決勝戦、前半です。出走表が本文中に出てきませんので、ここに掲載しておきます。
| 1 | ジャベリンユニット | 中央 |
| 2 | ホクトアカゲルググ | 門別 |
| 3 | マチカネグランザム | 大井 |
| 4 | ロードへビガン | 中央 |
| 5 | イナリワン | 中央 |
| 6 | アースクリーナー | 金沢 |
| 7 | ハッピーミーク | 中央 |
| 8 | ハーディガンシチー | 中央 |
| 9 | アラビアントレノ | 福山 |
| 10 | シュラクブラスター | カサマツ |
| 11 | ヒシアマゾン | 中央 |
| 12 | オリンポスカノーネ | 船橋 |
| 13 | ブルーハリソン | 中央 |
| 14 | クラウンコロニー | 姫路 |
| 15 | キンイロリョテイ | 中央 |
| 16 | ナリタトップロード | 中央 |
中山レース場、4000m、かつて施行されていた、“日本最長距離ステークス”にて使用されていたコースである。
中山レース場を2周する、この点において4000mは、ステイヤーズステークスにて使用される3600mと変わらない。
しかし4000mは、3600mと異なり、距離の違いだけでなく、一周目は外側を走ることとなる。すなわち、3600mとは攻略法が異なるのだ。
そして、現在、トレセン学園に所属しているどのウマ娘も、この4000メートルを走ったことは無い。そして、現在、ウマ娘を指導しているトレーナーも、このコースを攻略した経験が有る者は全くといいほど居なかった。
すなわち、この決勝戦は、ただ優勝を決めるだけの物でなく、未知に対してどう立ち向かうのかを試される舞台であり、ウマ娘とトレーナーの強い絆を示すための舞台でもあった。
福山トレセン学園では、エコーペルセウスが電話をしていた。URAの協力により、中継用の大型モニターが設置されたため、運用の指揮監督のため、彼女は残っていたのである。
「多くの人が来てくれてる、そっちは?」
『こちらもです』
通話相手である
「私達が入学した頃は、こんな光景、想像できなかったからね」
『はい…』
エコーペルセウス達は、過去を思い返していた。改革前の地方はレース場が満員になるほど賑わうレースは少なく、どこか活気が無い様子であったからであった。
『でも、この光景を見てると、地方が生まれ変わったんだって、実感できます。新たなる地方、ネオ・地方といったところでしょうか?』
「ふふっ、いい響きだね」
『あっ!?ヤマノサウザンさん?どうかしたの…?うん、分かった、すぐに行くから!』
「…?」
『すいません!誘導と案内を手伝ってきます!』
カサマツの生徒会長は、電話を切った。
「ふふっ…大変みたいだね、私も、手伝いに行こうか」
エコーペルセウスは、携帯をしまい、自らも生徒たちの手伝いをするため、人だかりの方へと向かっていった。
観客席の一角では、シンボリルドルフとエアコンボフェザーが並んで座り、ウマ娘達が出てくるのを待っている。
「いよいよだな」
「…ああ」
「……なあ、フェザー」
シンボリルドルフは、エアコンボフェザーの方を向き、その目を見る。
「…学園を去ったウマ娘達は、このレースを、新しい時代を、見ていてくれるだろうか?」
シンボリルドルフはそう言う。
「……私はそう信じたい、トレセン学園の一員だった者として、お前の同志として」
エアコンボフェザーは、シンボリルドルフにそう返したのだった。
控室ではアラビアントレノが、パドックへと出る最後の準備を進めている
「これで…」
準備の殆どを終えた彼女は、最後に勝負服のコートを羽織る。
「…緊張するか?」
慈鳥は、アラビアントレノが全ての準備を終えたことを確かめ、彼女に話しかけた。
「もちろん、でも、家族や、トレーナーだけじゃない。私は、応援してくれる人全てに、勝利の喜びを、届けてあげたいから。萎縮なんて、してられない」
「よし、じゃあ……行ってこい!」
「うん…行ってくる!」
アラビアントレノは、笑顔で慈鳥にそう返し、控室を出ていった。
「待ってるぞ、俺達二人で」
残された慈鳥は、一人、そう言った。
「アラ」
「…ミーク」
本バ場に向かう私を呼び止めたのは、ミークだった。
「菊花賞ぶりだね」
「うん…」
「………」
「ミーク?」
「…ずっと待ってた…この時を…また、アラと走れるこの時を……」
ミークは私に向け、そう言う。
「気持ちは同じ、その言葉を待ってた、私も、ずっとずっと、ミークとレースができる日を、心待ちにしてたから」
「アラ………行こう…!」
ミークの声に、私は頷いて返答し、共に本バ場に入る。
『満を持してやってきました!!決勝戦で最も注目を浴びし二人!ハッピーミークと、アラビアントレノです!!』
ワァァァァァァッ!!
