アングロアラブ ウマ娘になる   作:ヒブナ

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第64話 怪物と怪童(後編)

 

 

 

(オグリキャップさん…あんな奥の手を、隠し持っていたとは…)

 

 最後尾を走っているキョクジツクリークは、オグリキャップの見せた技に驚いていた。

 

(…しかし、ここで慌ててペースを上げるのは愚策、アラビアントレノさんが、対抗して何かをやるかもしれない…)

 

 キョクジツクリークは、この日の出走ウマ娘の中では、一番アラビアントレノを知り尽くしているウマ娘である。それ故、彼女が何らかの対応を行うことを予測していた。

 

(アラビアントレノさんが動けば、他のウマ娘も動く、私は、末脚をもってそこを突く)

 

 一度はスペシャルウィークに勝利したその剛脚、キョクジツクリークは、それに全てをかけた。

 

 

=============================

 

 

 負ける…このままだと…負ける…!!

 

『各ウマ娘、向正面へミドハトカフェ、カールグスタフ、1バ身離れサードジーエム、さらにリファインドーム、いやザックアールエフ、少し後ろにホクトアカゲルググ、1バ身後方、オオルリロドネイ、オグリキャップ、マンハッタンカフェ、そしてアラビアントレノ、1バ身差で、ヒシジーラインと、サイレンスザニー、外にダンシングジム、キョクジツクリークはその内!』

 

 まずい…どうすれば良い……

 

 いや…弱気になるな…まだ負けたわけじゃない、トレーナーの言葉を思い出せ…

 

『…良いかアラ、一度しか言わないぞ?“灯台下暗し”、突破口は、意外なところに隠れていることもある、これを頭に入れておいてくれ』

 

 突破口は…意外なところに……

 

 トレーナーの言葉を反復している間にも、レースはどんどん進んでいる。とにかく…次のコーナーで、オグリキャップに仕掛けないと駄目だ。

 

 

=============================

 

『各ウマ娘、向正面へミドハトカフェ、カールグスタフ、1バ身離れサードジーエム、さらにリファインドーム、いやザックアールエフ、少し後ろにホクトアカゲルググ、1バ身後方、オオルリロドネイ、オグリキャップ、マンハッタンカフェ、そしてアラビアントレノ、1バ身差で、ヒシジーラインと、サイレンスザニー、外にダンシングジム、キョクジツクリークはその内!』

 

「…ッ!!姉さん!アラは…このままだと…アラは…!!」

「落ち着け、ハリアー。最後のストレートは短いが、コーナーはまだ残っている…勝負はまだ、分からない。」

 

 アラビアントレノに負けてほしくないあまり、声を大きくしたエアコンボハリアーを、エアコンボフェザーが落ち着かせる。

 

「フェザー、そっちには悪いが、今のオグリの身体能力から計算すれば、アラビアントレノはノーチャンス、恐らくオグリは、次のコーナーでも、あの技を使うぞ?」

 

 フジマサマーチは、オグリキャップの勝利を信じ、そう口にする。こう思っているのは、彼女だけではない、あの光景を目にした観客の殆どが、オグリキャップの強い走りに魅せられ、彼女の勝利を確信していた。

 

「マーチ、確かに、現状はオグリキャップ有利だ。しかし、仕掛けるのが早すぎたとは思わないか?」

「……!」

「早すぎる仕掛けは、相手に精神的なダメージから立ち直る余裕を与える。そして、アラの武器は、そういったダメージから回復する速さ…つまりは粘り強さだ。それに…ハリアー、ランス、お前達二人なら、分かるだろう?アラの才能は、粘り強さ以外にも、あるということを」

 

 エアコンボフェザーはそう言った。事実、アラビアントレノは、オグリキャップの仕掛けをじっくりと観察できていたキョクジツクリークの次に、気持ちを整えていたのである。

 

 

 

(よし…一か八かだけど…こうなれば何でも、やってやる)

 

『各ウマ娘、向正面を駆け抜けてゆく、あと半分だ!!』

『段々と固まって来ましたね、それぞれのコース取りが、重要となりそうです』

 

(……よし…とにかく…オグリキャップの前へ…!)

 

 アラビアントレノは、外寄りにラインを変更し、ロングスパートをかけた。

 

『ここで、アラビアントレノ!代名詞のロングスパートをかけるか?』

『少々仕掛けが早すぎるのではないでしょうか?』

 

(体力は…多分ギリギリになる…とにかく…オグリキャップの斜め前へ!!)

