残火の章   作:風梨

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約12000字




始動

 

 

 

「──のぉ綱手。先生はなんでワシらを前線から呼び戻した?ワシが思うに、さすがにそんな余裕はどこにもないと思うんだがのぅ」

 

『木ノ葉隠れの里』

 その最も高い建物内部で、連れ立って歩いている男女がいた。

 二人がたった今通り過ぎた廊下の窓からは、外にある歴代火影の顔の彫られた『顔岩』がよく見えた。

 

 一人は高身長にガタイの良い大男で、白髪のトゲトゲした髪の毛を多く蓄えており、その額には何故か『油』と書かれた額当てを着けていた。

 

 もう一人は美女だった。

 グラマスな体型で女性にしては高身長である。

 豊満な胸元は男性の視線を集めること間違いなく、透き通った白い肌は20代と言われても納得できる美しさを保っていた。

 その美しい方の女──綱手が、男からの言葉に苛立たしげに舌を鳴らす。

 

「ちっ、うるさい。私が知ってたらこうまでイライラしてる訳がないだろうが。このバカ。唐変木」

 

「ガハハ、相変わらずキッツイのぅ。……思うに、大蛇丸の事じゃねーかとは思うんだが、お前さんはどう思う?」

 

「……奴が里を抜けた、という噂のことか」

 

「おうとも。前線のワシらまで話が通るくらい知れ渡っとる。公然の秘密みてーなだもんだろうのー」

 

 顎を摩りながら白い大きな髪を『ユサユサ』と揺らしながら大男──自来也は言う。

 

「ぶん殴って連れ戻してこいとか、そういう話じゃねーかとワシは睨んどる」

 

「……ふん。アイツのことなんて知ったことじゃない。私は、一刻も早く前線に戻る必要がある。こんな私でもまだ救える命があるんだ。それがわからない三代目じゃないと思ってたのに」

 

「……お前さんはよくやっとると、ワシは思うがのう」

 

「うるさい」

 

「こりゃ敵わん」

 

 (おど)けたように笑う自来也を睨みつけ、綱手は腹の底からため息を吐いた。

 

「まったく、これで大した用事でなければ、自来也。覚悟してもらうぞ」

 

「……え? ワシ?」

 

『ズカズカ』と進んでいく綱手の後を追って、自来也は走った。

 慌てた様子を表情にありありと浮かべながら、少し情けない顔で大声を上げた。

 

「おいおいおい、そりゃないんじゃねーかのぉ!?」

 

 

 

 

「──と、いう段取りになっております。いかがですかな?」

 

「よかろう。……これならお前に任せて良さそうだな」

 

「さすがにこの席に座るのも長いですからな。これ以上ダメ出しされては立ち直れぬ所でした」

 

『カラカラ』と快活な笑いを浮かべるヒルゼンに対して、ウヅキは少し真剣な面持ちで続けた。

 

「猿飛。奴の一件はお前にも責任の一端があるとオレは思うておる。だが、同時にお前の努力、頑張りも認めておる。それゆえに安心せよ。もうお前を責めはせぬ」

 

 気を遣っての言葉だった。

 ウヅキとて当主の難しさ、辛さはよくわかっている。

 火影ともなれば、その当主たちを纏め上げる必要がある。

 難易度もひとしおだ。

 だからこそ言葉にしておくべきと思った。

 

「……感謝いたします。ウヅキ様」

 

 柔らかな笑みを浮かべたヒルゼンの対して、ウヅキは笑いかけて頷いた。

 もう、これで二人にダンゾウの事での確執はなくなった。

 

 そのタイミングで部屋を叩くノック音が響いた。

 恐らくは予定していた者たちが到着したのだろう。

 ウヅキが軽く感知すれば2名が扉の前で待っていることが把握できた。

 

「客人が来たようだ。入れてやってはどうだ?」

 

「おぉ、そうですな。入って良いぞ。──自来也、綱手」

 

 その声と共に扉が開かれる。

 入室してきたのは白髪の大男──自来也と美女──綱手だった。

 ウヅキの視線は双方の額に向かっていた。

 

 自来也は『油』と書かれた額当てをしている。

(『油』? なんでそんな額当てを?)

