモクロスと同じように私の手を取り、掲げた。

 

ワァァァァァァァ!!

 

 私はそれが何よりも嬉しかった。あのオグリキャップに認められたからだ。

 

 

=============================

 

 アラビアントレノがオグリキャップ記念を制してから3日後、ここ、京都レース場でも、オグリキャップの言う“次の時代の担い手”が誕生しようとしていた。

 

『最終コーナーが終わり、最初に駆け抜けてきたのはハッピーミークだ!!これは速い!!』

 

「ミイィィィィィィク!!」

「ミーク!!」

 

 桐生院、そしてメイサ、フロンティアのメンバーはハッピーミークを見て声援を送る。

 

『ゴォォォル!!ハッピーミーク、春の天皇賞を制しました!!』

 

 ハッピーミークは2番手のスペシャルウィークに2バ身の差をつけ、ゴールの板を駆け抜けた。

 

「アラ…皆…やったよ…!!」

 

 息も絶え絶えに、ハッピーミークはそう呟き、観客に礼をして地下バ道に入っていった。そして、彼女のもとにタマモクロスが駆け寄った。彼女は桐生院の依頼により、ハッピーミークが春の天皇賞に備えるのに協力していたのである。

 

「ミーク、ようやったな!!」

「タマモクロス先輩…ありがとうございます、先輩がトレーニングの相談に乗ってくれたおかげです」

「ちゃうちゃう、ウチの力なんて微々たるもんや、アンタが、いや、アンタらがアラビアントレノに負けとうないちゅー気持ちで、いろんなことを試してみた結果が実ったんやで」

 

 タマモクロスはそう言って、ハッピーミークの肩をバシンと叩いた。タマモクロスの後ろからは、桐生院達がやってきて、勝ったハッピーミークを迎える。

 

「やりましたね!ミーク!」

「よーし、アタシらも続くぞ!!」

 

 仲間たちに囲まれ、勝利の喜びを分かち合うハッピーミークの顔は、幸せに満ちていた。

 

 

────────────────────

 

 

「そうそう!そんな感じよ!!」

 

 それから数日後、伊勢は河原で声を張り上げていた。彼女のそばには、数人の新人トレーナーがおり、その指導方法を見てメモを取っていた。

 

 伊勢が指導しているのは、十数名程のウマ娘達である。彼女たちは管理教育プログラムに反対している、もしくはそれに従うのに疲れた…そんなウマ娘達であった。

 

「…いち…にい…さぁーん!!」

 

 伊勢は、そんなウマ娘達に声をかけ、“学校外で”トレーニングをつけていた。これは、チームでのトレーニングとも、自主トレとも言い切れない微妙なラインを突いたものであり、管理教育プログラムに縛られる事も無いと判断したのである。

 

「皆?しっかりメモは取ってるの?」

「は、はい!!」

「私は大丈夫です!!」

「なら、ウマ娘ちゃん達には、一旦休憩を取ってもらうから、終わったら私と交代で、皆でトレーニングを指揮してみて頂戴」

「えっ…」

「私どもが…ですか?」

「そうよ、大丈夫、サポートはしてあげるから安心して」

「「「は、はいっ!!」」」

 

(これも、全てウマ娘ちゃん達のため)

 

 伊勢は一人、心の中でそう呟いた。

 

 

────────────────────

 

 

「トレーナーさん!もう一本、もう一本お願いします!!」

「スペ、宝塚記念に向けて気持ちが整ってんのは分かる、だが無理は禁物だ、着替えてこい」

「はい…わかりました…」

 

 スペシャルウィークは残念そうな顔をして、トボトボと歩いていった。彼女は焦っていた。タマモクロス、そしてオグリキャップがアラビアントレノに対して行った激励は、彼女達に“置いてけぼりにされる”や“自分たちは時代の主役ではない”と感じさせるのには十分すぎるものだった。

 

「スペちゃん、大丈夫でしょうか…」

「……俺としては、自由を尊重してやりたいが、あそこまで熱が入ってるとなると、心配になる」

 

 サイレンススズカの言葉に、スピカのトレーナーである西崎はそう返す。彼の指導方針は、ウマ娘の自主性を重んじるものである。それ故、管理教育プログラムに従うことはしなかった。だが、リギルのトレーナーで親しい関係である東条への配慮から、彼は反対することも無かった。

 

「スペちゃん…」

 

 サイレンススズカは心配そうにスペシャルウィークを見る。春の天皇賞前、彼女はスペシャルウィークが自分の事を気にかけすぎ、レースに備える気持ちが弱くなっているのではないかということを心配していた。春の天皇賞での敗北でそれが無くなったのは良いのだが、今度はスペシャルウィークが頑張り過ぎているのではないかという思いに悩まされていたのである。

 

 

────────────────────
 

 

 

 春の天皇賞におけるハッピーミークの勝利は、トレセン学園にいくつかの変化をもたらしていた。そして、サカキムルマンスクは自由奔放なミスターシービーに時たま振り回されながらも、彼女と深い信頼関係を築いていっていた。

