残火の章   作:風梨

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約7600字



閑静

 

 

「──ここ、は……?」

 

「ああ! 君麻呂様、目を覚ましたのですか!」

 

「……? あなたは……」

 

「そのままで構いません。医者を呼んでくるので、動かずに安静に!」

 

 寝起きで、未だトロンとした目つきだった君麻呂が首を捻る。

『ここはどこだろうか』

 そんなことを思いながらぼんやりとしたまま待っていれば、襖が再度開いて、医者らしき男が入ってくる。

 寝起きであるのと、逆光も相まって顔はよく見えなかった。

 

 

「──よく目を覚ましてくれた。どれ、オレが診てやる」

 

 そういって男は君麻呂の身体を触診してくる。

 医者というのだから、任せた方がいいだろうと無言で待っていれば、空いたままだった襖から先ほどと同じ声をした女が息を乱しながら、苦言というには畏れ多さを多分に含んだ声を上げた。

 

「う、ウヅキ様! 早すぎます……!」

 

「む、すまん。つい気が急いた故、許せ」

 

 ウヅキ。

 その言葉を聞いて、君麻呂は怪訝に思って顔を動かした。

 触診のためにしゃがみ込む医者であると思っていた人物と視線が交わった。

 

 整った顔立ちに、かぐや一族特有の麻呂眉。

 どことなく君麻呂に似ているが、それよりも精悍さと人形染みた美しさが目立つ風貌。

 

 その顔を知らない者は居ないだろう。

 御堂の中に奉られる、初代火影が精魂込めて造形したという木像と、そっくりな顔立ちだった。

 

「ウヅキ……様?」

 

「ああ、ウヅキという。お前のおかげでオレは再び命を拾った。感謝するぞ、君麻呂」

 

 人形染みた整った顔ではあった。

 けれど、確かな温かさを感じさせる笑みが、そこにはあって。じんわりと胸の奥が温かくなった。

 

 

 それから、本格的に目を覚ました君麻呂がようやく目の前の人物が『御神体』そのものであると気がつき、土下座した君麻呂をウヅキが慌てて止めさせるという一幕であったり、前当主であるヒヨリから直々にお褒めの言葉を賜ったり。

 かぐや大祭というお祭りを経て、友人を得たり。

 目覚めてから君麻呂の周囲は間断なく変化を続けていた。

 

 それはもう、目を覚ます前と後では雲泥の差で、今でもたまにこれが夢ではないかと思うこともある程だった。

 そう思い早朝から縁側で黄昏ていると、あの『かぐや大祭』を経て仲良くなった同年代の友人が顔を見せた。

 

 黒い髪に黒い瞳。幼いながら整った顔立ちに、年齢に似つかわしくない落ち着いた微笑みを浮かべている友人。

 

 

「──浮かない顔だな、君麻呂。そんな様子じゃ、今日のクナイ鍛錬はオレの勝ちだな」

 

「……イタチ」

 

 うちはイタチ。

 あのエリート一族といって良いうちは一族の中で、唯一弱年にも関わらず、大祭への参加を推薦された天才。

 年齢という意味では君麻呂も同じだが、しかし、その実力はイタチの方が一枚上手だった。大祭の最中は無様は見せられないと必死であったこともあって、気にならなかったが、今思えばよくこんな天才と肩を並べられたものだと思った。

 

 そんなイタチが、仕方なさそうに笑って君麻呂の横に腰掛けた。

 

「何かあったのか? しょうがない奴だ。今日の鍛錬はもう少し後にしてやるから、しばらくここで涼もう」

 

「……ああ、すまない。どうしても、違和感が拭えないんだ」

 

 イタチはそれを聞いても無言だった。

 無視している訳ではない。静かに、聞いてやると態度で示していた。

 

 それが今の君麻呂にとって一番有難い。滔々と一つの言葉を皮切りに堰を切ったように言葉が溢れた。

 

「ボクは、ウヅキ様のお役に立てたそうだ。何をしたか覚えていないし、理由を聞いても詳しくは教えてもらえなかった。──でも」

 

 ウヅキの再来。その名はあまりにも重い。

 君麻呂として見てもらえないと感じるほどに。

 

「……」

 

 イタチは黙って聞いていた。

 何も言わずに、ただ静かに。

 

「今が恵まれた立場だってことはわかってる。戦争だって終わりそうだし、ウヅキ様の再来として期待されてるのもわかる。ひもじい思いもしなくなった。鍛錬も付きっきりで見てもらえるようになった。……でもそれは、ボクがウヅキ様の再来だからなんだ。かぐや一族の君麻呂としては見てくれない。ボクを通して、みんなウヅキ様を見てる。──イタチ、君はどう思う?」

 

 堰を切って語られたのは、君麻呂の抱いていた不安だった。

 急に変わった周囲の環境。

 前当主であるヒヨリと、現当主であるウヅキから目をかけられている故の厚遇。

 

