『4枠8番、ミスターシービー』
『これまでの予選では、強い追込で勝利を掴んで来た彼女、体力だけでなく精神力も試されるこの東京3400での活躍も、期待したいところですね』
ドリームトロフィーリーグ用の勝負服に身を包んだミスターシービーは、観客達に手を振る。
「ミスターシービー、予選での追込、凄かったよなあ」
「これなら、シンボリルドルフにも勝てるかもしれないぞ?」
「いや、シンボリルドルフは、冬より走りのキレが増してるんだぜ?今回も勝ってくれる筈だよ」
観客達は、ミスターシービーを見て、シンボリルドルフとの比較をする。
今回のサマードリームトロフィーで、東条率いるチームリギルは、シンボリルドルフのみを出走させていた。一人を集中して鍛え、確実に勝ちを取りに行き、トレセン学園内にはびこる管理教育プログラムへの疑念を払拭するためである。
そして、シンボリルドルフも、今回のサマードリームトロフィーの構図…つまりは、代理戦争ということを理解していた。
彼女自身は、管理主義のリギルのウマ娘であり、管理教育プログラムを推すURA上層部の考えは理解していた。そして、保守派の生徒たちから、その筆頭とみなされていた。
そして、今日対戦するミスターシービーは、改革派の筆頭である。
それ故、今回のレースは、ミスターシービーとシンボリルドルフの、さらには両派の、トレセン学園の在り方に対する信念、哲学のぶつかり合いでもあるということである。
「シービー」
パドックでの紹介が終わったミスターシービーに、シンボリルドルフは声をかける。
「…今日はよろしく頼む」
「…全力でいかせてもらうよ、ルドルフ」
対立する両派閥の筆頭とはいえ、彼女ら二人はライバル同士である。それ故、出走前の握手はきちんと行った。
『各ウマ娘が、次々とゲートインしていきます』
(…今回も…勝つ…)
(…ルドルフ…勝たせてもらうよ)
(…勝って、2つの派閥の争いを止めないと…)
(…今のままじゃあ駄目だ、変わらないと駄目なんだ)
(義は私達にある、上の指示に従わない娘達を打ち負かし、学園を取り戻す)
ウマ娘達は、それぞれの思いを秘め、ゲートに入っていく、ただし、“勝ちたい”と“トレセン学園のために走る”の二つの想いは、どのウマ娘も共通して持っている物だった。
『各ウマ娘、ゲートイン完了、体勢整いました、東京レース場3400m、サマードリームトロフィー、決勝戦…』
ガッコン!!
『ゲートが開いて、今、スタート……えっ!?ミスターシービーが、ミスターシービーが前寄りに出ている!?』
その光景は、出走ウマ娘、そして観る者のほぼ全てを驚愕させた。彼女は殆どの場合、積極的に最初の位置取り争いに参加せず、後方、もしくはしんがりを進んでいたからである。だが…
(……予想が出来ていたかといれば否だが…私は前例を知っている…!)
シンボリルドルフは、動揺せず、しっかりと理想的なスタートをすることができていた。彼女は、アラビアントレノが出走した、秋の天皇賞を現地で見ていた一人である。つまり、『追込を使うウマ娘が前に出る』という事例を一番近いところで見ていたということである。
(君には通じないはず…さァ…勝負だよ、ルドルフ)
ミスターシービーは心のなかで、そう呟く、彼女がこの作戦を取った理由…それは、他のウマ娘達の予測に反した行動を取ることで、本来の作戦を取らせづらくし、シンボリルドルフと確実に勝負をしに行くためであった。
(流石は皇帝…シンボリルドルフ会長、でも、今のシービー先輩なら…負けるはずがない…!)
