何故?
東風谷早苗「まぼろしと懐かしのラムネ」
照らす太陽に上がる気温、鳴り響く蝉の鳴き声。 ようやくここ幻想郷にも、夏がやってきた。
つい最近まで、空一面が紅い霧に覆われる紅魔異変や、春なのに冬が終わらないという春雪異変を始めとする、さまざまな異変が勃発したためか、幻想郷での季節の流れが少し遅れているように感じていた。けれども、いつもより確かに少しばかり遅目だったが、対した誤差もなく夏の季節となって良かった。
「良かったのだけれど、何故私はこんな暑い中荷物運びをしているのだろう…」
今現在、私こと八雲藍は、マヨイガから出て幻想郷中を飛び回っている。その理由は、背中に背負っている籠、詳しく言うと、その中に積んでいるラムネだ。
事の始まりは2日前のこと。私の主である八雲紫様が、外の世界でラムネを飲んで気に入り、お土産として大量に持ち帰ってきたのが原因だ。流石に一部屋を埋め尽くすほどのラムネを、紫様と私で消費するのは厳しい。それで、渋る紫様から強引に許可をもらい、幻想郷中に配り回っているのだ。
「…さて、後は守矢神社だけか」
昨日からずっと配り続けていたため、あと残りは、妖怪の山の頂上にある守矢神社に配る分だけだ。ようやく見えた終わりの兆しに安堵し、私は高度を上げて最後の仕事に向かった。
守矢神社の鳥居手前に降り立ち、籠を背負い直して鳥居をくぐる。やはりというか、境内には、蒼白の巫女衣装に身を包んだ風祝、東風谷早苗が箒を手に掃除の最中であった。 足音で気付いたのか、私の姿を見た彼女がパタパタと駆け寄ってきた。
「こんにちは、藍さん!今日は何か御用ですか?あいにくと、神奈子様達は妖怪の山の定期会合で明日までは戻られませんが…」
「こんにちは、早苗。いやなに、大した事ではないのだけれどね。早苗は、ラムネは好きかな?」
「ラムネですか?はい、外にいたときはこんな暑い日によく飲んでましたねー。ああ、あのシュワシュワ感が懐かしいなあ…」
その返答に安心した。私は背中の籠を下ろし、中からラムネの瓶を取り出して、早苗に差し出した。
「なら、これをもらってはくれないだろうか」
「え、これって、ラムネ!?い、いいんですか?もらっちゃっても」
まさか目の前に実物が現れるとは思わなかったようだ。おそるおそる手を伸ばして私からラムネを受け取った早苗は、少しの間、瓶を太陽に翳してみたり、色んな角度から眺めていた。そしてようやく落ち着いたかと思っていれば、なんとラムネの蓋を開け、口につけて一気に傾けてしまった。
「っぷはぁ!」
「お、おい大丈夫か?」
一度も息継ぎせずに瓶の中身を飲み干すと、そのまま大きく息を吐き出す早苗。しかしさすがに炭酸を一気に体内に入れるのはキツかったか、すぐにゴホゴホと咽せてしまう。
「ゴホッ。…ご、ごめんなさい、久しぶりだったものだからつい」
「いやいや、そこまで気に入ってくれたのなら良かった。まだラムネはあるんだが、何本くらい「全部下さい!」」
いるだろうか、と言いかけた私の手を掴み、ぐっと身を乗り出した早苗が言葉を遮った。まあ、何はともあれこれでほとんどのラムネの在庫が消えたことは嬉しい。目的は果たしたことだし、挨拶だけしてお暇しようと早苗を見ると、ぼんやりと遠い何処かに視線を向けて佇んでいた。
「…どうかしたのか?」
「え?あ、いいえ。ただ、ちょっと昔のことを思い出しまして。…おかしいですよね。自分の意思でこの幻想郷に来ることを望んでいたのに、今でもふと考えるんです。あ、別に後悔している訳では無いですよ!?ただ、誰か1人にでも、ちゃんと挨拶しておけば良かったなあ、って」
そう話す早苗の表情に変わりは無いが、その瞳には寂しさが滲んでいた。
「そのこと、八坂の神と諏訪の神には?」
「神奈子様と諏訪子様ですか?いえ、心配をかけないよう、伝えてはいません。ただ、お二人は何となく気付いているようで、私が落ち込んでいると一緒に寝てくれたりしてして下さってます。…それで、もし良かったら、今晩は泊まっていってくれませんか?」
