東方狐憑依伝   作:如月日和

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お久しぶりでございます。
大分お待たせして申し訳ありませんでした!
仕事の都合で研修に行ったり、体調を崩したり、ネタが浮かばずに書いたり消したりして、何とか出来ました。
よろしかったら、どうぞ。


三日目②猫とマヨヒガ

 

 

 

 久しぶりの静かな、けれど居心地の良い朝食を終え、台所にて食器洗い中の藍は、この後の予定を脳内で組み立てていく。

 最近は主に黒白魔法使いやパパラッチ鴉の介入のせいでまったくといって修行の時間が取れず、早三日目の朝を迎えてしまった。もともとは修行のための一週間だ。いいかげん、本来の目的を実行しなければならない。

 

「…さて洗い物も済んだし、腹ごなしを兼ねて修行といこうか、霊夢?」

 

 藍が霊夢の方を振り向くと、食後のお茶を楽しんで緩んでいた顔が途端に嫌そうなものに変わっていた。

 

「別に朝からしなくたっていいじゃない。それに、神社で修行たって何するのよ?」

 

「そうは言っても、今日でもう三日経っているがまともな修行はしていないじゃないか。…しかし言われてみれば、確かに神社でする修行といっても瞑想くらいしかないなあ」

 

 どこか修行に適した場所はないだろうかと思案すると、ある風景が浮かんできた。山奥の古い家屋、数多の猫、そして、二つに分かれた尾を持つ猫娘。

 

「…いや、一つだけ修行に持ってこいの場所がある。そこに行こう」

 

 霊夢にそう話すと同時に力を集中させ、藍は自分に打たれている式から一つの術式を発動する。

力が空間に干渉し、歪み、一つの亀裂が入る。亀裂が空間を引き裂くように上下に動き、人一人分は通れる程の大きさまで広がったそれはスキマと呼ばれ、主である八雲紫の「境界を操る程度の能力」の一部であり、主の通称の一つともなっている。自身に打たれている式には、スキマを開いて空間移動するための術式が込められていた。

 

「ふう…。それじゃあ霊夢、このスキマの向こうが今日の修行場所だよ」

 

 思いのほか力を消耗したため少し呼吸を整えつつ、藍は霊夢にスキマを通るように促すが、さきほどよりも更に嫌そうな表情をされてしまった。

 

「え、これで行くの?あんまりアイツのスキマは通りたくないのよね…何か変な感覚するし」

 

 まあ気持ちは分からなくもない。何しろスキマの中(といっていいのかは不明だが)は無数の目が蠢いているのだ。常人ならまずその不気味さに耐えられまい。藍でさえも、初めの頃はなるべく目を直接見ないようにしたものだ。

少し懐かしく思いつつ、何とか霊夢をなだめることにする。

 

「まあすぐ着くし少しの辛抱だから、ね?」

 

「はいはい、分かったわよ」

 

 仕方なしに呟いてさっさとスキマを通った霊夢に続き、自身もスキマに足を踏み入れた。

 スキマを抜けた先は、豊かな木々が広がる森の中。スキマを閉じた藍は、先に着いていた霊夢の横に並ぶ。

 

「ここって、マヨヒガ?」

 

「おや、霊夢はマヨヒガを知っていたのかい?」

 一度もここについて話したことはなかったような

、と思ったが、次の言葉でその疑問も氷解した。

 

「だって、こんなに沢山の猫がいる廃屋といったら、マヨヒガしか思いつかないじゃないの」

 

 そう告げる霊夢の視線の先は、目の前の廃屋に注がれている。そこには、数十匹はいるだろう、種類もさまざまな猫たちがいた。一部はこちらに気付いたのか顔を向けていたが、すぐに興味がなくなったようで、またのんびりと昼寝を続行していた。

 

「…で、ここで何の修行をするつもりなの?」

 

「まあまあそんなに焦らない。おそらくそろそろ、っと来たな」

 

 廃屋の陰から、ヒトリの化け猫の少女が藍たちへ駆けて来ていた。特徴的な赤いワンピースを着た少女の名は、橙。八雲藍の使役する式である。

橙は藍より数歩離れた場所で止まり、愛らしい笑顔を浮かべた。

 

「おはようございます、藍様!博麗の巫女と一緒にどうされたんですか?」

 

「おはよう、橙。今日は霊夢の修行の一環で来たんだよ」

 

「修行、ですか?でもここは私と猫たちしかいませんけど…」

 

