魔水晶王女(俺)は魔王の一人である   作:ちゅーに菌

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いざ理想郷

 

「で? さっきのはどういう意味だ…」

 

食後になり、さっき妙な発言をしたローゼを俺、リリウムちゃん、リリアナちゃん、ヴィッセルさんで囲んでいた。一応、駄鳥もいるがそれはどうでもいい。

 

「お母さんは生きてるんですか…?」

 

「ふふふ、いい質問ねぇ。結論だけ言えばピンピンしてると思うわよぉ? でもそれより…」

 

ローゼはヴィッセルさんをニヤニヤしながら見つめた。

 

「あなたも隅に置けないわねぇ。どういう落とし方をしたのかしらぁ?」

 

現在机の上に置かれているロケットの写真には、人の偶像のように完璧な美と可愛らしさを兼ね備えた女性が写っていた。

 

………リア充め…。

 

いかん…現在の自分(の身体)の現状と比べて呪ってしまった。

 

「いや…それは…」

 

ヴィッセルさんは照れ臭そうに顔を下げた。

 

「まぁ、それよりもぉ……」

 

ローゼは目を細めて女神も見惚れそうな素晴らしい笑みを浮かべて言った。

 

「なんで死んだと嘘を子供たちに教えたのかしらぁ?」

 

なに…?

 

「それにあなたは知っている筈よねぇ? 少なくとも今彼女がどこにいるかぁ」

 

なぬう…?

 

そんなことは無いだろと思いながらヴィッセルさんを見つめた。

 

「………………」

 

ヴィッセルさんは暫く何も言わなかった。

 

だが、ヴィッセルさんは重い口を開いた。

 

「マリアは理想郷(パンデモニウム)にいる…」

 

「理想郷……ですか?」

 

理想郷、ポラリス三大魔宮の一つだ。

 

幻想王女(マモンアリス)の魔宮で確か、3体しかいない原初の七罪魔王の1体だ。

 

「まさか…ソイツもお前と同じような奴なのか?」

 

俺はニヤニヤした笑みを張り付けているローゼを見ながら言った。

 

「ああ…そうだ…」

 

が、答えが帰ってきたのはヴィッセルさんからだった。

 

マモンアリス…公爵家の家族にまで手を出すような奴なのか…それならマリアさんはもう…いや、考えるのは止めよう。取り戻す事だけ考えればいい。

 

記憶や、身体や、精神も俺がどうにか出来るしな。

 

「それでぇ、どうするのかしらぁ?」

 

「決まってるだろうが…」

 

俺の身体が光を放つと服装がいつものドレスアーマーへと変わった。

 

「殴り込みだ」

 

「うふふふふぅ、あなたのそういうところ大好きよぉ」

 

そういうとローゼは一瞬で消えた。と、普通の人なら見えたと思うが俺視点だと部屋に戻ったようだ。

 

「お待たぁ♪」

 

5秒もしない内にローゼは戻ってきた。

 

 

"ざっくりと胸の空き、ありえない位置にスリットのある赤いチャイナ服を着て"

 

 

「待てや色魔」

 

おい、ゴラァ。ここらコスパ(コスプレパーティー)じゃねぇんだぞ。

 

え? お前も鏡見ろ? ………………うるせえよ。

 

「何かしらぁ? 私の勝負服よぉ」

 

そう言ってから無駄にデカイ胸を誇らしげに張った。

 

「夜の勝負か?」

 

「あらぁ、こういうプレイが好みなのぉ? 可愛いわねぇ、良いわぁ、私はどんなことだっ…」

 

「ちげぇよ色ボケ」

 

「相変わらずバッサリねぇ」

 

ローゼはいつも通りの余裕綽々の笑みでクスクスと笑った。

 

…本当にコイツの考えていることは解らん…。

 

「あのー…師匠?」

 

リリウムちゃんが俺の膝から俺を見上げてきた。

 

「なんだ?」

 

「私はとっても動きやすそうな服だと思いますよ」

 

………………………マジで?

 

いやいやいやいや、そうだリリウムちゃんは変わり者なんだ一般論を言っているとは限ら…。

 

「ああ、女性の武道家が好む服装ですな。正しく勝負服だ」

 

「でしょぉ? アリスクラス相手ならこれぐらいは当然よぉ」

 

またか…またなのか…知識摩擦か…また俺が間違っているのか!?

 

なぜか押し寄せる敗北感に机に突っ伏しながらうち震えていると、自然に視線がとある場所に向いた。

 

それはヴィッセルさんの横に行儀よく座るリリアナちゃんにだった。

 

………………なんで一言も喋らないんだ? 自分の母親に何か思うことでもあるんだろうか?