 

 前世の記憶は薄れて久しくもうほとんどアヤフヤだ。

 それ故に思い出せず少し困惑した。

 

 続いて綱手の額。

 菱形のマークがちょこんと描かれている。

 そのマークに何故かどことない親近感を覚えたりしながら、ウヅキは二人の入室を見ていた。

 

「失礼するのぅ。っと、そちらの御仁は初めまして、か? 中々の美男じゃねーのよ。ま! ワシ程じゃないがのう」

 

「失礼する。──そうだな。後半は全否定するが、私も見た事がない。三代目、私たちをわざわざ前線から呼び戻すほどの理由が、コイツにあるのか?」

 

 開閉早々に軽口を叩いた自来也。

 いきなり喧嘩腰で会話を始める綱手。

 あんまりにもあんまりな両名の弟子にヒルゼンが思わず呻いた。

 

「お主ら、誰に向かってその減らず口を()いておる……」

 

 頭が痛そうに抱え込むヒルゼンに、ウヅキは笑った。

 ぶっちゃけ気にしていなかった。

 記憶は薄れているが、前世の価値観を持っていた人間である。

 こういうところは比較的フレンドリーだった。

 そういう意味ではウヅキは柱間に近いとも言える。

 

「此奴らが、猿飛の弟子か」

 

「……左様です。まったくもってお恥ずかしい限りですが、2人ともワシの弟子です」

 

 ウヅキは改めて両名を見定めた。

 チャクラの質を重点的に見ていけば、なるほど、強者であることがわかった。

 

 自来也に関しては恐らく仙術を使ったことがあるであろう軌跡すら見える。

 噴出する活火山が如き旺盛なチャクラだ。

 

 綱手に関しては千手一族特有の感覚があった。

 生命力に満ち溢れた森が如き雄大なチャクラである。

 

 そして二人の顔立ち。

 幾つもの修羅場を潜った者特有にスレていた。

 確認し終えてウヅキは一つ頷いた。

 

「ふむ、悪くないチャクラだ。それなりに修羅場も潜っておる。初見で相違ないぞ。オレの名は『かぐや一族』のウヅキという。此度は改めて『かぐや一族』を率いる立場となった。よしなに頼む」

 

 ウヅキとしては可笑しな事を言ったつもりがない。

 だが、その一言で場は静まった。

 静寂が場を支配している。

 

 それは『何言ってんのこの人』という間だ。

 思わず両名からの、冗談のつもりなのか、と刺すような視線がヒルゼンに注がれるが、ヒルゼンは無言で頭を縦に振った後に言った。

 

「偽りない。真実であるとワシが保証する」

 

 その一言で両名の疑念は爆発した。

 

「いやいやいや、先生! それはさすがに無茶があるんじゃねーかのぉ! 何年前に死んだ? 50年? 60年? それはさすがにワシでも笑えませんって!」

 

「……まさか、本当に? いや、『かぐや一族』は長命ではあるが、さすがに生きている筈がない。第一既に亡くなっていたはずだ」

 

『ガヤガヤ』と騒ぎ立てる両名を見て、一つ息を吐いたヒルゼンが覇気を込めて告げた。

 それ以上を許さん、とする意気の篭った声だった。

 

「気持ちは理解する。じゃが、それ以上の言葉を重ねる事は許さん。……ここに居られるのは『戦国三英傑』その人である」

 

「うむ、相違ない。オレがウヅキだ」

 

 あんまりにも自然に言う、『どーん』とした立ち姿の麻呂眉の面立ちをした美丈夫がそこに立っていた。

 偽っている感じはしない。

 それは両名も感じていた。

 火影の後押しもある。

 だが、内容が突拍子もなさすぎた。

 信じるには後一歩が不足している。

 

 信じる? いや、無理だって。

 そう視線で言い合う2人の無言の沈黙が再び場を支配した。

 ヒルゼンがため息を吐いた。

 

「はぁ。……まぁ信じがたいのもわかる。ですから、ウヅキ様。証拠を二人に見せてやって頂けませんか」

 

「む? そうか? ……そうか」

 

 言われて疑問符を浮かべて、その後自分に覇気がないからではないか、と気がつき少し落ち込んだ様子のウヅキが一息を吸った。

 見せるならばあの術しかないだろう。

 込める気迫は劣るが、『熱量』は数日前のダンゾウの時とは段違い。

 かつて『極限の熱量』とも称された術の一端が開示された。

 

「──『残火(ざんか)』」

 

 一言と共に身体から立ち上った、その熱のオーラは美しかった。

 薄い赤色に揺らめいている。

 皮膚の表面を煌めく暗紅色(あんこうしょく)に染め上げ、瞳の奥は炎が灯ったように揺らいだ。

 続けて、右掌を左肩に添えて告げる。

 

