艦これ 重巡伊吹の突撃日記   作:桜 友紀

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鈴谷と伊吹の楽しい日々が始まるようです(但し提督の胃にダメージ


第5話

2章2話

 

 時刻は午前4時を少し回った所。

 鎮守府の建物にはまばらに電気が点いているが、昼間に比べると静かだ。

 夜間警戒の任にあたる艦娘達がいる事にはいるが、その数はそう多くはない。深海棲艦そのものは、出現する時は昼夜関係なく出現するのだが、やはり人の活動が少なくなる夜間は昼間に比べて出現数も少なくなっている事と鎮守府の数が多い為、その警戒区域の負担が少ない事も影響している。

 そして活動している者がいる事示す光、その1つには執務室が含まれていた。

 

 執務室の中には提督がいた。

 海図の上にマーカーを置いたり定規を当てたり唸ったりと何かの作業をしている様子だったが、そこにノックの音が響いた。

 提督は面倒くさそうに顔を上げ、

「入れ」

 短く言うと再度海図に視線を落とした。

「入りますよーっと」

「ん?」

 聞き覚えのない声に疑問を感じながら提督は顔を再度上げた。

 視界に映ったのは、やけに気安い感じに満面の笑顔で右手を上げている、水色の髪の少女だった。 

 灰色のツナギを着ており上半身ははだけてシャツ1枚、腰の所で袖を結んでいるその格好は一見すると工廠の作業員のように見えるが、

「お前な、着任するの早くねえか?」

 っていうか何だその格好、と提督は呆れた様子で言ったが、少女は肩を軽く竦めるのみで執務机の前まで歩き、敬礼をした。

「鈴谷、着任しました」

 これ辞令です、とポケットから出された紙を提督は受け取り、引出に放り込む。

「で、こんな時間に来た理由はなんだ?」

 声こそ低いが、その表情は不機嫌というよりは状況を楽しんでいるようなもので、鈴谷は何故か腕を組んで胸を逸らし、

「私、技術的な事で面倒なのとかは大好物なんだけどさー、人間関係的に面倒なのって大っ嫌いなわけ」

「だから先に見ておこうってわけか。しかしお前――鈴谷ってより夕張みてえだな」

 その提督の言葉に苦笑いして頬をかく鈴谷。

「良く言われるんだよねーそれ。べっつに気にしてないんだけどさ、私、元々技本の出なのよ」

「技本?防衛省の技術研究本部か。そりゃまた変わってんな。何だってそこの技官が艦娘に……いや待てまさか」

 ふふん、と鼻を鳴らし、

「何でって艦娘の事を知ろうと思うんなら自分が艦娘になるのが一番じゃん!」

「で、外したってわけか」

「そうなんだよね!。どうせなら夕張とかさー島風みたいな尖った艦とかさー隼鷹とか龍驤みたいな良く分かんない艦載機の飛ばし方してる艦とかになりたかったんだけどねー」

 肩を落とす鈴谷。

「しかし完全な外れって訳でもねえ。お前、普通の鈴谷じゃねえだろ?」

「やっぱ分かるよねー。ま、隠すつもりもないんだけど。口調とかさ、そういうのにはちょっと影響出ちゃってるんだけど、どうやら私の意識が強かったみたいでさー」

 護国よりも研究欲のが強いんだー、と笑う。

「いわゆる規格外、って言えばちょっと格好良かったりするよねー。実際にはただのバグ、なんだけど。ま、私の場合は戦えない訳でもないし?」

 

 艦娘と巫女との意識の融合がうまくいかない例というのはいくらでもある。

 戦いを全く望まない巫女に、好戦的な分霊が降りた場合、ぱっとしない艦娘ができるだけであればいいが最悪の場合、精神を壊す事がある。大抵の場合は即座に解体儀式が行われ、その巫女は艦娘となる事を諦めるか、自分に合った分霊が降りるまで修行や建造儀式を行う事になる為、問題という程の事態は起こってはいない。

 しかし、稀に艦娘として国を守る為に戦う事を第一としない、融合事故のような事が起こる事がある。

 