サカキムルマンスクはミスターシービーの勝利を信じ、コースの上を走る彼女に視線を贈る。
『先行争い、ハナを進むのはダイワマラーサイ、次にオンワードカラバとタツハアーチェリー、逃げるのはこの三人、その次に来たのはセイウンメロゥド、そして今回は何と前に出たミスターシービー、内を進みます、スーパークリーク、そして外からはシンボリルドルフ、その内にゼークアインス、エアガーウィッシュ、2バ身差で並ぶようにゼークドライスとメイショウムバラク、そして後方にムーンアイリッシュ、その外回ってテイエムバーザム、アレキサンドリアン、内にはシンコウディアス、1バ身離れ、カレンエイノー、最後尾はニシノロマネスクとゼークヅヴァイス』
「…!?どういうことだ?いつものシービー先輩なら、後ろに控えるはずなのに」
ツルマルシュタルクはそう口にした。
「やっぱり、ドリームトロフィーリーグは…位置取り争いが凄い…」
続いて、エビルストリームがそう口にする。すると、それを聞いていたエコーペルセウスは…
「ワクワクするようなレースだね」
と言ったのである。それを聞き、ウマ娘達は振り返る。
「皆、分かるかな?シービーとシンボリルドルフの微妙な駆け引きが、実は、スタートダッシュでシンボリルドルフはシービーよりも良いスタートをしていたんだけど、抜けきらなかったんだ、そして、シンボリルドルフは少し引いた。いつもの彼女は先行型なのに……ね?、多分、スタートしてすぐに、シービーの目的を察して、スタート直後の激しい争いを避けて、彼女を追うベストの場所についたんだ、そして、もちろんそれはシービーも分かっているから、シンボリルドルフが引いた瞬間、それ以上ポジション争いに参加せずに、今のポジションについた……こんなレースが見られるなんて…わざわざここまで来た甲斐があったよ」
「そんなことが…あの瞬間に…そして見抜いたんですか?凄いですね…」
改革派のウマ娘の一人は、そう呟く。
「どうだろうね?あくまでこれは私の考えに過ぎないから、合ってるかどうかは分からない、でも、このくらいの分析なら今の地方のサポートウマ娘達は、出来るんじゃないかな?」
エコーペルセウスは笑顔でそう言った。その言葉に、周囲の中央のウマ娘達はその殆どが、目を丸くする。断片的ながらも今の地方のレベルを実感させられたのである。
「でも…驚くのは…まだ早い…ドリームトロフィーリーグは…普通のレースとは大違い…コーナーでも…行く人はポジションを取りに行く」
ハッピーミークは、驚いているウマ娘達に一言、そう言った。
『各ウマ娘、第3コーナーへ、先頭ダイワマラーサイからやや固まっている状態で、先頭から殿まではおよそ8バ身の差』
『ミスターシービーの動きによって、他のウマ娘達のポジション取りに影響が出ましたからね、此処から先の展開に、注目していきたいところです』
(他のウマ娘達に、本来の動きをさせづらくする…さすがだな、シービー…だが…そのポジションは、本来は私のモノ、返してもらうぞ…!!)
シンボリルドルフは、目をカッと見開き、少し外側に出て、ミスターシービーに被せるような形で、その距離を詰める。
(……………)
ミスターシービーはそれを見ると、なるべく譲らないように、内寄りでも外寄りでもないラインを走る。
『シンボリルドルフ!外から仕掛けていくぞ!』
『思い切ってコーナーでポジションを奪いに行きましたね、ミスターシービーはこらえているようですが……』
(……よし…3…2…1…今…!!)
『ここでミスターシービー、内に引きました!!』
『シンボリルドルフにポジションを譲る形となりましたね、無駄な消耗を避けたのでしょうか?』
ミスターシービーは内に引き、シンボリルドルフが先程までミスターシービーがいた位置に収まった。それは、彼女が一番力を発揮できるポジションにつくことができた事を意味していた。
『ここでミスターシービー、内に引きました!!』
『シンボリルドルフにポジションを譲る形となりましたね、無駄な消耗を避けたのでしょうか?』
観客席は、ミスターシービーが抜かれた事で、ウマ娘達がざわついていた。
「抜かれた!!シービー先輩が抜かれた!!」
「そんな…」
(…………あそこで抜かれると…)
アラビアントレノは、他のウマ娘達とは違い、声、表情にこそ感情を出して居なかったが、この状況はまずいのでは無いかと考えていた。
彼女たちは、ミスターシービーが“先行策”でいくと踏んでおり、その策がうまく行かなかったと考えていたのである。
一方、エアコンボフェザーはシンボリルドルフの動きを観察していた。
「………」
(ルドルフの強豪との対戦経験、そして緻密な管理が行われたトレーニングによって作り上げられた肉体、そして、先行の適正、位置取りでは、慣れない作戦を取ったシービーは分が悪いのは否定できないな、だが、
そして…彼女は自身の記憶と、丁度コーナーを走っているシンボリルドルフの走りを照らし合わせた。
(やはりな…!)
