【更新未定】This sky is… 天駆ける流星【供養】 作:アママサ二次創作
人の群れから少し離れたところまでやってきたライトは、タスクに見守られながらユニットを操作する。
「タスクー! これ何かコントロールパネルとかはないのか?」
「無い! 想像しろ!」
明らかに説明不足なタスクの言葉を受けて、ライトは考える。この状況で何を想像しろと。だが、そう言えばと。ライトは思い出す。彼の好んでいたロボットアニメの中にも、単純に操縦桿を動かすのではなくパイロットの意思を汲み取って動く兵器があった。このユニットもあれと同じなのではないだろうか。
ライトは、自らの背中に背負うエンジンが動く様を想像する。動く様、といっても、背中に背負っているのが何型のエンジンなのか詳しくは把握できてはいないが、四枚羽のプロペラの見た目からかなり旧式の熱機関であろうということは想像できた。つまり、その内部で物体が燃焼し、結果としてプロペラへと力が伝わって回転に変わる様を。
ライトの意思を受けて、沈黙していたユニットのエンジンが動き始める。
ブルン! ブルン! ブルブルルルルルルル……
とぎれとぎれの振動は、すぐに継続的なものへと変わる。
「エンジンが動いたら出力を上げるんだ!」
続いて稼働したエンジンへと意思を送り込み、より激しく燃焼し、プロペラが激しく回る様を想像する。その結果、意思に少し遅れてエンジンが唸りを上げ、プロペラの回転数が上がっていく。このエンジンに詳しくないライトにも、出力が上がっているのが理解できた。
何より推力。プロペラの回転が速くなりエンジンの出力が上がっていくごとにライトの背中を押す力は強くなっていく。
ならばと。空母のカタパルトからの戦闘機の発艦を想像したライトは、その力に限界まで耐え、弾みをつけて一気に駆け出した。押し止められた力は全てライトの背を押すことへ向かい、どんどん加速して地面を走っていく。
次第に速度に足が追いつかなくなっていき、同時に足にかかる負荷が弱まっていく。
そして……
「飛んだ……」
加速し、十分な揚力を獲得した翼は、ライトの体を軽々と持ち上げた。
風が体を叩き、眼下の景色が飛ぶように流れていく。ライトには次々と飛びすぎていく地面が新鮮で、それがいけなかった。
明確な操縦意思は無いものの、もともと曖昧な意思で操作を行っていたライトの意識が地面へと向けられ続けていることに気づいたユニットがそれを汲み取り、ライトの背後、彼が気づかないうちに、ウイングの角度が変化した。
それに気づかないライトは、更に速く飛ぼうと前を向き直してエンジンの出力を上げる。
ブオオオオオオオオ!
と心地よい唸り声とともに、ライトの体がじわじわと加速し……
「あれ、ちょっ、地面近づいて無い? ちょっ、上昇、上昇しろってんだよこのポンコツが。待って! 止まれ!」
とっさに飛び出したライトのボケとも取れる言葉に答える言葉はなく、下降姿勢を取ったユニットに導かれ、ライトはあえなく一度目の墜落を体験した。
******
「おかえり」
セントラル広場で復活したライトが首を傾げていると、先に戻っていたタスクが声をかけてくる。
「ただいま」
「感想は?」
「……ちゃんと物理、してんだなって」
しみじみとしたライトの感想に、タスクは『ぶっ』と吹き出す。
「お前ホントだからな? 足が地面に引っかかった瞬間に一気に体勢持ってかれたんだぞ」
一気に体勢を崩し、地面との接触点である足を起点として一回転しようとして地面と接触。その際重たいユニットによって上体及び頭部が殴打される。勢いのままに転がってそれを複数回繰り返す頃には、ライトはめでたく初めての墜落死を迎えていた。
このゲームは物理演算エンジンを採用し、ゲームの都合と合わせてうまい具合に運用している。
例えば墜落の衝撃。本来のそれなら一度でトラウマとなってしまい、たとえ精神だけのVRゲームでも体に不調をきたしかねないものだが、衝撃によるダメージは残したまま感覚ががプレイヤーに伝わる際に軽減されているため、実際の被害よりも衝撃が軽く伝わっている。
一方で、飛ぶ際の力の働きや衝突の際の動きはまさに現実のそれで、真っすぐ飛んでいた飛行機が巨大な質量を持つ山と接触することで姿勢を崩すようにライトは姿勢を崩し、地面を転がる羽目になった。
「いやいや、お前らしい感想だと思ってな。怖かったか?」
「いや……。思ってたよりも痛くなかったし、わけわからんが強すぎて怖がる暇もなかったな」