「『残火刃骨(ざんかじんこつ)』」

 

 素早く肩骨から取り出した刃骨は、今回は戦闘目的ではないにせよ癖で鋭利に変形されており、表面を飾る鋭い刃と斑模様に散らばった赤熱色は調和が取れて工芸品が如く美しい。

 ゆったりとした仕草で刃を振り払えば、火花が虚空に散った。

 

「これでどうだ。……まだと言うなら模擬戦でもやるか?」

 

 両名共が呆気に取られていた。

 言葉だけでは、信じきれないだけだった。

 火影の言葉を疑っていた訳ではないため、この結果を見せられればすんなりと理解した。

 ああ、この人が『あの』ウヅキなのだと。

 少しだけ困ったような顔でそう言ったウヅキの前で、綱手が『ワタワタ』と両手と首を横に振った。

 

「い、いや!! まさか本当とは思わず……! 大変失礼をしました。私は千手柱間様の孫で、千手綱手という。先程は大変なご無礼を申しました。……申し訳ございません」

 

 言った後に頭を下げた綱手に続いて、横に立っていた白くて大きな髪を蓄える大男。

 自来也がアホヅラで続けた。

 

「……え? マジですかい、猿飛先生」

 

「だから、何度もそう言っただろうが、このバカ弟子が……」

 

 つい昔の口調に戻るほど。

 本当に痛そうにヒルゼンが頭を抱えた。

 そしてちょっとした夫婦漫才が始まろうとしていた。

 拳を握ってプルプルと震わせた綱手が、耐えきれんとばかりに叫んだ。

 

「さっさと謝れこのボンクラが!!」

 

「あいたぁ!!」

 

 綱手の一声と共に放たれた剛力の拳骨が自来也の後頭部を殴打し、その勢いのまま頭を『ワシィ』と掴み込んで無理やり下げさせた。

 

「ほんっとうに申し訳ございません、ウヅキ様!! この馬鹿、自来也は昔っからこんな調子で、後で私からもシメておきます。申し訳ございません!」

 

「あー、構わん。それより物凄い音だったが。おい、生きておるか?」

 

「あいたたた、なんとか生きております」

 

 当の自来也はもう慣れたものなのか、多少頭をさする程度で平然としていた。

 中々に鍛え上げられているらしい。

 いや、そんなところを鍛えてもとは思うのだが、ひとまず無事を確認できてウヅキは安堵して下手人である綱手の方を向いた。

 

「……そうか。綱手よ、あまり頭部は殴るものではないぞ? 危険だ」

 

「あ、いや、申し訳ございません……」

 

 なぜ私が、という表情で謝罪を続けた綱手だったが、すぐ横で『ニヤっ』と笑った自来也と目があった。

 次の瞬間。

 青筋を額に浮かべた綱手に鬼のような形相で『ギロリ』と睨まれた自来也が慌てて続けた。

 

「と、ところで! ……ウヅキ様が蘇られたというのは驚くべき事ですが、一体どんな秘術を使ったのです? それは『死者蘇生』すら可能とするものなのですか?」

 

 その一言で、ありえない可能性に光明が差した綱手が顔を上げる。

 僅か期待に濡れた表情に少しバツが悪い気持ちでウヅキは首を横に振った。

 

「いや、オレは死んだという事にされていただけで、実際には生きていたに過ぎん。蘇ったわけではないのだ」

 

 実際はどうあれ、そういうことになった。

 御堂に安置されていたウヅキの肉体を確認した後。

 ヒルゼン、ヒヨリ、ウヅキの3名で決めた結論だった。

 ただし君麻呂に関しては、本当に『死者蘇生』を実現してしまったために、現在は最大級の秘匿情報となっている。

 誰彼構わず使える便利な術ではない故に。

 

「そうでしたか。ということは、今まで何をされて居たのです? いや、ワシはこれでも物書きにでもなろうかと思ってまして、話しの種にでもなればと思い聞かせて頂きましたので、まぁ無理にとは言いません」

 

 そんな自来也の質問に、ウヅキは何でもないように言った。

 

「うむ、寝ておった」

 

「……寝て、らっしゃった?」

 

「そうだ。50、60年程な。マダラとやりあった故に傷が深かったのだ」

 