ふむ、と私はこの後の予定を振り返る。急ぎ済ませなければならない仕事は、既に終わらせている。後は紫様の夕飯の支度等があるが、まああの方はあちこちへ出掛けているようだし、何より、今の早苗を放って置くことは出来なかった。今回は大目に見ていただこう。
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「はい!」
それからの行動はあっという間だった。
2人で掃除を終わらせた後、少しだけお酒を呑みながら夕食をとり、断りきれずにお風呂も共に入った私達は、今現在布団の中だ。お風呂に入った辺りからまるでスイッチが入ったように、グイグイと甘えて来る早苗を引き離そうにも、寂しさに濡れた瞳で見つめられたら、罪悪感が半端無かった。結局今も、一つの布団で早苗が私にしっかり抱きついたまま、寝息を立てていた。
「やれやれ、ようやく落ち着いたか…」
しかしまあ、私も久しぶりに誰かと一緒に過ごせて、楽しく感じていたのは確かだった。 いつもの大人びた姿はなく、まだ幼さの残る寝顔につられ、私も次第に眠気に襲われていった。
そして翌朝。思いの外ぐっすりと眠れたため、気持ちよく目覚めた私は、いまだ夢のなかにいる早苗の代わりに朝食を作ることにした。
卓袱台に朝食をならび終え、早苗を起こしに向かおうとして、
「ただいまー。早苗、起きてるー、って、あれ?」
「…おや?どうして妖怪の賢者の式がウチに?」
「えーと、お帰りなさいませ。…取り敢えず、朝食はいかがですか?」
どうやら先に、保護者の神二人に事情を説明することになりそうだった。
「…そういうことか。すまないね、早苗が迷惑をかけたようで」
「いえ、こちらこそ余計なお節介だったかも知れませんが」
八坂の神、八坂神奈子の言葉に首を横に振りつつも、心中で安堵する。もし自分たちの巫女を傷つけたとなれば、絶対に黙ってはいないだろう。それこそスペルカード関係なしの、古代の神による粛正が行われるに違いない。
…いやまあ、冗談だよ?
「うーん、でもずっとこのままは良くないよねえ」
そんな失礼なことを考えているとは知らない諏訪の神、守矢諏訪子が困ったように頭の後ろで手を組む。
「しかしなあ、こればっかりはどうにもない。今までにも何度もあの子の気をまぎらわせようとしたけど、結局はことごとく失敗している」
「あの子は、私たちに心配かけまいとしているから、余計にね」
うーん、と三人で何か良い知恵がないものか悩んでいると、ゆっくりとした足取りで早苗がこちらに歩いて来るのが見えた。
「…あれ、神奈子様に諏訪子様?帰ってらしたんですね」
まだ眠いのか、目元を擦りながら嬉しそうに表情を綻ばせる。幼い仕草に和んでいた私の脳裏に、一つの案が浮かび上がった。
「お二方、ちょっとよろしいですか」
「「ん?」」
神二人にさっき思いついた案を耳打ちすると、表情が喜色に染まっていく。どうやらお気にめしたらしい。
「…なるほど、それはいい考えかもしれない。しかし、」
「そっちはいいの?これバレたらやばいんじゃあ」
「…まあそれは、私が後で何とかします。さあ時間がありませんし、行きましょう!」
私は精神を集中し、妖力と霊力を練り上げていく。紫様に付けられている式に組み込まれているのは、身体能力や演算力の向上をメインとしているが、緊急用として、紫様の「境界を操る程度の能力」を使えるようになっているのだ。
「くうっ、お二人とも申し訳ありませんが、目的地の座標を」
「うむ」
「まっかせなさい!」
二神から受け取った「力」から、目的地への座標を割り出し、今私たちがいるこの場と接続する。繋がったことを確認して、練り上げていた力を解放。身体の奥から力がごっそり抜けていく感覚と共に目の前、いや目の前の空間に亀裂のような一筋の線が入り、それが枠となって、暗い空間に無数の目が存在する「スキマ」が開いていった。
