東方狐憑依伝   作:如月日和

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長らくお待たせしました!
番外編です。
本編はもう少し待っていただけたら。


番外編1 博麗霊夢「人と妖怪、昔と今」

 

夏の終わりも近づいたある日の夕方。

ここ、博麗神社を会場として、毎年恒例の夏祭りが開催されている。神、人、妖さまざまな種族の者たちが集まり賑わう中、私、八雲藍は紫様に命じられ、祭りの裏方を手伝っていた。

人里の一般人も来ているため、無意味に怖がらせることのないよう、私は幻術で耳と尻尾を隠し、いつもの道士服から白地に藍色の浴衣に身を包んでいる。祭りが始まってずっと動きっぱなしだったが、ようやく一通りの仕事を済ませることが出来た。

ちょうどそこに、会場の責任者であり主催者でもある、博麗の巫女、博麗霊夢が近づいてきた。

 

「藍、アンタの方も仕事は終わり?」

 

「ああ、ひと段落したところさ。そっちは、見回りは済んだのかい?」

 

「ええ、どうせ余程の揉め事さえ無ければ、この熱気じゃ誰も気にしないわよ。…というわけで、藍、アンタも一杯どう?」

 

そう告げる霊夢の右手には日本酒の瓶、左手には猪口が二つ握られていた。…その用意周到さは、流石と言うべきだろうか。

私は苦笑を漏らしながら、霊夢から猪口を一つ受け取った。

 

「ーそう言えば、少し昔もよく霊夢とは祭りに来ていたね」

 

会場からほんの少しだけ離れた場所で、祭りの賑わいを肴に酒を呑んでいた私は、ふと思い出して霊夢に尋ねてみる。

自分の猪口に酒を注いでいた手を止め、霊夢も考え込むように首を傾げ、「ああ、確かに」と頷いた。

「その時だけは、自分から修行を終わらせていたからねえ」

 

「終わらなきゃ連れて行かない、ってアンタが言ったんでしょうが」

 

そうだったかな、と返事を濁しながら、私は昔のある日のことを思い出していた。

 

 

 

 

ーまだ先代の博麗の巫女が存命中だったある夏の日。

私は、まだ幼く博麗の名を継ぐ前だった霊夢の面倒をたびたび見ていた。

博麗の技を教えることは出来ないが、それ以外の日常生活で必要なことや、霊力などの「力」の使い方くらいは教えることが出来たからだ。

元々が天才的な素質を持つ霊夢は、幼いながらも十分な力を持っていたことや、性格的に努力をしたがらなかったため、普段は嫌々ながらも何とか修行をつけさせていた。

だが、夏の終わりごろに行われる夏祭りがある日だけは違う。あの霊夢が、自分から進んで一日の修行メニューに取り組むのだ。

この頃は無表情が多く、感情を把握しづらいこともあったが、この時だけはよほど早く行きたいのか、必死になって修行をこなす姿が微笑ましかった。

そしてしっかりと一日分の修行を終わらせたため、その年も霊夢を連れて祭りへ向かったのだ。

会場の屋台を回って食べ物を食べながら回るのが毎年恒例だったが、

 

「…おや、霊夢?どこへ行ったんだ?」

 

…ただし、その年だけは違った。途中で、霊夢とはぐれてしまったのだ。

いくら霊夢とはいえ、まだ幼い。広大な敷地で迷っているかもしれない、と私は簡易な式を創り、探索と誘導の命を持たせて放った。

しばらくして、一つの式が戻って来たが、どうも様子がおかしい。急いで式を辿ると、そこにいたのは、一匹の野良妖怪と、まだ幼い人間の子供二人だった。

そしてその間にいるのは、両腕をいっぱいに広げて立つ霊夢。

敵が一歩踏み出す前に私は霊符を放ち、それから迸った霊撃で気絶させた。そのまま足を進め、霊夢と子供たちの無事を確認。若干の擦り傷はあったが、特に大きな怪我はないようだ。

それから、慧音と共に探していた母親へ子供たちを引き渡すまで、霊夢は終始無言だった。

そしてようやく後始末も終えたころ、藍は右手に重みを感じて視線を向けると、霊夢が藍の右手の裾を握っていた。

そして気づく。霊夢の手が震えていることに。腰を落として顔を覗き込むと、唇を力いっぱい噛み締めて、涙を漏らすまいとする霊夢がそこにいた。

 

「霊夢…!」

 

次の瞬間、藍は霊夢を抱きしめていた。その小さな身体を抱きしめると、さらに震えが大きくなる。

…ずっと、霊夢は我慢していたんだ。人間の大人でさえ敵わない妖怪に、たった一人で立ち向かっていたのだ。巫女の修行をつけているとはいえ、実戦もまだな幼い少女には酷すぎた。猛省する藍の両腕にさらに力が加わる。

 

「怖かったね、よく頑張ったね、霊夢」

 

頭を優しく、優しく撫でると、ようやく安心したのか、小さく声が聴こえてくる。

 

「一人は、怖かった」、と。

 

その日、祭りが終わるまで2人はずっと抱きしめあっていた。

 

 

 

 

ーそれからは少しずつではあったが、表情を出すようになったなあ、と霊夢の横顔を見つめながら思っていると、視線に気付いた霊夢がこちらを振り向く。

あの時は首を思い切り下へ向けないと顔が見れなかったのに、いつの間にか大きくなっていた。そう思うと何とも言えない気持ちになり、ぎゅうっと霊夢の身体を抱きしめる。

あの頃より大分大きくなっていたが、変わらない体温と少し早くなった心臓の鼓動に、安心する。

 

一方霊夢はというと、温かい視線で見られていたと思えば、突然抱きしめられたものだから、軽くパニック状態だ。

柄にもなく赤く染まった頬を誤魔化すように文句を言おうとして、聴こえてきた、「本当に、大きくなったなあ…」という言葉にピタリと動きを止めた。

開きかけていた口を閉じ、代わりに藍の背中に腕を回す。

互いに表情が見えないまま、言葉だけが交わされる。

 

「そりゃあ、大きくなるわよ。人間だもの」

 

「…ああ、そうだね。博麗の巫女も、人間だったね」

 

どこか寂しそうに呟く藍。

そんな弱気な言葉になんとなくイラっとして、霊夢は藍の肩を掴んで大きく引き剥がし、その勢いのまま叫ぶ。

 

「そう、人間よ!アンタ達妖怪よりも脆くて、どんなに頑張っても先に死ぬ、人間よ。…でもね、だからってそんな寂しそうな顔で、声で言われるような存在じゃないわ。ー見てなさい。いつか、アンタに並ぶどころか追い抜かしてやるから」

 

ふふん、と自信満々で笑う霊夢に、藍はキョトンとしていたが、やがて大きく笑い出す。

何だ、心配することなんて無かった。

釣られて、声を上げて笑い出す霊夢を見ながら、そう思う。

ー確かに、人である霊夢は、いつかは天寿を全うし、この世を去るだろう。私は恐らく悲しみ嘆き、涙を流すだろう。

だが、そんな未来を考えても、心の中はとてもスッキリしていた。

そうなるまでは、まだまだ時間はある。それまでは、彼女の前を歩き、隣に並び、そしていつかは私の前を歩くであろう、「楽園の素敵な巫女」、博麗霊夢を、楽しみに待っていよう。

 

今はただ、無邪気に笑う、あの子と共に。

 

 




如何でしたでしょうか。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
ちょっと長くなりました。
こんな感じで、各キャラとの話を番外編で書いていく予定です。
本編はもう少ししたら載せると思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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