男装TSボクっ娘ピーター・ペティグリューになってヴォルデモートを産むぞ 作:人人(まぐるんちゅ)
トラックに撥ねられたのはあまりに気の毒なので、あなたを転生させてあげます。
とのたまう神が蔓延ってからweb小説やアニメ、ゲームを嗜む敬虔なオタクの間では転生神様信仰が興った。汝、幼女を助けトラックに撥ねられよ。
死因はトラックでなくても良い。雷なんかもよくあるし、助ける相手も幼女である必要はない。カマキリという例もある。
とにかく、なぜかオタクは輪廻転生を突然信じだした。
オレがたまに見る深夜のテレビでは、雲の上で神様らしき好々爺かむちむちばいんっな美女がそういうことを主人公に説明し、次の転生先とチート能力を主人公に与える。それがいわゆる神様転生ものってやつだ。
突然こんなオタクの常識を長々語って申し訳ない。一度オレの頭の中で整理する必要があったんだ。
オレの目の前にいるこれが何かわからなかったからだ。
オレは(死因は省くが、)たった今死んだはずだった。しかし意識が事切れたと思った瞬間、真っ暗な世界で目を覚ました。
そして声が聞こえた。
「OMAEKONNATOKOMADEYoむNoか?」
暗がりに巨大な生き物が立っていた。足は2本。直立している。どうやら黒い薄布を被っているようで、輪郭が曖昧だ。よく見る背中は撓んでおり、脊柱に沿って椎骨がボコボコと浮き上がっている。
片足は人のものではなかった。狼や虎を思わせる大きな獣の骨だった。そしてもう片足はそれと比べると貧弱に見える人の骨だ。ところどころどす黒い肉らしき塊が付着していて、今にも溢れて落ちそうだった。
それはこちらをじっと見ている。まっすぐ見つめている。
「MONOZUKIDA」
顔に当たる部分からは鴉のような嘴が突き出ていた。その付け根には無数の眼球が寄り集まっており、それぞれがぬらりと輝いている。嘴が震えるたびに下にある萎びた乳房のようなものが揺れ、隙間のいたるところにも濁った眼球が埋没していた。
恐怖を通り越して、驚愕した。これは万が一にも神様転生ではないと思った。邪神転生?いや、地獄に落ちただけか?
「まああんたが神でも悪魔でも、なんでもいいか…」
そいつはゆっくりとオレのそばに近づいてきた。オレはそのまま大の字に寝っ転がる。こんな真っ暗な世界で目を覚まして、言葉の通じない化け物を前にしてできることは諦めて、祈ることなく黙って寝そべるだけだ。
「SAsShITEKURe」
「食うなりなんなり好きにしてくれ」
化け物はオレの言葉が通じたかのように頷き、ばっかりと嘴を開きオレを飲み込んだ。
Ich glaube nicht, dass man in der Zukunft leben kann, wenn man nicht in der Gegenwart leben kann.
Wenigstens angenehme Träume haben. Refrain der Vergangenheit.
