そして申し訳ありません(土下座)。
リアルで色々とあって体調を壊してしまい、なんとか快復しましたので、またぼちぼち再開していきたいと思います。
待って下さった方々、お待たせいたしました。
うだるような夏の暑さが去り、蝉の鳴き声の代わりに紅く染まり始めた葉が舞う季節へとなったある日のこと。
バシッ。
「文様の、馬鹿、変態、大っ嫌い!!」
妖怪の山中に響くのではなかろうかというほどの大声で叫んだのは、純白の毛並みの狼の耳と尻尾を持つ、白狼天狗の犬走椛。哨戒任務でほぼ一日中外にいるため健康的に日焼けした肌を真っ赤に染めて、飛び去った彼女の後には。
「・・・?・・・!・・・!?」
真っ白になって茫然自失なヒトリの鴉天狗が立っていた。
「・・・使いの鴉からの手紙に「大至急救援求ム」って書いてあったから来てみれば、下らんことでヒトを呼ぶな」
「下らなくなんてないわよ!」
場所は変わり、射命丸文の自宅。
一通りの経緯を話し終えた家主の前には、不機嫌さを隠そうとしない藍が座っていた。
「はあ、せっかくの憩いの時間が・・・」
「どうせ独り寂しくしているくせぐふぅ!?」
いつもより早めに仕事が終わり、久しぶりにのんびりしようとしていた藍は、突然窓から飛来した一羽の鴉によってそれを中断しなければいけなくなり、しかもその理由はまだはっきりとしていなくても、十中八九目の前の相手の落ち度だろう。不機嫌にもなる。とりあえず反省の色が見えないため鳩尾に一撃ぶち込み、膝から崩れ落ちる文で溜飲を下げる。
「い、いい拳じゃないの・・・。だけど甘いわ藍!これぐらいで倒れ・・・はしないけど流石にこの距離でスペルカード食らうのはキツイからとりあえず話を聴いてください」
「最初からそう言え」
勢い良く起き上がった反動でそのまま土下座する文に、掲げていたスペルカードをしまう。結構な本気で殴ったのにも関わらず、十数秒で復帰するのは流石というべきか。
くいっ、こくん。
ぐいっ、ごくん。
口の滑りを良くするため、それぞれ酒を煽る。
ちなみにまだお昼だが、互いに仕事は終えているし、何よりこの二人が会った時点で、酒が入らないことはまず無かった。
酒が喉を焼く感覚を堪能した後、文が口を開いた。
「そう、ことの始まりは、今日の早朝だった。いつものように新聞を配り終え、家に戻って一眠りしようと飛んでいた私はふと視線を感じ、下を見たわ。何とそこには愛しの椛の姿が!」
「朝の任務か、はたまた修行か。どちらにしても真面目な椛らしい」
「もちろん、ちょっと本気出してセクハごほん、愛の抱擁に向かったわ!」
「今確実にセクハラって言いかけたよな!?」
ちなみに、徹夜明けのテンションでハイになっていたためちょっとどころか能力が制御しきれておらず、通ったあとの木々が全て倒れていたそうな。徹夜明けのテンションって怖いね。
「ち、ち、ち。これくらいの事は既に何度もやっているわ。その度に剣をぶん投げられるけど」
「いっそ刺されてしまえ。・・・というか、それでいい加減にぶち切れただけじゃないのか」
呆れた視線を投げつける藍に、文はブンブン首を振った、横に。
「違う、違うのよ!私もまたいつもの絡みになると考えていたけれど、その時だけは違ったわ。何しろあの子、顔を真っ赤にしながらも、両腕を広げて私に抱き着いて来たのよ・・・!」
「なん、だと・・・!?」
信じられない言葉に唖然とする藍。だが、さらに衝撃の事実を文は告げる。
「それだけじゃないわ!さらに調子に乗ってスカートを捲りあげたときも、いつもなら思い切り絞め技を食らうのに、ただスカートを押さえてこう言ったの・・・!」
「何を、何を言ったというんだ!」
「『は、恥ずかしいです文様・・・』よ!」
ピチューン。
少女復活中。しばらくお待ちください。
「な、なんて羨ましいもとい、大変なことに・・・!」
袖口から取り出した手拭いで鼻を抑えながら、呻く藍。思いのほか溢れすぎた想いで、白かった筈の手拭いの布が真っ赤に染まる。
「今さらっと本音出たわね。・・・私が言うのもなんだけど、出会ったころに比べると、アンタ大分残念になってない?」
朱に交われば何とやら。
文の若干呆れた視線と台詞に、明後日の方向へ視線を逸らす。気のせいだと返したいが、自身でも薄々と気づいていたため、黙秘することにした。
カムバック、純粋だったころの私!
