アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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今回のレースの出走表です。本編では表示されないので、ここに載せておきます。

1ゴールドテレジア大井
2アラビアントレノ福山
3ラシアンカーベー門別
4オラニエチェイサー盛岡
5ネモーレブルワン中央
6タイキジャマイカン中央
7ナリタアルギザ中央
8トマゾセンゴクオー高知
9オオルリロドネイ姫路
10オースミハイアー中央
11キングチーハー福山
12リンドアルマダサガ
13メフメトサプライズ川崎
14メイセイオペラ水沢
15ハグロミズバショウ園田



第57話 震える大地

 

 多くの観客が、帝王賞のスタートを今か今かと待っている。今まで対決することの無かった二人、メイセイオペラとアラビアントレノの対決を見るために…である。そのため、決して広いとは言えない大井レース場の観客席は、まるで箱寿司のような状態となっていた。

 

『岩手の雄、真紅の稲妻、メイセイオペラ、瀬戸内の怪童アラビアントレノ、豪脚加農、キングチーハー、15人の優駿たちが、それぞれゲートに入っていきます』

 

(トレーナー殿、ウィレム殿…私はやる…やって見せる…)

(感じる…あの時と同じだ、負けられない…)

(G11勝がかかってるんだから…)

 

 ウマ娘達は、様々なことを考え、ゲートへと入ってゆく。

 

『15人が揃いまして、ワク入り完了』

 

ガシャコン!!

 

『スタートしました、一斉に飛び出しました優駿たち、その数は15人、13番メフメトサプライズ、好スタートを切った。おっーと、14番メイセイオペラ、岩手の雄です、続いています。先行策でしょうか?内からは1番のゴールドテレジア、ハナを切りそうです。4番手はナリタアルギザ、メイセイオペラの真後ろです。5番手には2番のアラビアントレノ、今回は前寄りの位置です。その外から4番のオラニエチェイサー、2バ身ほど離れて3番のラシアンカーベーと12番のリンドアルマダ、続くのは6番のタイキジャマイカンと11番キングチーハー、1バ身離れて5番のネモーレブルワンと9番オオルリロドネイ、その内を回っている、15番ハグロミズバショウと、10番オースミハイアー、殿はトマゾセンゴクオーであります』

 

 15人のウマ娘が、一斉にスタートする。メイセイオペラは素早く作戦通りの位置につけ。その赤い瞳で自分以外の状況を確認するべく、周りを見渡した。

 

(逃げ1、先行3、差し7、追い込みが3……一人は真後ろか)

 

 メイセイオペラの武器は、その素早い思考速度にある。彼女は出走ウマ娘の誰よりも早く、周囲の状況を把握してみせた。

 

『メイセイオペラ、虎視眈々と狙って現在3番手、他の娘達はどう動く?』

 

(他の地方のウマ娘もそうだが、中央から来ているウマ娘もベテラン、ラストスパートでは、脅威となる)

 

『2番のアラビアントレノの内からは、4番のオラニエチェイサーが行く、3番ラシアンカーベーと12番のリンドアルマダは並ぶような状況に、そして6番タイキジャマイカンの外からは11番キングチーハー、もうすぐ第一コーナーカーブ!』

 

(…こんなにビリビリと闘志を感じるんだ、後ろにいるチハにも……届いているはず)

 

 アラビアントレノは、メイセイオペラの闘志、気迫を間近で感じており…

 

(あの気迫、後ろから見てもビリビリ感じるわ…全身の毛が逆立ちそう)

 

 それはキングチーハーにとっても同じであった。そして、二人は同じ事を思っていた。

 

((これが…エース……))

 

 地方の現役ウマ娘の中でも、最強クラスの実力を持つメイセイオペラ、その気迫は、二人だけでなく、この場にいる全員が感じているものだった。

 

『第2コーナーカーブ、ここで先頭から見てみましょう、ハナで逃げているのは、1番ゴールドテレジア、2バ身差で13番メフメトサプライズ、そして後方に14番メイセイオペラ、内を突くは4番オラニエチェイサー、その外回りまして2番アラビアントレノ、1バ身離れて6番のタイキジャマイカン、そして11番キングチーハーと7番ナリタアルギザ、インコースには5番のネモーレブルワンであります。そして次は12番リンドアルマダ、そして15番ハグロミズバショウ、1バ身離れ、9番オオルリロドネイ、10番オースミハイアー、次は3番のラシアンカーベー、少し離れてしんがりは8番トマゾセンゴクオー』

 

(この様子…控えていれば負ける……ここで少し揺さぶりをかけておかないと…マズイ…)

 

 そう考えたアラビアントレノは、メイセイオペラにプレッシャーをかけるべく自分の存在を見せつけるように、V-SPTでメイセイオペラとの距離を縮めていく。

 

(フッ、愉しませてくれる!!……だが、近づけさせんぞ!!) 

