【更新未定】This sky is… 天駆ける流星【供養】 作:アママサ二次創作
「山岳地帯にも普通にモンスターおるじゃん」
誰もいないとは言っていないのだが。ステップウルフやゴブリンの体躯からして、傾斜の険しい山岳地帯には出現しないかと思っていたのだが、別のモンスターは出現するようだ。
ライトの前に現れたのは3匹のトカゲとアルマジロを合わせたようなモンスター、ロックリザードだ。体調は1メートルから1.5メートル。手足はトカゲのそれよりは地面に対して垂直方向に生えており、体高もそれなりにある。
体の表面、特に背中側や手足の先、頭部は岩石らしきものに覆われている。
物理攻撃に高い耐性を持ち、対応した装備をしていなければ倒すのが難しいモンスターだ。
3匹のモンスターは、カロロロロと唸り声のようなものを上げながらライトの方へと迫ってくる。手足の先に特別な構造を持っているのか、うちの1匹はほとんど地面と垂直な岸壁の上を歩くように近づいてくる。
「攻撃きかなそー」
見るからに頑丈そうなその姿にぼやきながらも、ライトはライトSMGを取り出して射撃を行う。飛んだ弾丸はモンスターの方へと飛んだものの、案の定その表皮に弾かれるようにしてほとんどダメージを与えられなかった。どころかステップウルフのようにノックバックも発生しない。
「剣もきかないだろうなあ。……ですよね」
銃に続いて剣による攻撃も、モンスターに弾かれる。一撃離脱を行ったことで爪によるひっかきは避ける事が出来たが、有効打を与えることが出来ない現状に変わりはない。
「逃げるか」
よし、そうしようとライトが方針を固めた瞬間、上から射撃が降ってきた。連射系の実弾による攻撃はロックリザードにもライトにも直撃すること無く、その間に着弾して僅かな土煙と火花を発生させる。
それを警戒したロックリザードの進行が止まった瞬間に、ライトは背中を向けて走り出した。
崖から踏み切る瞬間にユニットの装着を初め、空中でエンジンを点火。落下の勢いを滑走代わりにしてピッチアップし、先程の崖よりも高い高度まで上昇して空中で止まる。
ロックリザードはライトの方を見ていたが、すぐに背を向けて去っていった。遠隔攻撃を持たないため、空中のライトに手が出せないのだ。
「あいつか。サバイバーっぽいな」
銃撃のもとを確認したライトは、ライトが戦っていたのとは少し離れた高い位置に一人のサバイバーが立っているのを見つけた。その人物の方に視線を向けると、ライトが自分の方を向いている事に気づき手を振り始める。やがてライトが近寄ってこないことに焦れて、手招きをし始めた。
「来いってことね」
助けが無くても問題は無かったが、関わろうとしている相手を積極的に拒否しようとは考えていない。
手を振っているサバイバーの居る場所からも離陸が可能であると判断したライトは、そのサバイバーが開けてくれたスペースに着地する。
「助けはいらんかったみたいやな?」
「あって困るもんでも無いからな。ありがとう」
「そう言ってくれると助かるわ。下手に人様の戦ってるところに手え出すとごっつう怒られるから悩んだんよ」
あははー、とユニットのバイザー越しに相手のサバイバーは笑う。年の頃はライトよりも上だが、30を超えているようなアバターはしていない。その気さくな様子に、ライトの表情も緩む。
「そういうものなのか?」
「おろ、あんさんMMOは初心者さんなんかな?」
「まあそうだな。今回がMMOは初めてだと思う」
「ほな知らんくても当然か。なら後学のために教えといたる。あんな、たいがいのMMOでは他のプレイヤーが戦ってるとこに黙って参戦するのはタブーになっとる。なんでかわかるか?」
「邪魔だから、か? たいていのプレイヤーはそれぞれの戦い方で戦ってるだろうから」
ライトが予想で答えると、相手のサバイバーは大げさな身振りで違うということを示す。その演技がかった様子に、ライトはつい吹き出しながら理由を尋ねる。
