氏名 綾小路清隆
クラス 1年C組
学力 C+
知性 C+
判断力 C+
身体能力 B
協調性 D
学校の評価
積極性に欠け将来への展望なども持ち合わせておらず、現段階では期待の薄い生徒だと言わざるを得ない。協調性や個性と呼べるものも感じられない。しかし学力や身体能力において平均をやや上回る数値を出しており、行動にも問題は見られないため『Cクラス』への配属が適正であると判断。学園生活を送る中で協調性を身に着け、個人として成長してくれることを望む
「今日からここに通うのか」
――東京都高度育成高等学校。
就職率、進学率100%を謳う国が運営する超進学校というやつだ。
何の因果かホワイトルームを出てからこの学校に通うことになってしまった。
あの無機質な部屋での学習もいい加減飽きてきたところだったし、
アイツの目から逃れられるのならば渡りに船である。
ここにいれば3年間は監視の目から逃れることができるので、
ようやくやってきたオレの人生の夏休みに柄でもなくテンションが上がっているのを感じる。
そこから黒髪ロングの女に絡まれたり体育館での入学式を終え、
自分のクラスにやってきた。
オレの配属されたクラスは、――Cクラスだ。
教卓の上に置かれていた最初の席を決める張り紙を見つけ、
自分の席に腰を下ろす。
席はクラスの一番端の窓際であり、クラスの様子がそのまま眺められる良い位置だ。
既にいくつか友達になったやつがいるようで、室内はガヤガヤとした喧噪に包まれている。
ここからの3年間、この学園で過ごすのであれば多少は友人がいたほうがいいだろう。
まずは手始めに隣の席のやつから話しかけてみることにした。
「やぁ、オレの名前は綾小路。隣の席になったのも何かの縁だしこれから――」
そこまで喋って気が付く。
明らかにオレの隣にいる奴は明らかにこのクラスから浮いた存在であるということに。
頭は短く丸められ、外国人らしく肌は黒色。
なぜか教室内でサングラスをかけており、
制服はガッチリとした体格で内側にある筋肉が容易に想像ができた。
(まずい、とんでもない奴に声をかけてしまったかもしれない)
声をかけてから後悔したが、時すでに遅し。
「あ、あー、これから、よろしく頼む。オレの名前は…綾小路だ」
しどろもどろになりながらなんとか自己紹介を終えた所、
彼はスッと右手をこちらに差し出してきた。
「My name is Albelt. Mr.Ayanokoji,Nice to meet you」
「お、…オゥ。 ナイストゥーミートゥー、アルベルト」
(い、いいやつだったー!)
どうやら見た目に反して割と穏やかな性格をしているらしい。
物怖じせず話しかけてよかったかもしれない。
少し話してみてわかったが、どうやらアルベルトは現在日本語を勉強中らしい。
日本語のリスニングについては大体ニュアンスでわかるようだが、
まだ頭の中で文章を組み立てが難しいため、英語で話しているそうだ。
思いがけずに友達作りに成功して少し話し込んでしまった。
ふと周りを見てみるとオレ達に対してクラスからいくつか視線が飛んできていた。
いくらかヒソヒソとした話し声も聞こえてきていた。
「すごい、あのサングラスかけてる人に話しかけてる…」
「あいつ全然黒人にビビってないじゃん、コミュ力たけー」
「へー、大人しい見た目してるのに度胸あるねぇ」
物凄い否定したい評価の声が上がってきている。
おかしいな、俺はいったいどこで選択肢を間違えたのだろうか(最初)。
そんなこんなでアルベルトと談笑を続けていると担任の先生がやってきた。
「皆さん入学おめでとう。1年Cクラスの担任となった坂上数馬だ。これから3年間、君たちのクラスを担当することになる」
(…3年間?)
