「──お初お目にかかります。うちは一族が当主。うちはフガクと申します」
ウヅキの前で、まだ30程だろうか。
若年と呼べるほどの若い男が正座しながら堂々と名乗っていた。
言葉遣いこそ丁寧であるが、頭は下げていない。
創始者の一人でもあるウヅキに対するには横暴とも呼べる振る舞いだったが、ウヅキは笑って受け入れていた。
当主同士に優劣はない。
故に頭を下げる必要はないという強気な意思表示は好ましい。
ウヅキが胡座をかき、両手を両膝の上に置きながら返答した。
「『かぐや一族』が当主。ウヅキである。此度は一つ提案に参った。話をするが、良いか?」
「もちろんです。お話を伺いましょう」
フガクは頷く。
事前に『全当主に対して』通達はしているのだから、内容はフガクも知っている。
が、そんなことは関係がない。
公式の会談で伝えてこそ意味がある内容だからだ。
ウヅキが両の拳を握りしめて畳に押し当てる。
前に向きながら、ここだけの話という雰囲気で顔を前に寄せた。
無論、形だけではあるが。
「話というのは他でもない。木ノ葉上層部の裏組織。『根』のトップであった志村ダンゾウ。此奴が『うちは一族』の眼球を私的に用いていた事件が発端である。非人道的すぎた故に、そちらに相談せず、こちらで既に処断済みであることは謝罪しよう。しかし、必要なことであったとまず理解してもらいたい。……これらが証拠だ」
脇に控えていた、持ってきていたダンゾウの右腕と頭部を、お盆に乗せた上で差し出す。
その苦悶に歪んだ顔と冒涜的な右腕を目にしても、フガクに動揺はない。
淡々と失礼、とだけ述べて写輪眼を開眼させる。
じっくりとダンゾウを確認し、そして確認が終わった後に重々しく頷いた。
「間違いなく志村ダンゾウでしょう。そして、この右腕の写輪眼は『うちは一族』のもので間違いない。……一族の者に代わり、お返し下さった事に感謝する」
やはり頭は下げない。
しかし、目礼をしながらの言葉に滲む感謝の気持ちは伝わる。
ここでの感謝とは、謝罪を受け入れるという意味合いである。
ダンゾウの右腕と頭部と引き換えに、『うちは一族』と『木ノ葉の里』の間での禍根を残さないという宣言でもある。
怒りはあるだろう。
しかし、ここで揉めるメリットがない。
下手人は既に処断されており、責任の所在を里に求めるのは可能ではあるものの、非常に難しい。
何故なら『志村ダンゾウ』と現火影が、表ではさておき、事実上の反目をし合っていた事は周知の事実。
改善策も事前に伝達されている。
この状態でさらに不満を述べるなど、百害あって一利なしである。
ほぼ確実に『かぐや一族』と現火影からの不興を買うのだから、その判断は通常考えられない。
それ故にウヅキと火影も問題なく謝罪が通るとは思っていたが、それでも一つ目の関門を突破したことで少しばかり場の空気が弛緩した。
座りながらも、弛緩した空気を締め直すように佇まいを改めて正し、ウヅキが頷きながら続けた。
「いや、心中お察しする。だが、二度とこのような事件を起こしてはならぬと、オレは考える。これは火影も同意している」
「いかにも。ワシも同意見だ」
ウヅキに続き、ヒルゼンも頷く。
予定調和であったため、フガクからも深い追求はない。
そのまま続けられた。
「それ故に、『うちは一族』に新たな暗部組織を創設してもらい、木ノ葉の裏側を掌握してもらいたい。今回の本題はこちらにあるが、如何か?」
その問いかけに対して、フガクは厳しい表情の沈黙で答えた。
数秒の間を置き、そして開かれた口からの言葉は、表情から察せられた通りのあまり好意的とは言えない回答だった。
「……お心遣いは感謝する。だが、『うちは一族』を預かる者として容易には決められぬ事だ」