 失うことが怖かった。

 この環境に慣れ親しむことで自分という存在が消えてしまうような気がして、怖かった。そして失望されて今の環境を失うことも、怖かった。

 不安を吐露した君麻呂のことを見て、イタチは柔らかく微笑んでいた。いつもと変わらないイタチだった。

 

「……オレも、似たような事を考えた事がある。一応は頭領の息子だからな。『さすがオレの子だ』……そんな言葉が支えになっていたこともある」

 

 肩をすくめてイタチが続ける。

 

「なぁ君麻呂。もしオレが『火影』になりたいって言ったら、お前は笑うか?」

 

「笑うものか。君なら、いつかなれるだろう」

 

「そうか。……さっきの問いに答える前に一つ。君麻呂の夢を教えてくれ」

 

 促されて、君麻呂は考え込む。

 ひっそりと心の隅で思っていたこと。

 

「……話を聞くたびに思うんだ。ウヅキ様みたいになれたら、一族のみなを守れるんだろうって。知っているか? あの人はたった一人で、火の国以外の五大国に勝てるくらい強いんだ。興奮したヒヨリ様が話してたから、誇張かもしれないけど、それくらい強いんだ。……あと、これは内緒なんだけど、ボクにはウヅキ様に成れる、超えられる才能があるって、言われてる。……でも、そうなりたいけど、あんな風になれるとは思えない」

 

 現実が見えすぎていると、言い換えてもいいかも知れない。

 君麻呂は才能がある。有り余るほどの才能だった。

 だから、無邪気に自分がそんなに強くなれるなんて思うことができず、冷静に俯瞰してしまった。

 

 そんな思い悩む君麻呂に、イタチは微笑んだ。

 

「なれるだろ」

 

 なんていうこともないくらい簡単に、イタチはそう言って笑った。

 

「オレたちは、何にだって成れるんだ」

 

 根拠のない言葉だった。

 理路整然としたイタチらしくもない言葉で、意表を突かれた。

 

「昨晩、父上のところに『火影』様からの伝令が来たんだ。──終戦だって。凄いよ、ウヅキ様は。実質たった一人で戦争を終わらせたんだ。そんな有り得ない事が現実になってる。なら、オレたちが目指してもいない内から諦めるなんて、それこそ道理に合わないだろ。オレは火影を目指す。うちは一族からの初めての火影に、オレはなる」

 

 そこで言葉を区切って、少し恥ずかしそうに頬を掻きながら、イタチは続けた。

 

「……だから、君麻呂。お前がオレの言葉を覚えておいてくれ。お前が覚えてくれている限り『うちはイタチ』はオレのことで、火影を目指す男だ」

 

「うん、わかった」

 

「よし。じゃあ、君麻呂のことはオレが覚えておいてやる。オレが覚えている限り、お前はウヅキ様の代わりじゃない。『君麻呂』だ」

 

 いつもは冷静な風貌なのに、今は目を細めて口元をニッと破顔させて笑っているイタチを見て、言いようのない安心感が溢れた。ただ一つの言葉で、視界が晴れたような心地だった。

 たった一人でいい。たった一人、自分を認めてくれる存在がいるだけで、こんなにも人は安心できるのだと。

 

 その日、君麻呂は学んだ。

 

 

 そして決めた。

 ──『火影』を支えられる存在になると。ウヅキのように、存在感だけで火影を助けられるほどの男になってみせると。

 

 強くなるんだ。身も心も。

 君麻呂は初めて、心の底から決心した。

 

 決意を秘めて真剣な表情で頷いた君麻呂だったが、そんな場面で同じように真面目な顔のイタチが続けた。

 

「──さっきの質問の答えだが、不安になるなら、それをかき消すくらい大きな目標を持てばいいと、オレは思う。オレは戦争の不安をそうやって解消したんだ」

 

「……イタチって、変なところで律儀というか、真面目だな」

 

「そうか?」

 

 キョトンとして首を傾げる姿は、天才と称される『うちはイタチ』にしてはあまりにも幼く見えて。

 クスクスと、君麻呂は心の赴くままに笑いを溢した。

 

 

 

 

 波風ミナトが自宅に戻ると、タタタと廊下を駆ける音が聞こえた。

 出発前にも聞いた足音のはずで、それもたったの1週間ほど前の事だ。なのに、里の『あ』と『ん』の門前では感じなかった『帰ってきた』という実感が急に湧き上がってくる。思わず頬を緩めながら玄関に座って靴を脱いでいると、背中側からぶつかるように勢いよく抱擁された。

 

「──おかえり! だってばね!」

 

「ああ、ただいま。大丈夫? 何か困った事とかなかった?」

 

「なーんにもなかったわ〜。もう平和そのものって感じだってばね。停戦してから、里の雰囲気も弛緩しちゃってるもの」

 

