艦これ 重巡伊吹の突撃日記   作:桜 友紀

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今回、ちょっと長くなるので途中で切りました。


第6話

 

 夏の朝は早い。

 まだ8時を少し回った所だというのに、太陽は自身を存分に主張し照りつけてくる。流れてくる風こそ冷たく、気持ち良いものの今日もまた暑くなるだろうと予感させるような朝だ。

 

 そんな朝、グラウンドで、

 

「鈴谷だよ!爽やかな朝だね!よろしくね!」

 太陽に向かって拳を突き上げている鈴谷――バカがいた。

「朝からテンション高すぎないかな、お姉ちゃん……」

 その隣では艤装を装着している為かうっすらと汗をかき、手をパタパタとして風を自身に送っている伊吹がいる。

 鈴谷はそんな伊吹に視線を向けて微笑み――地面に膝をつく。

「……正直、しんどい。私、夜型だからさー……朝なんて来なければいいのに」

「それは駄目な人の思考じゃないかなあ」

 苦笑しながら、地面に膝と手をついて俯いている鈴谷の側に屈む伊吹。

「それに、今日も付き合うのはいいんだけど……私は今日も待機任務だけど、お姉ちゃん、仕事は?」

 鈴谷は体を起こし、

「はいはーい!私は今日も仕事がないんだよ!働かずに食べるご飯が美味しいよ!ちょっと塩味きついけど!」

「それ涙の味じゃないかな」

 半目になって言う伊吹に鈴谷は立ち上がって伸びをしてから、

「ま、本当の所は調整中で待機ってだけだし?それなら趣味のついでに姉妹の絆を深める方が建設的じゃん?」

「それは嬉しいけど、調整中ってシフト?」

「ほら、昨日ちょっと話したじゃん。私って戦う任務もできるけど、工廠で開発とか魔改ぞ……改装もできるんだよー。だから工廠の人らと提督で私の仕事を調整中なんだよねー」