 

 メイセイオペラは、アラビアントレノの気配を察し、一瞬力をこめ、蹴り上げる砂の量を増やし、ブロックを行う。

 

(……ッ!!やっぱり、簡単にはいかないか…でも!!)

 

 ライトに照らされている砂上で、激しい攻

防が繰り広げられている。

 

 

────────────────────

 

 

『第2コーナーカーブ、ここで先頭から見てみましょう、ハナで逃げているのは、1番ゴールドテレジア、2バ身差で13番メフメトサプライズ、そして後方に14番メイセイオペラ、内を突くは4番オラニエチェイサー、その外回りまして2番アラビアントレノ、1バ身離れて6番のタイキジャマイカン、そして11番キングチーハーと7番ナリタアルギザ、インコースには5番のネモーレブルワンであります。そして次は12番リンドアルマダ、そして15番ハグロミズバショウ、1バ身離れ、9番オオルリロドネイ、10番オースミハイアー、次は3番のラシアンカーベー、少し離れてしんがりは8番トマゾセンゴクオー』

 

「………?」

 

 一方、慈鳥は違和感を感じながらも、メイセイオペラの様子を見ていた。そして、その横には鵺が立ち、その表情を見ている。

 

(メイセイオペラ…V-SPTは知っているはず、使ってくると思ったが…)

 

 今やV-SPTは、福山トレセン学園だけの物では無い。全国の地方トレセン学園が知っている。習得したウマ娘も少なくなかった。それ故、慈鳥はメイセイオペラはそれを習得し、使って来ると思っていたのである。

 

(自分で言うのもアレだが…V-SPTはアドバンテージの筈だ、鵺さん、何を考えている…?)

 

 以前、アラビアントレノがクイーンベレーに弾き飛ばされてしまった時の様に、V-SPTにはピッチとストライドを変える際に隙が生まれる。それをひどく嫌って、メイセイオペラはV-SPTを使わなかったのである。

 

(そうだ、それで良い。行け、オペラ…水沢のウマ娘の夜戦(ナイター)を…見せつけてやれ)

 

 鵺は口角を上げる。

 

 ウマ娘だけではなく、トレーナー同士でも、読み合いが繰り広げられている光景が、そこにあった。

 

 

────────────────────

 

 

(フッ…反射神経は十分なようだな…だが…これならばどうだ!!)

 

 メイセイオペラは、自分の横に来つつあるアラビアントレノを見る。そして、自らの尻尾を、イン側に大きく振るう。キョクジツクリークと戦い、彼女の尻尾技を受けたアラビアントレノの目には、それが自分に尻尾を打ち付ける予備動作のように見え、そちらに視線が誘導される。

 

(目の良さが命取りだ!!)

 

『第3コーナーまであと少々、先頭1番ゴールドテレジアから最後方8番トマゾセンゴクオーまではおよそ7バ身差、おーっとここで14番メイセイオペラ、ペースを上げた、ロングスパートか!?』

 

 メイセイオペラは、アラビアントレノが尻尾に視線をやった一瞬の隙を突き、ロングスパートをかける。  

 

(控えていた甲斐があったわ!!)

 

『ここで中団外寄りに待機していた11番キングチーハー、こちらも位置を上げてきている!!』

 

(やられた…でも…こっちも!!)

 

『2番アラビアントレノ、キングチーハーに負けじとこちらもスパート体制、さあ、他の娘達はどう動くのか?』

 

 メイセイオペラの素早い動きに対し、アングロアラブのメンタルで最低限のロスで対応したアラビアントレノも、負けじとスパートをかけた。

 

(アラビアントレノ…こんなに早く対応出来るとは…レース前に感じた感覚といい…面白い相手だ)

 

『第4コーナーカーブをもうすぐ抜ける、ここから最後の直線だ!!』

 

(だが……負けん!!)

