思えばそれは本能的なものだったと思う。
(綾瀬川清澄を越えろ。)
(去年の最高傑作、綾瀬川清澄の方が凄かった。)
あたしは天才同士の遺伝子で出来た、天才になるべくして生まれた存在。
そんなあたしよりも上の存在。
それが皆が口を揃えて評価する最高傑作、綾瀬川清澄と言う男だった。
…憧れた。
いや、憧れや尊敬なんて言葉じゃ生温いのだろう。
もはやあたしにとっては神に等しい。
崇拝とでも言うのだろう。
それがあたしに芽生えた綾瀬川清澄への感情だった。
…でもある時本能的にもう1つの感情が芽生えた。
次々と脱落していくあたしの同期達。
どれも上からの期待に応えることが出来ず狂っていく。
そんな同期達の瞳、涙を見て
いや、あたしの崇拝する綾瀬川清澄はいつものように無機質な冷たい目で這いつくばった失敗作の山を見下ろすのだろう。
…失敗作。
綾瀬川清澄がいる限りあたしの評価は失敗作の中でもましな作品と言う評価だろう。
1人だけ狂わずカリキュラムをこなした。
トリオンだけは最高傑作以上。
それだけだ。
──
「っ?!」
建物を切り裂きながら、通り抜ける弧月。
間一髪で榎沢は避ける。
「やはりな。お前は直接オレを狙ってこないと思っていた。」
「あはは…バレてるや。」
「分かるさ。お前はオレのことを憎んでいるようだからな。オレが嫌がるよう仲間から狙ったんだろ?」
言葉一つ一つに圧倒的な重みを感じる。
ホワイトルームの無機質な最高傑作は、失敗作の前に立ち塞がる。
「お前はオレを潰したいんだろ?なら他の役者はいらないだろ。」
「…そうだね。ちなみに…
…あたしの間合いだけど大丈夫そ?」
榎沢はホルスターの拳銃を抜く。
間合い25m。
それ以上の射程の無いものには対抗する手段のない、榎沢のハンドガンによる早撃ち。
圧倒的なトリオンによる火力。
それが
「シールドごと削り殺してやる…!」
そして乾いた銃声が響く。
「鈍いな。」
「…は…?」
刹那、榎沢の右手は吹き飛ぶ。
榎沢のハンドガンによるアステロイドは威力と速度に、トリオンを大きく割り振っている。
それでも25mの射程があるのは榎沢の圧倒的なトリオンによるものだろう。
比べて綾瀬川がこちらに向けていたのは同じくハンドガン。
綾瀬川のハンドガンによるアステロイドは速度と射程にトリオンを振り分けている。
榎沢の半分程のトリオン量の綾瀬川のアステロイドは射程約25m。
威力はなく、弾速も榎沢には及ばない。
しかし、それを補ってあまりあるほどの早撃ちのスピード。
それは榎沢が引き金を引くよりも早く放たれ、榎沢のハンドガンの銃口を穿った。
その結果榎沢のアステロイドは暴発。
榎沢のハンドガンを右手ごと吹き飛ばした。
「なん…で…?!」
「確かにお前のトリオンによる早撃ちは脅威だ。ボーダーでもトップクラスの早撃ちだろう。…だがオレよりは遅かった。それだけだ。」
「っ…!!」
榎沢はグラスホッパーを複数展開。
綾瀬川から距離を取る。
『イコさん、きよぽんと榎沢ちゃん発見。…あー、もう1人いますね。』
「!」
榎沢が辺りに視線を向ける。
交戦開始により、漁夫の利を狙った、生駒隊の水上と南沢。
綾瀬川の背後からは、カメレオンを解除し、切り掛る諏訪隊の笹森が。
『もう1人は日佐人ですね。日佐人はきよぽんの方行きました。榎沢ちゃんが右手落とされてますわ。…ガトリングは撃てへんでしょ。俺と海と隠岐で榎沢ちゃん止めとくんでイコさんこっちに「申し訳ないですけど同窓会の最中なんで。邪魔しないで貰えます?」』
「は…?」
生駒隊射手、水上敏志。
盤面を整えるのが上手く、それはあの二宮も評価をするほど。
1歩離れた位置で攻撃手を援護し、エースの到着を待つ。
そのつもりでトリオンキューブを構えた時だった。
一気に距離を詰めた、綾瀬川にトリオン体を切り裂かれる。
『水上?』
「嘘やん…バケモンどころの騒ぎやないで?きよぽん。」
「この戦場だとあんたが1番厄介そうだからな。」