「ちゃうねんちゃうねん。あんな、たいていのプレイヤーが戦うときって、自分らの利益のために戦ってるわけやねん。そやから、横から他のやつがちょろっと敵倒して美味しいとこ持ってかれるとたまらんわけよ」
「あー、なるほど。それはなんとなくわかる。けど、今の俺は完全に追い込まれてたわけだしそういう状況なら手を出しても文句は言われないんじゃないか?」
「あんさんみたいに優しい人やったらそらそうよ。戦闘中に勝手に参戦しても、戦うのが楽しかったからええよ、って人もおるわな。でもな、自分が絶対に負けるーて状況で助けてもろうても、『俺には秘策があったんだ! 邪魔した弁償しろ!』みたいなこと言い寄るあほはいっぱいおるんよ。やからMMOで人の戦いに参戦するときは、相手の了承を得てから、ってのがセオリーってわけや」
「そういうことか。確かにそういう人はいそうだな。できるなら関わり合いになりたくない」
「わしもそれは嫌やってんけどな。特にあんさんみたいにギアだけでここまで来るようなんは地雷臭がぷんぷんしとるし。あ、別にあんさんが地雷やゆうてるわけやないで?」
軽い口調できつい言葉をポンポン放つ割には、ライトへの気遣いを忘れない。その妙に飾らない口調が、ライトには心地よかった。
「けどな、あのロックリザードいうんは、普段はとろいふりしとって止めをさす瞬間だけバッて跳びかかり寄るんよ。そんときには後ろ足の鱗がブアッて逆立つからよく見とったらわかるんやけどな。それであんさんが気づいとらんようやったから、ついペペっと威嚇射撃してもうたんよ」
「助かる。ロックリザードのその情報は知らなかったからな。本当は後2、3秒睨み合ってから逃げるつもりだったんだ」
「ほな丁度良かったみたいやな。わしが撃たんかったらあんさんやられとったで」
「次からは気をつけるよ。俺はライト。あんたは?」
「おっと、自己紹介がまだやったな。わしはガビ言うもんや。もっぱらクライミングをやっとる」
「クライミング?」
ライトが聞き慣れぬ単語に疑問の声を上げると、ガビは腰のあたりに装着されたロープや小さなつるはしを示す。
「そや。ついでにアイテムの回収もやっとる。まだこの当たりのアイテムは珍しいし、あんさんみたいな鳥さんでも無ければわしみたいなのしか取れんアイテムはいっぱいあるしな。まあわしはクライミングが好きやから実益もかねた趣味みたいなもんや。ゲームで実益言うのもなんやけどな」
「そりゃそうだ」
ゲームをしている時点で実益とはまた別のものを追い求めているのだが、それを求めるにはまた別の何かが必要となるのである。
「あんさんは、何しに山まで来たんや?」
「俺は……」
「と言いたいところやけど、わしもうログアウトせないかんから村まで戻るところやねん。あんさんの面白そうな話は、またいつか。でええかな?」
外で用事があるんよ、と少しばかり残念そうに言うガビに、それなら丁度良かったとライトは村に行きたい事情を説明する。
「そら丁度ええな。ほな案内してこか。にしてもあんさん、どうやってここまで来たんよ」
「街からずっと飛んできた。滑空するとMPの消費を抑えられるから結構な距離を飛べるんだ」
「ほー、あんさんほんまに鳥さんみたいやな。わし高いところ無理やねん。あいや壁はいけるんよ? せやけどな、足元が無いってのがどーも……」
初めて会ったにしては妙に相性が良い、というよりは、するりと相手の懐に入り込むガビの会話術と、近づいてくる相手は避けないライトの人との関わり方がうまく関わった結果だろう、村につくまで、二人の間に話題は耐えなかった。
「そうかー、あんさん飛ぶだけやなく自分で羽をなー。どんな素材がいるやわからんけど、何やったらわしの方から融通も出来るで」
「ありがとう。しばらく自分で集めて、実験中に足りなくなったら頼む。友達価格でな」
「かまへんかまへん、いうより、間に露天商挟まんだけでだいぶコストが浮くからな。店売りのん買うより安うすむと思うで」
