【更新未定】This sky is… 天駆ける流星【供養】 作:アママサ二次創作
「お先にどうぞ」
「はいよ」
ノアに言われたライトは、反発することなく大人しく滑走を始める。ノアはライトよりもフライトユニットに慣れていた様子であるし、何より装備しているユニットがライトのそれよりも高性能だ。ライトが先に離陸してもすぐに追いついてくるのだろう。
離陸したライトは、低空で加速した後上昇に転じる。高度100メートルほどまで上昇すると、気配で感じたとおりそこにはすでにノアが待っていた。先を行くノアは、速度を落としてライトの隣に合わせてくれる。
「様になってるね」
「無駄に飛び続けたからな。そっちはすごい加速だな」
「ユニットも君よりは良いしペイロードも少ないからね」
「なるほど」
ペイロードが何を示すかわかっていないライトだが、自分とノアの重量差、もしくは積んでいる増槽の差だろうと当たりをつけて適当に返事をする。
「いい眺めだろ。これなら君も、飛ぶことの素晴らしさをわかってくれるだろう?」
会話中も下を見ていたノアは、会話が途切れたところでライトにそう話しかけてくる。
「それは認める」
ライトの素直になりきれない返答に、ノアが嬉しそうに笑う。飛ぶことが心地良いことだというのは、ライトはすでに認めているのだ。ただやはりそれ以上に、ロボットの動きにこだわってしまうだけで。
「もう少し高度をあげよう」
すうっと軽く上昇するノアに続いて、増槽を一部パージしたライトは仰角を大きく取って上昇する。
「ついていけねえなおい」
軽々と上昇していく彼女に引き離されながらも、ライトも高高度まで上昇していく。
「遅いよー!」
「無茶を言うな!」
先を行くノアは、地表から800メートルほどの位置で上昇をやめる。
「この高さまで上がったことはあるかい?」
「無い」
「いい眺めだろ」
「ああ。地面がほとんど見えないな」
「この高さだと斜め前を見たほうがいいさ。ほら」
言われてノアの指差す方をライトが見ると、いつか見た山々やその向こうが見える。
青い空に、その下に広がる大地。壮大な、なんとも言えない憧憬を呼び起こす光景に、ライトは体がわずかに震えるのを感じる。
「それじゃあそろそろ滑空に入ろうか」
「滑空?」
「グライダーみたいに風にのって飛ぶのさ。そうすると滞空時間が圧倒的に伸びて、飛ぶのをより長時間楽しむことが出来るんだよ。毎回街まで戻ると自由に飛べる時間が少ないだろう?」
「毎回死に戻ってればそんなに時間のロスも無いだろ」
せいぜい街の中を移動する時間が少しかかるぐらいで、と事も無げに言うライトに、ノアが半信半疑の目を向ける。
「死に戻りって、飛ぶたびにかい?」
「飛ぶ練習してるときは基本的にそうだな。モンスターと戦うときはそういうわけにも行かないから着陸してから歩いて帰るけど」
「それは、ほんの数回飛んだ、とかではなくて?」
「もう100回は超えてるんじゃないか」
あっけからんとしたライトの答えに、ノアはいよいよ呆れた顔になる。
「普通は落ちるのは嫌だと思うんだけどね」
「そうか? まあ俺は遊覧飛行をしてて墜落するってよりは色んな動きを試してたら地面にぶつかるって方が多いから、燃料切れ以外の理由でも墜落しているからな。街に戻る時間も節約できるし、むしろありがたいぐらいだ」
「いやそれにしても、だよ」
「そこの気分の良し悪しよりも、飛ぶ感覚を体に刻む方が優先なんだ。それより、滑空の仕方を教えてくれないとMPが切れるぞ」
そう言いながら、両足の増槽をパージする。主翼下の増槽もすでに半分ほどが消費済みだ。
「わかったよ。といっても、エンジンを切って後は風に乗るだけだけどね」
そう言ったノアはエンジンを切り、減速しながらも風に乗る。ライトもそれに習ってエンジンを切ると、わずかにふらつき高度が低下したが、無事風を掴むことに成功した。
「大丈夫かい?」
「なんとかな」
慣れない滑空だが、一度掴んでしまえば後はそれを維持すればいい。
「意外と、落ちないもんだな。エンジンが切れたら落ちるしか無いかと思ってた」
「ある程度のスピードがあるっていう条件を満たしてるからね。グライダーなんかがいい例だよ」
「グライダー……あの細長い羽で空を飛んでる飛行機か?」
「あれは飛んでるんじゃなくて滑空してるんだよ。普通のグライダーは推進機関を持ってないからね。気流にのって、ゆっくり落ちてるのさ。こういう言い方は本当は良くないんだけどね」
「なるほど。これなら相当の距離を飛べそうだな」
「そうだね。高度がそれほど高くなかったとは言え、数キロは移動できると思うよ」
「着陸先からは街にどうやって戻るんだ?」
「途中で折り返すか大きく旋回しながら飛んで街の近くに降りるんだ。目指す先があるならそこに向かうことも出来る。フライトユニットの移動性能は随一だよ」
他のユニットのサバイバーが徒歩で辿り着く場所へ、いち早く飛行してたどり着くことが出来る。移動能力においては他を圧倒しているのがフライトユニットだ。
あいにくライトは全くと言っていいほど活用する気がなかったが。
「なるほど。じゃあ針路は任せる。ついていく」
「わかった。それじゃあ大きく旋回しようか。せっかくだから景色を楽しもう」
これまでライトは、飛ぶことを楽しむということはほとんど無かった。技術としての飛行を身につけるために必要な練習を繰り返していたというイメージが強い。
だから、これは初めてだ。身を切る風。通り過ぎていく景色。抜けるような青。その全てを意識し続けるというのは。
「気持ちいいだろう?」
「まあな」
言葉少なに答えながら、ライトの目は周囲を見渡す。自分が初めて空高く飛んだときのことを思い出し、ノアは懐かしく思いながらそれを見守っていた。ずっと空に憧れを抱いていたノアにとっては、空が目的であった。
ライトにとってはそうではない。だが、この感動は共有できる。それがどこかくすぐったく、そして嬉しかった。
「ボクは少し飛び回ってくるよ。ゆっくり大きく旋回していてくれるかい?」
「はいはい。いってらっしゃい」
「ああ、行ってくるよ」
MP残量に余裕のあるノアは、ライトに一言声をかけてから離れていく。ただ滑空するのではなく、自由に空を飛び回ることを楽しむのだ。
ゆっくりと滑空しながらその姿を見ていたライトは、彼女が憧れに手を伸ばしていることをまざまざと感じ、自分もまたやりたいことに向けて挑むことを再確認した。