「まあふざけるのはこれくらいにして。確かにいつもの椛とは違うみたいだな」
「でしょう?」
しばし考え、一つの案を提示してみる。
「なら、私が彼女に会ってみよう。彼女の行動の原因がお前であるかどうか分からない現在、件の張本人に会ったほうが早い」
「・・・そうかもね。なら任せるわ」
「ま、きっちりと報酬は頂くがな」
「ちょっ、そこは昔馴染みの縁とかいうとこじゃないの!?」
「何を言う。昔馴染みだからこそ、遠慮しないだけだ」
これからの方針を決めたら、早速私は行動に移ることにした。文に聞いたことろ、今日は椛は非番らしい。今朝色々あったばかりだし、妖怪の山にはいないだろうと考え、そこには念のため式神だけ放っておいて、そこ以外を重点的に探していく。
・・・意外にも対象はすんなりと見つかった。椛は人里にある茶屋にいた。結構な甘党である彼女は甘味を人一倍多く食べるが、私が茶屋に着いたときには、彼女の横に重なっている団子の皿は十数枚ほどになっていた。
そして、当の本人はというと。
「・・・」
両手に団子を数本持ち、無表情で黙々と食べ続けていた。何か周りに暗い雰囲気も漂っている。・・・あ、近くにいたお客が逃げ出した。
本音を言えば近づきたくない雰囲気だが、文に約束した手前もある。気持ちを切り替えて椛に足を進めた。
「椛、椛?」
「・・・ああ、藍さんですか。こんにちは」
何度目かの呼びかけでようやく顔を上げ、私に視線を向けた椛。いつもは生き生きと輝いている瞳が、今はどこかくすんで見えた。
「こんにちは。・・・隣いいかな?」
「・・・どうぞ」
許可をもらい、高く積み上がる皿が置いてあるのとは逆のほうに腰を下ろす。若干ビクついてやって来た店員にお茶を頼み、届いたそれを飲みながら、何から話すべきか考える。
「・・・何か私に用事でも?」
「いや、いつもより多く団子を食べているのに少々驚いただけさ。何か悩み事でもあるのかい?」
「!?」
流石は妖怪の山の誇る哨戒天狗だけはある。少しの視線にもすぐに反応してきた。・・・だがその後の私がそれとなく(見えるように)聞いた瞬間、持っていた皿を取り落とすほどの動揺を見せた。
「っとと。・・・その様子だと、心当たりあるようだね」
地面に落ちて割れる前に尻尾で皿を回収し、空き皿の山に追加しながら、確信する。やはり彼女は何かを隠している。・・・確信はしたが、流石に無理矢理聞き出す分けにもいかない。幸い時間はまだまだあるし、ここは「鳴かぬなら、鳴くまで待つ」手法をとる事にする。
「すみません、私にも団子を」
それから二人でしばらく団子を食べる音が続き、私が数枚、椛が店の団子全部食べきったかと思えるほどの空き皿を積み上げたころ。
「・・・藍さんはご存じないことでしょうが、今日は私が初めて、妖怪の山での哨戒任務を上の方より承った日、なんです」
「・・・」
視線で先を促す。
「白狼天狗として、今までの鍛錬や模擬訓練とは違い、何もかもが初めてのことで緊張していた私に声を掛けてくださったのが、当時新米天狗の教導担当として着いていらした、文様でした」
当時のことを思い出しているのか、懐かしそうに目を細めて遠くを見つめている。
「今でもあのことは鮮明に覚えています。緊張で震える私の手を握って、優しく『緊張しないで、貴女は自然のままが一番ですよ』と。厳しく叱る他の教導役の方々と違う、優しい風を纏ったあの方を、私はその時から尊敬しているんです。いつか、この方みたいになろう、と」