本バ場入場をした私達を、多くの声が出迎える。
『ハッピーミークは予選ではオグリキャップとキョクジツクリーク、準決勝ではサトミマフムトとテイエムオペラオーを破っています』
『有馬記念で見せた無限の可能性、究極とも言われるその力をこの大舞台で証明することが期待されていますね』
今回は、強豪揃い、その中でもミークは、一番の強敵…
『アラビアントレノは、予選でスペシャルウィーク、準決勝でミスターシービーを破っています』
『こちらも、優勝候補級のウマ娘達を破る大活躍をしています。そして、ハッピーミークとは菊花賞以来の対決となりますね』
このレースは、試練だ。距離という試練、強豪揃いという試練、ミークという試練、この3つを乗り越えて…私は夢を叶えなければならない。
『中山のファンファーレが、決勝の舞台に響き渡ります!16人の選ばれたウマ娘達が、ゲートへと入っていきます』
ゲートに入り、深呼吸をして、スタート体制をとる。
『日が傾きつつある中山レース場で、優勝杯を掲げるのはどの娘になるのか?AUチャンピオンカップ、長距離部門、決勝戦……今……』
ガッコン
『スタートしました!』
『おっと、ブルーハリソン出遅れた!』
『さあ、スタート直後の先行争い、最初に飛び出したのはこの娘です!ハーディガンシチー!続くのはシュラクブラスター!』
『今回のレースは超長距離、積極的に前に出る娘は少ないと思っていましたが、予測どおりとなりましたね』
『3番手はオリンポスカノーネ、そしてジャベリンユニット、内にはキンイロリョテイがいます。2バ身差で追走するのは、ロードへビガン、そしてアラビアントレノ、ハッピーミークと続きます。続くのは、マチカネグランザム、それに並びかけるのはアースクリーナー、内を突いてナリタトップロード、ホクトアカゲルググ、ここまでが中団です、後方グループ、まずはヒシアマゾン、外から行くのはイナリワンとクラウンコロニー、そしてしんがりはブルーハリソン』
「よーし!始まったー!!」
「行けー!ハッピーミーク!!」
(やはり…スローペースになったか……よし、アラは、いつもより前の方にいる)
慈鳥は、観客たちの声援を聞きながら、状況を分析する。
(今回のコース、この場にいる全員にとって、初めてのコース…つまり、手探り状態で走るも同然…自然とスローペースになるし、脚の使い方をミスるウマ娘だって、出てくるはずだ、それに、菊花賞の時のセイウンスカイみたいに、ペースを変化させて逃げ切りを狙う奴だっているだろう、だから、前の動きを見逃さず、混戦になりそうな後ろを避ける、中段前寄りのあのポジション…あそこでレースを進める………それに、ミークのあの表情だと、このコースの攻略法も似てるっぽいな……)
慈鳥は、ハッピーミークの走りを見て、桐生院と自分たちの作戦には、似たものがあると感じ取っていた。
(フッ…考えることは同じ…か…)
「直接戦うことは少なかったが、共にトレーニングに励み…切磋琢磨してきたんだ…存分に戦え、アラ…!」
慈鳥は笑みを浮かべ、アラビアントレノを見た。
(中山の坂の登り方…短い歩幅で、低い位置で腕のリズムを取る…そして…足首の柔軟性をうまく使う)
ハッピーミークは、テンポよく、一度目の坂を駆け上っていく。
「ミークさん、しっかり坂を登ってますね」
「はい、オグリキャップさんには、感謝して頂かないと」
氷川の言葉に、桐生院はそう答える。決勝戦のコースを知ったハッピーミークが一番に行ったこと、それは、オグリキャップに教えを請うことであった。
中山で2度の有馬記念優勝を果たしたオグリキャップ、彼女は、相棒的存在であるベルノライトの協力により、中山の急坂の攻略法を知っていたのである。
そして、ハッピーミークは、その才覚でそれをモノにしただけでなく、自分に合うよう、改良まで加えていたのであった。
(坂を登った…ミークのポジションは、あれがベスト…大丈夫…でも…)
「………まだ坂は2回残っています。安心してはいられません……このレース、私達は、このコースを3つに区切って、攻略のイメージを作りました、スタートから2コーナーまでの上り、向正面から2週目の1コーナーまでのアップダウン、そして、2コーナーから始まる、最後の1400m…」
