とは言っても鎮守府編なので、この鎮守府にいる色んな艦娘の話で構成される章となります。
第9話
未だ陽が昇り切らず、朝焼けが空を淡い色に染め上げる時間――とはいえ季節は初夏、かなり早い時間に鎮守府のグラウンドを走る2つの影がある。
短パンにシャツという軽装のその2人組は緩いペースでグラウンドを駆け抜けている。
「おー……こんな早い時間から頑張るねー。綾波に伊吹ちゃん」
その2人を工廠がある建物の屋上から眺めているのは鈴谷だ。
柵に乗せた腕に顎を乗せて、眠そうな表情だ。
「鈴谷も早……いや、遅いかな?」
だるー、と呟く鈴谷の背後に立つのは最上。
苦笑を浮かべながら鈴谷に声をかけた。
「そーそー。やっと一息ついたから休憩がてら涼みに来たら、頑張っちゃってる子達がいたもんで。最上ねーさんは?」
最上は柵に背中を預けて鈴谷の隣に立ち、
「ボクの場合は起きてから艤装の整備してて一息ついて、って感じかな」
空を見上げて気持ちよさそうに目を閉じた。
その言葉に鈴谷は身体を起こして最上へと視線を向けた。表情には驚きと恐れが半々くらいで浮かんでいる。
「最上ねーさん、真面目すぎやしないかなー?予習とか復習きっちりするタイプ?」
「そうでもないさ。現場では結構適当。でも、準備できるものは準備しときたいからね」
準備が万端じゃなくて敵を逃がすのは悔しいし、と最上は笑った。
「あれー?意外にもちゃんとした答えが返ってきちゃったなー?」
しかし、鈴谷は最上の答えに首を傾げていた。
そんな鈴谷に最上は半目の視線を向けて、
「習の字が襲うになってるとか、そういう事を期待してたのかい?」
少々物騒な単語を口にするものの、鈴谷の表情はあまり変わらない。
顔の前で軽く手を左右に振り、
「予め襲う、はともかく復讐はないよねー。だってねーさん達って見敵全殺でしょ?」
更に物騒な事を平然と言い放った。
しかし、最上はその言葉に対して軽く苦笑を浮かべただけだ。
ただその目には暗い光がほんの刹那見え、
「そうでなければさ、仲間の誰かとか資源なんかを運ぶ民間の人とか、ボクがやられちゃうかもしれないじゃないか」
普段よりも少しだけ低い声で言った。
その順番がねーさんの優先順位というわけだ、と鈴谷は最上を横目で見ながら心の中で思っていた。
戦場においては常に優先順位をつけなくてはならない。味方や敵、護衛対象の被弾、損耗、位置。それらは戦場においては秒単位でめまぐるしく変わり、優先順位も変わっていく。そんな中で生き残っていくのは任務に対するものであれ自身の技量や仲間に対するものであれ、1つの強い心を持つ者だ。
歴戦の猛者と言っていい戦歴を持つ最上が指針としているもの、それは仲間を何よりも守ろうとする心なのだろうと鈴谷は思い、そしてその事に対しては特に何も思わなかった。
それは良くある話の1つでしかなかったからだ。
だから、まあ、こんなものか、と思い、
「それはそれとしてさー、ここの綾波ってどうなの?」
別の話を振った。
最上はん?と首を小さく傾げ、
「いきなりどう、って言われてもさ。どういう意味なんだい?」
「ここには夕立もいるでしょ?綾波と夕立の関係ってどうなんだろうなーって」
最上の問いかけに答える鈴谷。
しかし最上はそれを聞いてもまだ良く分からないという表情のままだ。
「うーん……仲は悪くないと思うけどね。まあ、綾波は伊吹にべったりだから」
綾波と夕立、2人の関係は良くもなければ悪くもない。ごく普通の付き合いをしている、と最上は答えた。
鈴谷はふむ、と頷き、
「他の所だと大体は仲が良いんだよねー。ほら、あの2人って揃ってソロモン海由来の2つ名がついているから」
「悪夢に鬼神、勇ましくていいよね。けどさ、それのどこが気になるんだい?どこかの戦艦姉妹とか空母みたいに張り合って仲が悪いんでもなければ、どこぞの軽巡と雷巡みたいにちょっとした遺恨がってわけでもないよね?」
その最上の疑問に鈴谷は、あー……と唸りながら視線を空に向け、少しだけ間を置いてから言った。
「普通にしてる分にはいいんだけど。ここみたいに好戦的な鎮守府でね、その空気に染まると物凄い張り合っちゃうんだよねー」
