【更新未定】This sky is… 天駆ける流星【供養】 作:アママサ二次創作
「んっ、と。よし」
ゲームを初めて3日目。朝からゲームにログインしたライトは、マイルームに持っているアイテムやリラを全て預けた後街の外へとやってきた。
結局昨日もほとんど飛行機関連の知識を得るのに費やしてしまったためフライトユニットの可動部分の確認程度しか出来ず、まともに飛ぶ練習を始めるのは今日が初めてだ。
「おーやってるやってる。あの人もすごいな」
街の外に出ると、昨日から見かけるようになったフライトユニットのサバイバーが離陸していくのが見えた。昨日少し見た限りでは飛び立ってすぐに墜落して戻ってきているようだが、飽きること無く飛び立っていく。
「さーてじゃあ俺も行くか」
ユニットに点火したライトも、彼女の後を追うように離陸する。エンジンの構造やユニットの可動部分を認識したライトは、初日よりもなめらかに、そして早く空中へと旅立った。
『Dawn Odessey』では、フライトユニットはサバイバーの曖昧な意思にも反応する。しかし、構造を認識して正確な意思を送ると、ユニットはより早く正確な反応を返してくれる。
例えば、ライトは初日はただエンジンに動けと言う信号を送っていた。それに対して、ある程度の知識と確認を得た今回は、背中のフライトユニット、その上側に向けてせり上がった円錐状の突起の中に収まった1基のレシプロエンジンに対して、明確に構造を認識してどう稼働するかまで想像している。
エンジン出力を最大にし最高速に到達したライトは、エレボンと呼ばれる飛行機を操縦する際に用いられる動翼を動かしてピッチアップを行う。初日の上昇角よりも角度は厳しく、どんどん上へと登っていく。
地上はどんどんと離れて霞がかかっていき、代わりに青空が近づいていくるかのようにその濃さを増していくが、ウインドウに集中したライトはそれらを見ていない。
「結構登れるな。残りMPは100近くある。なら、旋回と行きますか!」
ウインドウを閉じたライトは、そこで初めて、周囲の景色へと目を向けた。
「ワオ……すげえなこれ」
その光景に、思わず旋回を中断してユニットを巡航形態に戻し、青の中をまっすぐ進んでいく。
「青い、ってか紺色だなこれは」
青よりなお深い青。そんな言葉がライトの頭に浮かぶ。地上から見るよりも遥かに濃い青に、白のコントラストは非常によく映えた。
「……意外と、いいな。これは」
ライトは空そのものにはそれほど興味は無く、飛ぶという行為すら自分の理想である動きをするための実験程度にしか考えていなかった。だが、高高度で見たその空の色は、ライトのそうした先入観を一瞬で打ち壊していった。
「……よし、どうせもっかい見に来るからよし、ってことで旋回だ!」
気持ちを切り替えたライトは周囲の青や遥か彼方の緑に引き込まれる意識を引き戻して旋回へと挑戦する。
得たのは知識だけ。ならば、実際にやってみるしかない。
再びユニットを高速形態に戻したライトはバンク角を大きく取り、思い切り旋回していく。体にぐぐぐっと大きなGがかかるが、耐えられないほどのものではない。
もともとこのゲームでは、高高度における気温の低さや風の冷たさ、飛行時の負荷のかかり方など、サバイバーの行動の障害になりそうな感覚を緩和してくれているのだ。
「よし、耐えてる耐えてる……!」
大きくGをかけたまま360度の旋回を終えたライトは、もとの針路へと戻る。
「うん、全然遅いなやっぱ。まあでも、あのバンク角にちゃんと耐えるか」
本来飛行機が旋回する際には、バンク角、すなわち機体の傾きが大きければ大きいほど、また速度が速ければ速いほど機体に負荷がかかる。だが先程旋回した際には、ユニットはライトが壊れると想定した負荷に耐えた。
「そもそもユニットだから現実の飛行機と違って壊れなかったりするんかな。というか、そんな気がするな」
ライトが考えながら残りMP残量を見ると、すでに50を下回っている。360度の旋回に入る前に確認したときには80程あったので、おそらく20秒程度はかかっていた。
「よーしエンジンカットー!」
残り時間が短いことを確認したライトは元気よく声を張り上げ、ユニットのエンジンを切る。そのおかげでMPの消費は減ったが、同時にユニットの推力が失われたことで十分な揚力が得られなくなり、ライトの体は落下を始める。
その状態から今回はユニットを下にしてショックに備えるのではなく、頭を下にしてまっすぐ下へと飛んでいるような姿勢を作り出した。
残りMPは33。33秒の勝負。
「街はあっちだな」
エンジンが起動していない状態でも動くエレボンを動かしてながら体をひねり、ユニット側に街が存在する体勢を作る。