心の中でそうつぶやき、エアコンボフェザーは口角を上げた。
『各ウマ娘、一度目のスタンド前を駆け抜けていきます、第一コーナーは目前だ。先頭は入れ替わりまして、先頭がオンワードカラバ、タツハアーチェリーとダイワマラーサイは並ぶように走る、2バ身差でセイウンメロゥド、そしてシンボリルドルフ、スーパークリークは外寄りにライン変更、1バ身離れ、ゼークアインスさらにはエアガーウィッシュ、外からはゼークドライスとメイショウムバラク、そして後方にアレキサンドリアン、内にミスターシービー、ムーンアイリッシュ、いやテイエムバーザムか、内にはシンコウディアス、外寄りにカレンエイノー、最後尾はニシノロマネスクとゼークヅヴァイス』
『シンボリルドルフは良い位置をキープできていますね』
(ポジションを奪われたのに奪い返そうとしてこない…?何故だ、シービー…何もしてこない事がかえって不気味だ…投げたのか?)
シンボリルドルフは、先程ポジションを奪われたミスターシービーが、それを奪い返すどころか、その準備の兆候すら見せないことに不気味さを感じていた。
(…いや、シービーならば、投げるはずはない、虎視眈々と、機会を伺っているはず…)
彼女は、感じている不気味さを振り払うべく、走ることへ意識を注ぐ、だが…
(……どうもおかしい、つこうとしていたポジションにつくことのできたこちらが有利であるのは事実のはずだ)
それは中々頭から離れなかった。しかし、シンボリルドルフは額に垂れ、目に入らんとする汗を拭うことで、半ば強制的に気持ちを切り替える。
(…何処からでも来るんだ、シービー、私はベストコンディションだ…!)
シンボリルドルフは脚に力を込めた。
(手がつけられない程のレーステク…こうも堂々と見せつけられると、改めて舌を巻いてしまう、でも、それは今初めて分かったことじゃない、今までのレースでわかってることだからね)
一方で、ミスターシービーは、そんなシンボリルドルフを見て、脚に力を込める。ただし、彼女はピッチとストライドを変化させていなかった。
『第2コーナー、先頭はオンワードカラバ、しかし、ダイワマラーサイが並びかけるように出てきたぞ、タツハアーチェリーは少し下がったか、3バ身差でセイウンメロゥド、そしてシンボリルドルフ、外からスーパークリーク追走、1バ身離れてエアガーウィッシュ、その後ろにゼークアインス、メイショウムバラク、ゼークドライスの前に出た。そして後方にアレキサンドリアン、2バ身差で内にミスターシービー、外からはテイエムバーザム、内にはシンコウディアス、外寄りにカレンエイノーとムーンアイリッシュ、そして、ゼークヅヴァイスしんがりはニシノロマネスク』
『おや、ミスターシービーに動きがありますね』
『ミスターシービー、ここで位置を上げようとしている!!ここでポジションを取り返す気なのか!?』
(ここで取り返しに来るのか…!?無理は禁物だが、ここでそちらの思い通りには…!!)
『第2コーナーを抜けて向正面へ、シンボリルドルフ、うまくブロックしてミスターシービーの思い通りにはさせない!!』
(良いね!良いね!実況さん、そのままルドルフ達を誘導して!!)
ミスターシービーはシンボリルドルフのブロックを予想していた。彼女はブロックに苦戦するフリをしつつ、向正面へと入ってゆく。
(フフッ…)
ミスターシービーは口角を上げ、息を入れた。
『シービーはしっかりと食いついとるで!!やけど…先行のルドルフが滅茶苦茶速い上に冷静にブロックしとる!!』
別の所で観戦しているタマモクロスの声が聞こえる。彼女の言うとおりだ、このままだとマズイ。
「ヤバイ…シービー先輩、大苦戦……向正面を過ぎたら、今度はコーナーと坂だよ…」
「苦戦どころか…敗色濃厚ね…」
ハード、サンバはそう言う。周りのウマ娘達にも、そんな雰囲気が漂っていた。すると…
「えっ…!?」
双眼鏡を覗くロブロイが、驚いたような声を出す。
「ロブロイ、どうかしたの…?」
「シービー先輩が一瞬なんですけど、ニヤッとしたんです。ひょっとしたら、何か秘策があるのかもしれません…」
私は目に神経を集中させ、ミスターシービーを見る。
……確かに、何かを企んでいるような…そんな表情をしている。多分、作戦があるんだ、ミスターシービーと、そのトレーナー、フェザー副会長、そして、サカキぐらいしか知らない……作戦が…
『第2コーナーを抜けて向正面へ、シンボリルドルフ、うまくブロックしてミスターシービーの思い通りにはさせない!!』
(やはり、そう来るだろうな……だが…ルドルフ、シービーの狙いは、ポジションを奪い返すことじゃない…真の目的は…)