「この学校にクラス替えはない。そして担任は年度が替わっても変更されることはない。本校には独自のルールが存在し、これから色々と説明するからみなさん、くれぐれも、よく聞いておいてください」
初めからやけに力の入った前置きに、少し疑問の念が浮かびあがる。
思えば入学式のあの生徒会長の演説でもそうだった。
まるでこれからやってくる“試練”を匂わせるような、
どこか重たいニュアンスを含んだ物言いが多かった。
国営の進学校だからこういうものなのか?
あいにくと世間一般の常識や匙加減はまだ身に着いていないから分からない。
だが用心するに越したことはないだろう。
教室の中にある、やけに多く仕掛けられた監視カメラの数も気になっている。
「買い物には学生証端末に保有されているポイントを使う。この学校では、あらゆるものをポイントで買うことができる。ポイントは毎月1日に振り込まれる。1ポイントで1円の価値だ。お前たちには既に今月分の10万円振り込まれている。どう使うかは個人の自由だが――おっと、これは余計だな。存分に学園生活を謳歌してくれたまえ。この学校は実力で生徒を図る。10万ポイントは、その入学を果たした学校からの君たちへの評価だと思ってくれ」
…“個人の自由だが”の後何を言おうとしたのだろう。
これが生徒へのアドバイスだと考えるなら、『個人の自由だが――あまり無計画に使わないことをお勧めする』とかだろうか?
どうやら担任の坂上先生は、親切に警告を発してくれているのかもしれない。
――ま、考えすぎかもしれないが。
一通りの説明を終え、坂上先生が退室する。
もっぱら話題は、先ほど説明のあった支給の10万円についてである。
話を聞いた限りでは、来月以降もポイントの支給があるようだ。
学生の身分で一月10万円は大金だ。
生活用品にいくらか残す必要があるとはいえ、それでも十分補って余りある。
浮かれるのはわかるが、ほかの奴は気づいていないのだろうか。
あの先生は、『毎月10万円支給する』とは一切口に出していないことに。
今月分が10万円といったが、来月分は?
入学時だけサービスとしてポイントが高いという可能性もある。
支給ポイントに対して、学園からの『評価』という言葉を使っていたのも違和感。
評価が下がればポイントが下がるんじゃないか?
毎月試験があり、その点数によってポイントの支給が決まる可能性もある。
なんにせよ、不安材料が多い今あまり無暗に使うべきじゃないな。
ポイントがなくなって日常で食べるものに困るのはさすがに嫌だ。
隣の席のアルベルトもどうやら興奮しているようで、
学校が終わった後一緒に買い物に行こうと誘いを受けた。
というかアルベルト、本当にフレンドリーだな。
友達が出来るか不安であったが、こんなにも積極的に来てくれる友人が出来るとオレとしてもありがたい。
――だから、そんな良い友人これからが困るかもしれないと考えると、
黙っているのは良くないよな。
「あー、アルベルト。そのな、毎月10万円支給って怪しくないか? あの先生、『毎月支給する』とは言ってたけど、『毎月10万円支給する』とは言ってなかったよな。とりあえず来月ちゃんとお金が振り込まれているのを確認してから使った方が安全じゃないかと思うんだが――」
説明の最中なにやら視線を感じる。
アルベルトの方から視線を外し教室内を見るとクラス全員がオレたちの方を見ていた。
(あ、やばい)
Cクラスの眼鏡をかけたオカッパのやつが身を乗り出してこちらへ歩いてくる。
「なるほどなるほど! 確かに、君の言っていることは一理ありますね。突然話しかけて失礼、私は金田と言います」
「あ、オレは綾小路です」
「綾小路君、ですね。私も少し疑問に思ってたんですよ、少し学生には多すぎないかとね。綾小路君の意見を参考にさせてもらって考えるなら――もしかしたら授業態度やテストの点数などでも支給額が変わるかもしれませんね」
「そ、そうだな…。教室の中にも監視カメラとかもあるみたいだからなるべく気を付けたほうが良いかもしれん」