正式な打診は今回が初めてである。
しかし、事前に全ての当主に対して
つまり、この返答が意味するのは、3日という時間があっても、一族内部で意見が纏まらなかったという返答である。
『ヒヨリの懸念』が当たったやも知れぬと思いながら、さらに話を引き出すためにウヅキは会話を続ける。
「であろう。察するに、一族の負担が増えてしまう事を懸念しているかと思うが、如何か?」
一族の負担。
この言葉は色んな受け取り方が可能である。
例えば人員的な問題。
現在は戦争中である。
どこも人手不足であるから、人員不足を理由に新しい仕事を抱え込む事に懸念を示す事は十分に言い訳として成り立つ。
ウヅキは表向きとしては、そういった意味合いで告げた。
しかし、裏の意味合いとしては異なる。
ヒヨリが唱えた懸念。
それは、負の感情が『うちは一族』に集まりすぎる点にあった。
警備部隊というのは、安全を守るという重要な役目である。
自尊心の高い『うちは一族』を満足させるに足る役割だ。
しかし、取締るという事はマイナスのイメージがどうしても付き纏う。
そこに彼らの秘密主義や『うちは一族』の身内以外に厳しいとも取れる態度から誤解が生まれかねず、既に『木ノ葉の里』では『うちは一族』に対するあまり良くない類の声が噴出している。
衆愚政治という言葉があるが、民衆とは基本的に安易な方向に誘導されてしまう質がある。
この場合の安易な方向とは、本質を見誤り、表面的な部分しか伝わらずに誤解が広まるという意味である。
つまり、里を守るための『うちは一族』の努力が『傲慢』『権力の悪用』や『里の者を虐げている』という印象になっている恐れが十分に高い事を意味する。
プライドの高い『うちは一族』が、権力を悪用する恐れはあまり考えられない。
しかしそれは深い理解がなければ辿りつかない結論であり、噂で広まる事を期待するには少し無理がある。
そんな状況下で、裏側。
つまりは暗部の管理まで『うちは一族』に権限を渡した場合に、怪しい事があればそれは『うちは一族』の仕業だ、という処にまで印象が悪化しかねない。
そして『うちはフガク』がその懸念に気がつかない訳がない。
権力が増す事を歓迎する『うちは一族』の者は多いだろう。
しかし、『うちはフガク』の懸念に賛同する『うちは一族』もまた多いはず。
そうなった場合は最悪『うちは一族』が内部分裂しかねず、内戦に発展する恐れすらあるとヒヨリは懸念を示した。
そしてウヅキはそんな事を狙っていないが、『木ノ葉』やウヅキが『うちは一族』に対して、内部分裂の工作を仕掛けていると受け取られる場合もあり得るとヒヨリは告げていた。
幸いにして、フガクの様子からそこまで印象は悪化していないように思われる。
ダンゾウの死体を最初に見せた事。
ウヅキと火影が同時に顔を見せた事で、多少であれ信用を得た結果であった。
このように、様々な懸念点がある。
しかし、上記の懸念を公式会談でそのまま伝えては、逆に印象が悪化しかねない。
極論ではあるが、当主であるのに一族を纏められていないと指摘するのと同意義であるからだ。
故にオブラートに包んで、色々な意味で受け取れる言葉を投げかけた。
『一族の負担が増えてしまう事を懸念しているかと思うが、如何か?』と。
フガクはその気遣いを十二分に理解した。
そして、だからこそ、あえて内情を開示した。
「そうですな。『一族の負担』が増えるのはもちろんですが、いやはや私も若年であるからか、内部を纏め切れておらず。みなで意見を出し合って決めたいと思う故に、しばしお時間をいただきたい」
内部を纏め切れていない。
そこまでフガクが明言したのであれば、ヒヨリの懸念がズバリ的中したと考えて良い。