「まじか。それはありがたい情報を聞いたな。足りなくなったら街で店開いてるサバイバーから買おうかと思ってた。ついでだから幾つか聞きたいんだけど、あの街で露店開いてるのは全部サバイバーなのか? 大抵のものならNPCショップで揃うから存在してる意味がわからないんだが」
「そういうのに関しては、支援用AIに聞いたほうが効率ええと思うで。わしもなんや間違いがあるやもしれんし」
まだガビの前では一度もアイラと会話していないにも関わらず気づかれたことにライトは驚いた表情を浮かべるが、ガビは苦笑いを浮かべる。
「あんさんがわしに簡単なこと聞くときに限ってペカペカ光りよるからな。AIがそれ僕の仕事ー、言うて主張しよると思うたんよ」
「そうなのかアイラ?」
『ライトといると質問されることがそれほど無くて退屈なのです。だからこそ横取りやパーティー戦の仕様、露天などについては丁寧に説明しようと思っていたのに……』
明らかに拗ねていますと言わんばかりのアイラの言葉に、ライトは声を失う。
「おもろいよなあ。わしらが話しやすいようにて人間っぽいところがあるんよ。大事にしたってや?」
「すまんアイラ。今度から気をつける」
話しやすいように人間っぽくしている、といっても、それは相手を選んでの話である。ライトはアイラとの会話を全く忌避せず、どころか会話でテンションが上っていることもあるため、それを分析したAIがアイラに人間に近い感情表現をさせているのだ。
『出来ることはあまりありませんが、だからこそ私に出来ることは頼ってください』
「わかった」
ライトが頷いたのを確認して、アイラは説明を始める。
『では、ひとまず露天の存在意義について説明します。まず第一に、《Dawn Odyssey》内に存在するアイテムには、品質が設定されたものが多数存在します』
「あのEとかDとか?」
『そうです。そしてそれは採取できるアイテムだけでなく、回復ポーションやエーテル・コアと言ったものにも設定されています。例としては、TierⅠの高品質のエーテル・コアがTierⅡの低品質なものに迫る性能を持っていることが上げられます。そしてここからが本題ですが、NPCのショップで購入可能なものは基本的に品質D、すなわち低品質なものが多いです。そのため高品質なものを求めるなら、サバイバーの経営する露天で購入する必要があります。また、TierⅢ以上のエーテル・コアなど貴重な品もNPCのショップでは購入できませんので、サバイバーの方同士で交渉を行っていただく必要があります』
「なるほど」
『そのため、基本的なものやNPCショップでも十分ですが、やがてはサバイバーの方の経営する露天が売買の場となっていくでしょう』
「ありがとう。そういう理由があるんだな」
アイラの説明に頷いていると、横からガビがメタ的な視点から補足してくれる。
「これはMMOやからね。NPCがプレイヤーのやりたいこと奪ってもうたらおもろないんよ。ポーションづくりなんかも、わしはわからんけど好きな人は好きらしいからなあ」
「俺も機械いじりは好きだがそっちはあんまり興味がわかないな」
『そのように異なる目的、嗜好を持った方同士の協力を生み出すのもまた、露天の役割です』
それはただ売買の場としてだけでなく。例えば『あれ、君フライトマン? じゃあちょっと山頂近くのアイテム取ってきてくんない? 報酬はこれくらいで!』『オッケー任せとけ!』、といった、サバイバー同士のちょっとした交流を生み出す場ともなりうるのだ。
「お、お話中のとこ悪いけど、村が見えてきたで」
アイラから細かい説明を受けていたライトは、ガビの言葉に話を中断して視線を上げる。すると、山と山の間に挟まれるように存在する村の様子が目に入ってきた。
「あれが、村」
「せや。デリコタ村、ゆうねん。チーズとかクリームなんかが名産の村や」
街の賑やかさとはまた違う、穏やかな空気。自然とともに生きるという言葉を体現したような村に、ライトはなんとも言えないワクワクを感じていた。