あはは、と笑いながら言ってはいるものの、その目は笑ってはいなかった。
「ふーん……なるほど、ね。今まで一歩引いてた綾波がやる気になってきているから心配なわけだ?」
「不安要素を考えた場合、綾波と夕立のが一番おっきいから」
「疑っていた訳じゃないんだけど……本気、なんだね?」
鈴谷の計画の事――伊吹を旗艦として配置、1艦隊として運用する――を最上は言う。
そして鈴谷は柵から離れると真っ直ぐに最上に視線を向け、
「当ったり前じゃん。過去しか知ろうししない奴らとか、過去でしか評価しようとしない連中なんて全員捻じ伏せる!無視できない存在にまで押し上げる!」
両の腕を組んで、不敵な笑みを浮かべた。
「その為に鈴谷は、私は、ここに来たんだ。だから……ううん、ねーさんだから聞くよ?」
鈴谷は二の腕を掴む手指に力を籠め、
「伊吹ちゃんの為に死ねって言ったら、死んでくれる?」
震える声でそう、口にした。
最上はその問いかけを聞いて――優しい笑みを浮かべる。
鈴谷へと向かい歩き、
「ボクがこの鎮守府に来たのは7年くらい前なんだ。それでまあ、色々あってね」
鈴谷の傍で歩みを止め、頭へと手を伸ばした。
「この鎮守府の古参は皆、同じ気持ちを共有している。そんなボクらにとって伊吹ちゃんはね、お姫様なんだ」
優しく鈴谷の頭を撫でながら、最上は続ける。
「当たり前だよね。艦娘になる前から知っているんだから。艦娘にならされた時を知っているんだから。艦娘になってしまった後を知っているんだから」
だから、と最上は呟くように言って鈴谷の頬へと手を添えた。
そして頬に流れていた涙をそっと拭って、
「いいよ。鈴谷が今はもういない――あの人の為に、伊吹ちゃんを護ろうとしている事は分かっているから」
肩を震わす鈴谷をそっと抱きしめた。
そして最上は微笑みを浮かべる。
まったく――泣き虫の妹を持つと大変だ。
鈴谷の背中を優しく叩きながら、鈴谷が泣き止むまで、そこに居た。
「うーん。赤城っちどこ行ったんだろ?」
廊下を歩きながら呟いているのは北上だ。
大した用事でもないのだろう、のんびりとした空気を纏わせながら歩いている。
時折すれ違う他の艦娘に赤城の場所を聞いたりしているが、今の所収穫は無しだ。
「仕方ない、提督に聞いてみるとしますかねえ」
何度か空振りに終わった後、そう呟くと北上は提督の執務室へと向かった。
「提督ー。赤城っちがどこにいるか知らない?」
数分後、提督の執務室前に着いた北上はノックをする事もなく扉を開け放ち、軽い口調で問いかけていた。
「北上……お前な?ノックくらいはしろって何十……何百回言えば理解できるんだ」
それの帰ってきたのは提督、宮里の不機嫌そうな声だった。
「いいっしょ別に。こーんな事してるのって身内がいる時だけだし?」
手を左右に振りながらけらけらと笑う北上。
「しねえってか、客がいる時はここに寄りつきもしねえだけだろ。で、赤城がどうかしたのか?」
軽く溜息をつき、書類から目を離して北上へと向ける宮里。
北上は宮里が座っている机に真っ直ぐ歩き、その上へと腰を下ろした。
「うん、伊吹っちの事なんだけどさ、航空機運用の案、あったよね?」
「ああ。艦種としては重巡の枠に入らない事もないから試してみるとか言ってたやつだろう?」
「そうそう。私や大井っちに木曾っちが正式な艦種としては重雷装巡洋艦だけど、軽巡からは外れてないから試そう!っての。それでどうせなら全部の航空機を試してみようって事で、赤城っちにね」
その言葉に宮里は、信じられないものを見るような目を北上に向ける。
「試してみようも何も甲板がないのに水上機以外無理だろ」
通常の重巡洋艦で運用できるのは水上偵察機や観測機であり、その他の航空機については基本的に航空母艦でないと運用できない。一部の航空機に航空巡洋艦や航空戦艦でも運用できる機はあるが、それも飛行甲板があってこそだ。
「普通はそう思うよねー。ま、これもあくまで思いつきだから上手くいくかどうかは分かんないんだけどね」
