【更新未定】This sky is… 天駆ける流星【供養】 作:アママサ二次創作
視界が戻るとそこは小さな部屋の中だった。
ベッドが一つに棚と床に置かれた大きめのツールボックス。壁の一面には光を取り込む窓。部屋の広さは10畳ほどで、ライトの現実での作業場ほどではないが自由に使えるスペースはそこそこある。
視界の上の方には、『HOME』というテロップが浮かんでいた。
「これが俺の使える部屋、ってことだろうな。作業場は他に作ったりできんのかな」
この部屋はプレイヤーがそれぞれ自由にカスタマイズできるプレイヤーズルームとなっており、初期状態の現在は最低限のものしか置いていないものの好きなものを持ち込んでライトの好きなように置くことができるし、広さも広げることができる。
床に置かれた大きなツールボックスは何でも入るアイテムボックスとして、そしてベッドはログアウトに使用する。ちなみに棚はただの棚だ。特別な効果はない。
そんなことを考えていると、ライトの耳に着信を示す音が鳴り響き、視界の中央当たりにウインドウが浮かぶ。電話の発信者はタスクと書かれていた。
「もしもし」
『部屋の中眺めてるのもいいけど、終わったら外出てきてくれよ』
「ん、了解、っと、ユニットは今は装備してないんだな」
タスクと通話しながら、ライトは自分が服しか来ていないことを確認する。
服装はキャラクターメイクのときと変わらず上下ともに紺色のアンダーウェアを来ており、その上からグレーのハーフパンツと赤いシャツを来ている。足には革のブーツを履いているものの、重たさや無駄な大きさは感じない。洒落っ気のない格好だが、動きやすいその格好をライトは嫌いではなかった。
『それも説明するからとりあえず出てこい』
「あいあい」
出てこいと言われたのでライトは自分の後ろにあったドアの取っ手に手をかける。
すると取っ手を回すことは出来ず、代わりに目の前にウインドウがポップアップし『セントラル広場』という文字列が表示される。
『それはドアに見えるけどワープ装置だからな。ひねっても開かないぞ』
ライトの口から漏れた驚きの声を聞いたタスクは、おかしそうに笑いながら教えてくれた。
このゲームのプレイヤーズルームはフィールド上に空間として存在しているのではなく、ワープ先に部屋だけが存在しているためこのような移動手段となっているのである。
「ドアじゃないんかよ」
笑われたライトは悪態をつきながらセントラル広場という項目をタップする。ドアノブから手を離してもウインドウは消えなかったので、本当に見た目だけのお飾りなのだろう。
タップしたところで再び世界は明転する。
ライトが再び目を開けると、そこは大きな広場だった。視界上部には『セントラル広場』というテロップ。
後ろからどくように声をかけられて振り返ると、タスクと同様にプレイヤーズルームから出てきた人が立っており、その後ろに出てきたであろう青い光を放つポータルが建っている。
ポータルは広場の中央の噴水を囲むように複数個存在しているようで、一歩よけたライトが見ている間にも何人ものプレイヤーがそこから出てくる。
「ライト」
声をかけられてそちらを振り向くと、現実の面影を残したタスクがライトの方へと近づいて来ていた。現実の面影はあるものの、若干表情が厳し目だ。静かな口調とは裏腹に陽気な顔つきが、口調に合わせたものに変わっている。
「タスク?」
「ああ。とりあえずもう少し落ち着いた場所に行こう」
そう話している間にもライトの後ろのポータルからは人が出てきており、ポータルの間近に立っている2人は邪魔になっている。
「何か食べながら話すか?」
ポータルの近辺を離れて移動している間に、周りに展開されて賑わっている屋台を示しながらタスクがライトに尋ねる。
「ここの飯ってそんな美味しくないだろ? 別になくてもいいかな」
ここ、つまりは『VR空間』。ライトがそう言うと、タスクがニヤリと笑う。
「よし、なら食ってみよう」
そう宣言すると、ライトが止める間もなく屋台の方へと歩いていって、クレープのようなものを買って戻ってくる。
「ほら。食べながら話そう」
「はいはい」
タスクがこんな行動をするならまずくは無いのだろうと、ライトは素直に受け取り、ひとくち食べてみる。現実と遜色ない、バナナと生クリームのクレープだ。
「ちゃんとうまいな。もっと変なのかと思ってたけど」
「技術は進んでるんだ。まあこのゲームの売りの一つでもあるしな」
「飯の旨さがか?」
3年ほど前にライトがVRゲームをしていたころはまだVR空間内での食事は再現度が低く、はっきりと違和感を覚える程度の出来でしかなかった。
「それも含めて、現実の再現ってところだ。それは後で説明する。まあ本当は全部自分でやれって放り出したいところではあるんだが、一応ユニットの使い方と、支援用AIが用意できるまでは面倒見てやるよ」