「ッ…!」
ぞわり、と首筋を舐められたような怖気で目を覚ました。またか。しかし今度目の前に広がっているのは白い部屋の茶色い木の梁の走った天井だ。
知らない天井かとでも言えばいいのか。もしかしてさっきのは三途の川で、ここは病院かと思ったが、横を向いてまず目に入ったのは可愛いピンク色の枕カバーとボロボロのクマのぬいぐるみだった。
「………ぁ」
再度部屋を見渡す。白いレースのカーテンや鉢植えの花。本と雑誌。薄ピンクのマット。女の子…いや、女児の部屋だ。ちょっと異質なのは衣服が詰め込まれた途中の大きなトランクくらいか。
「……幼女に拾われた…?」
自分の体を見た。小さな手が裾の余ったふんわりとした生地のパジャマに覆われている。
「じゃない。オレが…」
オレは…幼女になっていた。
かっこわらい。
じゃ、ない。
「ペネロペ・ペティグリュー」
医者は言う。聴診器をはずし、オレの瞳孔を確認していたライトをカチッと消しながら。
「そうじゃない、と言うのなら。残念ながら必要なのは私のような医者ではなく、精神科医でしょうな」
「でもこの子、木から落ちて頭を強くうったんですよ」
父親だという男は、困ったように言う。
「ですがね。こぶすらできてない。CT、MRI、レントゲンまで撮った。外科と小児科をやってる私から言えるのは、この子はピンピンしているということだ」
オレはあの後ちょっとしたパニックになって全裸になって自分の体を確認したり(やましい目的ではないぞ)ノートに日本語を書いてみたり電話をかけようとしたりした。そのせいで親が脳みそが逝かれたと勘違いして病院につれてきたわけだ。
いやまあ、脳みそがイカれたってのは多分あってるな。だってこの「ペネロペ・ペティグリュー」ちゃんは突如知らんおじさんの精神に入れ替わってる訳なんだから。この医者は正しいことを言っている。
「ま、紹介状を書きますから。…それにこの年頃の子は突拍子もない遊びを考えますから………まあ気長に」
そう言って医者はオレと父親を追い出した。待合室で真っ青な顔をした母親は、オレが出てくるや否や抱きしめる。
「無駄だったよ」
父親は車に乗るとぶっきらぼうに言った。オレは黙ってた。なんか喋った途端、彼らに衝撃を与えてしまうだらうからな。
「やっぱり。マグルの医者に見せるなんて時間の無駄だった」
母親はぼそっとつぶやく。聞きなれない単語に父親が振り向いた。
「マグル?ってなんだ」
「あらいけない」
母親はそういうとカバンから木の枝のようなものを出してついっと振った。父親は一瞬トロンという顔をしてハンドルに突っ伏しかけた。しかしかくんと、糸でも張ったように止まる。そして車はそのまま走り続ける。
「ああ…ほんとなんで母さんってこんなに、ダメなのかしら。ペニー…でもあなたに才能があって…本当によかったわ」
は?
オレにはこの母親が何を言っているのか全然わからなかった。しかしその杖と、この家族の姓、ペティグリューというのを思い出して突然ピンときた。
ハリー・ポッターだ。あの、世界的人気を誇る児童書の世界だ。オレもショタだった頃は何度も読んだ。けれどもその中に出てくるペティグリューといえばピーター・ペティグリュー。またはワームテール。
だがしかし、オレは女の子になっちゃった訳だ。この子ペニーちゃんは一体なんなんだ?ピーターのママか?
「失礼、今って何年です?」
「ああ…ペニー…魔法の力が目覚めたからなのかしら。どうしてそんなおじさんみたいに喋るの?そうね…混乱してるのよね。マグルのドラマを見過ぎたのだわ。今は1969年、今日はあなたの誕生日なのよ」
「なるほど…えっとハリーってたしか91年入学で…?ん…じゃあオレはピーター・ペティグリューなのか?やっぱり。それとも妹的な…」
「なに…?どうしたの?ペニー。そりゃあ私もやり過ぎたかもとは思ったのよ。あなたをちゃんと地面スレスレで止めるつもりだった!けれども…わかるでしょう?そんなに私は優秀な魔女じゃなかったわ」
ペニーちゃんに何が起きたかはよくわかった。ネビル・ロングボトムが祖母にやられたのの悲劇版だ。