ウヅキはそう判断し、火影──ヒルゼンに視線を投げた。
それは予定通りの提案をするが良いか、という最終的な確認を意味する視線であり、ヒルゼンは当然の様に頷いた。
この頷きはフガクに見せるためものでしかない。
公式会談中であるために、一部の一族を贔屓する発言を火影たるヒルゼンが残す事は出来ない。
しかし、形として残らないものであれば、暗黙的に頷きを返す事で、ヒルゼンも了承しているとフガクに伝える事ができる。
そんな面倒くさい前提を行って、ウヅキは口を開いた。
「少し話が変わる。これは『かぐや一族』当主としての提案であるが、息抜きも兼ねて『かぐや大祭』に参加しては如何か? ──いやはや、オレも当主に復帰したばかりでな、一つ余興でも打ち上げようかと思うておる。そこで『うちは一族』の力も借りてみたくてな。どうだ、一緒にやらぬか」
この時代の能芸とは、いわゆる舞台、歌や舞などの芸能である。
つまり、身も蓋もない話であるが、楽しい催しである芸事を通して『うちは一族』は怖い一族じゃないよ、と民衆に知らしめる目的がある。
改善策として提案したのはヒヨリであったが、これを聞いた時ウヅキが思ったのは『うちは一族アイドル化計画』であった。
あんまりな物言いだが、的を射ている。
『かぐや一族』は白髪の者が主であるから、もし黒髪の『うちは一族』が参加するのなら一目瞭然でハッキリする。
その上である程度愛想の良い者を選び、芸事をやらせればイメージ戦略としては十分だろう。
そして芸事の中でウヅキが『うちは一族』に関しての協力を表明して、『かぐや一族』と『うちは一族』の関係が良好である事をハッキリと示せば、ウヅキの名声を利用して『うちは一族』の印象改善に役立てる事もできる。
あとは定期的にこういった催しを行っておけば、『うちは一族』に対する印象が悪化の一途を辿る恐れは非常に低くなる。
顔を見るだけでも、人というのは安心するものであるから、効果としては十分に期待できた。
セキュリティ面に関しては今回、目を瞑っている。
生産者の顔、ではないが、どういった者たちが里を守ってくれているのか、を知る事で民衆は安心する。
民衆からの反応を得る事で、『うちは一族』も里中から認められている認識を持つ事ができる。
結果として、双方ともに精神的に安定を得る。
これは非常に大きい。
あの『うちは一族』の帰属意識を『木ノ葉の里』に向ける、という意味合いなら、扉間の発案の『警務部隊』よりも効果的である。
双方が丸く収まる手段ではあるが、懸念点は『うちは』と『かぐや』両一族が深く結びついてしまう点にある。
それを、火影たるヒルゼンは了承した。
事がここに到れば致し方なしとした。
終戦にウヅキが協力的であったこともあって、まとまった話だった。
もちろん、両一族の繋がりを警戒する木ノ葉内部や『火の国』上層部からの妨害工作などが行われるだろう。
他里が関わってくる恐れもある。
しかし、それはヒヨリが完全に制御すると断言した。
『かぐや信仰』最高位司祭。
その権限をフル活用することを朗らかに宣言した。
故に心配なく提案できる、という腹案であった。
しかし、さすがのフガクも芸事と急に言われても、という思いが滲み出ており、表情には困惑が強い。
芸事を通して、民衆の不安を解消してソレが結果的に『うちは一族』が抱かれるであろう『負の感情』という懸念を解消する事に繋がるとは、想像すらしていない様子だった。
「芸事……ですか? いや、しかし、『うちは一族』も神社はありますが、そういった技能を持った集団は抱えておらず」
少し困惑気味にそう言うフガクに、苦笑いしながらウヅキが続ける。