「突っ込まないからね?で、今日は何をするの?」

 聞こえたろくでもなさそうな言葉をスルーして、伊吹も立ち上がる。

「今日はねー、昨日あんまり触らなかった盾――可動式装甲板だっけ?ちょっちその性能を見てみたいなって」

「これですか?これはそんなに大した事ないですよ?」

 首を回して肩越しに背後へと視線を送り、その視界の中でアームが動くのを確かめながら伊吹は言った。

 鈴谷は頷き、

「そう、それの防御性能ってどれくらいかなーってね」

「え?でもこれって――」

 不思議そうな表情になりながらも言葉を返そうとする伊吹だったが、その言葉が終わるよりも早く、

「そんなわけで!今日は特別ゲストをお招きしていまーす!」

「へ?」

 テンションの高い言葉と共に振り返る鈴谷。

 伊吹もつられて振り返ると、その先には約10mほど離れて、艤装を装着してうなだれている少女がいた。

「……綾波さん?」

 こっちこっちー!という鈴谷の呼びかけに応えて、とぼとぼと2人に向かって歩いてくる綾波。

 あ、これ駄目なやつだ、と伊吹は心配そうな眼差しを綾波へと向けるが、その視線を受けた綾波は儚げに微笑み――力なく首を左右に振った。

「そう、今日のゲストは綾波さんだよ!優しそうな顔をしてるけど、本性は鬼神なんだよねー。伊吹ちゃん伊吹ちゃん、目を合わせたら駄目だよ?」

「いや何言ってんですか!綾波さん、大丈夫!?」

 駆け寄って綾波の手を取る伊吹。

 もしかして、弱みとか握られて――などという不穏な思考が頭に浮かぶ。それほど、今の綾波の姿はおかしかった。

 しかし綾波は弱々しく伊吹の手を離し、

「ううん、いいの。伊吹さん、私は鈴谷さんには逆らえないから……」

 何をしたの、と伊吹が振り返った先には――ドヤ顔で1枚のチケットをひらひらさせている鈴谷がいた。

 そのチケットには『甘味処間宮食事券』などという字が箔押しで印刷されていて、

「綾波さん?」

 無表情になった伊吹が綾波に顔を向けるが、綾波は即座に視線を逸らす。

 額からは大粒の汗が滝のように流れているが、伊吹は構わず綾波を手を強く――強く握り、

「一発だけなら誤射、っていう素敵な言葉があるんだけど」

 冷たい声で言い放ち、綾波へとにじり寄っていく。

「はいはい、そこまでー。綾波さんは手伝ってくれる人なんだから、あんまり苛めちゃ駄目だよー」

 食券に釣られたのは確かだけど、と笑いながら鈴谷が伊吹の頭に手を置き、撫でた。

「だって……あんなに思い詰めた顔してたら何かあったのかなって思うのは仕方ないと思うんだけど」

 綾波から手を離し、頬を膨らませる伊吹。

 綾波はごめんなさい、と両手を顔の前で合わせて伊吹に頭を下げる。

 そして鈴谷は、

「間宮さんの食券で女の子に戻らない艦娘なんてまずいないんだから仕方ないって」

 元凶であるという事はさっぱり忘れた様子で笑っていた。

 

 

「この可動式装甲板は六式電算と電探とを組み合わせて使うの。電探で敵位置を探って、電算で進行方向とか未来位置を予測、それが分かれば着弾範囲予測もできちゃうから」

 相対するのが私1人だと、私に向かって撃つ以外の攻撃はないですからね、と装甲板を動かしながら伊吹は説明する。

「つまり、目標に対する最適なルートをこの子が計算してくれるから、私はそれに従って装甲板を展開して走る、そういう使い方なんだよ」

 どう?と誇らしげに伊吹は言い、綾波も、そういう戦い方ですよね、と頷いている。

 しかし鈴谷は眉を顰め、腕を組み、

「だから、1人かー」

 不機嫌な声を上げた。

 その声色に首を傾げる伊吹。

「そうだよ?」

 どうしたんだろ?と綾波と顔を見合わせる。

 しかし鈴谷はそれには答えず、

「これまで戦果をあげてきてるって事はーそれなりに下地はできてる、はず。あの提督だからー甘やかしてるわけでもなさそうだし……自分で気づくのを……それじゃ遅いよねー。だから……」

 ぶつぶつと呟いている。

 

 訳が分からず、仕方なく間宮さんで何を頼むんですか?定番のアイスも捨て難いんですけど、折角だから――などと女の子の話に花を咲かせている二人だったが、

「伊吹ちゃんに質問っていうか確認ー」

「はい?」

 唐突に立ち上がった鈴谷が口を開いた。

「電探からの情報は、直接電算に送られてるよね?」

「え?うん。そうだよ」

「それでその計算結果に従ってる」

「うん」

 どうしたんだろう?と伊吹は困惑した瞳を鈴谷に向けるが、鈴谷は親指を立て、

「じゃ、演習しよっか」

 満面の笑顔でそう告げた。

 

 

 そして抗議の声も疑問の問いも全く無視され、2人は鎮守府正面にある海へと連れてこられていた。

 3人の前に立つのは6つの影。

 長門、天龍、利根、伊勢、最上、扶桑。

「……演習、ですよね?」

 不敵な笑みを浮かべている――扶桑は何故か空を見上げている――面々を前に綾波が嫌な汗を流しながら言う。

「そうだ、演習だ。安心しろ」

 長門の言葉に軽く息をつく綾波だが、

「演習だからどれだけやろうが沈まん」

 続く言葉にがっくりと地面に膝をつき、

「今朝の私、お願い、断って!間宮さんの食券は命とは交換できないの!」

 少し錯乱していた。

 伊吹はと言うと、綾波とは逆に満面の笑みを浮かべており、久しぶりの長門さんとのガチ勝負!などと興奮している。

 そして鈴谷は

「じゃ条件言うよー。そっちの旗艦は長門でこっちは伊吹。お互い旗艦がやられたら敗北ね」

「私が旗艦?まあ構わない」

「で、今回は言った通り伊吹の為の演習。無駄に難易度上げるつもりはないからーそっちもこっちも体に一発でアウトね」

「ふむ、まあ伊吹のそれが当たればどうやっても一発でアウトじゃろうが心得た」

 利根が頷き、伊勢が、

「体は分かったが手足はどうなる?手足が吹っ飛んだ所で撃てなくなるわけでもないと思うが」

 そんな質問を投げかけ、綾波の精神をゴリゴリと削っていく。

「手足は当たったら以降そこは使用不可って事でよろしくー。で、陣形も指定させてもらうよ?」

 鈴谷はそう言いながら笑って、

「長門を中心にした輪形陣で待機よろしく」

「……了解した」

 長門は少し期待が外れた、というような表情を一瞬見せたが頷き、沖合にある演習海域へと向かっていった。

 