「ウヅキ様、それ以上は」

 

 機先を制すヒルゼンの言葉にウヅキは頷いた。

 建前としてカバーストーリーは作ってあるが、ボロが出ないとも限らない。

 可能な限り秘匿するのが良いとしていた。

 

「む、そうだな。すまん、機密でな。これ以上は話せん。聞いてくれるな」

 

「おぉそうでしたか。 これは大変失礼をしました! では、改めて『三忍』が一人、自来也と申します。先程はご無礼を。謝罪します」

 

「ウヅキである。よしなに頼む」

 

 ちゃっかりと謝罪と挨拶まで済ませた自来也を、綱手だけが『ジト目』で睨んでいたが、話を整えるべく咳払いをしたヒルゼンが話を引き継ぐ。

 

「──さて、話もまとまったな。今回お主らを呼んだのは他でもない、このウヅキ様を紹介するためであるが、無論それだけでお主らを前線からは外さん。まぁもう前線ではないのだが。……これから『木ノ葉』ひいては今回大戦における重要な作戦に関して説明する。失敗は許されん。よいな?」

 

 僅かに疑問符を浮かべながらも、重々しく両名が頷いたのを確認しヒルゼンは続ける。

 

「まず、最終目標とするのは『終戦』である」

 

 覇気を漲らせ、ヒルゼンは己が願望を叶えるための作戦の説明を開始した。

 

 第一戦略目標。

『停戦』

 第二戦略目標。

『交渉』

 第三戦略目標。

『終戦』

 

 今回の作戦は大まかにこの3つに別れる。

 第一目標に関しては既に実施解決済みである。

 自来也達は火急的速やかな移動を求められたため情報を持って居なかったが、現在『火の国』との戦線を抱える全国が暫定的な『停戦』に入っている。

 現在戦線を抱えて居ないが、国境を面した国家に対しても既に周知済みである。

 これは圧倒的な武力を背景とした宣告であるため、破られる恐れはほぼない。

 虚偽と判断される恐れもない。

『火の国』から宣告されたそれは信頼度が高い情報であり、虚偽であった場合は国の威信が低下するためだ。

 

 自来也と綱手が求められるのは、第二戦略目標である『交渉』における交渉人(ネゴシエーター)としての役割──ではなく『ネームバリュー』である。

『三忍』という肩書は有効であるため、それを利用するための抜擢(ばってき)であった。

 無論、その他異名を持つ『忍』も参加する。

 そしてそれだけの『格』を持った交渉相手は無論のこと、他の五大国である。

『雷の国』『土の国』『風の国』『水の国』

 そして我らが『火の国』

 

 それら全ての『隠れ里』代表が集まる『五影会談』に出席し、『終戦』の協定を結ぶための交渉を行う。

 求められるのは少数精鋭であった。

 

 

「──なるほどのぉ。それだけ名のある忍を動員できるカラクリが、ウヅキ様という訳ですか」

 

「そうだ。ウヅキ様がおるからこそ強行出来る。『灼道』の異名はそれだけ重い」

 

 重々しく頷いたヒルゼンに対して、自来也が頭を『ポリポリ』と掻きながら申し訳なさそうに告げた。

 

「あー、その『灼道』ってのをワシは聞いたことがないと言いますか、その。──なあ?」

 

「……奇遇だな、私もだ。それほど重い異名なのですか?」

 

 疑問を浮かべる両名にヒルゼンは頷いた。

 第一次大戦の異名。

 それも表向きは『木ノ葉』主導ではない作戦。

 加えて各国がこぞって隠したがった異名。

 様々な事情が重なって情報が隠されていたために、知らないのは仕方がない部分がある。

 

「そうじゃな。お主らが知らぬのも無理はあるまい。ワシからあえて触れる事もなかったが、他国はもっと知られたくない話であったからな。話しておこう」

 

 ヒルゼンは静かに語り出した。

 第一次忍界大戦の壮絶な異名の逸話を。

 

 

 

 

 

 同時刻、土の国某所。

 『岩隠れの里』のとある一室でその報告を受けた老人は、持っていた湯飲みを机に叩きつけて叫んだ。

 叩きつけられた勢いで空中に飛散したお茶など気にもして居られないとばかりの剣幕だった。

 

「──バカな!!!! ワシは信じんぜい! あの怪物が蘇ったなんぞありえん!! ハッタリじゃぜ!!」

 

「その、土影様。火の国からの公式情報なので、間違いはありえないかと……」

 

