アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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 今回は拙い挿絵が入っております。

また、今回は出走表が本文に出てきませんので、ここに載せておきます。


1キョクジツクリーク名古屋
2ダンシングジム中央
3ヒシジーライン中央
4オオルリロドネイ姫路
5マンハッタンカフェ中央
6アラビアントレノ福山
7ホクトアカゲルググ門別
8オグリキャップ中央
9リファインドーム園田
10ミドハトカフェ浦和
11サードジーエム中央
12サイレンスザニー中央
13カールグスタフ中央
14ザックアールエフ水沢



第63話 怪物と怪童(前編)

 

 

 プレ大会までの期間は、あっという間に過ぎていった。そして、プレ大会当日の早朝、つまり、メジロ家の当主と会うときがやってきたのである。まず、メジロアルダンが、当主にハグロシュンランのこれまでの簡単な説明を行い、メジロアルダンの父親が、ハグロシュンランを部屋に通した。

 

「……あの…片目の娘が…こんなに…」

「はい、この娘が、アルダンの双子の妹であり、私の親友の娘です」

「…初めまして、いえ…お久しぶり…なのでしょうか、アルダンさんのおばあ様。私がハグロシュンランと言うものです。今日は用件がありまして、このような形でそちらのもとを、訪れさせて頂きました、メジロ家の血族の一員としてではなく、競走ウマ娘を応援し、支えていく者の一人としてです。」

「………用件…ですか?」

「はい、私達は現在、管理教育プログラムの優遇撤回を求めるURAの改革派と、協力関係にあります、URA内での論争は、ご存知でしょうか?」

「……もちろんです」

 

 当主は、若干絞り出すような言葉でそう答える。

 

「…分かりました…用件についてなのですが、メジロ家に、改革側についてほしいと、私達は思っています。」

「……私達が…改革派に…?」

「はい、改革派にです」

「………」

 

 当主は黙る。彼女は管理教育プログラムの優遇を推進する勢力からも、改革派からも、ある程度の距離を置いていたものの、台頭してきた小柄なウマ娘達が、メジロ家に取って代わるのではないかと警戒していた一人ではあった。

 

「悩んでおられるのは、承知しています…今日、決めていただきたいのです。今日、ここで、共にプレ大会を見てです。事は急を要します。お願い致します」

「おばあ様、私からもお願いします…どうか」

 

 ハグロシュンラン、そして、その後ろに控えていたメジロアルダンが、ともに頭を下げた。

 

 

────────────────────
 

 

 

 それから数時間後、エコーペルセウスは、福山トレセン学園の生徒会室で、プレ大会の発走時刻を待っていた、パソコンの画面の向こうには、全国の地方トレセン学園の生徒会長の姿もあった。

 

『もうすぐだな』

『…いよいよ始まるのね』

『……これで、中央の意識を変えることが出来れば、良いんだケドな』

『オイオイ、弱気になったらあかんで、門別サン、うちらは今日のために、色々と頑張ってきたんやからな』

 

  各生徒会長は、解説によって、ウマ娘の情報が読み上げられていくのを画面越しに見ながら、発言していく。

 

『私達は、日本のウマ娘レースを世界に羽ばたくのに相応しいものとするため、歩んできました、そして、今日のレースは、それを一気に進めるためのもの、無事に良い結果で終わるのを、今は信じるのみです…』

 

 金沢の生徒会長(カガノフェルナンド)の発言を聞き、エコーペルセウスの耳が動く。

 

「結果って言うのは、黙ってればやって来るものじゃないからね、汗を、血を流し、呻きながら、そこまでの門を一つ一つ、こじ開けていく、それしかないと思う。私達はそれをやってきた、大丈夫だよ、皆、ウマ娘達は、結果を残してくれるはずだよ」

『…やけに自信が有りますのね』

 

 姫路の生徒会長(オオルリネルソン)が、エコーペルセウスの発言に反応する。

 

「私、個人的に、今回のプレ大会の構図を分析してみたんだよ」

『構図…ですか?』

「うん、今までの中央は、2つに分かれて争っていたような形だった。そして、中立を選んだウマ娘、トレーナー達以外は、その殆どが今までの争いに疲れてると思うんだよ、そして、今回は地方も参加するから、三極構造になる」