 不思議そうに首をかしげる橙の姿に、内心で身悶える藍。今すぐ修行なんて放り出して一日中構い倒してやりたいが、ここは霊夢の手前、ぐっと我慢する。

 

「橙には、霊夢と弾幕戦をしてほしくてね」

 

「ちょっと待ちなさい。何で私があんたの式と弾幕戦しなくちゃいけないのよ!魔理沙とかならともかく、こいつじゃ勝負にならないわ」

 

「うう、悔しいけど確かにその通りですよ、藍様。まだ未熟な私じゃあ、すぐに勝負がついちゃいます」

 

 心外だというように不機嫌になる霊夢に、しょんぼりと落ち込む橙。分かってはいたけれど、こうもあからさまな反応をされると苦笑するしかない。

 

「確かにそうかもしれないが、フタリは以前の異変以来、互いと弾幕戦していないだろう?霊夢は魔理沙とかのいつもの相手と違った相手とやるのも、またいい経験になると思う」

 

「…まあ、魔理沙とかだと大体のパターンは掴めてるし、たまには違う相手でもいいかしら」

 

 それなら納得した、と頷く霊夢。

 

「それに、橙はあれからずっと真面目に修行してきているからね。今回は勝ち負け関係なく、その修行の成果を見せてほしい」

 

「…はい!藍様がそう言うのであれば、私の修行の成果、頑張ってお見せしますね!」

 

 私の言葉にやる気が出たのか、頬を紅潮させて張り切る橙。

 

 上手く弾幕戦にもちこめたことに安堵する反面、こんなに簡単にヒトを信じるフタリを少し心配する藍であった。

 

 

 

それから数分後。

 藍の目の前には、目を回して地に伏せる橙と、わずかに服を焦がした霊夢が立っていた。

 

「お疲れさま、フタリとも。身体は大丈夫かな?」

 

「ん。…橙は平気?」

 

「うにゃあ、まだ目が回る~」

 

 藍が手渡した水を飲んでいた霊夢は、藍の膝へ頭を乗せた橙に視線を向ける。

未だに目を回して立ち上がれないようだが、身体に目立った怪我はなさそうだ。そう伝えると、「そう」と素っ気なく返す霊夢だが、わずかにその表情が緩んだのは見逃さなかった。何だかんだ言いつつ相手を気遣う霊夢が可愛く、つい頭を撫でてしまう。

 

「ちょ、止めなさい!」

 

「嫌だったかな?」

 

「…嫌じゃないけど、橙がここにいるじゃない」

 

 恥ずかしそうに頬を染める霊夢。思わず抱きしめそうになるのも仕方ない。帰ったら思う存分に撫でてあげよう。そう決意していた藍だったが、足元に何かが触れたのを感じ、視線を降ろす。

 

「にゃ~」

 

 一匹の子猫が藍の足首に全身を使って擦り寄っていた。成猫と違いまだ生まれたばかりで、警戒心よりも好奇心が勝ったのだろう。見ている間にも、子猫につられたのか他の猫たちも次々とこちらに近づいていた。

 

「ふむ、遊んであげたいが、橙が起きてくれるまでは動けないな。どうするか…」

 

「…」

 

 どうしたものかと霊夢を見ると、藍の足元にいる子猫を凝視していた。表情はあまり変わっていなかったが、瞳は口ほどより声高に主張していた。

 

「…霊夢?」

 

「…!?な、何よ?」

 

「橙はこの通りだし、私も動けないから、代わりに少しの間猫たちと遊んでくれないか?」

 

「は、はあ!?この博麗の巫女が、猫なんかにほだされると思って、」

 

 素直じゃない巫女が言い切る前に、その両手にさきほどの子猫を乗せてやる。

 

「にゃ~?」

 

「う…。し、仕方ないわね…」

 

 最終兵器の子猫の首傾げにやられた霊夢は、緩む口元を隠しもせず子猫を両手で抱き、ゆっくり撫でる。気持ちよさそうに目を細める子猫を見て、霊夢の表情も、いつもより穏やかなものに変わる。

 

「う、んにゃあ。…あれ、藍様?」

 

 そうこうしているうちに、ようやく気が付いた橙が起き上がろうとするが、その口に指を置いて静かにするように促す。

 もう少しだけ、このままにしてあげたい。

 藍のそんな想いが通じたのか、橙は少しだけ笑って瞼を閉じてくれた。

 

 

 

 

「…ん、らん、藍ったら!」

 

「う、ん…?」

 