「いや、無論そういう話ではない。『うちは一族』から、協力を願えればと思うのだ。例えば、当主同士の
ヒヨリの考えの中では『かぐや舞踊』や祭事に『うちは一族』を参加させる、というささやかなモノであったが。
しかし、ウヅキの脳内にあったのはサーカス集団のイメージだった。
忍者の基準で言えば、前世のサーカス程度の技能は軽く練習すれば
しかし、一般人から見れば圧巻の芸になるであろうというウヅキの読みだった。
火遁で火を吹くだけでもエンターテイメント性は非常に高い。
そこに忍者の身体能力なども加えて、性質変化も多種多様に加えれば、軽く十や二十の絶技とも呼べる芸は思いつく。
『戦力』としてしか見られたことのなかった忍者に対しての新しい観点。
期せずして終戦後の新たな産業を切り開こうとしているウヅキの言葉に、疑問を浮かべながらもフガクは幾つかの質問を行い。
結果として『かぐや一族』と『うちは一族』の協賛で『かぐや大祭』にて芸能を行う事に決まった。
とはいえ、ウヅキは五大国との終戦交渉にも同行する必要がある。
そのため『かぐや大祭』の日程の調整が急がれるが、しかし、民衆の多くが参加しなければ、閑散としてしまえば効果は半減どころか逆効果でしかない。
幸いにして『停戦祝い』という名目が存在したために上層部とも掛け合い、民間に現在停戦が行われている事を広く周知する目的での『かぐや大祭』の開催許可を取り付けて、大々的に祭りを執り行うこととなった。
戦費が切迫する中であったために多方面からの批判も相次いだが、費用という面では、ウヅキの規格外な治療という『切り札』があったために、『火の国』上層部に位置する者たちの治療を条件に費用の融資を取り付け、また『かぐや信仰』への寄付という形での融資なども広く募集して、僅か1週間という大忙しのスケジュールで1週間後に『かぐや大祭』の開催が決定した。
つまり、『うちは一族』が正式な打診を受けて僅か2週間後には『かぐや大祭』が開催される運びとなった。
これに慌てふためいて準備に追われたのは当然のことながら『うちは一族』である。
『かぐや大祭』
歴とした『木ノ葉』に根付く伝統的なお祭りであり、祭事の格としては最上位に位置する。
当然の如く、参加を許される、芸を披露する事が許される者は『かぐや一族』の中でも魅せる技術に特化した者ばかりである。
『奉納祭』とも呼ばれる祭事で舞える事は『かぐや一族』の中でも非常に名誉のある仕事であった。
そのため競争率が尋常でなく高い。
一族総勢がこの舞台で舞うために競って技術を磨くため、その舞は一生に一度は必ず見る価値があると云われる程であった。
そんな者たちに混じって、素人集団が芸を披露する。
命じられた『うちは一族』の者が阿鼻叫喚の騒ぎとなるのも無理はなく、小さな頃から見たことのある舞台に立てる喜びよりも、あんな凄い舞台に立てるわけがない、という動揺や不安の方が大きいほどだった。
それほどに『かぐや大祭』の知名度、格は高い。
何せ『木ノ葉の里』に限らず、『火の国』や他国からもこの祭りだけを目的とした旅行客が訪れるほどの賑わいをみせるのだから、その緊張は押して測るべしである。
普段の任務や戦場などとは、まるで違う種類の緊張感。
失敗しても命は失わないが、それ以上に一族の名に傷を付けるかも知れないという、あまりに恐ろしい想像は『うちは一族』と言えども身を竦ませる程だった。
ウヅキも蘇って日が浅い。
まさか50、60年前は適当な思いつきで『かぐや一族』の伝統芸能を残しておこう、くらいの軽い気持ちで開いていたお祭りが、洗練に洗練を重ねて、こんなにも大規模な影響力を及ぼしているとは想像すらしていなかった。