『まぁ…そうですわね』 

『理解できます』

「…そして、中央の現状を、出走ウマ娘達の殆どは、知っているんだよ。高嶺の花のようだった中央が、そんな風になってたら、“地方は中央の2軍”なんていう劣等感は、どうなると思う?」

『…あたしなら感じないです』

『私も同意するわ』

 

 その場にいる全員が、同様の意見を口にする。

 

「そう、劣等感を捨て去ることができるんだ、ありのままの、自分の走りができるんだよ…つまり…フフフフッ…」

 

 エコーペルセウスは、口角を上げる。興奮のあまり、その目は開く。

 

「思うように暴れられる」

 

 改革派、保守派、そして地方、三極構造となった今回のプレ大会が、幕を開けようとしていた。

 

 

────────────────────

 

 

 その頃、オグリキャップは勝負服に着替え終え、控室にてパドックに呼ばれるのを今か今かと待っていた。そして、北原とベルノライトは控室へと入室した。

 

「オグリ、どうだ?」

「北原!ベルノ!……ウズウズしてくる…早く…呼ばれないだろうか…」

「そうかそうか!」

「その様子なら、程よく緊張してるみたいだね、あの作戦も、大丈夫そう」

 

 北原とベルノライトは、オグリキャップの様子を見て、安心した。そして、立てていた作戦も実行出来るだろうと感じた。

 

「タマ達は?」

「もう、観客席に上がってるみたい、マーチは別の所で見るって」

「そうか……」

「…オグリ?どうかしたのか?」

 

 北原はオグリキャップの反応が少ないことに気づき、不思議に思って声をかけた。

 

「…ベルノ、ヘアゴムを持っているか?」

「う、うん…偵察に使ってるのなら…」

 

 オグリキャップの突然の言葉に、ベルノライトは少々驚きながらも、自分が偵察に行く際に使っているヘアゴムを出した。

 

「オグリ…まさか…」

「……」  

 

 北原の言葉に、無言で頷いたオグリキャップは、自らの髪にヘアゴムを通し、丁寧に束ねていく。

 

「……どうだろうか…?」

「ちょっと長いが…カサマツの頃そっくりだ」

「…何だか…懐かしいね…」 

 

 北原とベルノライトは懐かしさを覚える。オグリキャップは、自分の髪の毛を束ね、カサマツで走っていた頃のヘアスタイルに戻していたからである。

 

 

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 パドックでの紹介が終えられ、私達はゲートの前へと移動する。そして、ストレッチ、キョクジツクリークとの挨拶を終えた私に、オグリキャップが声をかけてきた。

 

「…この日を待ち侘びていた、アラビアントレノ、今、ここで言うことはただ一つ。勝たせてもらうぞ、このレース」

「……こちらも、勝つつもりで、今日まで調整を続けてきました、真剣勝負ですね」

 

 会話は、それで十分だった。

 

 気持ちが、激しく昂ぶっていくのを感じる。私の心を熱くさせる。

 

 それはまるで…

 

 燃え上がる炎(Rising Flame)のように。

 

 

=============================

 

 

 会場は、まるで瀬戸内海のように、静まり返っている。

 

『いよいよやって参りました、第二回AUCCプレ大会、長距離部門、札幌2600、全国から14人の優駿達が集い、ここ、札幌の地でその脚をもってぶつかり合います。優勝するのは果たしてどの娘なのか、各ウマ娘、ゲートイン完了、出走準備は整った様子』

 

 ガッコン

 

『スタートしました!各ウマ娘、特に事故なくスタートを切った!!』

 

 

 

 

 観客席では、セイランスカイハイ、エアコンボハリアー、エアコンボフェザー、そしてフジマサマーチが、レースを見物していた。

 

「…あれ…他の中央のウマ娘達、ちょっとスタート時の加速が遅い…?」

 

 セイランスカイハイが、スタートの様子を見て、そう口にする。

 

「それは、ここのコースの芝が関係している、ここのコースは、洋芝が敷き詰められている。洋芝は、根の張り具合は野芝より弱い、だが、その分コース全体が柔らかいんだ」

 

 セイランスカイハイの言葉を聞き、フジマサマーチがそう解説する。

 