「っはあ、はっ」
ひどい倦怠感が身体を包む。覚悟はしていたが、これはキツい。たまに仕事でスキマを使用することはあるが、それは紫様が許可を出している時の話だ。今は無許可で無理矢理制御しているため、反動が凄い。
「大丈夫かい?ほら水だよ」
「あ、ありがとうございます」
諏訪子からコップを受け取り、ついでに懐から丸薬を一つ取り出し、水と一緒に口に放り込んで奥歯で噛み砕く。これは永遠亭の薬師、八意永琳特製の霊力回復丸薬だ。非常に苦いが、良薬口に苦し。全快とまではいかないが、それでも大部分の霊力が身体に満ちてくるのが分かる。これでまだしばらくは術を保つことができる。
「あのー、これは一体?」
さすがに目が覚めたのか、突然行動し始めた私達を不思議そうにみる早苗。しかし、今は説明している暇がない。アイコンタクトで理解してくれた諏訪子が早苗の腕を掴んだ。
「では行きますよ…!」
「ああ!」
「ほら行くよ早苗ー!」
「え、え、ちょっどこにですか、っきゃあああ!!」
スキマから抜け出た先は、幻想郷ほどではないが緑が生い茂った景色があり、その中に、紅魔館ほどの大きさの建造物がそびえ立っていた。「八雲藍である私」の知識にはないが、「八雲藍になる以前の私」は、似たような光景を記憶していた。
「ここって、私が通っていた高校…?」
早苗が信じられないように呟く。 そう、外の世界には当たり前のように存在し、かつて「八雲藍になる以前の私」も通ったことがある、学校である。
あの時、私が二神に告げたのは、「最後にもう一度だけ、思い出の場所へ行かせてあげないか」というもの。幻想郷の管理者である八雲紫様の式としては、それは間違っているのかもしれない。しかし、逆にこのまま郷里への想いが強くなり、外の世界へ戻ってしまうことになるやもしれない。既に幻想郷のパワーバランスの一角に組み込まれた守矢神社、そのメイン人物の1人である彼女が抜けるようなことがあってはならない。ということを考えれば、今回の私が起こした行動は、その対策という風に見ることも出来る。…それでも、紫様からのお仕置きは免れないだろうが。
そんな言い訳にもならないことを考えながら、私は早苗に視線を向ける。動揺して立ち尽くしたままの早苗に向かって、神奈子が口を開いた。
「ー早苗、お前は昔から手のかからない子だったね」
「か、神奈子様?」
「そうそう、周りが大人ばかりの中、まだ十にも満たなかった歳の早苗が大人顔負けに仕事をこなしていくものだから、随分と私たちが助けられたねえ」
「諏訪子様まで、いきなり何を…」
「…だけどそのせいか、あまり早苗には年頃の女の子として過ごさせてあげられなかったね」
「幻想郷に来る時も、お前は「大丈夫です」の一点張りで、信仰を取り戻すことで一杯だった私達もそれに甘えてしまった。だから、お前の寂しさに気付いてやれなかった」
「「本当に、すまなかった」」
真剣な表情で自分に向けて頭を下げた二神に困惑を隠せなかい早苗だったが、少しだけ顔を俯かせて、言葉を紡いでいく。
「…お二人が、私の世界の中心だったんです」
冗談まじりに私に話していたようなものじゃない。
「風祝として在る。それこそが私の目標、生きがい、全てでした。生まれ持った能力と、風祝としての血筋からか、周りからは遠巻きにされていましたから、特にそれ以外の繋がりが欲しいとも思わなかったですし」
今まで、決して言えない、言うつもりもなかった、
「…でも、忘れもしない高校生活最初の日、友人が出来ました。初めて、親友と呼べるような、人が」
「それからの日々は今までとは違う毎日でした。一緒に図書館でテスト勉強をしたり、帰り道で買い食いしたり、本当に、楽しかったんです」
心の奥深くにしまいこんで、
「もう二度と会えないこと自体に納得するまでは時間がかかりましたけど、それは私自身で決めたことです。後悔なんて絶対にしません。…けど、」