 

 アラビアントレノは、ロングスパートをかけ、前進する。他のウマ娘達は、オグリキャップの先程の技の事もあり、アラビアントレノの進路に立ち塞がるようなことは無かった。

 

(アラビアントレノ…立て直してきたのか……!?流石、タマが認めただけある…でも、あの技は、一回きりの物じゃない、繰り返し使えるように、トレーニングを積み重ねてきた)

 

 オグリキャップは、アラビアントレノの立て直しに驚きつつも、技を再び使うべく、準備を行う。

 

『第3コーナーは目前!ここで、アラビアントレノ、かなり前まで出てきたぞ!マンハッタンカフェを抜いて、オグリキャップに並びかけるような形だ!!いや、オグリキャップもパスする構えだ!!』

 

(なるほど…私の進路を塞ぐつもりか…だが…私の脚は、キミの作戦をも打ち砕いて見せる…!!)

 

 オグリキャップは、再び技を使うべく、姿勢を低くする、その瞬間であった。

 

(来た…第3コーナーの入口……効果があるかどうかはわからないけど…行けぇっ!!)

 

 アラビアントレノは、少し姿勢を低くし、地面に脚をねじ込み、足の裏で地面を掴み……勢いをつけてコーナーに入った。

 

(何っ…!?)

 

 オグリキャップは、アラビアントレノが何をしたのか、一瞬で理解した。アラビアントレノは、オグリキャップの技を、再現したのである。とはいえ、筋肉の配列や身体の柔軟性等が異なるため、オグリキャップのように、極端な低姿勢とまではいかない。しかし、足の動きだけは、高精度で再現されていた。

 

 

 

「アラの脚の動き、オグリキャップさんと同じになってる!!」

 

 双眼鏡を覗くセイランスカイハイは、驚いてそう言う。

 

「あの短時間で…真似を…!?」

 

 フジマサマーチは、目を丸くする。

 

「マーチ、あれがアラの、もう一つの才能だ、頭の中に相手の動きを正確にインプットし、対応策を考える、場合によっては、その走りを再現する」

「……!」

 

 フジマサマーチの耳が、ピクリと動く、彼女は、オグリキャップ記念の時に、アラビアントレノが追込みの戦法を使い、レースの中でカサマツレース場に合った走りを身に着けて行くのを見ていたからである。

 

「思い当たる節があるようだな、マーチ。アラの学習能力は高い、まるで、AIの持つ、“ラーニングシステム”が付いているかのようにな」

「この勝負…どうなるんだろう…」

 

 エアコンボハリアーはそうつぶやき、レースの行方を見守るべく、視線をターフへと移した。

 

 

 

 

(……アラビアントレノ…)

 

 オグリキャップは、アラビアントレノの技術に感心するのと同時に、屈辱感を覚えていた。かなりの量のトレーニングを重ね、開発した技を、不完全な形とはいえ、模倣されたからである。彼女は、無意識にアラビアントレノを威圧していた。

 

(…………オグリキャップとはいえ、(サラブレッド)の特性には、抗えなかったってことか……それよりも…やっぱりあの技は凄い…ヘビみたいに…スッと行かれる)

 

 アラビアントレノはオグリキャップの技に苦戦しながらも、自分の行動に対するオグリキャップの反応を確かめていた。 

 

(……まだだ、あとひと押し、何かが足りない『灯台下暗し』…そうトレーナーは言ってた)

 

 ただ、彼女は自分の行動が、オグリキャップに与えた影響は十分だとは思っておらず、慈鳥の言葉を思い出しながら、次の一手を考えていた。

 

 その時、レースの状況はまた動きだす。

 

『ここでキョクジツクリーク!控えていたが内を突いて上がってきた!!』

  

(体力は温存しておきました…!この凸凹でも、問題はない位に…!!)

 

 ここまで様子をうかがっていたキョクジツクリークが、温存しておいた体力を使い、荒れた内側を駆け抜けてきたのである。

 

(キョクジツクリーク…内から…!?………そうか…!…分かった…!見落としてたんだ、ここ

は、芝じゃない、洋芝だ…なら…!!)

 

『第4コーナーカーブ!逃げている二人は苦しそうな顔をしているぞ!最初に立ち上がるのはどの娘だ?』

 

(もう一度…!!)

(私の技を…二度も…!!)

