「ーとまあ、こんな感じでしたね」
「ああ、そんなこともあったわねー。…あら魔理沙、お酒の手が止まってるわよ?」
「あんなグロい話されて平気で呑めるか!」
顔を青ざめて立ち上がる魔理沙。その後ろでは、魔理沙よりも顔色が悪い早苗が座り込んでいた。まあそれも仕方ないでしょう。幻想郷に来るまではただの女子学生だった彼女に、慣れろというのはキツい。早苗の背中をゆっくり擦りながら、この話をすることとなった原因を見つめた。
「そもそも、私に紫さまとの出会いを話せと言ったのは魔理沙でしょうに」
「いや、さすがにここまで壮絶とは思わなかったぜ」
「他人の過去を皆に話すのは良くないことに、いい加減わかって下さいね」
「善処するぜ」
いまだに強がって平気そうな態度をとる魔理沙に苦笑しながら、早苗と同じように背中を擦ってあげることにする。
…まあ、過去と言ってもほんの触りの部分だけですがね。
しかし、あの後人里に残っていた人だった欠片を集めて埋葬し、ようやく感情も安定した私は改めて女性を見て、今度は別の意味で思考が飛びましたね。
なにしろ、この世界に来るまで好きだった二次創作【東方project】のキャラクター、八雲紫その人だったんですから!
そして、八雲紫、妖怪、狐、従者とキーワードが揃い、ようやく私は、自分が八雲紫の式である八雲藍だと知りました。
…正直、この世界に来たときよりも困惑しました。元々の私は平凡で何の取り柄もなかったというのに、まさかよりにもよって、優秀な式である八雲藍になっていただなんて。
最初のころはいつ殺されても可笑しくはないな、とばかり考えていましたよ。
「…それで?それからはどうなったのよ」
話始めるときと変わらない表情で自身のお猪口に酒を注ぎながらこちらに視線を投げたのは、今回私たちがいる宴会場の場所を提供した、霊夢。彼女の周りには空になった銚子が何本も転がっている。つくづく、彼女は本当に人間なのか疑問だ。
「そうですね…。世界を周りながら紫さまの式としての修行に明け暮れてましたね」
せめてこのチキンで臆病な性格を見せないように、表情や態度に気をつけたりなど、それはもう必死でした。
「うげ、アンタもよくやるわね」
修行、の言葉に顔をしかめた霊夢は、グイっとお猪口を傾けると私の隣に視線を向けてさらに嫌そうな顔になった。
「あら霊夢。そうやって修行をサボるからこの神社も人が来ないのよ」
「うっさい」
私の隣に座って、外の世界から取り寄せたお酒を優雅にたしなんでいる紫さまは、何故かチラリ、と私を見て口角を上げた。
あ、あれは何かを企んでいる笑みだ。心持ち身構える私を尻目に、紫さまはとんでもない事を言ってのけた。
「…ならこうしましょう。藍、貴女しばらく神社で暮らしなさい」
「…え。な「何勝手なこと言ってんのよ!」」
…台詞取られました。グスン。
勢いよく立ち上がった霊夢からは、赤いオーラの霊力ががまるで湯気のように揺らめいている。これは大分キレてますね。
「しばらくの間、藍と暮らして修行をつけてもらいなさい」
「嫌よ、修行なんて」
「藍の手料理美味しいわよ~?」
「…まあ、1週間だけなら」
「「陥落はやっ」」
普段から質素極まりない食生活を送っている身としては、その好条件には逆らえなかったらしい。
「あの、紫さま?私の意見は…」
「貴女もそろそろ自分の式を育てていくころよ。今回はその勉強と思いなさい」
「なるほど…」
流石は妖怪の賢者とも言われるだけはある。そんな先のことまで見据えているなんて!
そんな感銘を受けている私の後ろで、
「(おい、あれってただ自分が楽したいだけじゃないのか?)」
「(しーっ、聴こえちゃいますよ)」
こんな会話が交わされていたのは、内緒。
…聴こえてますからねー。
ちなみに霊夢は、明日からの質素脱却した食事を予想し、さっきまでのお酒も効いてきたのか、既に夢見心地の状態でした。
さて、明日から無事1週間を乗りきれますかね?
…ま、無理でしょうけど。
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
何か一気に話が進んでないか?
というのは気にしないでもらえたら…