 

俺が不思議そうに見つめているとリリアナちゃんと目があった。

 

ふむ、聞いてみるか。

 

「なあリリアナちゃん?」

 

「スドーさん」

 

それを聞く前に話しかけてみることにしたが、先にリリアナちゃんは俺を呼ぶと椅子から降りてテクテクと歩いて部屋から出ていった。

 

俺もリリアナちゃんに続いて部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スドーさんにお母さんはいるのですか?」

 

部屋から出てリリアナちゃんを辿ると廊下の開け放たれた窓から外をぼーっと眺めているリリアナちゃんがいた。

 

リリアナちゃんに近くとそんなことを言われた。

 

「母さん?」

 

母さんか、一人で家族を支える家の柱で俺が知ってる人間の中で誰よりも図太く強く強情な人で…それでも俺にとって大切な人で…結局何も親孝行出来なかったな…。

 

「私は………何も覚えてないのですよ」

 

「え?」

 

覚えてない…? 自分の母親のことを?

 

「お母さんが消えた時、私は2歳。思い出なんて1つも覚えて無いんですよ」

 

そう言って何時もの眠そうな目を閉じた。

 

「初めから死んだと思っていたから特に気にしたこともなかったのです。だから………」

 

リリアナちゃんは再び目を開くとこっちを向いた。

 

「生きてるとわかっても何も感じてないんですよ。ヒドイ娘なのです」

 

そしてリリアナちゃんは笑った。

 

始めて見たリリアナちゃんの笑顔は自嘲の笑みだった。

 

「………………」

 

「スドーさん。もしお母さんが帰ってきたらどうすれば良いと思いますか? 私は…」

 

リリアナちゃんは真剣な目で俺を見つめてきた。だが、よく見れば握り締められた手は震え、瞳の中には微かな怯えが映っていた。

 

「………………………はぁ…」

 

「はぇ?」

 

俺は膝を折って屈むとリリアナちゃんの小さな身体を包み込むように抱き締めた。

 

俺の胸にリリアナちゃんが顔を多少埋める形になっている。

 

俺の母さんは俺と妹が頑張った時や、不安そうだと感じた時はいつもこうしてくれたっけな。

 

「あの…スドーさん?」

 

珍しくリリアナちゃんが動揺している。

 

いや、慣れてないから恥ずかしがってるんだな。

 

「母親はこんなもんだと思うぞ?」

 

「え?」

 

「恥ずかしいだろ?」

 

「はい…少し」

 

「安心するだろ?」

 

「………はい」

 

「温かいだろ?」

 

「………………………はい」

 

リリアナちゃんは頬を朱に染めて俺の胸に横顔を沈めていた。

 

俺はリリアナちゃんの頭をそっと撫でた。

 

俺の母さんならもみくちゃにするぐらいわしゃわしゃと撫でるところだがな。

 

母親も………悪くないかな。

 

う、うん。リリアナちゃんとリリウムちゃんにならたまにお母さんと呼ばれても…。

 

「なら私と愛を育んでみるぅ?」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

突如、ローゼが耳元で呟いてきた。

 

「テメェ…何しやがる!」

 

「あらあら可愛いわねぇ、あんなに母性全開にしておいてよく言うわぁ」

 

「全くでございますね。マジメシウマでございます」

 

「可愛かったわねぇー」

 

「でございますねー」

 

「………じー(羨望の眼差し)」

 

お前らァ………。というかリリウムちゃんまで…。

 

「そんなことしてる暇があったら準備でもしやがれ!」

 

「もう万端でございますよ。それより下、下」

 

下?………あ"。

 

この時気付いた。気付いてしまった。

 

簡単な話だ。俺が屈まなければ胸に届かなかったリリアナちゃんの身長で俺が立ち上がるとどうなるかということを。

 

「むきゅう…」

 

足をぷらんぷらんさせて俺の胸の谷間に沈むリリアナちゃんがいた。

 

「リリアナちゃん!?」

 

「あなたねぇ、いい加減自分のバストサイズぐらい考えたらどうかしらぁ?」

 

「全くでございますね。ビックリすると力む癖も困り者でございます」

 

「うるせぇよ! リリアナちゃん!? リリアナちゃーん!!」

 

「いいなー……リリアナ」

 

こうしてベイオウルフ家(母)救出作戦は幕を開けた。

 

 

 

 




人物紹介1

魔水晶女王(クリスタル・ノヴァ)

好き:妹、風呂
嫌い:虫、今の身体
趣味:裁縫、料理の献立を考えること
マイブーム:家庭菜園、ネメシス虐め

説明
魔水晶の森に棲息する(過去形)魔王。家事全般が大得意であり、その技術は天井知らず、メイド服が非常に似合う女性である。魔王の中では珍しく良識を持っており、基本的にNOと言わない優しい性格をしている。しかし、口が悪い上、気も長い方ではない。さらに言葉より先に手が出るタイプで自覚は無いがそれを楽しんでいる。妹がいるらしく、時々欠乏性に陥るため、リリウムかリリアナを抱き締めて代わりにしている節がある。スドーという名前らしい。

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