ごうごうと風がライトの耳を叩き、白が視界の端を飛ぶように消えていく。どんどんと明瞭になっていく地面との距離が100メートルを切ったところで、ライトは次の行動に移る。
「起き上がれ……!」
エンジンを点火し、一気に最大出力に。そして全力で体を起こす。地面に対して垂直に向かっていた運動を、水平方向に引き上げる。
が。
「あっ」
高高度からの落下でついた速度は当然、試製一型の推力揚力程度で殺しきれるはずはなく、ライトは三度目の地面との接触を経験した。
******
「だめかー。まあ垂直からの復帰が無理なのは想定内だな。もう少し角度を変えるかユニットをアップグレードするかだな」
死に戻りで広場に飛ばされたライトは、再び街の外へ向かいながら先程の飛行を振り返る。感覚はどうだったか。所要時間は、飛行距離は。
そうやって自分の感覚と現実をすり合わせていき、思うがままに飛ぶことが出来るようになる。それが、新しいことを始めるときのライトのやり方だ。
「とりあえず……飛ばないとだめだな。よし」
ウインドウを閉じたライトは、再びユニットを装着する。ただ飛べるようになれば良いというわけではない。メートル単位、センチ単位で精密に飛行し、飛びながら他の情報を頭で処理できるようにする。出来ることなら、ユニットの操作が無意識のうちに思い描く飛び方と連動するように。
そのレベルになってようやく、ライトは自分が習熟したと思えるのだ。
「いやー、それにしても落ちるのにも慣れてしまったな。今ならジェットコースターも余裕かもしれん」
連続で墜落しているライトだがそれで気が滅入るということはなく、むしろ慣れてきたことでくだらないことを呟く余裕も出てきた。
「よし、じゃあ次はループか……キューバンエイトの方が簡単かな。キューバンってなんかやだな。まあいいか」
購入した電子書籍の中から簡単そうな戦闘機の機動を選び、それに順にチャンレンジするためにライトは空へと飛び立つ。墜落する気まんまんで。
******
夜、ゲームをプレイし始めてから日課となった通話を、佑と翔はしていた。
『それはお前が、なんとなくでも戦闘が出来てしまったからだろうな』
「やっぱりそうか。お前のいう何も出来ない状態じゃなくなったもんな」
『ああ。諦めて買ってくれ』
「はいよ」
今日翔が相談したのは、相当回数墜落して死亡したにも関わらず佑の言っていた支援用AIが手に入らなかったことだ。佑の言っていた条件を満たすためにも翔は墜落を繰り返したのだが、墜落回数は優に30回を超えたにも関わらず手に入らなかったのだ。
「あでも、【墜落耐性Ⅰ】と【飛行適正Ⅰ】ってスキルなら手に入ったぞ」
『良かったな』
【墜落耐性Ⅰ】というのは、文字通り墜落した際の衝撃やダメージを軽減するためのスキルだ。ライトはフライトユニットを使用している際に一定回数墜落し、その取得条件を満たしたために自然と入手した。
もう一つの【飛行適正Ⅰ】というのは、飛行時のMP消費を5%軽減してくれるスキルだ。こちらは飛行時間の条件を満たしたため取得できたスキルである。
「【飛行適正Ⅰ】はまあありがたいけど、【墜落耐性Ⅰ】の方はあんま使えそうに無いんだよな」
『そうか?』
佑が知っている限りではまさにフライトユニット向けのスキルだったはずだが、翔は軽くいらないと言う。
「いやだって俺は落ちた時点で終わりだからな。衝突のダメージも軽減してくれるみたいだけど、そもそも体当たりする時点でこっちは命がけだ。そこで10%ぐらいダメージが軽減されたところでって話なんだよ。空中で衝突するのなんてナンセンスだしな」
『……全くもって安全性を考えてないあたりがお前らしいな』
「だろ?」
ヘヘッと笑いながら翔は答える。後先を考えない、よく言えば思い切りがいい。翔の短所でもあり、長所でもある。
『褒めていない』
「真面目な話、安全性を考えるならフライトユニット使わないだろ。安全性よりもいかに速く鋭く飛べるかってユニットだからな」
『そこまで極端なのが普通だとは思わないが、一理あるな』
「俺にとってはそれが十理なの」
くだらない言い合いをしながら、佑と翔はゲーム内のことについて会話を交わす。といっても、佑の側から自分の活動を具体的に語ることはまったくない。
あくまで、翔が自分で楽しめるようにと配慮しているのだ。
翔もそれに気づいているので、あえて自分のしたことや新しく知ったことについて遠慮すること無く語る。
口には出さずとも互いに雰囲気からわかる。学校でも周りから『いつも一緒にいる』と言われる二人の会話だ。
『また何か困ったことがあったら連絡してくれ』
「はいよ。多分明日も夜に連絡すると思うわ」
『わかった。じゃあ、また』
「ああ、おやすみ」
『おやすみ』