 目を開くと、呆れたような表情の霊夢が藍を見つめていた。…いつの間にか寝てしまっていたようだ。膝が軽いことに気付く。気づかないうちに霊夢の隣には橙が立っていて、他の猫たちに何か指示を与えていた。

 

「まったく、いつの間に寝てるのよ。あんたの式の修行の成果も見るんでしょう?」

 

「あ、藍様起きられたんですね!今、猫たちに簡単な指示を覚えるようにしているところなんです」

 

 どうやら、マタタビなどを使って指示を覚えさせようとしているようだが、あまり上手くはいっていないように見える。

 

「…あまり指示を聞いている猫はいないわね」

 

「まあまだ橙も若いし、ゆっくりと成長していけばいいさ」

 

 今はその熱意さえあれば十分だ、と藍は思う。その熱意が行動を生み、経験することにより自身の力になる。

藍は立ち上がり、諦めずに猫たちへ指示を出そうとしている橙の元へ向かい、その頭を優しく撫でた。

 

「うにゃ、藍様!?」

 

「お前の熱意は充分に伝わったよ、橙。さあ、今日は神社に来るといい。ご褒美に美味しい夕飯を作ってあげよう」

 

「え、いいんですか?」

 

「…まあ今日くらいなら構わないわ。どうせ作るのは藍なんだし」

 

家主である霊夢の了承も得たことで、早速藍はスキマを開く。行き先はもちろん博麗神社だ。

 

「先に行くわよ」

 

「えと、藍様は?」

 

「ああ、今行く…ん?」

 

最初は霊夢、次に猫たちのご飯を配り終えた橙がスキマを通っていく。橙に呼ばれて向かおうとした藍であったが、スキマのあと一歩のあたりでふと足を止めた。

 

「ん?私はまだスキマは開いていないはず…。まさか」

 

「そのま、さ、か「はいはい」って、ちょっ!?」

 

よく知った声が聞こえた。が、適当に返事をしてそのままスキマに足を進める藍。

それに焦ったような声が届くと同時に背後に力が集まったのを感じ、やれやれと藍が振り向く。

 

「にゃ~ん、貴女のご主人様ですにゃん♪」

 

「ヒト違いです」

 

…うん、どうやら気のせいだったらしい。さっさと帰って夕飯の下ごしらえをしなければ。

 

「ちょ、待ちなさい!何がいけなかったの藍!?」

 

「いえ私は藍ではありませんただの妖狐です」

 

「なんで他人のふり!?」

 

見てない。猫耳猫尻尾のスキマ妖怪の紫様なんて見なかった。

 

「しっかり見てるじゃない!?何恥ずかしがってるの、貴女が好きな猫ちゃんよ~?」

 

「むしろそっちが恥ずかしいです」

 

もういっそこのまま意識と記憶を失いたい。ホントいい歳して何やってんだ。完全に引いた目線にさらされているはずなのに、何故頬を染める。

 

「もう藍ったら、い、け、ぶっ!?」

 

高速で飛来した何かが、気持ち悪く身をくねらせていた主の後頭部に直撃し、その威力で地面に顔面から叩きつけられ、沈黙。

 

「ったく、何やってんだか」

 

「霊夢?先に行ったんじゃあ…」

 

呆れたようにやってきたのは、つい先ほどスキマで神社に戻ったはずの霊夢。なるほど、今の飛来物は霊夢の陰陽玉だったようだ。

 

「あんまりにも遅いから様子を見にきたのよ、そしたら、何か変なの居たし」

 

「ちょ、霊夢まで酷いじゃない!?」

 

「はあ?」

 

あ、復活した。

ようやくダメージから回復した紫がぷくっと頬を膨らませるが、返されたのは冬の妖怪も凍りつきそうなほど冷たい一瞥。

 

「ほら、馬鹿は放っておいて、さっさと戻るわよ」

 

「はいはい」

 

またもや地面に沈んだ妖怪の賢者を無視し、藍の腕を掴む霊夢。若干引きずられながら、未だにしくしくと落ち込む主にぼそりと呟く。

 

「…ヒトリ分多めに作っておきますから、早く来てくださいね」

 

「ら、藍…!」

 

それだけ告げ、霊夢と共にスキマに入り、神社に戻る藍。

 

「…ほんと、主人には甘いんだから」

 

「ん、何か言ったかい?」

 

「何でもない!」

 

それから、夕食が並ぶ居間にヒトリのスキマ妖怪が突撃し、霊夢の夢想封印が発動するのは、また別の話。




いかがでしたでしょうか?
なるべく早めに更新しますので、またどうぞよしなに。
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