「マーチの言う通りだ、つまり、ここのコースは芝であっても、走る感覚、タイムはダートのそれに近くなる、だが、気になる点が一つある、オグリキャップは芝もダートも走ることのできるウマ娘、洋芝であれ、もっと勢いのあるスタートができるはずだ。だが、今回はそれが無かった。」

 

 エアコンボフェザーはそう言い、コースに目を戻した。

 

 

 

 

 

『各ウマ娘、それぞれの位置についた、先頭、ミドハトカフェ、続いてカールグスタフ、この二人が逃げている。続くのはサードジーエム、リファインドーム、ザックアールエフ、そしてホクトアカゲルググ、先行はここまでと言ったところか、ニバ身後ろ、内を突くのはオオルリロドネイ、さらにマンハッタンカフェ、外からはアラビアントレノ、オグリキャップはその後方、内寄りに控えた!その後ろの内は並ぶようにしてヒシジーラインと、サイレンスザニー、外からはダンシングジム、そして殿はキョクジツクリーク!!』

 

 

(オグリキャップ…私を…)

 

 アラビアントレノは、オグリキャップが自分をマークしているのを理解していた。

 

(でも、マークされる可能性は、頭に置いてた…ついたポジションは、ベスト…)

 

 彼女はマークされて居ても、気を散らさず、自分の走りが出来るよう、トレーニングを行ってきたのである。

 

 

(流石だな、アラビアントレノ……もちろん、私だって、キミがマーク程度では動かないことは知っている)

 

 一方のオグリキャップも、もちろんのこと、アラビアントレノがマーク程度は気にしないというのは予測済みである。

 

(だが…私と北原、ベルノ…皆とで考えた作戦で…キミをKOしてみせる……)

 

 だが、彼女には秘策があった。その秘策は、アラビアントレノを前に出して、初めて効果を見せる物である。

 

 怪物は、静かに、されど闘志を燃やしながら、タイミングを伺っている。

 

 

 

 

『現在、ウマ娘達は第3コーナーと第4コーナーの境界上を通過中、先頭ミドハトカフェが逃げ、展開はやや縦長となっています!!』

 

「オグリちゃん…良い位置についてますね」

「ああ、このままなら行ける、できるぞ、あの作戦が…!」

 

 ベルノライトと北原は、この日のために立てた作戦を実行可能な条件を、オグリキャップが満たしている事を確認した。

 

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

 

 

 プレ大会前の平日の事である。中央は平日のレース開催を行っていないため、オグリキャップはレース場を使った調整、通称、「スクーリング」と呼ばれているものを行うことが可能だった。

 

「目隠し、取って良いよ!」

「これは…」

「実戦感覚トレーニングだよ!!」

 

 オグリキャップは、目の前の光景に圧倒された。

 

「オグリちゃん、今日は本気で行かせてもらいますよ〜」

「ヘンな走りしたら、承知しねぇぞ!!」

「全力で走らせてもらうさかい、覚悟しときや!!」

「クリーク、イナリ、タマ……」

 

 スーパークリーク、イナリワン、タマモクロス…それだけではなく…

 

「………皆……」

 

 メジロアルダン、ブラッキーエール、ディクタストライカ、サクラチヨノオー、ヤエノムテキ、ゴールドシチー、シリウスシンボリ、ロードロイヤル、メリービューティーなどなど…豪華絢爛たる13人のウマ娘が、札幌レース場に集まっていたのである。

 

「オグリ、最終調整として、ここにいる全員と、模擬レースをしてもらう、ゲートは使えないが、それ以外は実戦と同じだ。もちろん、ここにいる全員は、お前の作戦はまだ知らない」

 

 オグリキャップに向け、北原はそう言った。

 

 

────────────────────

 

 

「あれが…オグリちゃんの作戦…」

「スゲェ……」

「…奇想天外、しかし…効果絶大…」

 

 模擬レースを終えた後、参加したウマ娘達はオグリキャップの作戦の威力に舌を巻いた。

 

「オグリ、これを使うタイミングは、そっちに任せる。だが、使うまでには必ずイン寄りを走る…つまり、きちんとしたラインをたどるんだ、良いか?」

「あぁ、ありがとう…北原…みんな…」

 

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

 

 