 好戦的な性格の巫女に好戦的な分霊が降りて戦闘狂としか形容のしようがない艦娘。

 華々しく世間を賑わす艦娘を見て憧れ、念願の艦娘になった時、何故か自分を艦娘である前にアイドルだと言い出す艦娘。

 規格外とされる基準が良く理解できないが、何故か規格外とされるカレーの嫌いな艦娘。

 

 他にも様々な規格外とされた艦娘がいる。

 実際問題としては好戦的すぎて命令を聞かない、といったような致命的なものは少なく、規格外の基準に満たないものは大なり小なり存在する為、性格の違い、と呼べる範疇に留まっている。

 

 提督は真っ向から視線を向けてくる鈴谷と視線を合わせて小さく笑い、

「ならいいさ。研究だの実験だのがやりたいんなら工廠長にはちゃんと挨拶しとけよ?」

 その返答に鈴谷はわずかに眉を顰める。

「あれー?それだけなんだ?」

「何がだよ?」

 問いかけに鈴谷は冷たい笑みを浮かべ、

「可哀想だとか?良く頑張ったなだとか?そういうの期待してたんだけど。ちょっち見誤ったかなーってね」

「なんだそりゃ?」

 怪訝な表情になる提督。しかし、鈴谷は表情を崩さない。

「あなた……宮里提督がこの鎮守府に赴任してきたのは27歳の時。そして現在に至るまでの10年間――轟沈した艦娘はゼロ。後方に引き籠っていたわけでもなくこの戦歴。てっきり――良くある話のように艦娘を娘か恋人か、そんな風に扱ってるものだと」

「娘とは思ってるさ。ただ、箱入りにゃさせねえだけだ」

 あっさりと答えた宮里提督に鈴谷は軽く吹き出す。

「なるほど。うん、いーね、ここ。で、私は合格かな?あ、おとーさんって呼んだ方がいーい?」

「提督でも司令でもいいからお父さんはやめろ。で、合格も何もねえさ。駄目なようならそん時に叩き出す。それだけのこった」

 おどけたように言う鈴谷に、不敵な笑みを浮かべて返す宮里。

「了解、提督」

 笑顔のままに敬礼をし、

「1つ、手土産。南方第4海域、失敗したよ」

 その言葉に宮里は視線を瞬時に鋭いものにして鈴谷を見た。

「2年前の深海棲艦の大量出現、その時と同じように最奥には姫級がいる――その推測は間違っていなかった。そして負けた。そこまではいいんだけど」

 言葉を切り、鈴谷はゆっくりと宮里に背中を向けた。

「その姫級を見た何人かの艦娘が取り乱して、まともな戦いにはならなかったんだってさ」

 扉に向かって歩き始める鈴谷の背中に、宮里はまるで感情の籠っていない声で、

「その艦娘の名前は?」

 そう問いかけていた。

「矢矧と雪風」

 短く答え、鈴谷は執務室の扉を閉め、姿を消した。

 宮里は暫しの間動きを止めていたが、やがて煙草を取り出して火をつけ、

「やれやれ。嫌な噂ばっか信憑性が高まっていきやがる」

 深く吸い込んだ。

 

 

 