自分自身にさえも嘘をついていた、
「ただ一言、「ありがとう」が言いたかったんです」
寂しい、会いたい、でもそれ以上に。
「唯一の親友だった、彼女だけには」
この、感謝を。
「自分を偽りたくなかったんです」
全てを告げた早苗。彼女の視線は再び校舎へ向かう。夏の太陽の陽射しを受け、その横顔は輝いていた。
「…そうか」
神奈子は納得したように深く首肯した。反対に諏訪子は何故か帽子を取って、その空洞へ腕を突っ込んでいた。しばらく探っていたがようやく目的のものを見つけたのか、にんまりと口角を持ち上げ、帽子から腕を抜いた。
「よし、あった!ほれ早苗!」
「え、あ、これ…!」
お手玉しつつ受け取った物を見て、早苗はさらに驚く。それは、彼女が外の世界で使っていた携帯電話だった。なぜ諏訪子が持っているのかと聞きたいことは数あったが、それは後回しだ。
「河童に頼んで、充電しておいたよ。メール、送ってあげな」
「え、諏訪子様、私がメールを送っていたことに、気付いて…!?」
なるほど、確かに幻想郷では携帯の機能は、通話はもちろんのこと、メール機能も使うことは出来ない。作成は出来ても、相手に送ることが出来ないのだ。だが、今私達がいるのは、携帯が造られた外の世界だ。ここでなら本来の機能も十全に使うことができる。
早苗はすぐに携帯を開いて操作し始める。幻想郷に来て使う機会が無くなったため少しばかりぎこちないが、必死に指を動かして自分の想いを綴っていった。
「そ、送信っと」
文章を打ち終え、最後の送信ボタンを押した彼女は、ふぅっと息を吐く。が、直後に携帯から音楽が鳴り、慌てて携帯を開いた。
「え、学校に来てる!?…あ、そっか、今日は登校日なんだ。すいません藍さん、ちょっと場所を移動してもいいですか?」
「かまわないけれど、何処へ?」
早苗に言われて移動した先は、たくさんの机と椅子が並ぶ、とある教室だった。
「ここ、私が通っていたクラスだったんです。ほら、この机で私授業受けていたんですよ!」
はしゃいだ様子で教室中を歩き回る早苗。黒板に落書きしたり、自分が使っていたという席に座ったり、楽しそうだ。
そんな時、いきなり教室の扉が開いて、1人の女生徒が入って来た。その少女を見て、早苗が動きを止めた。
「どうして、ここに…」
「早苗、その子知っているのかい?」
「…ええ、先程お伝えした、親友ですよ」
早苗が親友と呼んだその少女は、教室に先に来ていた早苗達がまるで見えていないかのように、そのまま中へ入り一つの机に向かう。そして、制服のスカートから取り出した携帯を開いて、画面を見ながら呟く。
「おかしいなあ…。早苗から突然「どこにいますか?」なんてメールが届いたから、もしかしたらここに来てるのかもって思ったんだけど」
「(…もしかして、私達の姿って見えてないんですか?)」
こっそりと聞いてくる早苗は、どうやら気付いていなかったらしい。
「今こちらに来られているのは、私がスキマを開けて無理矢理外の世界と繋いだだけだからね。存在が幻想郷にある限りは、こちらで認識されることはないよ。…よほどの力さえ使ったりしなければ」
そう。今は外の世界に来ているとはいえ、それはただの一時のこと。ほとんど信仰の無いここでは、長くいれば信仰を力とする神にとってはあまり良くない。まあここにいるのは、【軍神】八坂神奈子や【祟り神の主】守矢諏訪子ほどの強大な力を持つ神に、その二柱を祀り、現人神という人間でありながら神となった存在である、【風祝】東風谷早苗だ。直ぐに影響が出ることはないだろうが、言ってみれば、信仰がないということはつまり、神を信じていないということになる。信じていないモノを視れる道理はないことから、神である彼女らは人間から姿を視られることがないのだ。…補足しておくと、外の世界では妖怪は空想上のモノとされているため、【九尾の妖狐】である私八雲藍も人間から姿は視えていない。