「さーてっと。伊吹?」

 真面目な顔をして伊吹に声をかける鈴谷。

 伊吹はその様子に少し戸惑いながらも返事をする。

「何?」

「この演習、私は参加しない。あなたに指示を出すのに徹する」

 正面から向けられる鈴谷の眼差し。

 そこに見える強い光を確認し、伊吹は軽く頷いた。

「分かった。私はその指示に従って走ればいいんだね?」

「そうだけど、できる?復唱も疑問も必要ない。ただ私の指示通りに動くだけの駒に徹する事ができる?」

 その確認に伊吹は頬を朱に染め、

「できるよ。私はお姉ちゃんを信じる」

「よーし、じゃお姉ちゃんって所を見せたげる!」

 そう笑って伊吹の頭をわしゃわしゃと撫でる鈴谷と、くすぐったそうにしながらも嬉しそうな伊吹。

「あのー、私は?」

 小さく手を上げて言う綾波。

 その綾波に向かってちょいちょい、と手招きし、鈴谷はその耳元へと口を近づけた。

「何を……え?あ、はい……はぁ!?そんな、えっと、はい……はい……」

 悪魔のような笑みを浮かべて何事かを囁いている鈴谷と、気の毒なくらいに顔色を変えている綾波。

 しかし伊吹はそんな2人を見る事もなく、海を見ていた。

 既に演習海域にて待機しているであろう6人を思って不敵な笑みを浮かべながら。

 

 

 そして海の上では、半径100m程の輪形陣を敷いた長門達が無線によって会話していた。

「なあ、長門。結局これっていつもの伊吹の演習でいいんだよな?」

「そうだと思うが、私達は鈴谷の事を良く知らん。警戒しておいた方がいいかもしれんな。利根、伊勢、扶桑、最上。索敵機を飛ばせるか?」

 天龍の問いかけに長門は答える。

 そして索敵機を飛ばす指示を出すが、

「ちょっと待って。索敵機は飛ばさない方がいいような気がするんだ」

 最上がそれを否定する。

「どうしたのじゃ?警戒しておくのは常道じゃろうに」

 利根の疑問に最上は

「あくまでも……ボクの勘なんだけどね。多分、鈴谷はボクらを深海棲艦として想定してる」

「私達が深海棲艦……不幸だわ……」

「ふむ、なるほどな。今まで伊吹は深海棲艦艦隊への完全な奇襲させてきた。それにならうつもりというわけか」

 扶桑はともかく、伊勢は即座に最上の言わんとする所を察する。

 しかしそれに異を唱えるのは天龍だ。

「けどよ、想定外の事態が起こるってのも戦いじゃねえか?こっちが希望するような敵となんざそうそうやりあえるようなもんじゃねえだろ?」

 そして長門は、

「天龍の言う事も確かだが……鈴谷は言っていたな。無駄に難易度を上げるつもりはない、と」

「そう言えばそんな事を言っておったの。なるほど、吾輩らの行動を縛る為の一石というわけじゃ」

 これは良い、と利根が笑い声を漏らす。

「結局、索敵機は飛ばさないの……?」

 扶桑はぽつりと呟く。

 そんな扶桑に最上がにっこりと笑いながら、

「不幸かい?」

 と問いかけるが扶桑は口元を歪めて答える。

「敵が、ね?」

「この程度の広さ、感覚を研ぎ澄ませればそれで事足りる」 

 伊勢は索敵機にそっと触れ、そこにいた妖精の頭を指で撫でながら静かに言った。

「あはは、ボクも同感。でも結局全力なのは違わないんだよね?」

「当たり前だろう。思惑に乗ってやるのは構わないが、ただ華を持たせるのでは面白くない」

 その長門の言葉に利根が続いた。

「そうじゃな、華は咲いて誇るもの。咲き方を知らぬ未熟な蕾にはまだまだ荷が重かろう」

 肉食獣のような笑みを浮かべ、6人は申し合わせているかのように揃って目を閉じた。

 これからの一戦、そこに思いを馳せて。

 




次回、演習始まります。


・演習の勝利条件
参加する人の同意があれば成立します。
成立したからどうという訳でもないですが、提出する書類に明記しないといけないのできちんと決めて行うようです。
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