「そうか。なら良かった。フライトユニットはその難しさ以上に、恐怖で使えなくなるサバイバーが多いからな」
例えば。初めての飛行で超高高度まで上がることが出来、そこから墜落した場合。心構えも出来ないままに、サバイバーは大地と激しく接触することになる。
巨大な大地が高速で迫ってくる恐怖感。自らの力で何も出来ない無力感、絶望感。そんなものが相まって、このゲーム内でさえ飛ぶことができなくなる人というのはかなりいる。
その点ライトは、初めての飛行において無事に墜落したものの無力感や絶望を感じる暇はなく、だからこそ明確な恐怖を感じることはなかった。一度飛んでいれば、『またああなる』『自分には何も出来ない』ということをあらかじめ理解しておくことができる。
その一回の差が大きいのだ。
「全然思うように動かないんだけどなんかコツとかあるのか?」
「そうだな。今度はそれを説明しよう。もう一度外に行こうか」
一息ついたライトとタスクは再び街の外へと向かう。
「あっとその前に」
向かおうとしたところで、タスクはライトを引き止める。
「持ってるアイテムとかリラを全部マイルームのアイテムボックスに預けて来てほしい」
「なんで?」
「ゲーム内でデスすると持ってるものを割合で失うんだ。多分今の墜落でもいくらかリラが減ってると思う」
「ばっ、おま、そういう大事なことは先に言え」
準備に必要な色々が失われると聞いたライトは、慌ててインベントリを確認する。
「1000リラもなくなってる。これどうやって自分の家に戻んの」
「メニューのマップからマイルームを選んでワープできる。街の外からはワープできないから注意しろよ」
「サンキュ」
タスクが答えるや否や、ライトはマイルームへのワープを選択して消えていった。
しばらくして戻ってきたライトと共に、タスクは街を出る。
「よし、それじゃあ説明を始めるぞ。まずはユニットを装着してくれ」
タスクに言われるままに、ライトはユニットを装着する。破損したユニットは、ライトが街へと死に戻ったことで完全に修復されていた。
ライトと同時に、タスクもソルジャーユニットを装着する。
「まず一番大事なのは、フライトユニットは体の一部じゃないってことだ」
「当たり前、だと思うけど」
「それが意外とわかってないんだよ。見てろ」
そう言ってタスクは腕を水平まで上げて、手を開いたり閉じたりできる。
「俺は今自分の手を動かして、それに装着されたユニットがついてきた。これはストライカーとかアサルトとか、他の殆どのユニットで共通することだ」
「ああ」
「それに対してお前のフライトユニット。どうやってエンジンを動かした?」
「どうって、エンジンが動く感じをなんとなくイメージして」
「そこだ」
フライト以外のほとんどのユニットにとっては、ユニットを動かすというのはすなわち体を動かすこと、少なくともその延長線上に存在する。例えば、手を開く、閉じる。走る。ジャンプする。殴る、蹴る、トリガーを引く。
その全ては、体を動かす、ということで達成される。
一方でフライトユニット。そもそも人間にエンジンなんて機関はないし、主翼も、空中姿勢を調整するエレボンといった細かなパーツも存在しない。フライトユニットを使用するサバイバーは、それらの全てを自分の意思で操作しなければならないのだ。
「自分には無い器官を操作する、か」
「人間には尻尾も翼も無いだろ。それを操作する感じだ。慣れる慣れない以前に、そもそもどこがどれだけ動くかわかってない状態だからな」
「意味はわかった。めっちゃ大変そうなのもわかった。その動く場所ってのは、どうにかして確認できないか? 俺の目線じゃ背中のパーツなんて確認できないし、そもそも認識してないパーツは操作できないだろうし」
「メニューから自分の状態を確認する項目がある。装備の項目の中に」
ライトが言われたとおりに操作すると、ウインドウから半透明の人間のホログラムが立ち上がる。
「それが現在のお前の体勢を示してる。ユニットや指先の動きなんかも細かく再現されてるから、それを見ながらやればいい」
「なるほど。各部位の役割とかの確認は?」
「それはゲームのシステムじゃ確認できないな。ただ明確な解決方法はある」
タスクは意味ありげにそう言う。βテストのとき様々な情報を収集していたタスクは知っているのだ。このゲームの運営のフライトユニットへの尖ったこだわり具合を。
「というと?」
「このゲームのフライトユニットの大半は、現実世界のものをモデルにしている」
「飛行機か?」