 メガネを掛けた苦労人の雰囲気漂う姿の男性に対して、『くわっ』と目をかっぴらいて土影──『両天秤のオオノキ』は力のかぎりに叫んだ。

 

「信じん!! 嘘じゃぜ!!」

 

 そのバカでかい声を聞いて、娘である『桃ツチ』は耳を思わず塞いで続けた。

 

「うっさ。お父ちゃん、嘘じゃないって言ってんじゃん。っていうか、本当だからなんだって話でしょ。過去の偉人が蘇った程度で何狼狽(うろたえ)てんのよ。ってか生きてたってだけで蘇った訳でもないらしいし、驚異でも何でもなくない? 絶対ヨッボヨボの爺だって。そりゃ、一応念の為に強い『忍』が一人増えたくらいの警戒はしなきゃなんないけどさ。それだけじゃん。焦りすぎだって」

 

『のほほん』と宣う娘に対してオオノキは『むすっ』と口を結んだ。

 

「お前は何もわかっとらん。あの怪物がどれほど恐ろしいか……。思い出すだけでも震えてくるわ」

 

「ただの歳でしょ」

 

「違うわい!!」

 

『くわっ』と続けたオオノキは思い出すように唸り出した。

 脳裏に映るのは第一次大戦の記憶だった。

 ブルリと身体が震える。

 あの、全てを溶かして粉砕していった『化け物』の姿を思い出して。

 

「忘れもしない第一次大戦の話じゃぜ。うちはマダラも奴は奴でとんでもない怪物じゃったが、『灼道』のウヅキ。あれは別格じゃぜ」

 

「ふーん、『戦国三強』って言っても差があるのね」

 

「違う。あれは、格下殺しの怪物ってだけじゃぜ。あんなのとやりあって勝ち越すマダラの方が怪物かも知れんがな……」

 

 奴がただ立ち尽くすだけで仲間が死んでいった、とオオノキは溢した。

 

「……毒って事?」

 

「それも違う。奴の異名は『灼道』。これは、『木ノ葉』外縁部から伸びる4つの道を指すんじゃぜ。まぁ『水の国』は海までで途切れとるが、そのまま海中を歩いて『水の国』にまで行ったって言うんじゃぜ。まるで意味不明じゃぜ」

 

 オオノキは当時を思い返す。

 第一次忍界大戦。

 国家間の戦争に『隠れ里』が戦力として正式に換算され、大規模な戦闘が増えた時代だった。

 忍術というのは複数人で使えば使うほど効力を増す。

 土遁であれば、無論容易ではないが、山ほどのサイズの巨岩を降らせる事すら可能となる。

 それ故の変化だった。

 

 煮詰まった戦況を打破すべく、『木ノ葉』の鬼才千手扉間が考案したとされる作戦は、まず成功不可能な荒唐無稽なものだった。

 何とたった一人を一時的に『木ノ葉』から追放し、無所属とさせた上で『単騎で雷土風水の4国順番に宣戦布告』させたのだ。

 その人物こそが『ウヅキ』だった。

 

 ウヅキは作戦通りにたった一人で順番に宣戦布告し、わざわざ一国毎に『木ノ葉』外縁部からそれぞれの国の国境にまで足を運び、そして国境にある砦の城門を粉砕するだけして占拠も略奪もせず帰って行った。

 ちなみに目標とする国家にたどり着くまでの道中にあった国はそのまま当然のように正面突破されて話題にも上らなかった。

 この作戦を聞いたウヅキが思ったのは、『前世で例えるならド派手な『ピンポンダッシュ』だな』である。

 

 無論、そのような舐められた真似をされた各国首脳は宣戦布告時点で激怒した。

 何せどこからどう通ってどこにお邪魔します、といった作戦内容すら布告文に記載していたのだから当然である。

 各国はそれぞれが持つ突出した戦力をこぞって通り道や目標の砦に送り込み、通れるものなら通ってみろとばかりに威圧し攻撃した。

 

 その結果は、全てが防衛失敗。

 1回目、2回目と布告通りの結果が出される度にまだ布告を受けて居ない国は次第に恐慌し始める始末だった。

 そして当然のように4回全て防衛失敗に終わり、ウヅキにはその通った後についた焼け焦げた道から『灼道』という異名が。

 砕かれた無残な城門から『城門砕き』と。

 

