まず、この場をお借りして、文中で使用している線の役割を解説しておきます
この線↑は場面の転換や時間の経過を表すものです
そしてこの線↑は、視点の転換を表すものです
この線↑はまだ出てきていませんが、長めの回想で使われる予定です
長々と失礼致しました、それでは本編にどうぞ
私のデビュー戦は、敗北に終わった、でも、私はもう引きずっていなかった。
何故なら、あの時家族から電話をもらったからだ。
『おねえちゃん!デビュー戦見てたよ!』
「…そう…ありがとう、でも、お姉ちゃん…勝てなかった…カッコ悪いよね…」
『そんなことない!走ってるおねぇちゃん!すっごくカッコよかった!!』
「…本当に…?」
『うん!これからも頑張ってね!応援してるから!』
ちびっ子達は皆、私に応援の言葉をかけてくれた。
『アラ』
「じいちゃん…」
『頑張りなさい、私達はいつも、お前を見ているからね』
「うん…」
じいちゃんからはそれだけだった、だけど、その言葉には重みがあり、多くの願いが込められているということがひしひしと伝わってきた。
ピーンポンパンポーン
私がデビュー戦の日のことについて回想していると、放送の呼び出し音が耳に入った。
『アラビアントレノさん、至急、第二面談室に来てください』
…呼び出し?ともかく行こう。
第二面談室の前までやって来た、私がなぜ呼ばれたのかは理解できない、悪い事だってしていないし、デビュー戦だって、妨害行為なんてしていない。
コンコンコン
「どうぞ」
中から柔らかい声が聞こえる。
「失礼します、アラビアントレノ、参りました」
「…よく来てくださいました、さあ、かけてくださいな」
「は、はい」
「アラビアントレノさん、デビュー戦、お疲れ様でした。
私を読んだのはもう一人の副会長でオッドアイのウマ娘、ハグロシュンランさんだった。
「えーと…なぜ私が呼ばれたのでしょうか?」
「私ども、生徒会は生徒のメンタルケアも担っていますから、特にデビュー戦で負けてしまった娘には必ず声をおかけすることにしているんです…デビュー戦、どうでしたか?」
「…自分の実力不足が、身にしみて分かりました、自分の事に気をつけるあまり…相手の強さが見えていなかった…そういうレースでした」
「…なるほど…私どもが心配しているのは、貴女の気持ちです…もう大丈夫なのですか?」
「気持ち…?」
「ええ、私、先ほどスーパーシャーマンさんとお話をしていまして、彼女が貴女について仰っていたんです。“拳を握り込んで血が出てた”って」
…ああ、その事か、他のウマ娘に見られていたのか、確かに心配されることだろう。
「それならもう大丈夫です、家族の皆に、応援の言葉を貰いましたから」
「それならば安心しました、家族ですか…いいご家族なんですね、お母様は…元競走ウマ娘ですか?」
シュンラン副会長は私にそう聞いた……複雑な気持ちにはなったけれど、この人は副会長、口は固いだろう、私は身の上話をする事にした。
「いえ…よく分からないんです、私、生まれてすぐに両親が亡くなって…引き取られた身ですから」
「まぁ…そ、それは…ご、ごめんなさい」
シュンラン副会長は耳をぺたんとさせる、でも、それだけでは無さそうに見える。
「…どうしました?」
「いえ…なんだか、私と少しばかり似ていると思いまして、少しばかり近いものを感じてしまいました」
「……似ている?」
「ええ、私も今の両親は義理の両親なのです」
「……!」
私は正直驚いた、シュンラン副会長の家は…地方レースでそれなりに名のある名家、ハグロ家のはずなのに…
「…まあ、私の場合は、仕方がないのかもしれませんが…」
「…仕方が無い…?」
「……生まれた時の私は、双子だったそうです」
「……!」
双子…私は前世の記憶を思い出した。
牧場での仕事仲間だった馬が、双子を妊娠し、大変な事になったことがある。
普段はのんびりとしているおやじどの達も、その時はこの世界でレースに出る私達のような張り詰めた空気を持っていた。
仕事仲間のセルフランセが『自分たち馬の双子は珍しく、大変危険なもので、産まれて成長できるのは片方だけ』と言っていたのが、印象に残っている。
「双子…ですか」
「はい、私達ウマ娘の双子が…どういう意味なのかはご存知ですね?」
「…もちろんです」
前世、馬の双子は良くないものとされていた、それはこの世界でも同様だった、ウマ娘が双子で生まれることはとてもレアケースだ、それだけならば良いのだけれども……
「現に、私の右目は見えません」
「……」
ウマ娘において、双子の出産は、とても危険が伴うものらしい、そして、もし無事に生まれてきたとしても、その子供は普通のウマ娘より“病弱”であったり“体の何らかの機能が不自由”であったりする。だから大抵の場合は、一人を諦める事になる。
でも、シュンラン副会長の発言からすると、シュンラン副会長は双子だということになる。
「……」
「ああ、そんなに難しい顔をしないで下さい、今の生活は十分楽しいですから」
「副会長」
「……はい?」
「副会長の…その…双子の姉妹は…」
「…分かりません、どこで…何をしているのかさえも…私が知っている情報も、誕生日が同じ3月の終わり頃というぐらいですから、お父様やお母様は、“お前はどうあってもうちの子だよ”としか仰りませんし…」
「…会いたいとは…?」
「今の私は、生徒会として、サポートウマ娘として、後輩の皆さんをサポートするという仕事がありますから、もし探してみるとしたら、卒業後になりそうですね」
そう言ってシュンラン副会長は微笑みつつ水色の髪の毛を撫でた。青緑色の耳飾りが揺れている。
「話は変わりますが、アラさん、オグリキャップさんを知っていますか?」
「はい、知っています」