「そうそう、その支援用AI? ってのが、ゲーム内で色々教えてくれるって言ってたやつか?」
「ああ。ゲーム内の基本的な疑問に答えてくれる相手だな。普通のプレイヤーにわかる程度のことしか教えてくれないが、初心者のお前にはちょうどいいと思うんだ」
このゲームには支援用AIという、ゲーム内でプレイヤーに追従して簡単な疑問に答えてくれたり、基本的な設備の利用方法を教えてくれる存在がある。このゲームに慣れたプレイヤーには必要としないものもいるが、初心者にはとりあえず獲得することが推奨されているものだ。
「で、その獲得の方法がいくつかあるんだが」
「うおっ。わるい、びっくりした」
ライトがクレープを食べ終えると、手元の包み紙が光に溶けるように消えた。
「ゴミの処理は手間だからな。そういう店の中ならあえて捨てる場所を用意してるところもあるが街中なら勝手に消えるんだ」
ほら、とライトが示す先には、大きな通り沿いに現実世界でも見られるレストランやチェーン店が存在している。
「それより話の続きだが、支援用AIの獲得の方法はいくつか、まあ大きく分けて2つだな。2つ、方法がある」
「ほうほう」
「1つ目は、それこそ他のスキルや武器と同じように店で買う方法。これでもかなり安く、1000リラぐらいで買えたと思う。で、もう一つは色々と失敗しまくる、という方法だ。これは簡単な話で、デスを短時間で繰り返したり、長時間アイテムが採取できる場所で採取しないまま待機してたり、モンスターとの戦闘で攻撃できないまま負けたりすればいい。そうすればゲームのほうが『こいつ支援が必要そうだな』って感じで支援用AIをプレゼントしてくれる。まあチュートリアルがそこそこ充実してるから、それすら気づけない初心者のために、っていう、ある種抜け穴的なものだけどな」
「なるほど。なら俺はその支援用AIを買いに行って色々聞けばいいんだな」
話の流れを読んだライトがそう言うと、タスクはニヤリと笑って首を振る。横に。
「いや、お前にはこれから何回も死んでもらう」
「は?」
と呆けるライトを見ておかしそうに笑いながら、タスクは種明かしをする。
「冗談……でも無いか。まあ実際にやってみればわかると思うんだが、お前の選んだ……」
「フライト・ユニット?」
「ああ。飛び初めはとにかく落ちるんだ」
「落ちるって、どういう意味で?」
「文字通りだ。墜落ともいうな。100回でまっすぐ飛べるようになれば優秀、50回で天才、なんて言われてるぐらいだ。自由に飛び回るなんてとてもとても。フライト・ユニットを使うなら嫌でも墜落を経験する。それならそのうち取得できるのを待ったほうがお得だろうと思ってな。まあお前が急ぎたいなら買っても良いが、せっかくなら最初ぐらいは……」
「自分でやってみる、だな。オーケイ10回で飛べるようになってやろうじゃない」
「ああ、さっき言ったことだが、死ぬってのは……」
「墜落イコール死。そう言うことだろ?」
戦闘機なんかじゃ当たり前の話だよな、とライトは挑戦的な笑みを浮かべる。それを見たタスクは、何も言うことはないと頷いた。
「それじゃあ、早速街の外に行ってみようか」
タスクに案内され、ライトは街の入口を目指す。気がつくと周囲を歩く人々も皆一様に同じ方向を目指して大きな通りを歩いていた。
そして広がる門の先の景色。一言で言えば、大草原。なだらかな丘陵に、視界を遮るような木や岩は存在しない。門の向こう側には相当数の人間が集まっており、キャラクターメイクで見かけた様々なユニットを装備しては見せあっている。
「ユニットとギアは街の中じゃあ出現させられないんだ。メニューを開いてみろ」
タスクに言われてメニューを開く。言われるままに装備欄へと移ると、『ギア装着』と『ギア&ユニット装着』の2つの項目があった。
「見ればわかると思うが、全部まとめて装着するのとギアだけを装着する、っていう選択肢がある。ギアだけの装着ってのは一部のユニットで移動を簡単にするときなんかに使われる。その状態だとユニットの装着も速いから襲われても反応できるしな」
タスクの説明を聞き流しながら、待ちきれなかったライトは『ギア&ユニット装着』の選択肢を選んだ。すると足元に幾何学的な文様が現れ、それが光を放つのに合わせてライトの体が浮かび上がる。
浮かび上がった体に張り付くように空中からギアが現れ、ライトの背中に張り付く。
続いて足首から膝、腰、胸、肩、肘から先へと薄い鎧が現れ、局所的に体を覆う。
そして最後に背中側から複数のパーツが出現し、それらがライトの背中でちょうど合体して大きなユニット、『翼』を形成した。
インナーギアとマギ・マキナ・ユニットの全てが実体化されたところで、ライトの足元の幾何学的文様は薄れていき、それに合わせてライトもゆっくりと着地する。装着直後のプレイヤーを配慮した着地。
