東方狐憑依伝   作:如月日和

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二日目の話もようやく終わりです。
あまり上手く締められませんでした…。


二日目⑤ 寺子屋と竹林の案内人~おまけ~

 

 竹林にいた件の妖怪を討伐するも、それなりの傷を負ってしまったため、妹紅の手を借りて何とか永遠亭にたどり着くことが出来た私、八雲藍は、今永遠亭の診察室にいた。

 

「…そう、分かったわ。後で、例の妖怪の亡骸を調べておくわ。突然竹林に発生した理由が分かるかも知れないしね」

 

「ああ。もし何か分かれば教えて頂けるとありがたい」

 私の目の前に座りながら、素早く適切な処置で傷を治療していくのは、この永遠亭が誇る天才薬師の八意永琳。彼女の手により、あっという間に私の肩の傷に薬が塗られ、包帯が巻かれていった。

 

「…はい、これでおしまい。流石、九尾の大妖ね。あれだけの大きな傷が出来ていたのに、出血は止まって組織も再生が始まっているわ。これなら、化膿止めと包帯だけでいいみたいね。…後は、」

 

 そう言って永琳が取り出したのは、注射器。

 

「この注射器には、貴女から預かった妖怪の一部から抽出した毒の解毒剤と、鎮痛剤を混ぜてあるわ。これを注入すれば治療は完了、と」

 

 説明している間にも彼女は注射器の鋭い針を私の腕に刺し、中の液体を注入していった。

 …液体の色が鮮やかな緑色だったのは、あえて気にしないことにした。

 

「そういえば、慧音が連れてきた子供はどうなったのだろう?いや、貴女の腕を疑っているわけではないが…」

 

「その子なら、急遽造った解毒剤である程度は毒を中和していたから、ついさっき貴方に打った解毒剤で完全に毒の心配はないわ。…ただ、瘴気の方はどちらかというと呪いに近いものだから、もう少し様子を見る必要があるけれど」

 

「紫様に私から伝えておこう。呪いの類であれば、霊夢や早苗の力が必要になるかもしれない」

 

「そうして頂戴。…さて、これで治療は完了。それじゃ「それじゃあ、私と話をしましょうか」…姫、人の言葉を遮らないで下さい」

 

部屋に入ってきたのは、永琳の主でここ永遠亭の主人である月の姫、蓬莱山輝夜。一つの組織のトップに相応しい気配を纏いつつ現れた彼女は、自分の従者を見やり、問う。

 

「永琳、準備は出来ているの?」

 

「仰せの通りですわ、姫」

 

どこか芝居がかったように恭しく頭を下げて応える永琳だったが、その姿はいつの間にか、もこもことした白い布で全身を包み、頭部にはピンと立った同色の兎の耳。…つまりは、兎の着ぐるみになっていた。

 

「いつの間に!?」

 

「私は従者。主である姫の命令に全て応えるのは当然のこと」

 

「いや、「祭りの準備をするように」とは言ったけれど、何も着ぐるみを着ろとは言ってないわよ、永琳」

 

従者の鏡のような台詞を告げる永琳、いや、うさえーりんだったが、その着ぐるみ姿ではちょっと同意はしたくなかった。しかも輝夜にバッサリと否定されてしまい、項垂れるその背中は哀愁を誘う。

 

「というか、祭りとは一体…」

 

「貴女は参加するの初めてだったわね。永遠亭では、毎月満月の晩に「例月祭」を行うの」

 

「ただ月を眺めて、因幡たちがついたお餅やご馳走を食べるだけなんだけどね」

 

そういえば、以前文の新聞に確かそんな記事が載っていたような気がする。

 

「悪いが、私は紫様に今までのことを報告しなければならないし、祭りに参加している時間は、」

 

「それなら大丈夫。確か今晩、妖怪の山で天狗の頭領や八坂の神と会合があるって話だったから、今頃宴会になってるわよ」

 