 そして、奴は大陸すら滅ぼせるのではないか、と誰かが言った言葉や、大陸中の国々が震撼した事から『大陸崩し』の異名を得た。

 そこまで語り終えたオオノキは静かに続ける。

 もはやここに至っては娘も固唾を飲んで見守っていた。

 それがもし本当なら、そんな『化け物』と今後戦う必要があるのだから。

 

「……その間、奴が受けた傷はない。全て無傷でやり遂げおった。一度目以降の3国は影すら参戦したんじゃぜ? 雷影に関しちゃ死ぬ寸前まで行ったって話じゃぜ。それでも何もできずに終わった。奴がひとたび本気を出せば、容易く国が滅ぶと誰もが思ったものじゃぜ」

 

 当事者だからこそ知るウヅキの恐ろしさを、そう言って口端に滲ませた。

 

 

 ところ変わって『雷の国』某所。

 『雲隠れの里』

 『岩隠れ』のオオノキと同じように報告を聞き、知っている限りの情報を吐き出し終えていた。

 そして、雷の笠を目の前の机に置いた黒い肌の大男──雷影エーが呟いた。

 

「──当時の雷影様の話じゃあ、奴が治療したからこそ一命を取り止めたらしい。そのとき、奴はこう言っていたそうだ。『悪いな、扉間の糞野郎の依頼でなければ傷一つくらい受けてやっても良かったのだが、他所の名声だけは決して高めるなと厳命されている。命もできる限り奪うな、とな』……だそうだ。完全に舐め腐ってやがる。国との喧嘩ですら、奴にとっちゃ格下とのお遊びでしかなかったって話だ」

 

 雲隠れの相談役。

 年老いた爺のうちの一人が頷いた。

 ヨボヨボであるが、その分だけ歳と知を重ねている。

 雲隠れでも数少ない第一次大戦を知る人物だった。

 

「左様。あの御仁は、『灼道』は別格。もしも現代に蘇ったのならば真偽を確かめるためにも席に着く必要がある。そしてもし本当であったなら、また、『火の国』の一強が続くのぅ」

 

「うるさい。オレが何とかする」

 

「威勢だけじゃ何にもならんわい」

 

「なんだと!!?」

 

 立ち上がり激昂した雷影を宥める雲隠れの会議室は大荒れに荒れた。

 

「とゆーか、ワシらの使節団帰ってこんし、時既に遅しで逆鱗に触れてないかの……?」

 

 そんな中でそんな聡い事実に気がついた者も居たが、話題にのぼるのはまだ少し先のことである。

 

 

 

 

「──そんな過去があったのですか」

 

「到底信じられないが、当人がここにいるんだ。信じるしかないな……」

 

 自来也と綱手はその話を聞いて深刻に考え込んだが、ヒルゼンは軽く首を振った。

 懸念もあるのだから。

 

「随分と昔の話だ。お主らが知らぬのも無理はない。加えて今のウヅキ様はかなり弱体化されておる。具体的には、全盛期の約10分の1であるそうだ。同じことが可能であるかはわからぬ」

 

 両名に続き、深刻な表情を浮かべたヒルゼンの言葉に対して、ウヅキは『きょとん』とした顔で否定した。

 まるで大したことでもないと言うように。

 

「いや? 同じことはもう(・・)できるぞ?」

 

「……ぬ?」

 

「ヒルゼンの言うあの時は、あー。『寝惚けて』おったからな」

 

 それが隠語であることはヒルゼンにだけ伝わった。

 ヒルゼンは必死に思い出す。

 そうだ。

 あの後に御堂に行った時、確かこう言ってなかっただろうか。

『オレの生前の身体を取り込めさえすれば、全盛期と変わらんのだが』と。

 まさかと思いウヅキを見つめれば、まるで肯定するかのように頷きが返ってきた。

 

 つまり、あの『魂は抜けているがまだ生きていた身体』を、既に取り込み終えた、ということであろう。

『怪物』

 その二文字がヒルゼンの脳裏に浮かび、しかしこの方であれば可能だろうとも思わされた。

 恐らくあの時に実施しなかったのは、ウヅキの体内にまだ残っていた『君麻呂の因子』と『魂』をあるがまま残すため。

 君麻呂を蘇生し終えてしまえば懸念は消える。

 

「……さすがですな」

 

 苦笑いすら浮かべながら、ヒルゼンはそう言うしかない。

 その言葉に対してウヅキは『ニヤリ』と笑って答えた。

 