「先輩…!」
「っ…」
グラスホッパーで距離を詰めた南沢と後ろから笹森が綾瀬川に切り掛る。
「…」
綾瀬川は笹森の弧月を弧月で受けながら、南沢の弧月を1歩引いて躱すと、笹森の側頭部を蹴り飛ばす。
──
『序盤も序盤!戦場に動きがあった!榎沢隊員に仕掛けた綾瀬川隊員、榎沢隊員の右手を削る!そしてそして、そこに駆けつけた生駒隊の水上隊員が瞬く間に緊急脱出!』
『あはは、榎沢隊員以上の早撃ちですね…。逆に綾瀬川に出来ない事あるのか?』
迅が苦笑いを浮かべる。
──
「っ…!日佐人くん邪魔…!!」
榎沢は我に返ったように、アサルトライフルを構え、3人に向けて放つ。
南沢、綾瀬川シールドを張り、笹森は飛び退きつつ綾瀬川に仕掛ける。
「っ…!!」
榎沢は今度は、グレネードガンを向ける。
それを見た笹森は飛び退く。
「死ね…!」
そして、メテオラが綾瀬川、南沢を包み込む。
それに合わせて笹森はカメレオンを発動。
爆風の中に切り込んだ。
「っ…くそ…!」
「マジか…!」
爆風の中から緊急脱出の光が2つ。
笹森と南沢のものだった。
榎沢のグレネードガンによる射撃は綾瀬川のシールドに防がれていた。
笹森、南沢の緊急脱出による得点は柿崎隊、綾瀬川のポイントとなる。
爆風の中から弧月を片手に綾瀬川が出てくる。
「…っ…どういうつもり…?本気じゃん…。」
榎沢は冷や汗を浮かべる。
「お前が望んだことだろ?手を抜いた方が良かったか?」
「…これだから…。っ…いいよ、どの道超えなきゃだからね。」
そう言って榎沢はハンドガンを構える。
「やってみろよ、後輩。」
──
『なんとなんと、南沢隊員と笹森隊員が一気に緊急脱出!やはり完璧万能手は伊達じゃない!』
『3点取って独走状態ですね。』
『いつになくやる気だな。綾瀬川の奴。』
『そして、デパート内部にも動きがあった!これは…』
──
『おいおい、カゲ!生駒隊が一気に半分死んだぞ?!綾瀬川が3点取りやがった!』
仁礼は影浦に通信を入れる。
「チッ…綾瀬川のヤロォ…外にいやがったか。」
『ヒカリちゃん、ちょっと今それどころじゃないかも。』
「リベンジマッチかよ?ザキさん。」
デパート1階。
合流を果たした影浦隊は目の前でエスクードによる砦を完成させた柿崎隊に視線を向ける。
「清澄ばかりにいい格好させられないからな…!」
キンッ…
その刹那、柿崎隊にとっては聞きなれた抜刀の音が響く。
『『斬撃警戒…!!』』
「チッ…!」
「おいおい、出てくんのかよ…!」
影浦、北添は飛び退き、柿崎はレイガストを構えつつ、エスクードを2枚展開する。
「なんや分からんけど気づいたら2人やられてるやん?」
約20m離れた位置。
そこで、NO.6攻撃手、生駒達人は弧月を振った。
「ほんなら俺が点取らなアカンやろ。」
──
『デパート内部、柿崎隊VS影浦隊の戦闘が始まろうと言う中、生駒隊長が乱入!』
『思い切りましたね、生駒さん。2部隊相手に1人で仕掛けるなんて。狙い撃ちされる可能性もあります。』
『いや、生駒っちの旋空の射程は40m。距離を取って旋空を撃っていれば…』
──
「旋空弧月…!」
「やべえぞ、生駒の奴。デパートぶった斬る気か?!」
縦、横に乱発される生駒旋空。
それによりデパートは崩壊を始める。
「やべえ…!文香!虎太郎!」
「クソが、イカレてんのか…?」
「ビルとかの爆破解体あるやん?やってみたかってん。」
『いや、爆破やないでしょ。』
──
『こうやって戦場を外に広げれば、生駒っちも割と戦える。』
『と言うと?』
『1番はやっぱり…』
──
2筋の光が、爆風の中に刺さる。
『狙撃手の射線が通るようになること…ですね。』
「っ…!」
「ちょ…ゾエさんやっぱ的デカい?」
柿崎隊の巴が絵馬、影浦隊の北添が隠岐の狙撃により緊急脱出。
影浦隊、生駒隊が1Pずつ獲得した。
「これで全員2人ずつやろ。」
「チッ…!」
「やってくれるじゃねえか…!」
