星々の孤独によせて   作:依瑠iru

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第15話

 曇り空の下、紅の蒸気機関車がキングズ・クロス駅に停まった。汽車から降りた生徒たちは友達と別れを交わし、家族のもとに駆けていく。

 ウィリアムもその一人だったが、早くここを離れたいという焦りを隠せていなかった。

 

「じゃあな」

 

 足早に向かった先には一人の女性がいた。地味なブラウスとスカート姿というマグルの街に溶けこむ格好だ。挨拶もそこそこに出口に行く息子の後を母親が追いかける。

 見てはいけないものを見てしまった気まずさからアルタイルは視線を逸らした。隣に立つエリックはブレア親子が消えた人混みを冷ややかに見つめていた。

 

「ふうん、マグルの父親は来てないのか」

 

 声もウィリアムと馬鹿話をする時の温かさはなく、グリフィンドールの穢れた血を見下す時と同じ温度だった。

  ウィリアムは魔女とマグルの混血であり、父親がマグルなんて最悪だと純血主義に賛同する同胞だ。しかし、血のせいで時折壁ができてしまう。本人が望んでマグルの血を引いているわけではないのに。

 アルタイルはその壁の前にどうしていいかわからない。うかつなことを言えば自分の立場は悪くなる。ここ最近のブラック家は純血にあるまじき醜聞続きなのだから、自分がしっかりしなくては。

 きっとエリックは嫌いな汽車に乗った後で苛ついているのだ、とアルタイルは聞き逃す言い訳をした。

 

「エリックこっちよ!」

 

 人混みの向こうからジュリアが手を振っていた。可憐なレースで飾ったワンピースは爽やかなミントグリーン色、ウェストをリボンで絞りふわりと裾が広がっている。

 

「ローズも来なさい。お兄様が来てるわ」

「それじゃ行くか」

 

 カートを押して歩き出そうとしたエリックを、ローズが呼びとめる。

 

「ねえ、私にこの重い荷物を運べると思う?」

 

 カートには大鍋や教科書が詰まった鞄や天文学で使う望遠鏡等々が積まれている。

 

「お前な……それが人に頼む言い方か?」

「あなたこそレディへの気遣いが足りないんじゃなくて?」

「はいはい、わかりましたよっと」

 

 やれやれと首を振りながらもエリックは、ローズのカートから荷物をいくつか自分のカートに移した。

 

「それじゃアルタイル、良い夏休みをね」

「何事もなく、良い休みになるといいんだけど」

「大変ね。でもシリウスだけでしょ」

 

 ローズの頭にはアンドロメダのことがあるのだろう。ナルシッサもレギュラスもまぎれもない純血主義だから、問題を起こすとすればシリウスである。

 

「その一人が最大の問題なんだ」

 

 考えるだけでアルタイルはため息をつきたくなった。母様はまだシリウスを正しき純血の道に連れ戻せると思っているから口うるさく干渉するし、シリウスは適当に本心を偽ってその場をやり過ごすということをしない。

 家族と合流する友人たちを見送ると、一人とり残されたような寂しさ覚えた。

 

「アルタイル!」

 

 聞き慣れた声に呼ばれて顔を向ければ、レギュラスが来た。小柄な体で大きなカードを押して大変そうだが、お蔭で人波に流されずにすんでいる。

 寂しさはどこかに消えた。

 

「父様を探しに行くか」

 

 アルタイルが言うや、足元から甲高い声がした。

 

「アルタイル様、レギュラス様! お帰りなさいませ。クリーチャーはずっとお待ちしておりました」

「ただいま、クリーチャー!」

 

 レギュラスがクリーチャーを抱きしめた。家族にでもするような愛情表現はクリスマス休暇でも見た光景だった。あの時は家の中だから問題なかったが、ここではそうもいかない。

 アルタイルは咳払いした。屋敷しもべ妖精にそういう態度をとっていることを外で見せるものではない。主人と召使いの関係なのだ。与えるのは抱擁ではなく仕事であり、よく支えてくれた屋敷しもべ妖精は老いて動けなくなる前に首を刎ねて廊下に飾るのがブラック家の愛だ。

 咳払いに気づいたレギュラスが頬を染めて立ち上がった。クリーチャーは解放されてほっとした様子だ。レギュラスの行動はいつものことだが、何年経とうと慣れないらしい。

 

「あちらにご主人様がお待ちです」

 

 クリーチャーの案内で、父のもとに行った。礼儀正しくアルタイルは挨拶をした。

 

「お久しぶりです、父様」

 

 オリオンは無言でうなずいた。いつでも物静かなのが父の性格だとわかっていても、クリーチャーの出迎えと比べるとそっけなく感じる。レギュラスがクリーチャーに懐くのも仕方ない、とアルタイルは思った。

 

「シリウスはどこに」

「探してきます。父様はここでお待ちください」

「あっちの車両をグリフィンドールが占領していたよ。そこにいるんじゃない?」

 

 荷物を置いて、アルタイルはレギュラスについて行った。

 シリウスはいつものメンバー――ジェームズ、リーマス、ピーター――と一緒にいた。昨年はグリフィンドールのネクタイをして母親を挑発したが、今年は私服だった。どういう心づもりなのだろう。

 

「今年は制服じゃないんだな」

「初っ端から地下牢は暇すぎる」

 

 アルタイルが訊くと、シリウスは肩をすくめた。レギュラスが刺々しい態度で言う。

 

「ちょっとは学習能力があるみたいだね。今年もまた馬鹿な真似をするかと思った」

 

「君たち、今年はシリウスを監禁しないでくれよ」

 

 ジェームズの言葉に、アルタイルが言い返す。

 

「人聞きの悪い。僕たちがいつシリウスを監禁したと?」

「おっと、軟禁の間違いか。去年の夏休みは家から出られず、僕たちと手紙のやりとりもできなかったじゃないか」

「我が家の教育方針に口出ししないでください、ポッター。シリウスを野放しにしたら何をするかわからないんですから」

 

 レギュラスが鋭く言った。

 

「君は弟の……」

「レギュラスです。すぐに忘れられない名前になりますよ」

「うん?」

「来年は勝ちます。僕がシーカーになってあなたに勝ちます」

 

 灰色の目に闘志をみなぎらせ、強気にに宣戦布告した。今年のクィディッチの決勝戦で、スリザリンはグリフィンドールに負けたのだ。

 

「へえ、楽しみにしているよ」

 

 レギュラスの一方的な対抗心は、まるで相手にされていなかった。でもそれは今のうちだけだ、とアルタイルは思った。身内の贔屓目なしに言ってもレギュラスは上手い。

 おそらくシリウスもアルタイルと同じことを思ったのだろう。にやりとジェームズの不遜さを笑うように口を吊り上げた。その表情を見たリーマスが言う。

 

「楽しそうだね、シリウス」

「そんなわけないだろ! ジェームズこいつを叩きのめせ!」

「まず選手になれるかわからないんじゃ……」

 

 ピーターの呟きをレギュラスは聞き逃さなかった。レギュラスに睨まれて、ピーターは猫に見つかった鼠のように身を縮こまらせた。

 

「いつまで父様を待たせるつもりだ。早く行くぞ」

 

 アルタイルが言うと、シリウスは嫌々ながらもカートを押した。帰省を喜ぶ子供ばかりではない。シリウスはアンドロメダのように家を出るにはまだ子供だった。社会が親の庇護下から出ることを許しはしない。

 

「シリウス! いつでも家に来ていいからな!」

 

 ジェームズがシリウスの背中に声をかけると、シリウスは片手を挙げてこたえた。

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