しかし北上は笑顔のままだ。
「伊吹っちの防御装甲あるでしょ?あれ、半分くらい真っ直ぐ繋げたら赤城っちの持ってる飛行甲板より長いんだよね!」
「おいまさか」
「結局さ、航空機を操るのって妖精さんでしょ?だったら、航空機を飛ばせる環境さえあったらいけるんじゃないか?って――長門っちが」
その北上の言葉を聞いて、頭痛がしたのか、額を指で揉みはじめる宮里。
表情は歪んでいる。
「理屈ではいけるかもしれねえけどよ、いや待て着艦はどうすんだよ」
伊吹の装甲板にはワイヤーはねえだろ、と宮里は言った。
ワイヤーとはアレスティングワイヤーの事で、艦載機が着艦を行う際に使用される制動装置であり、これ無しで艦載機の着陸を行うのは正気の沙汰ではない。
「ないならつければいいんだってさ――鈴谷っちが」
「はぁ?」
「いや、ほら、あの計画じゃ戦闘中は航空機からの情報を基に戦闘展開を伊吹っちが行うってなってたでしょ?だからもし破損しても戦闘終了後に張りなおせば問題ないんだってさ」
しばし無言となる宮里。
宮里は手を組んで目を閉じ、何かを思案しているようで、机に座ったままの北上はにこにことしている。
「空母系の深海棲艦相手にそれをやるには戦闘機が運用できりゃ一番良いって事か」
要は戦場の観測を戦闘機でできれば最高、という話だった。
戦闘機であれば艦攻や艦爆に落とされる可能性が低いまま、戦場の観測が行える、そういう話だ。
しかし、と宮里は思う。
「戦闘機が飛ばせたとしても観測用の機体じゃねえんだぞ。どれだけ役に立つやら分かったもんじゃないが、それは分かってるのか?」
その問いかけに、北上は笑ったままで答える。
「だから、できたら儲け。ま、鈴谷っちは飛ばせたら飛ばせたで、なーんか考えてるみたいだけど?」
「……あの野郎、前線航空管制の真似事とかやらかすつもりじゃねえだろうな?」
「…………何それ?」
宮里の呟きに首を傾げる北上。
「あー……簡単に言えば前線で電探積んだ航空機が戦場の情報を送ったり、指示出すようなもんだ」
本来の意味は制空権やら爆撃の観測やらだがな、と付け加えて宮里は簡単に説明する。
「ふーん……」
しかし、その説明でも良く理解はしていない様子で、北上はしきりに首を捻っていた。
「ま、興味あるなら鈴谷に聞くか現代の軍事知識について勉強してみろ」
そうすりゃ真似事と言った意味も分かるだろ、と言ってから宮里は机に置いてあったメモを眺め、
「で、赤城だな。この時間は……訓練だな」
「訓練かー。って事は今日は大した用事はないんだ?」
秘書艦は本来、提督の執務室に常に控えているものだが、宮里は用事のない開いた時間には訓練を行う事を許可していた。
特に大した予定のない日などは申し送りや報告の時間以外は訓練にあてても構わないとさえ言っている。
これは艦娘とは本来戦う者。それが電話番など無駄以外の何物でもない、という少し一般的な鎮守府からは離れている思考からのものだが、それに答えて隙を見ては訓練を行う艦娘も艦娘で、どちらも似たような者である。
「来客の予定もないしな。ああ、第一じゃなく第二の方の射場だから間違えるなよ」
ありがと、と勢いをつけて机から飛び降り、扉へと向かっていく北上の背中に宮里は声をかけた。
北上は親指を立てる事でそれに応え、勢いを減じないままに執務室から出て行った。
「……やれやれ。しかし、頭が良いんだか馬鹿なんだか」
扉だけはゆっくりと閉めていった北上を見送ってから、宮里は溜息をついた。
鈴谷のやろうとしている事、それを思って。
しかしその理由を考えて、結局は苦笑を浮かべるしかなくなる。
「現代の技術やら何やらを大戦時の技術の結晶である艦娘と合わせようとか、無茶な事を考えるもんだ……とは言っても、か」
艦娘、そして深海棲艦が出現してより数十年。
そういう技術の開発が全く行われなかったわけではなく、今でも様々な機関が必死になって研究している。
しかしそれは遅遅として進んでいないのが現状だ。