デパート内部での戦闘は戦場を外に変え、さらなる混沌を産む。
──
「っ…!」
「どこを狙ってるんだ?」
榎沢の放つハンドガンによるアステロイド。
綾瀬川は縦横無尽に駆けながらそれを避ける。
火力は確かに榎沢が綾瀬川を大きく上回っている。
だが、片手のない今、榎沢は攻めあぐねていた。
グラスホッパーで、綾瀬川と一定の距離を保ちつつ、アステロイドを放つ。
しかし綾瀬川は何処吹く風。
避けるか、シールドで受ける。
「っ…!!」
榎沢はハンドガンを綾瀬川目掛けて投げ捨てると、アサルトライフルに切り替える。
「防いでみなよ…!」
「…」
綾瀬川はシールドで受けながら、漏らした弾を弧月でたたき落とす。
「まだ何かあるのか?」
「っ…!」
榎沢はグレネードガンを綾瀬川に向ける。
しかし、一気に距離を詰めた綾瀬川にグレネードガンを切り裂かれる。
「やっば…!」
榎沢は急いでグレネードガンを手放し飛び退いた。
「ここまでみたいだな。」
「まだだし…!」
榎沢はハンドガンを乱射。
「真面目にやるまでもなかったな。」
しかし、綾瀬川はシールドで受けながら榎沢に歩み寄る。
「っ…」
「後輩の実力に興味があったんだが…興醒めだ。」
「くっ…!」
榎沢は後退るが、足が縺れ、腰を着く。
「本当に…何を学んだんだ?お前は。」
「…うるさいっ…!」
榎沢は声を荒らげながら綾瀬川にハンドガンを向ける。
「最高傑作のセンパイには分からないよ…。失敗作…周りには目もくれなかった癖に。あたしがどんな思いでここまで「興味が無い。」ッ!」
「この世は勝利が全てだ。」
綾瀬川は榎沢が向けたハンドガンを蹴り飛ばす。
「敗者には語る権利もない。最後にオレが勝っていればそれでいい。」
そう言って綾瀬川は弧月を構える。
「あ…はは…やっぱりあの人の言う通りだよ。…センパイは人間にはなれない。どれだけ丸くなってもセンパイは道具のままだよ。あーあ、丸くなったセンパイになら勝てるかもって思ったんだけどな…。あたしの見込み違いだったって事…?」
「そうかもしれないな。」
「いつからあたしを倒せるって思ってたの…?」
「…出会った瞬間からだ。」
そして、綾瀬川は弧月を振り下ろす。
…ことは無かった。
「ちっ…無駄話をし過ぎたか。」
綾瀬川はフルガードに切り替える。
「よォ、悪ぃが先に俺らと遊んでもらうぜ、天才。」
バッグワームを羽織り、こちらにショットガンを向ける2つの影。
「勝てると思ってるのか…?」
「思わねえな。だが…榎沢もいりゃ、相打ちくらいには持ってけるだろ…!!」
榎沢の窮地に駆けつけた諏訪、堤。
フルアタックに切り替えた、2人のショットガンが火を吹いた。
読者の皆さんもそろそろ気付いてると思うので書きますが、榎沢は憎悪と崇拝を兼ね備えたホワイトルーム生です。
どっちも出したいけど出す訳には行かなかったのでこういう形にしました。
二重人格とかでは無いです。普通に2つの感情がごちゃ混ぜで、不安定なだけです。
よう実原作の天沢とは大分違いますが、あくまでリスペクトキャラですので。その辺はご理解いただけたらと思います。
感想、評価等お待ちしております。
幕間何読みたいんじゃワレェ!
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誰かの独白。多分榎沢か三輪。
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掲示板形式のやつ。(作者無知)
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日常小話。
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if(綾瀬川VSボーダー)
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住民税高すぎ。