それを感じたライトはわずかに眉を潜めた。
「『重さが足りないな』って思っただろ」
「当たり。ふわっと降りるのはまあ配慮なんだろうなとは思うけどさあ。もっとこう、ズシン、って感じの重厚感も欲しかったな」
それは純粋に、大きな機械に、ロボットに憧れるゆえのこだわりだ。
「アサルトとかストライカーならそういう感覚も体感できるかもな。といっても軽減はされてるが。でもその背中の重さも、いい感じだろ?」
「まあな」
おそらく、生身のライトが背負えば後ろによろめいてしまうだろう大きさのユニット。背中のそれは本来あるはずの重さよりも軽い負荷をライトに伝えており、おかげでライトも体制を崩さずに立っていることができる。
「それじゃあ俺も装着するぞ」
タスクが総宣言してウインドウを操作すると、先程のライト同様に彼の体が幾何学文様の光を浴びて浮かび上がる。そこから先はライトとは少し違い、彼の体を包むように出現した半透明のパワードスーツが次第に透過率を下げていき、最終的に実態として出現した。
「その幾何学文様はなんか意味があんのか? 俺とお前だと違う感じがしたけど」
ライトが言うと、タスクは少し驚いた顔をする。
「幾何学文様でも間違いではないが、魔法陣って知らないか?」
「あー響きだけは」
「このゲームの世界は魔法と機械が融合してるんだ。だから魔法の中からこのユニットが出現した。コイツラの稼働原理も現実のそれとはちょっと違うらしいぞ」
「あーなるほど。そういう意味の文様だったわけね」
にしても、と、ライトは自分とタスクの姿を見比べる。
「俺の装甲、ってかアーマー、随分ペラくない?」
見ているのは、タスクに置おいては複数のパーツが組み合わさって頑丈そうな装甲を形成している四肢の部分。ライトのそれは、ところどころにハードポイントはあるものの薄っぺらい金属板でできた装甲が張り付いているだけだ。太ももや二の腕なんか露出している。
「フライトは本当に飛ぶことが目的のユニットだからな。そのアーマーもユニットより先に本体がやられないようにっていうお守り程度のものだ」
コンコンと、タスクはその金属に覆われた指先でライトの胸元の金属板を叩く。
「先にこのゲームのデス判定、まあ要するにHPが0になって動けなくなる状態について説明しておくぞ」
そう言ってタスクは説明を始める。
この『Dawn Odessey』では、フィールドに出ている、このゲームではサバイバーと表現されるプレイヤーたちには現在の消耗具合を示す2つの数値が存在する。
1つ目はHPであり、ヒットポイント、ライフなどとも呼ばれるもの。これはサバイバー本体の耐久力を表し、これが0になった場合には即座に行動不能になり街へと送還される。
これはユニットの消耗具合とは関係ないため、例えばライトがユニットをまとってもなおむき出しの頭部に銃弾を受けてHPが0になった場合、たとえユニットが稼働していても戦闘不能となり街へと送還されてしまう。
一方で、サバイバー本体の耐久力とは逆にユニットの耐久力も存在する。これはAP、アーマーポイントや簡単にアーマーなどと呼ばれるものである。
これが0になった場合、そのときに装備していたユニットは破壊され、一旦街に戻るまで使用ができなくなってしまう。アーマーが減っても破壊されていなければ時間経過で回復するので、完全に破壊されないように注意が必要だ。
「といっても、お前にとっては割とどうでも良い話ではあるがな」
「なんでだ?」
「フライトユニットはそもそも柔らかいからHPで受けようがAPで受けようが大差ないし、ユニットが破壊されたらどちらにしろ墜落死だからな」
破壊されたユニットは出現の瞬間を巻き戻すように空中へと消える。つまり、空中でフライトユニットを破壊されたサバイバーには、落ちるという道しかない。
「つまり?」
「当たるな避けろ。さもなくば墜ちろ」
「厳しいお言葉で」
「まあ実際まともに飛べるフライトはそうは被弾しないからな。現実でも対空はなかなか当たらないだろ?」
そう言われてライトが想像するのは、ハリネズミのように火線を伸ばした宇宙戦艦。どれほど激しく弾幕を張ろうと、宇宙から押し寄せるロボットたちはそれをくぐり抜けて肉薄していた。つまり、定点から飛び回るものを撃つというのはそれだけ不利なのである。
「ミサイルならどこでも当たるけどな。そんなものは無いんだろ?」
「俺が見てきた範囲ではなかった。出てくるにしても攻略が進んだところだろう。その頃にはユニットの性能も上がっているだろうしな」
「ま、先の話か」
つぶやいたライトは、視線を横へと向ける。草原と、その先に広がる青空に。その視線を理解したタスクは、ライトの背中を押す。
「まあまずは、何も考えずに飛んでこい」
「了解」