「普通に行動する分は構わないが、力を使えば少しといえども世界に影響を与えてしまうため、存在をより感じさせてしまうことになるんだよ」
「そうなんですか…」
ちょっと残念そうに早苗は手に持っていた大幣を袖に戻す。…先に言ってて良かった。そんなこんなしていた私達だったが、聞こえてきた言葉に思わず口を閉ざした。
「…でも何でかな。早苗からメールが届くまで、私は『東風谷 早苗』をすっかり忘れてしまっていたわ。まるで最初から出会って無かったみたいに」
一番に反応したのは、神奈子だった。
「…もしかして、これが八雲の言っていた、」
「『存在が幻想郷へと移る』ということなんだね。成る程、今回は幻想郷から一度出たことと、早苗が送ったメールがあったために、記憶が戻ったんだろうね」
続けるのは諏訪子。ようやく合点がいったというように頷いている。しかし、一人早苗だけは信じられないというように表情を変えていた。
「…思い出して、くれた?」
「よほど、早苗のことを大事に想っていたんだね。早苗と同じように」
口に出せずにはいられなかった。あれだけ会いたがっていた早苗の想いが、ちゃんと届いていたのだから。
…しかし、そう世界は甘くなかった。始めに気づいたのは神奈子。諏訪子を見て驚いたように声を上げる。
「ちょ、諏訪子アンタ身体透けてる!」
「あれ、ホントだね。というか、神奈子だって足元」
「私も透けてる!?」
諏訪子と神奈子の足元が、ゆっくりとだが薄くなって周りに溶けている。見れば、私も同じような状況になっていた。
「どうやら、開いていた隙間が閉じようとしているのでしょう。早く戻らなければ、幻想郷との繋がりが消え、存在も危ないです!」
再度力を込めて隙間を留めようとするが、あまり効果は感じない。おそらく、もって10分。
「それはマズいね…!早苗、聞いただろう!?もう時間が無いんだ、何かするなら早くしな!」
神奈子が早苗に向かって叫ぶ。早苗は振り向かずに頷くと、携帯を開いて何かを打ち込んでいく。
「これで、よし。…神奈子様、少しだけ力をお借りします」
携帯を閉じ、早苗は大幣を取り出してその先を窓に向ける。すると突然の突風が教室中に吹き荒れ、早苗の合図で私達は窓から外へ飛び出す。
そしてそのまま上空に浮かんだ早苗は、大幣を頭上に振り上げ、声を張り上げた。
「さあ、これが私から貴女へ送る、【現人神】東風谷早苗最後の、奇跡…」
そして静かにその腕を振り下ろす。早苗だけでなく、神奈子に諏訪子からも動きに合わせて力が溢れ、世界に溶けていく。いつも感じるものとは違い、とても神々しい波動が周りに満ちていた。
「…さ、行きましょうか?」
「…何とか無事に戻ってこれましたね」
「ああ。けど、」
「早苗…」
閉じる寸前のスキマを通って、何とか幻想郷へ戻って来た私達。だいぶ体力やら何やら消耗して、さっさと帰って休みたかったが、先程から一度も口を開かない一人の少女に視線を向ける。彼女とニ柱が起こした奇跡を見届けずに戻って来てしまったが、良かったのだろうか。ニ柱も心配そうにしている。
「…あれ、どうしたんですか藍さん。神奈子様に諏訪子様まで。私は大丈夫ですよ?だって、もう逢えないと思っていた人に逢えたんですから。…それに、」
そこまで告げて少し口ごもってしまったタイミングで、電子音が鳴り響く。まさか、と早苗が携帯を開き、画面を見て目を丸くする。
そしてそのまま私達に画面が見えるように腕を突き出す。
「それに、私の想いは、届きましたから!」
破顔した彼女が見せる小さな画面一杯に広がる蒼天に、真っ白な雲が綴る「ありがとう」の文字。その上を彩るのは、雨なんて降っていなかった筈なのに、
大きく、鮮やかに伸びる、七色の虹という、奇跡ーー。
読了、ありがとうございました。
実は、一番最初に浮かんだ番外編だったのですが、上手くまとめられなくて、今までかかってしまいました。
次こそは本編あげますので、お待ちください!