「当主だからな」

 

 いや、それは絶対に違う。

 そんなことをヒルゼンが思っている中、自来也と綱手は安堵の息を吐いた。

 とんでも無い『切り札』があると聞かされたと思ったら、それが空手形と言われ、しかし実は空手形ではなかった、と言われた両名の心持ちはさながらジェットコースターだった。

 

「まったく、猿飛先生。驚かせんでください。ただのハッタリかと思ったじゃありませんか」

 

「今回ばかりは私も自来也に同感だ。三代目、もう少し言い方があったと思いますが」

 

「はは、すまんすまん。ワシもちと『ボケた』かもしれん」

 

 わざとらしく隠語を使うが弟子たちに気がついた様子はない。

 まさか今の今までヒルゼンすら知らなかったとは思っておらず、しっかりしてください、などと言い合った。

 

「さて、そう言う事情でお主らを呼んだ訳じゃ。行ってくれるな?」

 

「もちろんですとも。前線が安定しているなら、ワシが断る理由なんぞありませんから」

 

「ああ、そうだな。私も医療部隊に合流せずともいいだろう。……無論予断を許さぬ患者はいるだろうが、今から私が戻っても足手纏いだろうからな」

 

 沈痛な面持ちで顔を伏せる綱手に、ヒルゼンは優しく微笑み掛けた。

 血液恐怖症であるにも関わらず、医療忍術ならば多少の力になれると前線の医療現場にまで足を運び、震えながら時には涙すら浮かべながらも必死に治療を続けた弟子の事を、少しでも楽にさせてやるために。

 

「そのことなら安心するが良い。ウヅキ様が『骨分身』を送ってくださっておる。じきに『木ノ葉』から重・軽傷患者は居なくなる」

 

「うむ。とはいえ、オレに掛かりきりでは医療が発達せぬから今回限りになるだろうが、前線にも多めにチャクラを持たせて走らせた。お主たちが会った伝令と同時に走らせた故、今頃は治療も終わっていよう。さすがに手足は生やせんが」

 

『薬神』

 その異名を思い出した綱手は肩を震わせて喜んだ。

 本当に心からの喜びだった。

 これで、少しでも救われる者が増えると。

 己と同じ境遇となる者を減らすことが出来ると純粋に喜んだ。

 

「本当ですか! それは、前線の者に代わってお礼申し上げます……!!」

 

「構わぬ。当然のことだ」

 

 鷹揚に頷いたウヅキに、ふと今気がついた自来也が続いた。

 

「ところで、他には誰が参加するんです?」

 

「うむ。考えておるのが『瞬身のシスイ』『黄色い閃光』『日向一族のヒアシ』そしてこのワシ、三代目火影を予定しておる」

 

「ほぉそりゃあすごい。錚々たる顔ぶれってもんじゃないですか」

 

「うむ。それだけ今回はワシも本気ということよ。無論、その他護衛、後方支援や感知タイプの『忍』などを編成するがそこは当然じゃな」

 

「でしょうとも。腕がなります。場所はいずこで?」

 

「まだ調整が済んでおらず本決まりではないが、『滝の国』が用意する手筈となっておる」

 

「『滝の国』か、なるほどのぅ。5大国の中間地点ですか」

 

「左様。むろん先も言ったが本決まりではない。日程なども未定だが、お主らを前線に置いておく理由もないので呼び寄せた。もう一つ、重大な報告もある。恐らく最も驚くじゃろう」

 

「まだあるんです? って猿飛先生。さすがにもう驚きませんって。ウヅキ様が蘇ったよりも驚くってどんな事件ですか」

 

「ははっ、まったくだ。それを超えることなんてそうそうない……」

 

「ダンゾウがな、死におった」

 

「「ええー!!?」」

 

「これが生首じゃ」

 

「「うおぉ!!?」」

 

 全く同じ表情。

 そして全く同じリアクションを浮かべた両名の弟子を見てヒルゼンは微笑ましく思った。

 

「お主ら仲良いな」

 

「でしょう?」

 

 その言葉に対して咄嗟に『ニヒル』に笑って斜に構える自来也を押しのけて綱手が机を叩いた。

『ミシリ』と嫌な音を机が立ててヒルゼンも思わず顔をしかめた。

 

「先生! いったい誰がダンゾウを!?」

 

 続けて、自来也が復活して綱手に続いた。

 