シンボリルドルフを見て、エアコンボフェザーはそう考える。彼女の脳内に、シンボリルドルフとのある記憶が思い出される。
シンボリルドルフとエアコンボフェザーがまだトゥインクルシリーズで走っていた頃である。
「お疲れ様でーす!!会長さん、フェザー先輩!!」
「今日も凄かったです!!」
エアコンボフェザーとシンボリルドルフを見て、集まったウマ娘達が声援を贈る。
「ふぅ…私達二人で併せをやると、いつも人が集まってしまうな、調整のつもりが、ついつい本気の勝負のようになってしまうよ」
「そうだな、ルドルフ」
「フェザー、私の走りはどうだった?悪くはなかったと思うのだが…」
「…昨日と比べて、僅かながら体力、脚力共に浪費しているのを感じる…この前の秋の天皇賞を見て思ったんだ。お前はどういう訳か、“こちら側”が少々苦手で、それを身体能力で誤魔化しているな?」
エアコンボフェザーは遠慮なく指摘する。その率直な指摘、観察眼、レースでの強さを、シンボリルドルフは高く評価していた。それ故、度々意見を求め、こうして併せを行っていたのである。
それからしばらくしてからの事である。
「…ついてきては…くれないのだな…」
「仕方ないだろう、私は後輩たちの指導がある」
二人は空港におり、会話を交わしていた。
「…そろそろ時間か…身体に気をつけろよ」
「分かっている、万全の体制でレースに臨むさ」
「その顔ならば、安心だな。アメリカでも暴れて来い、ルドルフ」
二人は拳をコツンとぶつけ、別れたのだった。
(あの後に開催されたレース…サンルイレイハンディキャップを再現すること…)
「“
エアコンボフェザーは一人、そう呟くのだった。
『向正面もそろそろ終了、ここからコーナーを通れば、ゴール前の直線へと差し掛かります』
『ゴール前の坂に、いかに備えるかが最重要課題となりますね』
(ゾクゾクするね…最高のレースだ、のるかそるかの、ワンチャンス…チラチラと見え隠れしてた、小さな突破口を突いて見せる…!!)
ミスターシービーは、シンボリルドルフらの後ろに控えながら、仕掛ける用意をしていた。
『各ウマ娘、第3コーナーへと入っていくぞ、先頭オンワードカラバとしんがりゼークヅヴァイスまではおよそ20バ身の差、だがそれも少しずつ縮まりつつあるぞ!』
(これからだよね、フェザー…よし、皆…さぁ、一緒に戦おう…!!)
スウッ…
ミスターシービーは、ピッチとストライドを変化させる。そして、シンボリルドルフとの距離を詰めていった。
『ここでミスターシービー動いた、シンボリルドルフとの距離をどんどん詰めていく、追突するかしないかの領域だ!!』
(何ッ……シービー…本当に、すぐ後ろに…!!)
突然のスタントプレーに、シンボリルドルフは顔をぎょっとさせる。
そして、それを見ていたエアコンボフェザーは、満足気に口元を緩める。
(ルドルフ、さっきまでのコーナーリング、あまり内側を攻めず、予選の時よりも負担が少ないルートを走っていたな。それはやはり、
エアコンボフェザーは心のなかでシンボリルドルフにそう呼びかける。
(ルドルフ、完全無欠のお前にも、弱点はある、お前の弱点は、左コーナーで追い立てられることへの恐怖心を克服できていない事だ、はっきり言えば………)
ミスターシービー、エアコンボフェザーはシンボリルドルフをその目に捉え…
((左回りがヘタクソだって事さ!!))
同じ言葉を脳内で叫ぶ。
(……ッ!!)
ペースを更に上げたミスターシービーに後ろから押されるように、シンボリルドルフはペースを上げる。
彼女はトゥインクルシリーズでの公式レースにて、3度の敗北を喫している、その3度目の敗北は、彼女の脳に深く刻まれていた。
サンルイレイハンディキャップはアメリカで行われるレースである。そこのコースは少々特殊であり、芝コースに一部ダートコースが交差するような部分が存在していた。シンボリルドルフは、後続のウマ娘の激しいマーク戦法で追い立てられ、その交差していたダートに足を取られ、そこで脚を痛め、敗北したのである。
そのこともあって、シンボリルドルフは、左回りに若干の恐怖心が残っていた、今までは圧倒的な身体能力でごまかしていたものの、特殊なトレーニングを重ねたミスターシービーとの差は、殆ど無かった。
シンボリルドルフが驚いているうちに、ミスターシービーは更にペースを上げ、シンボリルドルフに触れるか触れないかの距離感で並びかける。その顔は普段の彼女からは想像できないほど、真剣だった。
(……ッ…膨らむスペースを潰された…これではコーナーリングでも、立ち上がりでも、パワーを発揮できない…!!)