ふむ。今回の件はまだ周りには知られないほうがいいだろうし、紫様が戻ってくるまで報告は先伸ばしになりそうだ。

 

「それに今回は貴女用に、人里の豆腐屋で沢山油揚げを

買ってあるの」

 

「是非とも参加させて頂きます」

 

そう、だから別に油揚げに釣られた訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝夜に連れられて永遠亭の庭に出ると、何処を見ても真っ白な妖怪兎の姿が。

 

「凄い数の妖怪兎だな」

 

「あら、ここにいるのは祭りの準備を担当している因幡たちよ。亭の中にはまだまだたくさんの因幡がいるわ」

 

「なるほど」

 

彼女たちの邪魔をしないよう、静かに準備の様子を眺めていると、私たちの後ろより声が掛かった。

 

「…あれ、姫様?」

 

「それに隣にいるのは、八雲のとこの狐?」

 

振り向くと、フタリの兎が立っていた。その内のヒトリ、方耳がへにょっと垂れている方の兎、鈴仙は輝夜を見て不思議そうに首を捻り、もうヒトリの、他の妖怪兎たちと同じ耳とワンピース姿の兎、因幡てゐは私を怪訝そうに見つめてきた。

 

「あらフタリとも、準備の方はどう?」

 

「料理はあと盛り付けだけなので、師匠の手伝いに」

 

「餅も今ついてるので最後ですから、鈴仙の付き添いに。お師匠どこに居るか知りません?」

 

「さっきまで私たちと診察室にいたわ」

 

どうやら永琳を探していたようだ。ありがとうございます、と診察室に向かおうとした鈴仙とてゐ。

 

「…ちょっと待ちなさい。」

 

それを再度呼び止める輝夜。その表情がいつになく固い。

 

「永琳が貴女を何の用事で呼んだの?」

 

「内容までは伺っていませんけど、「貴女にしか出来ないことなの」とは仰っていました」

 

あの永琳がそこまで断言するということは、余程の用件なのだろうか。…しかし今の永琳は、ある意味別の方向へフルスロットルしている。恐らくは輝夜もそう思ったからこそ、確認したかったのだろう。

 

「そう。もう行っていいわ、月因幡。…頼んだわよ、地因幡」

 

「…あー、分かりました」

 

「?」

 

何となく理解したてゐの横で、既に何の話か理解出来ていない鈴仙が私を見てくるが、輝夜が後ろ手て私の背中をつねってくるので、苦笑いで返しておく。

 

「いきなりつねるのは止めてくれ」

 

「だって、そうでもしないと貴女絶対に話していたでしょう?」

 

フタリを見送った後、私の文句に悪びれもせず的確な言い返しをしてくる輝夜に、どこか自分の主を重ねてしまう。やはり従者や部下を持つ者は、どこかしら似てくるのだろうか。

 

「まあ永琳に限って、鈴仙たちに害を加えることはないから」

 

…こうやって、さらりと従者自慢するのも、似ている。

 

「そ、それじゃあ、私は庭の手伝いにでもうぐっ」

 

気恥ずかしくなって、この場を離れようとした私だったが、誰かに襟を掴まれて不可能に終わる。

 

「ようやく見つけたぞ、藍!」

 

「け、慧音…」

 

掴んだのは、いつの間にか後ろにやって来ていた慧音だった。振り向こうとしたが襟をまだ掴まれたままであり、表情は伺えなかったが、声色からして、かなり怒っているのは間違いない。

 

「お前ときたら、任せておけと言いながら、あんなに大怪我して…!」

 

大変心配させてしまったことは悪かったと思うが、襟から両肩に移動した手でガクンガクンと揺らされるのは、勘弁してください。

 

「おーい慧音ー、さすがに手を離してやらないと、大怪我よりも先に魂飛んでくよー」

 

傷は治療されても失った血液は戻っていないため若干貧血気味になっていた私は、慧音より少し遅れてやって来た妹紅の言葉がなければ、今頃白玉楼にいたかもしれない。

 