 

 アラビアントレノはもう一度、オグリキャップ技の模倣を行う、オグリキャップの感情は、激しさを増してゆく。

 

『内からオグリキャップが立ち上がってきたぞ凄い足だ!!少しばかり遅れたがアラビアントレノも来た!!しかし、キョクジツクリークやマンハッタンカフェも詰めてくる!!オオルリロドネイ、ヒシジーラインは外から行く!!』

 

(この後の直線で突き放す、勝たせてもらうぞ…アラビアントレノ!)

 

 オグリキャップは再び、脚に力を込める。

 

(今だ…!!)

 

 そして、アラビアントレノは、同じく脚に力を込め…

 

(何…!?こんなに近くに!?)

 

 オグリキャップの、すぐ横まで食いつく、そして、オグリキャップは、それを避けようとするものの…

 

(脚が…重い……)

(……灯台下暗し…答えは、バ場の状態…)

 

 札幌レース場のバ場を構成している芝は、洋芝であり、野芝より剥がれやすい。アラビアントレノはそれをうまく利用した。縦の方向への踏み込みが強いアラビアントレノ本人は、タマモクロスとのレースで示したように*1、荒れたバ場を苦手とはしていない。

 

 しかし、オグリキャップは別である。彼女はアラビアントレノに技を不完全な形とはいえ模倣された。それは予想外の出来事であった。それにより、屈辱感を感じた事で、視野が狭くなり、2周目で凸凹となった内側に追いやられていたのである。

 

 そして、そこを突き進んだ負担から、オグリキャップの技の勢いは、一度目、二度目と比較して、大きく落ち込み、アラビアントレノも何とか食いつくことが可能であった。

 

 

『勝負は最後の直線に持ち込まれた!アラビアントレノとオグリキャップ、激しいデッドヒート!抜け出すのはどちらだ!?』

 

(お前には…負けん…!!)

(私が…私が勝つ!!)

 

 アラビアントレノはオグリキャップに並びかける…そして……

 

(…ッ!?)

 

 

 

 

「北原さん!」

 

 観客席では、ベルノライトが北原の手を掴み、オグリキャップの方を指差していた。

 

「ああ、オグリの領域が…」

「消えてる…」

 

 オグリキャップの領域は、アラビアントレノによって掻き消されていた。

 

(しかも…一瞬だけど……いや、今はオグリちゃんの応援を…!)

 

「オグリちゃぁぁぁぁぁん!!負けないでぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ベルノライトは、声を張り上げた。

 

 

 

「アラー!!」

「行けぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 一方、エアコンボハリアーとセイランスカイハイは、そんな光景を気にすることはなく、必死に応援を続けていた。

 

(くっ…このままでは、二人に…)

 

 キョクジツクリークは、激しく競り合う二人に何とか追いすがるものの、追いつくことは出来なかった。

 

(…くっ…力が…!)

(負けるものか…行けぇ!!)

 

 うまく勢いが乗らなかった事で、オグリキャップは、内を走らされた。つまり、自分が走って荒らしたバ場を進まされる事となったのである。そして、領域が消えた事で、彼女は集中力も落としていた。

 

((……前に…前に!!))

 

『二人もつれてゴールイン!!続いてキョクジツクリーク、少し遅れてマンハッタンカフェゴールイン!!』

 

 

=============================

 

 

「……」

「……」

 

 私とオグリキャップは、掲示板を見つめる。写し出されたのは…『6』

 

 つまり、私の番号だ。

 

「…おめでとう、アラビアントレノ、キミの実力は、本物だった」

「…ありがとうございます」

 

 私は、オグリキャップから差し出された手を取り、握手を行う。

 

 でも…この勝負、地力では、完全に相手のほうが上だった。私は、頭と小技を使い、勝ったに過ぎない。

 

 それに、また、あの力が、私を包み込もうとしていた。身を任せたくなる、あの力が…

 

 

=============================

 

 

 一方、その頃、メジロ家の屋敷では、当主がプレ大会の映像を見終わっていた。

 

「…………」

 

 当主は、結果を見て固まっている。

 

「まさか…ここまでとは…」

 

 そして、やっとのことで、言葉を絞り出した。中央が内部抗争で疲弊していたとはいえ、各会場で暴れ回り、良い結果を残していたローカルシリーズのウマ娘の成長に、驚いていたのである。

 

「これが、今の私達の実力です。私達は、技術革新そして改革を重ね、ここまで登ってきました。」

「……改革…」

「…おばあ様、今、求められているのは、内輪もめではなく、改革なのではないでしょうか?」

 