「「「監視カメラ!?」」」
(あ、まずい。みんな気づいてなかったか)
仕方なく教室の隅にあるカメラを1個教えるとクラスのどよめきがさらに大きくなった。
教師が見ていないからと言ってさぼると、後からカメラで確認される恐れがあるということだ。
インテリっぽい金田の同意により、ますますオレの話に信憑性が出る。
お調子者っぽい生徒からは「お前よく気が付いたな!」と肩をバンバン叩かれる。
結構痛い…褒めるのはいいが手加減して欲しいもんだ。
痛そうにしてたらアルベルトが助けてくれた。
怖そうな見かけに反して優しい奴である。
「いでーいでー! ギブギブ!」といった悲鳴が聞こえるが自業自得だ。
しっかりと反省してほしい。
それからクラス全員で支給されるポイントについて更に議論を交わした。
最終的な結論として、皆一か月は真面目に授業に取り組むことが決定した。
なぜかクラスメイトからの評価が変な方向で上がってしまったが、
気にしても仕方がないことなので割り切ることにする。
生活に支障が出ない範囲であれば問題ない。
だがこれ以上に存在感を出すと面倒事に巻き込まれるかもしれないので注意は必要だ。
クラス全員を交えた議論で連帯感が生まれたのか、
誰から始めたかは分からないがクラス内で自己紹介が始まった。
…なんだろう、これが青春ってやつなんだろうか。
やはり友人になるには共通の話題が手っ取り早い。
そういった意味では日常生活に直結するポイントに関する話題は最適だった訳だ。
そんな様子を眺めていると自己紹介でオレの番が回ってきた。
もう既に目立ってしまったのだ。
気張って自己紹介する必要もないだろう。
席を立ち覇気のない声で喋る。
「えーっと、綾小路清隆です。あー、…宜しくお願いします」
途端に静まり返るCクラス。
え、これだけ? みたいな空気が漂っている。
クラスの奴らが若干引いてるがこれでいい。
あまりに自分の評価を上げすぎるのも今後に響くかもしれないからな。
自己紹介を終え椅子に座ると、アルベルトがオレの方を優しく叩く。
…そういった慰めはなんか悲しくなるから辞めてほしい。
悲しくないのに涙が出そうだ。
やっぱりもうちょっと話しておくべきだったか?
地獄のような空気に包まれながら自己紹介が終了し、授業が始まる。
しばらくしてオレは体を倒し机にゴンと頭をくっつける。
後悔先に立たず。
現実は非情である。
…いや、どうしてこうなってしまったのだろうか。
友達作りと平穏な学園生活の共存の難しさに頭が痛くなる。
当初はもっと目立たない学園生活を送る予定であったが、
いきなりパンチの効いた友人が出来てしまったためかなり悪目立ちしてしまった。
授業を終えアルベルトと一緒に日常生活品や食料を買いに行ったが、
――これが目立つこと目立つこと。
学生に見えない体の大きさや目元を隠すサングラスによる存在感で、
近くを歩く学生で振り返らない生徒はいないレベルである。
オレもいい加減諦めた。
さすがにこればっかりは気にしても仕方がない。
幸い驚きが7割、恐怖が3割くらいなのでまぁ許容範囲である。
許容範囲…だよな?
寮への帰り道、隣を歩くアルベルトをふと横目に見る。
若干口元を上げ、楽しそう笑っている。
(アルベルトも友人が出来るか不安だったりしたんだろうな)
今までの環境から突然切り離されて生活を送るのだ。
どんな人間であれ、初めての環境に適用するのには労力を費やすものである。
そういう意味で言えばオレもこうして初日から友人を作ることができた。
クラスメイトとの関係も悪くないことを考えれば、成功と言えるのではないだろうか。
(この学校、色々と気になる点もあるが…退屈はしなそうだな)
アルベルトと世間話をしながらオレンジ色の夕焼け空を眺める。
体育館で開かれた入学式で話していた生徒会長の言葉がリフレインした。
『――ようこそ、実力至上主義の教室へ』
これは綾小路が入学テストを平均70点台で適当に取り、
身体能力テストで若干本気を出してしまったifの物語である。