艦娘に最新のレーダーを装備させようとしたり、ミサイルを積もうとしたりといった試みはその全てが無駄に終わっている。そもそもが艦船に積まれているものを人間サイズの艦娘が運用できるサイズまで小さくする事そのものが非常に難しい事であったし、とりあえず持てるサイズにしたレーダーや携行式ミサイルを改造してみたものの、それらを艦娘が使う事ができなかった為だ。
操作方法や兵器についてのレクチャーを行い、ミサイルに関してはトリガーを引くだけ、にまで簡略化したにも関わらず、艦娘がそれらを動作させる事は叶わなかった。
その理由に関しては研究の末に判明している。
それは、その兵器に魂が宿っていないから、という単純明快にして解決困難なものだった。
艦娘の艤装については、改装などによる兵装の変更という概念がある為に艤装の積み替えは可能であるという推論が支持されているが、より強力な近代兵器を使用できないという点では変わりがない。
そして、これが深海棲艦との戦いが未だに膠着状態のままである事の原因の1つとなっている。
年が過ぎ、優秀な提督、司令官の数が揃ってきた事で追い込まれていた状況からは脱却できたものの、それでも依然として数に勝る深海棲艦相手に押し込みきる事ができず、結果は膠着状態というわけだ。
その現状を打開する為に多くの鎮守府共同での海域解放作戦などが行われているのだが、それはまた別の話となる。
より遠くの敵を発見し、より遠くの敵を倒せる兵器を開発する事さえできたなら。
近代兵器に準じる兵装を艦娘が装備する事さえできたなら。
その思いで日々研究者は様々な研究開発を行い、時には怪しげな祈りの儀式を行ってみたりしている。
その事は良く知っている宮里ではあるが、
「ようやく技本は何かを掴んだか?それとも鈴谷の思いつきか……どっちにしろ――保険は必要、か」
存分にやれ、ケツは持ってやる、と呟いて不敵な笑みを浮かべると、机の上にある電話へと手を伸ばした。
「おーやってるやってる。赤城っちと……瑞鳳っちかな?」
北上は宮里に言われた通り、第二射場へと来ていた。
と言っても第一と第二の射場は屋内か屋外かの差があるだけですぐ隣にあるのだが。
そしてこの第二射場は、弓道場の形をしていなかった。
屋外にある第一射場は良く見られる弓道場の形式で、的が配置されている以外に変わった所はないのだが、この屋内にある第二射場は一見すると何らかの訓練施設のようにしか見えない。
天井、床、壁、その全てから様々な構造物が飛び出ており、他の場所にも壁があったり床と天井のあちこちが柱で繋がれていたりと乱雑極まりない作りだ。建物の両端には舞台のような物が設置されており、そこだけは床以外は
何もない場所であり、そこには2人の艦娘がいた。
赤城と瑞鳳だ。
北上は真剣な眼差しで弓を構えている2人の邪魔をしないように、ゆっくりと扉を閉め、2人の元へと歩き始めた。
「北上さんが来ましたね。では、次を終えたら少し休憩にしましょうか」
「はい、お願いします」
顔を正面に向けたまま、赤城が傍らの瑞鳳へと言う。
対して瑞鳳は体を赤城へと向け、ポニーテールを揺らしてお辞儀をしてから、再度弓を引いた。
赤城はそんな素直な瑞鳳の様子に微笑みを浮かべ、
「では」
短く告げると、弓から矢を解き放ち、瑞鳳も続く。
赤城の弓から離れた矢は瞬時に戦闘機――紫電改二へとその姿を変じ、瑞鳳の矢は烈風へと変わる。
2機は勢いを減じる事なく障害物が大量に設置されている空間へと身を躍らせていった。
「地上での発艦はもう問題ありませんね」
矢を放って直ぐに弓を下ろした赤城は瑞鳳に向かって微笑みかけ、瑞鳳もまた、ほっ、と一息ついた後で弓を下ろした。
これはあくまで戦闘訓練であって弓道ではない為、無駄な行為である残心など行わない。
訓練の一環としてただ的を普通の矢で射る時ならばともかく、戦場でそんなものを行っていれば自分の方が良い的にしかならないからだ。
「ありがとうございます!海上での訓練も頑張ります」
再び頭を下げる瑞鳳。
「いつ見ても凄いよねー」
そんな2人の所に来て、2人を見ずに感嘆の声を漏らすのは北上だ。
北上の視線は、2機の戦闘機に向けられている。