「わかった。うん。あのー、……マ…ママ、……杖見せて」
「へ?いいわ…いいけど」
オレは渡された杖を取って、母親に向かって振るった。
「オブリビエイト」
フワッと白い光が杖から出て、母親は気を失った。途端車はコントロールを失い、ガクンと対向車線に飛び出した。
あーあ。バカだなオレ。
対向車線のトラックを見て、またここからトラック転生が始まると思った、が。まあそううまくはいかないもんだ。いやはや。
目を覚ますとオレはまた知らない部屋にいて、隣には生意気そうな顔をした癖毛のガキが興味津々に包帯まみれのオレを見ていた。目があった。榛色の瞳がキラキラ輝いている。
「見てんじゃねーよ」
オレがいう。ガキは目をまん丸にしてにかっとわらう。
「君が生きてるのは奇跡だってさ!」
オレは手を目の上に広げようとする。しかし腕は包帯まみれで上がらない。しかたなく横にあるガキにたずねる。
「オレの名前はなんだ?」
「ペネロペ。ペネロペ・ペティグリューだろ?ベッドに書いてある。違うのかい」
「なるほどね」
オレはため息をついた。3度目の正直だな。いや、まだこっちでは2回目だが、暗転3回の末ようやく納得した。オレは死んで、女の子に生まれ変わった。
「ぼくはジェームズ。ジェームズ・ポッターさ」
「ああそりゃ…なんたる悲劇だ」
なんと。まさかとは思うが
「同い年?」
「って聞いてるよ?」
つまりこういうことだ。オレは将来的に最悪の裏切り者になってネズミとして12年生きた挙句死ぬことになる、あの禿げ気味の小心者の小悪党になっちまったってことだ。
女の子なのに!?
もう一度言うか。
女の子なのに!!
ああ、神様。
女の子に転生するのはもうそれ自体がチートと言ってもいいかもしれない。大人は誰しも可愛い女の子になりたいって思う。…思うよな?オレだけ…?
だがこのポジションは………ちょっとな。
「クソッ…どうなってるんだあの化け物!!」
「女の子が汚い言葉遣いしちゃダメだろ」
うるせぇ。ジェームズ・ポッター。
ハリー・ポッターの父。物語の中だとスネイプをいじめていたガキ大将だが、まあさすがに9歳のこいつには罪はない。ガキ大将の片鱗は感じるが。黙ってしまったオレを見てきょとんとしている。
さて。
こういう【転生】をしたやつのすることは大体二つに絞られる。
物語を守るか、壊すか。
オレは迷った。そりゃ原作は大好きだった。だがピーター・ペティグリューが女って時点でもう壊れてるようなもんだし、律儀に全員裏切ってネズミとして12年も過ごす意味あるか?
こういう転生モノだと、だいたい好きな奴を助けるために物語が壊れる訳だが、オレはどうだろう。誰か助けたい奴がいるかと言われると、たった一人だけ思い浮かぶ。
ヴォルデモートだ。いや、トム・リドルか。
ハリーと対照的に愛がない故に敗れた男。
だが奴を救うには1969年は遅すぎる。
ヴォルデモートの根本的な問題は、母親がいないことだ。もちろん片親を差別しているつもりはないが、多くの場合無償の愛を知るためには母親の存在というのは欠かせない。
じゃあ愛を知らなきゃ勝てないのか?と、オレは思う訳だ。
ヴォルデモートはまるで初めっから負けるために生まれたみたいじゃないか?そんなの虚しい。愛なんてなくても物語の勝者になったっていいじゃないか。
だから、もし。
オレがこの世界でどうしてもやりたいことがあるとしたら…
「………いや、オレは男だ」
「へっ?でも…」
「オレの母さんはオレを女として育てたかったんだ。複雑な家庭なんだよ。オレの本当の名前はピーターだ」
嘘だ。オレの股間にナニがないってのはもう嫌と言うほどわかる。もはや恋しいまであるね。
だがオレが大真面目に言うもんだから、純朴なジェームズは信じかけている。そりゃこんな状況でそんな嘘をつくやつなんていないだろうからな。
オレの頭がコンマ数秒で導き出したこの世界でやるべき事、それは
男装TSボクっ娘ピーター・ペティグリューになってヴォルデモートを産むぞ。
そう、オレがヴォルデモートのママになるんだよ。