『各ウマ娘、短いスタンド前から、順々に第1コーナーへ、まずはミドハトカフェ、カールグスタフ、2バ身差で続くのはサードジーエム、外からリファインドーム、ザックアールエフ、少し後ろ、内を行くのはホクトアカゲルググ、ニバ身後方、少し外寄りにポジションを変更したオオルリロドネイ、さらにマンハッタンカフェ、そしてアラビアントレノ、オグリキャップは内寄りを進んでいる、1バ身体差で、ヒシジーラインと、サイレンスザニー、外からはダンシングジム、キョクジツクリークは少し上げてその内にいるぞ!』

 

(コーナーはきつくない、でも、最後の直線は短いから、末脚のために、少しでも力を残す…V-SPTはあっても、無理にインベタは、狙わない、確実に行こう…)

 

 アラビアントレノは、他のウマ娘より、少々加速が遅い、それ故、最後の短い直線の末脚が遅れるのは、敗北に直結する。それ故、コーナーでの踏ん張りで体力を使いすぎないようにしたのである。

 

(…流石、アラビアントレノ、きちんと計算して、走っている……決めた、仕掛けるのは第2コーナー出口だ)

 

 しかし、その意図はオグリキャップに見抜かれていた。彼女は、温故知新の精神のもと開発した新たな技を使う決心をした。

 

 オグリキャップの目から、光が漏れ始める。

 

(…何が来る…嫌な感じがする……でも、自分の作戦を信じる…!)

 

 アラビアントレノは不安を振り払い、コーナーの出口を目指す。

 

(………ここだ…行くぞ!!)

 

 オグリキャップは姿勢を一瞬落とし、足に力を込めた。その身体はオーラに包まれている、つまり、領域を放っていた。

 

(………!?)

 

 そして、アラビアントレノは驚愕した。

 

 

 

 

『ここでオグリキャップ!!インベタを潜り抜けてアラビアントレノの前に出た!!』

 

「なっ!?」

「アラが抜かれた!!」

 

 驚愕するセイランスカイハイとエアコンボハリアーに対し…

 

「なるほど…そういうことか、オグリ」

 

 フジマサマーチは笑ってそう言った。彼女は、オグリキャップが、どういう行動に出たのか、大まかであるが理解できたのである。

 

 

 

 

 ここで、時間は数秒前に遡る。

 

(………ここだ…行くぞ!!)

 

 オグリキャップは姿勢を低くし、ただでさえ低姿勢の走りを、ダートを走っていた時のような、超前傾姿勢に変化させる。

 

 エアコンボフェザーが言及していたように、洋芝の走る感覚は、ダートに近い、芝の根の張り具合は弱く、オグリキャップは、地面に足を食い込ませ、足の裏で地面を掴み、泳ぐような走り──つまりは、カサマツで走っていたときのような走りが可能であった。

 

 ただし、2600mもの長距離を、超前傾姿勢で走り抜けると言うのは、体力的にリスクが高い。

 

 そこで、オグリキャップらが考えついたのは、抜く際の加速に、それを用いるという方法であった。それも、オグリキャップが多用していた外から抜く手法ではなく、内側を走るウマ娘の腕の下をすり抜けるような感覚である。

 

 イン側の更にインを突くという、カサマツでの経験を元に、作り上げた作戦。オグリキャップはアラビアントレノと、内ラチの間にある僅かな隙間を潜り抜け、アラビアントレノの前に出たのであった。

 

 

 

(悪く思わないでくれ、アラビアントレノ、これが、このコースで、このレースで…いや、キミに勝つために考えた戦術…洋芝という、この札幌レース場の特性、そして、北原、ベルノ、みんなと共に作り上げてきた私の走りが合わさり実現する、常識破りのショートカット…“地を這うライン”だ!!)

 

 オグリキャップの走りに、アラビアントレノだけでなく、ウマ娘達の目にも入る。

 

(この勝負…頂く…!!アラビアントレノ…お前には……)

 

 

 

 

 

「負けん!!」 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 芦毛の怪物の一撃、それは観客だけでなく、ウマ娘達にも、大きな衝撃を与えていた。





お読みいただきありがとうございます。

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今回の描写についてなのですが、オグリキャップはシンデレラグレイ劇中で、「中央に来てから走り方が変わった」と言及されており、また、別の巻には中山レース場を貸し切ってトレーニングを行うシーンがありますので、それを参考にしています。

ご意見、ご感想等、お待ちしています。
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