 そして時間は丁度昼食時。

 食堂は多数の艦娘や工廠の作業員、警備の人員などこの鎮守府に関わる者たちで溢れかえっていた。

「よ、朝ぶりー」

 たまたま他の艦娘達が任務などで時間が合わず、1人で昼食――ざるうどんを食べていた伊吹の前に、鈴谷がトレイを持って座った。

 トレイの上には、ざるそばが乗っている。

「あ、鈴谷さん」

 口内に入っていた麺を飲み込んで、伊吹は軽く会釈する。

「鈴谷さんってのはなーんかヤだなー。お姉ちゃんって呼んでくれたりしない?」

 薬味をつゆの入った器に流し込んでかき混ぜながら、笑顔を見せる鈴谷。

 そんな鈴谷に伊吹は、

「え?いいんですか!?」

 勢いよく立ち上がって言う。

「いーよー。他の姉妹艦よりは複雑かもだけどさー姉妹なのは確かじゃん?それよりさ」

 目立ってるよ?と笑いながら言う鈴谷。

 伊吹は少しだけ頬を染めて慌てて椅子に座り直し、

「良かったあ」

 と笑う。

「そういうわけで、よろしくね」

「はい!」

「ところで伊吹ちゃんって麺類好き?うどん食べてるみたいだけどさー」

「だいたい好きです。他の人がいたらもっとちゃんとしたもの食べなさい!って言われるので、1人の時は大体食べてます」

 そんな伊吹の答えに鈴谷は豪快にそばをすすり、

「そういう時はローテで回せばいいよー。うどん、そば、ラーメン、パスタでぐるぐる回すの」

「もっと怒られると思います……」

「そう?だって、私らの食べてるこれって栄養とか関係ないじゃん?原材料が重油に鋼材に弾薬、ボーキサイトって話だし?」

「いえ、確かに使ってるそうですけど、普通の食材に混ぜる感じで使ってるって妖精さんが言ってましたよ?」

 首をかしげながら言う伊吹。

「へえ。良く知ってるねー。ここ、妖精さんって結構いるの?」

 妖精さんですか?と指を折り始める伊吹。

「そ。式の方の妖精じゃなくてー、天然の勝手に出てくる妖精さん」

「あ、そっちですか。何人かはちょっと分からないですけど、たくさんいます」

「なるほど」

 愛されてるねー、と小さく呟き、

「ごちそうさまー」

「あ、あれ?」

 早っ、と焦る伊吹に向かって鈴谷は手を伸ばし、

「待っててあげるからゆっくりねー」

 とわしゃわしゃと頭を撫でた。

「でさーこの後に予定なかったら、艤装を見せて欲しいんだけど大丈夫ー?」

「えっと……はい大丈夫です」

 そう答えて、うどんに取り掛かる伊吹。

 だから、鈴谷の表情が何とも言えないモノに変わった事に気付かなかった。

 

 不運な事に。

 

 

 

「さーさー私のテンションあたたまってまいりましたー!」

 数十分後、グラウンドで天に両の拳を突き上げ、良く分からない事を叫んでいるバカがいた。

 目の前には、あっれー?という表情をして、艤装を装着した伊吹が立っている。

 しかし、そのバカ――鈴谷は気にした様子もなく、

「じゃ、ある程度は知ってるんだけどー説明、お願いできる?」

「え?あ、はい」

 さっきと何か違うなあ、と思いつつも、戦闘時と普段でテンションが180度違う艦娘が知り合いには多数いる伊吹。

 この人もそういう人なんだろうと納得し、右腕を上げる。

 

 肘から先は全てが鋼の籠手のようにも見えるもので覆われており、その籠手の上には腕に沿って砲身のようなものがマウントされている。その砲身は指の先よりも30cm程前まで伸びており、先端には矢じりのような形状の尖ったパーツがいくつも見える。そして逆に砲身の後ろ側は肘の少し手前部分で終わっており、その砲身後部には1回り細い棒が1m余りもはみ出して刺さっているように見える。そしてその棒の後部には巨大なノズルと、横に螺旋状にノズルがついており、後はそれらを繋ぐ配管や配線、固定する為の結束帯でその武装は構成されていた。

 

 説明を受けながら、眺め、触れている鈴谷だが、その表情は緩みっぱなしだった。

「なるほどねー。あ、でもさ。こいつが撃ち出される時にさ、火を噴くと思うんだけどーどうなるの?」

「撃ちだす前に、この砲身の先を敵に刺します。矢じりみたいなのがついてますから、これで抜けないようにして固定します。そしたら、こいつを展開させるんです」

 鈴谷の質問に、背中に装着していた防盾を展開する伊吹。

 6角形をした鋼の板は伊吹の体を守るように折れ曲がり、噴炎を防ぐ為の盾となった。

「こうしてからトリガーを引けば大丈夫です」

「ふんふん」

 

 その後も、この部品は何なのかだの、機構はどうなっているのかなど、姿勢がどう、と細かい部分からどうでも良さそうな事まで鈴谷の質問は多岐に渡り、2人が気が付いた時には太陽が傾きかけていた。

 

「あ、結構時間経っちゃったなー、ごめんごめん」

「ううん、こんなに聞いてくれたの初めてだったから、私も楽しかったよお姉ちゃん」

「それは良かった。そう言えばさーそれに夢中になって忘れてたけど、他の兵装って持てないの?」

 かなり打ち解けた雰囲気になっている2人。

 そんな柔らかい空気のままに、鈴谷が問いかけた。

「んー、なんか、すっごく気持ち悪い」

「へ?」

「電探とかは大丈夫なんだけど、この子以外の兵装は持つと、すっごく気持ち悪くなっちゃうから無理なんだ」

「ふーん……」

 その伊吹の言葉に考え込む鈴谷。

 