 

 メイセイオペラは、足に思い切り力を込め、セカンドスパートをかけた。彼女の士気は最高潮に達し、この勝負をとても楽しんでいた。

 

『ここで14番メイセイオペラ、セカンドスパート!!突き放しにかかるか…?いや、2番のアラビアントレノと11番のキングチーハーが来ているぞ!』

 

(させないわよ!!)

(V-SPTで体力は残ってる…ここから…!!)

 

『外からも来ているぞ、10番オースミハイアー、15番のハグロミズバショウ!!』

 

(くっ……手強い…だが…)

 

 ピシッ…

 

 メイセイオペラの中にある何かに、ひびが入る…彼女の目から、光のようなものが漏れる。

 

(勝つのは…私だ!!)

 

パリィィィィン!!

 

 そして、その何かは、ボールが硝子を破るかのように、弾け飛んだ。

 

『内からも外からも来ている!14番……メイセイオペラ……あっと!!何とここで3回目のスパートだ!!3回目だ!!!』

 

(……何だ…これは……何も聞こえない…そして……全ての力が、脚に入る……そうか…これが…領域(ゾーン))

 

 領域へと至ったメイセイオペラは、3回目のスパートをかけていた。彼女は、まるで杭を打つかのように、足をコースにねじ込み、強く大地を踏みしめる。

 

(驚け…竦め……私の影を踏まないまま…置き去りにされてゆけ!!)

 

『これは強い!!大地に響かせて、大地を揺るがせて!!14番メイセイオペラ優勝ー!!』

 

 アラビアントレノ、キングチーハーらを突き放し、メイセイオペラはゴールの板を誰よりも早く駆け抜けたのだった。

 

 

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ワァァァァァァァ!!

 

 あの時と同じ歓声に、場内は包まれる。メイセイオペラは観客に手を振り

 

「勝ったぞ!!」

 

 と叫んでいた。負けた……でも、清々しい気分だった。

 

「強かったわね…メイセイオペラさん…それに領域まで…私達も…どうやら…まだまだのようね」

 

 チハが、息も絶え絶えに、私に話しかけてくる。

 

「…うん…まだまだ…頑張らないと…」

 

 そんな会話をしていた私達に向けて、メイセイオペラは歩いてくる。そして、私達に微笑みかけた。

 

「…?」

「メイセイオペラ…さん…?」

「…今日、私が領域へと至ることが出来たのは、私自身の強さというよりは、君たち二人のお陰だと思っている。どういうわけかは分からない、だが、そんな気がしてならないんだ」

 

 相手の目に、嘘の色は見られない。

 

「だから、心より礼を言わせて貰いたい、ありがとう」

 

 メイセイオペラは、私達に向かって、深々と頭を下げた。

 

 

=============================

 

 

「負けました…完敗です…メイセイオペラ、圧倒されました」

「自分も、まさかオペラが領域を出すとは思っていませんでした…………ですが、これは慈鳥さん達のお陰です。断言します。」

「鵺さん…」

「……」

 

 鵺は慈鳥、そして後からやってきた軽鴨に手を差し出す。彼らはウマ娘達同様、握手を交わした。

 

────────────────────

 

 

 ウイニングライブの後、鵺、メイセイオペラはシワ一つないスーツを着た人物──中央のスカウトマンと話をしていた。

 

「なるほど…話を要約するとこうですか、つまりオペラを中央に迎え入れたいと」

「はい、その娘の才能は、中央でもきっと、通用するでしょう」

 

 中央のスカウトマンは、メイセイオペラを見る。

 

「……」

 

 しかし、メイセイオペラは、黙ってスカウトマンの目を見ていた。

 

「中央の環境は快適ですよ?」

 

 スカウトマンは、沈黙を破るべく、そう発言する。それを聞いたメイセイオペラの耳は、ピクリと動く。

 

「トレーナー殿、行こう」

「…了解、さあ、急ごう」

 

 メイセイオペラが身体を反対方向に向けると、鵺もそれに追随する。

 

「お、お待ちを!!」

 

 引き止めるスカウトマンに対し、メイセイオペラは…

 

「生憎、私はそちらの言う快適な環境と言うのが苦手ですので」

 

 と言い、歩き去って行った。

 





お読みいただきありがとうございます。そして、新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

今回の結果は、史実通り、メイセイオペラの勝利とさせて頂きました。そして、次回は、宝塚記念の簡単な描写を行い、サマードリームトロフィーについても少し入っていこうかと思っています。よろしくお願い致します。

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