だから、と椛は一度口を閉ざし、小さく、しかしはっきりと告げた。
「だから今日だけは、あの方に伝えたかったんです。今の私がいるのは、あのヒトのおかげですから」
・・・なるほど、そういうことか。ならば、私がするべきことはただ一つ。
私は代金を空き皿の横に置き、腰を上げ椛に向き合う。
「椛、貴女はもう一度その場所へ向かい、待っててもらえるかな」
「え、藍さん、何を・・・」
「あの鈍感ガラスを蹴りだしてくる」
椛の返事も聞かず、私は久々に本気で目的地まで飛び出した。
そして翌日。
「・・・で、あれからどうした」
「いやあ、無事椛から話を聴けましたよ」
詳しく聴くと、私が文の自宅であいつの背中を(物理的に)蹴り出してから、椛が待つ場所、最初に二人が出会ったあの訓練所に向かったらしい。そこで何故か半ば自棄になった椛から感謝の言葉と「尊敬しています」の言葉をもらったとのこと。
まあ、無事に済んで良かった。
「しかし、椛が覚えているとは思いませんでしたよ。ちょっと恥ずかしかったですけど、やっぱり嬉しかったですね」
「そうか」
いつもの愛想笑いではなく、照れくさそうに笑う文は珍しい。普段ならからかうところだが、今回ばかりは何も言わず、猪口を傾ける。
「他人にとっては大したことではない出来事でも、当人にとってはとても大事な記憶なのだろうな」
「大事な記憶、かあ・・・。そういえば、私たちが出会ったときのこと、藍は覚えてる?」
「・・・ああ、覚えてるさ。お前は出会い頭に私の胸を鷲掴みしてくれたよな」
あの時は初対面だったし、私もまだ若かったからただ呆然としていたが、今されたらすぐにその腕を関節とは逆にへし折ってやるところだが。
「いやだって、男か女か見た目じゃはっきりしなかったんだもの。はっきりと『あなた男?女?』とか聞いたら失礼かなって思って」
「だからと言ってなぜ行動に移す。それこそ失礼だろうが」
閑話休題。
「まあそれはともかくとして。出会ってからもう数百年以上経っているのか。・・・本当にお前といると碌な事がなかったな」
「どうせ人間と違って寿命はまだまだあるんだから、毎日同じことをするのもつまらないでしょう?藍だって結局は一緒になってのってきたんだし、お互い様よ」
ごっきゅごっきゅ。
猪口では足りなくなったのか、日本酒の瓶に直接口をつけて呑み始める文。
・・・お互い様、か。確かに、私たち妖怪の寿命は遥かに長く、永い。いつもの生活の中に、時々は違うことをするのも、また長生きするためのコツ、なのだろう。
「ほら、藍も呑みなさいよ!今日はとことん呑むんだからね、先に帰らせたりなんかしないわよ?」
「・・・まあこんな日もたまには良いか」
ちょっとした趣向を思いついて、酒を注いだ猪口を文に見えるように持ち上げると、向こうもなんとなく趣旨を理解したようで、机に転がしていた猪口に酒を注いで同じように持ち上げた。
どちらからともなく呟く。
「この素晴らしい日に」
「これからも変わらない私たちに」
『乾杯!』
そう、たまには昔に酔ってみるのも、悪くない。
いかがでしたでしょうか。
本編も載せますので、また次回をお待ちいただけると。
読了ありがとうございました!