(……!!)
(……ウソ…)
周りのウマ娘は、そのギリギリの距離感に圧倒される。
「シービー先輩が、あんな走りをするなんて!!」
「並ぶっていうより…ぶつかる!!」
そしてそれは、観戦しているウマ娘達も同様である。
「シービーが、シンボリルドルフの実力を信頼しているからこそできる抜き方だね」
エコーペルセウスはそう呟く。
「凄い…会長、外からシービー先輩に張り付けられて、前に出られないんだ!!」
ツルマルシュタルクは興奮気味にそう言う。
「凄い…シービー先輩が、会長さんのアタマを抑えたまま立ち上がってる!!」
「行ってください…シービー先輩、行け…行け…行けぇぇぇぇ!!」
アドヴァンスザックの言葉に、感情が昂ぶったベルガシェルフはそう叫ぶ。
「行けー!!シービー!!」
「行ける!!行けるぞ!!」
興奮したファン達も、声援を贈る。
(…………!!)
それに応えるかのように、ミスターシービーは更に脚に力を込める。彼女の目、身体からは、白い閃光が漏れる。
『ミスターシービー、コーナー出口でシンボリルドルフを抜いた!!勝負は最後の直線に持ち込まれたぞ!!』
(ここからは、集中…ゴールすることだけを、考えれば良い…!!)
ミスターシービーはその剛脚で、前を走るウマ娘達を、どんどん抜いていく。
(やられた…
シンボリルドルフは追いすがるうちに気づいた。自らが策に嵌められていた事に。
『ミスターシービー、ごぼう抜きを見せて、今、ゴールイン!!サマードリームトロフィーの覇者が今ここに決定致しました!!』
ワァァァァァァァァッ!!
しかし、それはあまりにも遅かった。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
ゴールインしたミスターシービーは、歓声を聞く。
「は…ハハハッ…こんな大きい歓声…何時ぶりだろう?三冠を取ったとき以来…かな…」
彼女は顔一杯に汗を浮かべ、そう呟く。
「悔しいですけど、圧巻の一言です」
彼女に、共に走っていたスーパークリークが声をかける。
「ありがとう、スーパークリーク」
彼女はスーパークリークに礼を言うと、伊勢とサカキムルマンスクのいる位置に手を振り、観客席のエアコンボフェザーが立っている箇所に向け、サムアップをする。
「シービー先輩、一体どこへサムアップを………!!」
スーパークリークは視線をミスターシービーの目の先にやり、目を丸くした。
「シービー先輩、あの方に……」
ドサッ
スーパークリークが視線を戻した瞬間、ミスターシービーはターフの上に大の字になる。シンボリルドルフに勝つため、数々のトレーニングを重ね、策を弄し、プレッシャーを背負いつつも3400mもの長距離を走りぬけた彼女、その疲労はかなりのものだった。
「シービー先輩!?」
「大丈夫、疲れがドッと来ただけさ…流石に…きつかった…でも、ルドルフに勝てて良かったなぁ」
そう言って、ミスターシービーは満足そうな顔をして、気を失った。
シンボリルドルフのファンから見れば、このレースは、シンボリルドルフの公式戦での4度目の黒星がついたレースという印象だろう。
ミスターシービーのファンから見れば、このレースは、ミスターシービーが公式戦で、シンボリルドルフに対し、念願の勝利を収めたレースという印象だろう。
だが、トレセン学園と、その生徒、関係者たちにとって、このレースは保守派と改革派の代理戦争、つまりは今後の学園を左右するかもしれないレースであった。
ファン達の知らない所で起きていた小さな戦争は、このレースをきっかけに、ファン達が知らないまま、少しずつ、終わりへと向かってゆく。
お読み頂きありがとうございます。
新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m
挿絵は一応ミスターシービーのつもりで書いております。また、シンボリルドルフが左回りが下手であるという表現は、あくまで右回りと比較してのことです。なお、この表現は史実のシンボリルドルフの敗北がすべて、左回りのレースであることを元にしたものです。
ご意見、ご感想等、お待ちしています。