オグリキャップ、笠松でデビューし、中央に移籍してからも多くの強豪を倒し、勝利を重ねた、生ける伝説のようなウマ娘。
「あの方も、デビュー戦は黒星でした」
「そう言えば、そうでしたね」
「アラさん、あまり敗北を気に病んでは駄目ですよ、レースに絶対は無いのですから、この敗北を糧に、強くなってください、貴女にはそれができると、私は信じていますから」
シュンラン副会長は、オグリキャップの例を出すことで、私が敗北を引きずらないようにしてくれているようだ。
「そうですね、ありがとうございます、シュンラン副会長」
「いえいえ、サポートウマ娘として、当然のことをしたまでです、何かあったら、いつでも声をかけてくださいね」
そして、私は帰された。
私は廊下で一人、シュンラン副会長の事について考えていた、なぜかと言うと、私はあの耳飾りの色に見覚えがあったからだ。
一度、牧場を上げて乗馬イベントをやった事がある、牧場長やおやじどの達はその時に、スペシャルゲストとして騎手を招いていた、その騎手は、競馬の時に着る服、所謂勝負服と言うやつを着て登場した。
その服は、純白の胴部に、青緑色のラインが入った、印象的なものだったような気がする。
その騎手は、セルフランセが乗せることになった、騎手を乗せたときのセルフランセの得意気な顔は、今でも覚えている。
ともかく、シュンラン副会長の耳飾りの色はその色にそっくりだった。
俺はアラのトレーニング計画を立てていた。
同期の4人の担当は、見事デビュー戦を勝利している。
だが、ここで慌ててしまうのは良くない、ここは夏の間にしっかりと身体を作り、9月の未勝利戦に備えるのがベストだろう。
カチッ……カチッ………
俺はアラのレース映像を何度も再生し直した。
結果的に言うと、スリップストリームをもってしても、末脚を他のウマ娘並の鋭さにするのは難しい。
だが、俺は一つ思いついた。
“他のウマ娘に加速力で劣るのなら、早めに加速しておけば良いじゃないか”と。
そう、つまりはロングスパート、夏のうちに体力を鍛える、脚質を差しから追込に転換するという訳だ。
「よし、できた…!」
俺はトレーニング計画をまとめ、アラのところに向かった。
「つまり…夏休みの間は…トレーニングって事?」
「ああ、出来れば毎日やっておきたいんだ、差しから追込に戦法を変えるからな。あっ、もちろん帰省のための休みはきちんと入れる…どうだ?」
「…わかった、やってみる」
トレセン学園は普通の学校同様、夏休みが存在する。だが、ほとんどの生徒はそれをトレーニングに充てる、夏の厳しい時期に、どれだけ自分をいじめ抜いたかで、肉体の仕上がりはかなり違ってくるからだ。
更に、夏にしかできないトレーニングは多い、中央なんかは学園側主催で“夏合宿”と言うものをやっているらしく、チームに所属していない生徒でもそう言ったトレーニングが出来るようになっている。
「差しから追込…かぁ…」
「ゼロロクが遅いからな、今のお前だと、早めにスパートをかけるしかない」
「ゼロロク…?」
「時速0km/hから60km/hまでに要する時間のことだ、つまりは加速力を表してる」
「なるほど」
このゼロロクと言うのは、俺の完全な造語だ。車の世界にはゼロヒャクという言葉がある、その応用だった。ウマ娘の最大時速は、およそ70km/h、巡航速度でも60km/h前後だ。加速力はかなり重要となる。
「でも…これって“ゴリ押し”ってやつ…だよね?」
アラが苦笑いをしつつ、トレーニング計画の書類から目を離しこちらに目を向けるら。
「勝つためだ、それに、今後の事もきちんと考えて俺は追込を採用してる。デビュー後はレース人数も増えてくる、当然集団にのまれやすくなるんだ、追込は基本的にしんがりの方からのレースだから、前方のウマ娘の駆け引きをよく観察できる、つまり、俯瞰的にレースを見ることができるんだ」
「なるほど…それなら納得かも…」
「お前さんはコーナーが得意、選抜レースでも、デビュー戦でもそれは証明されてた、だからこのロングスパート作戦はお前さんへの信頼の元、考えついたようなもんでもある」
「…そっか…」
アラは少し安心した顔をして、表情をほころばせる。俺は読心術なんてものは持っていないので、本当の気持ちは分からないが、うまく理解してくれたのだと信じたい。
でも、アラが頑張るだけでは駄目だ、俺自身、色々と考えていかねばならんだろう。レーサーだって、一人でレースをしているわけではない、レースをするにはメカニックを始めとした人々のサポートが必要不可欠だ。
前世でも、この世界でも『夏を制するものは受験を制す』という言葉がある。レースも受験と同様だ、学業の無い時期に、誰しもが辛いと思う時期に、どれだけ準備を整えることが出来たかで、その結末は大きく変わる。
「でも…これって“ゴリ押し”ってやつ…だよね?」
その戦術を見たとき、私は自然と笑っていた。最後の直線ではなく、コーナーからだんだん上げていって、抜く戦法だったからだ。
それも、カーブの緩い中央のコースじゃない、皆から『弁当箱』って言われてる福山のきついきついコーナーで、トレーナーはそれをやれと言っている。それが、意外で面白かった。
まるで、400m以内にクォーターホースに追いつけと言われてるようなものだ。
でも、デビュー戦で分かった。
やってやる。
お読みいただきありがとうございます。
「句点が抜けている」という趣旨のコメントを頂きましたので、全話修正させて頂きました。読みにくい文章になっていたことを深くお詫び申し上げます。改善に勤めていきたいと思うので、これからもよろしくお願いします。
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