「す、すまない、つい熱くなって」

 

「…こちらこそ、大分心配かけてしまって」

 

廊下だと何かと目立つから、と輝夜に通された部屋で、互いに正座して向き合う私と慧音。当の輝夜は、大分暇をもて余していたらしく、妹紅をさんざんからかいまくった挙げ句、竹林にて限界バトル中。そのため、元来生真面目なフタリしかいないこの場、気まずい。

 

「そういえば、さっきはつい怪我をした肩を掴んでしまったが、大丈夫か?」

 

「一応これでも妖怪だからね、もう平気さ」

 

気まずい雰囲気を払拭するために、肩を軽く回して答える。それを見てほっと息を吐く慧音。しかしその瞳には、先ほどよりは落ち着いたとはいえ、少しの怒りと僅かな後悔が見え隠れしていた。

 

「…まさか自分も残っていれば、とか思っていないだろうね?」

 

その言葉に驚いて私を凝視する慧音。分かりやすい態度にやれやれ、と大袈裟に首を振る。

 

「慧音、忘れてはいないか?あの時慧音も残れば、確かに私の負担も減って、もしかしたら怪我もしなかったかもしれない。…けど、」

 

慧音と視線を合わせる。

 

「その場合、あの子供は確実に死んでいた」

 

はっ、と息を詰めた彼女は私の言いたいことに気付いたようだが、そのまま続ける。

 

「私の怪我は、時間が経てば治る。だが、命は失ったらもう戻らない。私達に子供を託した子供の両親に何と言う?」

 

慧音の身体が震える。生真面目な彼女は、そのもしもの場面を想像したのだろう。

 

「子供が無事に助かった。過程はどうあれ、それでいいじゃないか。…だろう、永琳?」

 

「ええ、そうね」

 

最後の言葉は背後の襖にいい放つと、音を立てずに襖を開き、永琳が入ってきた。

 

「八意殿!?」

 

「ごめんなさいね、祭の開始を伝えるために来たのだけれど、入る雰囲気じゃなかったから」

 

驚く慧音に近づいた永琳は、一枚の便箋を手渡す。

 

「?」

 

「読んでみなさい」

 

便箋を開いて中を見たとたん、慧音は顔を俯かせてさっきの比じゃないほど、身体を震わせる。

 

「良か、った。本当に、良かった…!」

 

畳の上に落ちた便箋を拾い上げ、視線をおとす。

 

「これは…はは、参ったね…」

 

思わず声が漏れる。

そこには、拙いが便箋いっぱいに、「助けてくれてありがとう」の文字が広がっていた。

 

「あの子がさっき目を覚ましたの。竹林でのことはほとんど覚えていないらしいけど、「慧音先生」と「狐のお姉さん」は覚えていたみたいよ」

 

何てタイミングがいい。この便箋が、慧音の心に一番響いただろう。まだ目元は赤いが、顔を上げた彼女の瞳に、先ほどまでの感情は残っていなかった。

 

「フタリとも、落ち着いたようね」

 

「待たせてすまないな、永琳。…さあせっかくの祭りだ、楽しもうじゃないか、慧音!」

 

思えば、今日は朝からいきなり寺子屋の教師になったり、子供を助けるために竹林で妖怪と闘ったり、怒涛の1日だった。…まあやることはまだあるが、今くらいは楽しませてもらおう。

 

「あら、ようやく来たわね」

 

「遅いぞ、フタリともー」

 

「うう、もう着替えたい…」

 

「くっ、お師匠の暴走を止められなかったか…」

 

いつの間にか竹林から戻ってきた輝夜や妹紅、何故かバニーガール姿の鈴仙とてゐに見えるように、大きく手を振った。

 

 

 

 

 




読了、ありがとうございます!
最近、藍の口調が安定しないのが悩みです。
どうしてこうも思ったようにいかないのでしょう?
徐々に藍についても出していけたらな、とは思ってます。
次は本編が先か、番外編が先か…。
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