 通常、艦娘の兵装はその艦種に合ったものが推奨され、その艦種の枠の中で最適な兵装を組み合わせて任務や演習に臨む。

 しかし、自身に合っていないものでも、使いこなせるかどうかは別として、持つ事すらできないというわけでもない。例えば駆逐艦の艦種の艦娘に41cm砲が持てないかと言えば、持てる。砲撃を行った瞬間その反動で後方に吹っ飛ぶのは間違いないが。そして戦艦の艦娘に魚雷がというのも同様である。手でぶん投げる使い捨てという使用方法になるが。

 

 それが、持つ事すらできないとはどういう事だろう?と思い、ここで新たな疑問が鈴谷の脳内を走った。

「じゃあ、私がそれを持つっていうのは?」

「それは……試した事ない、かな?」

 2人は顔を見合わせ――何故かにやり、と形容するのが正しい笑みを浮かべた。

 いそいそと艤装を外し、グラウンドに置く伊吹。

 鈴谷は拳を握りしめ、何故か気合を入れている。

 そして鈴谷は伊吹の艤装を手に取り、

「重っ!?ん、でも、持てないほどじゃ……ない!」

 汗を流しながら右腕に装着した墳進衝角を持ち上げ、その筒先を海の方へと向けた。

「後は、反動に耐えられるか、どうか、実験!うん、実験」

 大きく肩で息をしながら、笑顔で言う鈴谷の様子に若干引きながらも、伊吹は説明しないと、と口を開き――

「じゃあ、まずは飛んでいかないようにロックを――」

「トリガーはこれね!」 

 遅かった。

 

「え?」

「え?」

 

 カチリ。

 やけに大きくその音は2人の耳に響き、轟音と共に杭は発射された。

 

 空へと。

 

「くっ……ってあれ?あっれー?」

 反動によって数mほどグラウンドに足の跡を残しながらも、耐えきった鈴谷だが、空になかなか素晴らしい速度で舞い上がっていく杭に動揺を隠せない。

「あの杭……ロックしとかないと、敵をぶち抜いて飛んでくんです。あんな風に」

 空を見上げながら疲れた声で言う伊吹。

 見つめる先、派手に炎を上げて回転しながら飛んでいく杭――もはやただのロケット――は、どんどん小さくなっていく。

「で、でも、いくらなんでも飛んでいきすぎじゃない!?近接戦であんな威力だったら……」

「ロックをかけておいたら、噴射も止まったんですけどねえ……」

 1度の攻撃で杭の中にある全ての燃料を使う訳ではない、と至極真っ当な事を言われて黙る鈴谷。

 沈黙の中、やがて影は見えなくなり――伊吹は、太陽の光が目に染みるなあ……なんて事を考えていた。

 そして鈴谷は、どうか民間船や何処かの艦娘には当たりませんように、と祈りながら大量の汗を流していた。

 

 

 

 その夜、提督と艦娘連合に揃って数時間の説教を受け、自分の部屋のベッドに倒れこんだ伊吹。

 そこに鈴谷が、

「なんか錬度が上がった!私は無実だー!」

 などと奇声を上げて乱入、隣の部屋の住人に説教を受ける羽目になったらしいという話。 

 




というわけで、通常の鈴谷とはちょっと違う鈴谷さんでした。
まあ、バトルジャンキーな連中がごろごろしてるこの鎮守府ではマッドの1人や2人が増えた所で提督の胃薬が増えるくらいですね。



・妖精さん
式と呼ばれる方はまんま「式神」で工廠に所属する人が使役する妖精の代わり。
式じゃない妖精さんは精霊だとか小神とかの自然に存在するもので、彼らの意思で力を貸してくれる存在。式と妖精さんでは力の桁が違しますが力がある所に集まる訳でもないので、妖精さんが多いから強い鎮守府というわけでもありません。
ただ、良い鎮守府であるとは言えるでしょう。

・提督
宮里さん。
命名には何の捻りもありません。
大和の初代艦長から。
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