速度を緩める事なく、様々な機動でもって障害物のトンネルをくぐり、壁を越え、柱の間を縦横無尽に天駆ける紫電改二と烈風。
その機動は芸術的と言っても良い動きだが、先行する紫電改二に比べて烈風の方は少しだけ動きに鋭さがないように見える。
「ええ、あの子達も頑張っていますから」
北上の声に答えたのは赤城だ。
ちら、と一瞬だけ自身の放った紫電改二の動きを確認した後は北上へと体を向けている。逆に瑞鳳は両手を握って、烈風の動きを食い入るように見つめている。
「だよね。瑞鳳っちの方もすっごい動きしてるし……お、捻って避けた」
「ありがとうございます、北上さん。でも、私はまだまだです。弓道の射ち方をなかなか体が忘れてくれなくって」
苦笑いして北上に視線を向ける瑞鳳。
しかし、その視線は一定せず、ちらちらと烈風の方へも向けられている。
「瑞鳳っちは艦娘になる前は弓道少女だったんでしょ?なら仕方ないんじゃない?」
自身の艦載機を気にする瑞鳳へと温かい視線を向けてから、北上は赤城に問いかけた。
赤城は頬に指を当て、
「そうですね。けれど今はもう問題なくなっていますし。後は練習あるのみ、ですよ」
少し考えた末に瑞鳳へとエールを送った。
「私達の役目はどんな状況であろうと1機でも多くの艦載機を飛ばす事です。そこに空母と軽空母の違いはありません。海上を駆けながら、転びながら、吹き飛ばされながら。それでも艦載機を飛ばさなくてはいけません。最悪、手で投げてでも飛ばす事。それが役目です。全機発艦を全うする事ができたのなら、後は妖精さん達を信頼して、そして帰還を祈る事。それが全てですから」
細かく言えば着艦指示とか目標指示とかもありますけど、と赤城は笑う。
そして瑞鳳は真剣な表情でその赤城の言葉に頷いた。
「そうそう、赤城っち。伊吹っちの件だけどさ、午後からになるけど大丈夫?」
北上は2人を笑顔で見ていたが、あ、と声を上げてこの場に来た本来の目的を思い出し、告げる。
「お昼からですか?今日というだけの予定でしたし構いませんけど」
小首を傾げて答える赤城。
北上は手を頭の後ろで組んで、
「いやー朝から伊吹っちと綾波っちがランニングしてたんだけどさ、それ見た木曾っちやら島風っちが加わってフルマラソンに変わっちゃってさ」
ちょっと前に終わった所、と苦笑を浮かべた。
赤城もあらあら、と苦笑を浮かべ、
「それでは少し早いですけど、お昼にしましょうか。伊吹さん達ともご一緒に」
視線を瑞鳳にも向けた。
そして瑞鳳も視線の意味を誤解する事なく力強く頷き、
「はい!ご一緒します!」
と笑顔で答えた。
「では」
短く言うと赤城は自然な動作で右手を伸ばし、瑞鳳は両手を前へと突き出した。
そして、赤城の飛行甲板にふわり、と柔らかな動きで紫電改二が着艦し、瑞鳳はわずかに自身の手を動かして烈風を受け止めた。
その両者の動きの違いに瑞鳳は少しだけ眉を下げるが、直ぐに顔をしっかりと上げ、
「お疲れ様!頑張ったね」
烈風とそこに宿る妖精に向けて声をかけた。
そして赤城もまた紫電改二とそこに宿る妖精に声をかけるが、
「少しだけ無理な旋回があったんですか?じゃあ明日は今日よりも良い飛行を目指してくださいね。お疲れ様」
妖精からの申告に答えたそれに北上と瑞鳳は顔を見合わせていた。
「私にはどこがおかしかったか分かんなかったんだけどさ、瑞鳳っちは分かった?」
「いえ、私にもさっぱり……」
2人して溜息をつき、北上は肩をすくめ、瑞鳳は肩を落とした。
「さあ、それでは食堂に行きましょうか」
そんな2人に赤城は笑顔で声をかけ、歩きはじめる。
瑞鳳は慌てたように小走りで赤城に着いていき、そして追いついた所で赤城から機動について話を振られて、考え込み始める。
そんな2人をゆっくりと後から追いかけながら北上は昼食は何を食べようかなあ、と呑気に呟いていた。
今回瑞鳳が新しく出てきました。
この章は鎮守府と鎮守府に所属している艦娘の事を書くので、後何人か新しく登場する艦娘が出てくるかと思います。
ちなみに自分はアニメの加賀さんの艦載機射出ポーズ大好き派です。
カッコ良ければそれでいいんです。