 

「むぅ~!!やっぱり5月の風は良いねぇ〜」

 

 ベンチに座ったミスターシービーは一人、伸びをし

 

「見上げる空は遠いけど…抱えきれない夢がある…」

 

 一人、歌を口ずさんでいた。

 

「シービー先輩、飲み物を買ってきましたよ」

「おおっ、ありがとうサカキ。じゃあ、一緒に飲もうか!」

「はい」

「うーん!やっぱり天気の良い日に外で飲むオレンジジュースは最高だね!」

 

 サカキムルマンスクはミスターシービーの横に座り、自らも飲み物を開けた。

 

「ふぅ……はぁーっ…」

 

 しかし、彼女は飲み物を口にした後、ため息をついた。

 

「んー?どうしたんだい、サカキ」

「実は、売店の近くでケンカに遭遇したんです」

「あぁ~増えてきてるよね、最近」

 

 ハッピーミークにより、トレセン学園にもたらされた変化、それは、“管理教育プログラムの優遇に対する不信”だった。ハッピーミークは、管理教育プログラムを採用していない、チームメイサ所属のウマ娘である。そんな彼女が、春の天皇賞に勝利したのである。その結果は、管理教育プログラムに賛同できないウマ娘──特に下の方のクラスのウマ娘達にとって、それに疑問を抱かせるのに十分だった。

 

 そして、そういったウマ娘達と、管理教育プログラムを支持するウマ娘達との間で、管理教育プログラムの是非を巡った言い争いが発生するようになったのである。

 

「それで、どうなってた?」

「スーパークリーク先輩が互いの話を聞いて、なだめてました」

「そっか、それなら良かったけど……なんだかね…」

「…シービー先輩?」

「…責任重大だなって思ってね、ホラ、アタシ、元とはいえ、メイサのリーダーだからさ、多分、管理教育プログラムの反対派筆頭って見られてるんだよね…まぁ、絶対反対ってわけじゃないけど、導入したチームを優遇する今のやり方は、容認できない」

「ですね…上の方は、管理教育プログラムの強制こそ撤回しましたけど、不十分すぎる対応なのは事実ですし」

「だね……トレーナーさんだけじゃない、桐生院トレーナーも、氷川トレーナーも、ミークやベル達も頑張ってる、私達も、頑張らないとね」

 

 ミスターシービーはそう言い、ペットボトルを少し強く握る。桐生院は春の天皇賞での勝利により、世間から注目されるトレーナーの一人となった。それ故、忙しい日々を送っていた。一方、氷川はベルガシェルフが皐月賞の後に軽く脚を痛めたため、ダービーを回避、静養とその後の調整の計画に多くの時間を注いでいた。

 

「サカキ、そういえば君は、今度大井まで偵察に行こうかって言ってたよね?」

「はい、アラちゃんは帝王賞を狙ってるはずですから、きっと、今度の大井2000のレースに出てくると思うんです。中央招待枠もありますし」

「出走表、持ってる?」

「簡単にメモしたものなら」

 

 サカキムルマンスクはメモ帳を開き、ミスターシービーにそれを見せた。

 

 

1ヴィルベルヴィント名古屋

2サナダハリボマー園田

3オールナイトフレア川崎

4マチカネフランツ大井

5メイショウサチワヌ中央

6マチカネグランザム大井

7コンスタンティニエ浦和

8アラビアントレノ福山

9クイーンベレー中央

10マリアアンソロジー大井

11ロイヤルクエスタ金沢

12グラステレジア大井

13セイウンスードリ中央

 

「ふーむ…うんうん、なるほどね」

 

 ミスターシービーは出走表を見渡し、中央からはあまり強力なウマ娘が出てはいないが、地方からは強豪が多く出ていることをすぐ見抜いた。

 

「中央はぼちぼちだけど、地方からはそれなりに強豪が出てきてるなぁ、よし!サカキ、偵察に行っておいで!その日アタシはトレーナーさんの手伝いをすることにするよ」

「わかりました!」

 

 サカキムルマンスクは敬礼をして、ミスターシービーにそう答えた。

 

 …ただ、彼女には、他の中央の同年齢のウマ娘と比べ、異なる点が一つある。それは、在籍期間だった。彼女は転入してきて日が浅い。つまり、同期の競走ウマ娘たちについて知らないこともあるということである。

 

 そして、ミスターシービーも、生徒全員の情報を知っているというシンボリルドルフのようなウマ娘では無かった。

 

 そして、彼女達は、出走表に登録されている中央所属のある一人のウマ娘に対しては、“芦毛で眼帯”程度しか情報を持っていなかった。つまり、彼女の経歴についてまでは知らないということである。

 




 

お読みいただきありがとうございます。

少し多忙で暫く投稿できていませんでした、ペースを上げていこうかなとは思っています

新たにお気に入り登録、評価をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

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