規模の大きさを聞いたときは目を見開いて驚いたほどだ。
だが、驚きはあったものの、それからのウヅキの行動に影響を及ぼすほどではなかった。
いくら祭りが大きくなろうが、やることは同じ。
『忍』の世界に芸という概念を持ち込むだけであるのだから、むしろ世界初となれば大規模に盛大に行った方が良いとすら思っていた。
だが、ウヅキの視点と『うちは一族』の視点は同一ではない。
軽く熟せる程度の提案というウヅキの認識と、死に物狂いで修練しなければ達成できない任務である、と焦る『うちは一族』の認識。
その差異は非常に大きく、極論を言ってしまえば、のほほんとしたウヅキに『うちは一族』の者が詰め寄るほどに話は切迫した。
結果として、残り1週間でウヅキが付きっきりで稽古を付ける事となった。
そんな話を聞いたヒヨリは普段通りに、着物の袖を摘みながら口元に当てて『ほほ』と笑っていた。
半ば予想出来た結果である。
故に焦りはなくむしろ楽しんでいる様子ですらあった。
「ウヅキ様。この流れも予期はしておりましたが。しかしあの子達に付き合わずとも良いかと。『うちは一族』の者が上手く舞えずとも、芸が失敗に終われど。今回は民に寄り添う事が目的でございますれば。あの『うちは一族』が失敗を恐れず果敢に挑戦し、その上で失敗する姿を見せる事も、これもまたイメージ戦略としては有効でございます。何もウヅキ様が付き合わずともよいのに。必ず成功させる必要はございませんよ?」
大局を見据えるヒヨリからすれば、表舞台に『うちは一族』を立たせるだけで目的は達せられる。
故に成否に関しては、あまり気にしていなかった。
重要なのは事が終わった後に流れる噂話を意図した方向に制御する事こそ肝要であり、芸事の成否はあくまで余興に過ぎないとすら考えていた。
その視点と推測は正しい。
事実、成否に関わらずヒヨリ、というよりも『かぐや一族』の情報操作能力を持ってすれば、今回のイメージ戦略は既に成功が確約されていると言っても過言ではない。
その下準備も終えており、祖母譲りの有能さを際立たせているヒヨリであったが、ウヅキは首を横に振って甘さを指摘した。
その視点は成否ではなく、過程にあったため、ヒヨリが特に気にしていない部分であった。
「いや。甘い、甘いぞヒヨリ。『うちは一族』のプライドの高さを甘くみておる。奴らは失敗を他人に見られることなど絶対に許容せぬ、そうなるくらいなら死に物狂いで事前に訓練するであろう。残り日数の七日七晩程度なら寝ずに平気で訓練する姿が目に浮かぶわ……。発案者であるオレが管理せねばならん。隈を浮かべた死相の見える忍者を舞台に立たせる訳にはいかんだろう?」
「……そうですか? まぁ仰ることも一理ございますが、芸の案だけ渡して、後はフガクに任せてしまえばよいのに」
「うむ、あのマダラの一族だぞ。絶対にそうなるとオレは確信する。あと、オレ個人としても芸を楽しみたいのだ」
「まぁ」
『ほほ』と笑いながら、いまいち『世界初』に挑戦する漢の浪漫を理解していなさそうなヒヨリのことは置いておき、ウヅキは腕を組みながら決心する。
この世界で初めての大道芸集団の創設。
目に浮かぶのは、賞賛の
忍術と優れた身体能力があれば、十分に実現可能だ。
「やるしかあるまい、大丈夫だ。忍者であれば軽くこなせる内容でしかないからな。……だが、途方もない難易度にした方が『うちは一族』も喜ぶだろうか?」
うんうんと一人頷きを繰り返すウヅキのことを、おっとりした表情で眺めるヒヨリ。
やめてくれ、と切実に止める者は残念ながらこの場にはおらず。
ここに、ウヅキ主催地獄のサーカス団訓練開催が決定された。
「──なんやかんやで、もう本番ですか。……本当に大丈夫なんですかね……?」