「一つ目はパワーのある走りかつ、スタミナを無駄にしない走り、二つ目は坂でついた勢いを無駄にする事なく、上りに備える走り、そして最後は、末脚を使いながら、急坂で力尽きないようにする走り……という所でしょうか?」
「…その通りです。ですが、求められる走りが、違ってくるということは、慈鳥トレーナーと、アラさんは、知っているはず…」
「……じゃあ、このレースは、本当に、“真っ向勝負”なんですね」
「はい…………ミーク、貴女ならやれます、存分に戦って下さい…!」
桐生院は拳を握りしめ、ハッピーミークを見てそう言った。
『各ウマ娘、第一コーナーへと入っていきます!先頭はハーディガンシチー、1バ身差で、シュラクブラスター、2バ身離れて、オリンポスカノーネ、いや、ジャベリンユニット、そしてキンイロリョテイ。先行組はこのあたりまで、それらに2バ身差で追走するのは、ロードへビガン、内にアラビアントレノ、ハッピーミークも続いています。半バ身差、マチカネグランザム、外から外から、アースクリーナー、少し下がりました、ナリタトップロード、ホクトアカゲルググは外寄りにポジションチェンジ、中団グループはここまで、そして後方にいるのはヒシアマゾン、外からはブルーハリソン、イナリワンとクラウンコロニーが並ぶように最後尾!』
(よし…!坂路は大丈夫…)
アラビアントレノは、大した負担を感じず、登りをクリアしていた。彼女の故郷は、山に囲まれている、そこで走ってきた彼女は、自然と坂で燃費の良い走りをしていたのだった。
(アラ…やっぱり、坂は問題無いか…)
もちろん、ハッピーミークもそれは同様である。
(ここからは下り坂、コーナーリングをしながら、勢いを殺さずに、走らないといけない…集中力を切らさず行こう…慌てず急いで…確実に)
4000mもの長距離レース、一回のミスが末脚を殺すことに繋がりかねない、それはハッピーミーク以外も理解しており、スローペースでレースは進んでいく。
『ウマ娘達は現在、向正面を走っています。スローペースで縦長の展開、先頭から最後尾まで11バ身ほどあります』
『ここを抜ければ第3コーナーとなります。長い戦いですが、頑張って欲しいですね』
「……このコーナーを抜ければ、二周目…か…」
「ああ、だが、この時間帯となると、走り方だけでなく、他のことにも気をつけなければならないな」
シンボリルドルフは、そう言い、ウマ娘達からスタンドの前に、視線を移す。
「なるほど、“西陽”…か…」
『各ウマ娘、第3コーナーへ』
エアコンボフェザーは、納得した様子で頷いた。この時期の中山レース場の第3コーナーは、丁度西陽に照らされる位置にある。
レース場を走るウマ娘達は、競走馬に騎乗する騎手とは異なり、ゴーグルなどはつけていない。それは当然、直射日光が目に当たるということを意味している。そして、それは、冬の控えめな日差しで、少しの間であれど、ウマ娘の周囲の状況を把握する能力を、一時的に低下させるのには十分であった。
「今はまだ、一周目だから、問題は無いだろう、だが、二周目のスパート時には、この日差しの影響も考慮しなくてはならないな」
シンボリルドルフはそう言い、再びウマ娘達に目をやった。
(予想はしてたけど…やっぱり…日差しがキツイ、でも、対策はしてきてる)
アラビアントレノは、一瞬右前方を見て、視線を戻した。幻惑の対策を行い、集中力が切れるのを未然に防いだのである。
(…ッ…)
ハッピーミークも、額の汗を一瞬拭って影を作り、西陽に対処していた。
『各ウマ娘、第3コーナーへ』
実況がそう言った瞬間、慈鳥は双眼鏡を覗き、アラビアントレノを見た。
(アラは……よし…日差しへの対処は出来てるな…そうだ、勢いを殺さず、走っていけ…、ここを抜け、第4コーナーと急坂を抜けると二周目に入る。まだまだ、勝負はこれからだ)
無事に外回りを終えたウマ娘達には、二度目、三度目の坂が襲い来る。
中山レース場、4000m、このコースは、最後の最後まで、ウマ娘達の体力、精神力を削りにかかる。
慈鳥の言う通り、まだ、勝負はこれからなのだ。
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次回で決勝戦は終わりです。よろしくお願い致します。
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