「いやまったくだのぉ! 猿飛先生! これは誰だって驚きますよ!! 誰がやったんです!?」

 

 その綱手と自来也の言葉に、ウヅキが一歩前に出た。

 厳かに、そして静かに断言した。

 

「オレが殺した。此奴は『うちは一族』の眼球を右腕に嵌め込んで利用しておった。故に処断した」

 

「……この外道。そこまで堕ちていたか」

 

 侮蔑の視線と言葉を投げる綱手に、ヒルゼンは頷きを返した。

 自来也は苦々しい顔で唸った。

 

「ワシも許可をした上で、ワシの目の前で処刑した。故にこれは内部抗争などではない。被害も皆無。先にそれを伝えておく」

 

「……わかりました。しかし、『根』を解体する訳にもいかないのでは?」

 

「そうじゃ、後釜には『うちは一族』に座ってもらうよう打診を予定しておる」

 

「では、未だ空席と」

 

「うむ。ウヅキ様がな、二つ名持ちの『忍』と各一族当主には全員通達してから打診すべきと申された。それが筋であると」

 

『チラリ』とウヅキを伺う視線をヒルゼンが投げる。

 引き受けてウヅキが頷いて続けた。

 

「そうだ。まぁ今思えば戦国の倣いでしかなかったが。強者には伝えておくものだ」

 

「……そうですか。わかりました、私に否はありません」

 

「うむ。まぁ通達だけであるがな。さて、ひとまずの連絡事項は以上となる。また追って連絡するので里からは出ぬように。では解散」

 

 その一声で綱手と自来也の両名は退出していき、そうしてこの場にはウヅキとヒルゼンだけが残った。

 僅かな沈黙。

 そして、『ふぅ』と息を吐いたヒルゼンから確認するように質問が入った。

 ウヅキはそれを、窓の外にある『顔岩』を見ながら聞いた。

 

「ウヅキ様。いつの間に全盛期の力を取り戻されていたのですか?」

 

「む? あぁ今日の朝にな。やってみたら出来たわ。むろん取り込み中である故に今すぐとはいかぬが、じきに戻るだろう。具体的にはそうだな、1週間くらいか?」

 

 1週間。

 その期間を聞いて、ヒルゼンは予定をある程組み直す事を検討して居た思考を破棄した。

 それだけの短期間で実力を取り戻せるこの人は、やはりどこかおかしい、と半ば呆れて。

 しかし、不思議と安心感を抱きながら笑った。

 

「……そうですか。やはり規格外ですな」

 

「そうか?」

 

「そうですとも。ところで、扉間様の禁術は本当に使われませぬので?」

 

「あぁダンゾウか。情報があれば有用だろうが『穢土転生』はせぬ。魂だけは焼き殺した刃骨に封印済みであるから、解除せねば復活できぬし、何よりオレはあの術が好かん。あの卑劣者に頼るのは癪だし、何より道理から外れておる」

 

 その意見にヒルゼンは『ほっ』と息を吐いた。

 

「ワシと同じ意見で安心しました」

 

「ふん、同じでない者が異常なのよ。お互い正常ということだな、猿飛」

 

「そうですな。禁術は禁術として扱いましょうぞ」

 

「あぁ。──では行くか」

 

「行きましょう」

 

 そうして最後の二つ名持ちに通達を終えた二人は、予定通りに『うちは一族』居住区へと足を向けた。

 裏側。

 いわゆる『根』である、その頭領を正式に打診するために。

 

 

 




まずは心配させてしまった皆様に対して謝罪を。

先日の息が出来ない話ですが、あれは本当です。
この文章も病院の部屋の中で書いてます。
しかし、過換気。
つまりは過呼吸に該当する『息が出来ない』であったので、死ぬほど苦しいですが、まぁまず死にません。身体が痙攣して全身硬直したりもしますが、基本死にません。

ただ死ぬほど苦しいだけです。
全く問題なし。
人間生きてりゃなんとかなるもんです。

なので、その点はご安心くださいませ。
ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。

ちなみに『死者蘇生』出来るのは今作中君麻呂が唯一無二でこれが最後です。
かつ君麻呂もこの1回が最後で、もしもう一回作中で死ねば『死者蘇生』不可ですので、何でもありだけど本当に何でもありではないので、ご安心ください。
あ、いや。ウヅキは転生条件揃えばまた君麻呂に転生出来ちゃうか・・・。
まぁそれはさておき。

ではでは。


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