顔立ちが整っていて、実力のある者。
当然『二つ名持ち』が含まれないはずもなく。
うちは一の実力者とも名高い『うちはシスイ』も団員として選出されていた。
弱冠15歳である。
その齢で『瞬身』の二つ名に見劣りしない凄まじい技量を見せつけてはいたが、あくまで大道芸の一環だ。
自分では出来て当たり前の事を少し魅せる様にアレンジしたに過ぎず。
もちろん、芸事の稽古はみっちりと仕込まれたために、このシスイですら大の字で寝そべってその日の終わりを迎える程であったが。
それでも大道芸などした事がないために、本当にこれで大丈夫なのか、という不安が拭えないシスイであった。
そんな不安な気持ちの滲んだ声を受けて、ウヅキは快活に笑った。
「わからん!!」
ウヅキがあんまりにも堂々と言うものだから、シスイは頷きそうになったが、内容は無責任にも程がある。
思わず二度見して、その後にドン引きの表情を露わにしたシスイに、ポリポリと頬を掻きながらウヅキは続けた。
「いや、本当にわからんのだ。何せこの世界で初めての試みであろうからな」
「えぇ……」
初めてだから、予想出来ない。
その理由は理解できる。
しかし、理解できることと、納得できる事は別だ。
この不安な気持ちをどうすればよいのかと持て余してしまう。
シスイが少し背後を見れば、同じように不安な表情をした一族の者達が控えていた。
これが戦争であれば、皆真剣な表情で任務に挑むだろう。
だが、今回は大道芸である。
気の抜けるような気もするし、緊張するような気もする。
シスイ自身も己がどういった心境なのかイマイチ釈然としない程だった。
そのため、さすがに気持ちの整え方がわからない。
覚悟の決めようがないとも言える。
そんなうちは一族の様子を見て、しかしウヅキは自信ありげに笑った。
「ああ、確かにわからん。だが、先駆者とはそういうものではないか。己が努力は裏切らぬ、今日までに身に付けた技を披露すれば、自ずと結果は出てこよう。事がここに到れば出し切るしかないのだ。やるか、やらぬか、『うちは』の精鋭たちよ。どちらを選ぶ?」
挑発的とも取れるウヅキの発言。
プライドの高い『うちは一族』が『やらぬ』という選択肢を選ぶ事はありえない。
だが、『やる』にしても、踏ん切りがつかないのは変わらない。
顔を見合わせる一族の者たちの中で、唯一平常心を保っていた少年。
いや、幼年の男の子がキッカケを作った。
『うちはイタチ』
最年少での参加を推奨された鬼才である。
僅か1週間で、一から全てを覚えた怪物は周りの事など気にしないとばかりに身体の筋を伸ばしながら、事もなさげに発言した。
「ウヅキ様に鍛えて頂きました。『うちは一族』の名に懸けて、僕は己に出来ることを、教わったことをやるだけ、です」
その頼もしい姿にシスイは苦笑し、ウヅキは面白げに口角を上げて笑った。
幼年の男の子がやる気になっているのに、大人衆はこの体たらく。
そんな事は許容出来ないとばかりに、自然と一族の意思が『やる』という方向性で固まった。
『やる』と決めれば、元は戦場での猛者共である。
不安の色は瞬く間に消えて、各々が身体の状態を確かめるように入念に手入れを始める。
その中にあって、初めから冷静さを保っていた4歳児が際立っていた。
幼年の子供──『うちはイタチ』を眺めながら、ふと面白い案を思いついたウヅキは『うちは一族』に声を掛けて『かぐや一族』の居住区に足を進めた。
ウヅキが蘇ったキッカケであり、ちょうど『うちはイタチ』と同年代である『君麻呂』が住む場所に向かって。
その数刻後。
──『かぐや大祭』の始まりを告げる花火が、夜空に向けて盛大に打ち上げられた。