 ハグロシュンランは、当主の目を見て、そう言う。

 

「……そのようですね」

「…!では…」

「ええ、メジロ家の家内は、うまくまとめて見せましょう……ローカルシリーズが、あのような実力を身に着けた今、我々は、指をくわえてそれを見ているわけにはいきませんから」

 

 メジロ家の当主が、重い腰を上げた瞬間だった。

 

 

────────────────────

 

 

 ハグロシュンラン、メジロアルダンらが礼を言って帰っていった後、当主は空を見つめていた。そして…

 

「……これでは、海外など、夢のまた夢…」

 

 と呟いたのであった。

 

 

────────────────────

 

 

 それから数日後の事である。フランスのある公園では、ヨーロッパ最強と言われるウマ娘、ブロワイエがファンに囲まれていた。

 

 ブロワイエは、ファンにサインを書いたり、握手を交わしたりして、応対をしている。

 

「すみません、通して下サ…」

 

 そして、その人混みの中に、エルコンドルパサーの姿はあった。彼女はブロワイエに声をかけようと、人混みの中に入ったものの、中々ブロワイエに話しかけることが出来なかったのである。

 

ブロワイエさん、このウマ娘さんが、用があるようですよ

 

 しかし、エルコンドルパサーの隣に立っていたウマ娘が声をあげ、彼女を助けた。

 

おっと…これは失礼

 

 ブロワイエはその声により、エルコンドルパサーに気づくと、そちらに近寄る。

 

「ブロワイエさん!」

 

 彼女は、エルコンドルパサーの声を聞くと、彼女の持つメモ帳を受け取り、ペンを走らせ、返した。それを受け取ったエルコンドルパサーは、素早く人混みから離れ、自分を助けた声の主であるウマ娘に英語で声をかける

 

あの!先程はありがとうございました

 

 そのウマ娘は振り返り、笑顔で

 

「英語でなくとも大丈夫よ、エルコンドルパサーさん」

 

 と言った。エルコンドルパサーは驚いたもの、相手から日本語が出てきた事に対して、安心した。

 

「…あの、私を、知ってるんデスか?」

「ええ、エルコンドルパサーさん、あっ…こちらも名乗らなければ、失礼ね、ワタシの名前はセトメアメリ、スペインのウマ娘です」

 

 相手のウマ娘──セトメアメリは、笑顔でそう言った。

 

 

────────────────────

 

 

 その後、エルコンドルパサーとセトメアメリは、ベンチに座って会話を交わしていた。

 

「では…この意味って…“私はコンドルより速く飛べる”って言うことなのデスか?」

 

 エルコンドルパサーは驚く。彼女は、メモ帳にサインをされたと思いこんでいたからである。

 

「そうよ、キッチリ、ライバルとして認識されているということ、良かったわね」

「ハイ!」

「凱旋門賞、応援に行くから、頑張ってね、エルコンドルパサー」

「本当デスか!?」

 

 そう言った瞬間、エルコンドルパサーの携帯のアラームが鳴る

 

「ケ!?時間が!!すいません、セトメアメリさん、私は行きマス!!……日本の皆にも、貴女にも!世界最強のウマ娘となった私の姿、見せマスから!!今日はありがとうございました!!」

 

 そして、トレーニングの時間に遅れそうな事に気づいたエルコンドルパサーは、セトメアメリに礼を言って、走り去っていった。

 

 エルコンドルパサーを見送ったセトメアメリは、携帯を取り出し、電話をかける。

 

『私だ、もう会えたのか?』

「はい、フェザーさん、ブロワイエのいる場所を張っていたら」 

 

 電話の相手は、エアコンボフェザーであった。

 

『…それで、どう思う?』

「エルコンドルパサー、気合い十分、身体もレースに向けての調整は万全と言ったところです」

『成程…了解した』

「……例のレース分析ソフト*2、使うのには絶好の機会だと思います」

『ありがとう、アメリ、九重委員長にそう伝えておく』

「よろしくお願いします」

 

 セトメアメリは、電話を切った。エコーペルセウスが言った最高の実験場(レースコース)というのは、ロンシャンレース場の事であった。

 

 世界一のウマ娘を決めると言われている凱旋門賞、それに向け、地方でも準備が進められていた。

 

 

*1
第46話 雷鳴vs稲妻 後編 参照

*2
第61話 よく似た境遇 参照





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今回の外国語での台詞は、斜字を用いています。

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