「明確にこれ、というのは無いが、航空機全般だな。例えば主翼や姿勢制御装置なんかは、完全に現実の仕様を再現しているらしい。つまり、現実の航空機の挙動や構造を勉強すれば動かし方もかなり理解できる」
「まじで」
「更にエンジン」
そこまでやるかと言いたげなライトを無視して、タスクは言葉を続ける。
「エンジンも現実の機構をかなり再現してる。例えばお前が『エンジンを動かして』と言ったが、正確にエンジンの構造を把握し、燃料が投入されて燃焼し、内部構造がどう動いて出力につながるかをイメージできれば、より正確な操作ができる!」
「なるほど。正確な構造の把握な」
タスクはこう説明しているものの、実際のところ曖昧なイメージでも飛ぶことは可能だ。ライトが地面に意識を向け続けたことでそれが操縦の意思と認識されたように、ある程度の飛ぶ方向を意識していればユニットが自然とそれに合わせてくれる。
ただしその場合、ユニットの反応が遅く高速旋回や機動戦闘はまともに出来ない。
運営としては、空を飛ぶことを体験してほしいが、たやすく自由に飛び回ってはほしくない。結果として、曖昧なサバイバーの飛ぶというイメージにユニットは反応してくれるものの、より自由な飛行をするには複雑な操作が必要となるシステムとなっているのだ。
「ちなみに、βテストの頃自由に飛び回れたやつを俺は知らない」
「そんなに難しいのか?」
「体に無い器官を想像で動かすからな。戦闘機を操縦するのとはまた違う難しさがあるらしい」
「なるほどな。仕組みを把握して正確に操作できれば、自由に方向転換したりターンしたりできるってことか?」
ライトがそう尋ねると、タスクの表情が僅かに曇った。
「あーまあ、自由には飛べる。ただ、そのユニットのできる能力の範囲内で、だ」
「つまり?」
「少なくとも今のユニットじゃあ、お前の好きなロボットみたいに飛び回るのは無理だ。それの旋回性能はせいぜいが旧式の戦闘機程度しかないからな」
ライトの憧れるロボットのように高速でターンし、縦横無尽に飛び回ることは出来ない、あくまで航空機の範疇を出ない、とタスクは伝える。
「何から何まで飛行機、か」
「ただ、ゲームが進んで高性能のユニットが出来たりお前が自分の手で改造すればもっと自由に動けるようになると思う。フライトユニットの上位にはもっと高性能のエンジンだったりを使ったユニットもあるようだったから、それをうまく改造して使えば……」
「つまりは俺次第、ってことね」
この『Dawn Odessey』は、様々な種類のユニットに加えてそれらの改造の自由度がコアな層向けの売りとなっている。単純に作られた上位のユニットを開発して使うだけでなく、自らの手で部品の一つ一つからユニットを組み上げ、既存品から性能を上げたり特定の分野に特化させたりすることができるのだ。
例えば、今ライトが所持している初期のフライトユニット。それを改造することで、より高速に、もしくは軽量化して機動性を強化したり、装甲を増やして頑丈にしたりできる。
それは何も外装に限らず内部構造すら改造の対象となる。エンジンの出力すらが機械に卓越したサバイバーであれば自由に改造することが可能なのだ。
「まあ、飛行機の勉強頑張れ」
「まじかあ。そっちはそんなに詳しく無いんだよな」
機械好きとして多少の興味はあるものの、航空機の構造なんかを正確に把握しているわけではない。ロボットであればどのような原理で動いているかと興味を持つライトだが、ロボット以外となるととたんに意欲が薄れるのである。
「このゲームの中でもネットは見れるから、もし電子書籍なんかを使うならログアウトしなくても大丈夫だぞ」
「うい。後何回か飛んでみてから勉強する。わざわざ時間割いてくれてサンキューな」
これ以上時間は取らせないと、ライトは暗に告げる。
「ああ。また連絡する。ロボットにこだわるのも良いが、このゲームを楽しんでくれよ」
「まあ、善処するよ」
曖昧なライトの答えにタスクは苦笑する。ライトにとっては、やはり何よりも憧れのロボットに近づくことが優先されてしまうのだ。
「まあでも、話を聞く限りではなんかできそうな気がするな」
それでも、できそうだと。楽しそうに言うライトにタスクは笑う。釣られるようにライトも笑った。
知識があれど、ライトの本質はただ一つのものに惹かれ続ける少年だ。
その少年は、憧れに続くかもしれない道の上に立った。できるかもしれない。あるいは、無理かもしれない。だが少なくとも、無駄なものを作り続けることにはならない。
それがライトには、嬉しくて仕方がなかった。