「そっか、ならよかった。それもこれも、ウヅキ様のお力だろうね」

 

 期待するように、少しだけ間を空けてクシナが呟いた。

 

「……もしかして、終戦?」

 

「うん。後々正式発表されるけどね、五影会談で満場一致で決まったよ」

 

 微笑んでそう言えば、妻であるクシナがぱぁっと顔を輝かせて、さらに強く抱きしめられた。

 ちょっと痛いくらいだったが、同じ気持ちなので、そのまま振り返って妻の身体を抱きしめる。

 

 一拍だけ時間をおいて、顔を上げたクシナが鼻息荒くして声を上げた。

 

「──よぉ〜し! そしたら産むわよ〜〜!! ほら、行くってばね!」

 

「ちょ、ちょっと、クシナ?!」

 

 引っ張られるままに、着替えもしない内に寝室に連れ込まれて。

 母は強し、というか。妻は強し、というか。そんな事を再確認させられたのだった。

 

 

 

 

 

「──何? 旅に出るだと?」

 

「おうとも。里のことはご歴々に任せて、ワシは予言の通り見聞を広めてこようかと思ってのォ」

 

 里のとある一角で、道ゆくベンチに腰掛けていた。

『予言の通り』

 自来也は以前、妙木山に棲まう蝦蟇仙人より予言を授けられていた。

 戦争となればさすがにそのような余裕はない。物書きである趣味も控えていたが、終戦となって、ウヅキも居る今となっては問題ないだろうという判断だった。

 

 そんな自来也の言葉を受けて、綱手も神妙に頷いた。

 

「……そうか。なら、私も里の外に出るか」

 

「お? おぉ? ま、まさかワシと一緒に!?」

 

「違う!! ……こんな様だ。まともに医療忍術も使えん体たらく。里に居ても無駄飯食らいで肩身が狭いだけだろう? ──シズネでも連れて、そこら中を回ってくるさ」

 

「……ま、いいんじゃねーかのォ」

 

「死ぬなよ、自来也」

 

「はっは、誰に言っとる。この自来也様がそう簡単にくたばる訳はないのォ、お前さんこそ死ぬなよ。……あと、賭け事だけはマジで止めといた方がいいのォ」

 

「ふん、余計なお世話だ」

 

 鼻を鳴らした綱手姫を見て、自来也は破顔しながら『かっか』と溌剌とした笑いを溢れさせた。

 ようやく訪れた、平和な時代の空気を感じながら。

 

 

 

 

 うちは集落。

 奥に位置する当主の家にて、一人の『忍』が報告に上がっていた。

 報告を受けるのは『うちはフガク』

 その対面に座すのは『うちはシスイ』だった。

 

 終戦確定の報は先に行っている。

 だから、その補完をするべく、流れを細部にわたって説明したという訳だった。

 

 聞き終えて終戦の内容を把握したフガクが、満足げに頷いた。

 

「──では、無事にやり遂げたか」

 

「はい。……ただし、途中で違和感を感じた件はご報告の通りで、原因は不明です」

 

 真面目なシスイらしく、そのことが心残りであるようだった。

 吐き出させるべきかとも思い、所感を聞いていなかった事もあって改めて問うた。

 

「……そうか。予想で構わんが、シスイ。お前はどう思った?」

 

「そう、ですね。あやふやですが、居るのに見えない。そんな感覚でした。ですが、写輪眼で見れば正体は掴めたかと思います」

 

「うむ。会談中に写輪眼を控えるのは良い判断だ。我々の瞳を警戒する者は多い。要らぬ警戒を引いただろう」

 

「はい。オレもそう思います。……これで、終戦ですね」

 

「ああ。これからは内部に向けて力を充実させる時期に入る。お前の力を借りることが増えるが、よろしく頼むぞ」

 

「はっ!」

 

 うちは頭領である『うちはフガク』に対して、シスイは深々と頭を下げた。

 裏側を管理する者として、これからは里の中枢に関わってくる事となる。多忙を極めるであろうが、それもやりがいのある事だ。

 フガクは重々しく頷きながら、これからの事に思いを馳せた。

 

 

 

 火影室。

 溜まった書類を確認して、サインを書いている火影の居る一室だった。

 1週間ほど、しかも不在時の対応なども決めていたとはいえ、仕事は溜まっている。それを忙しく処理していた。

 そんなところに、今後に関して話し合わねばならない男から、ドア越しに声が掛かった。

 

「──火影様、ミナトです」

 

「うむ、入れ。……む? 随分と疲れているように見えるが……」

 

「あー、はは。いえ。それより、お呼びと伺いましたが」

 

 先ほど別れた門前よりも、多少疲れが顔に出ているのが気になるが、まぁいいかと火影は流して本題を告げた。

 

「兼ねてより決まっていたことではあるが、ミナト。この終戦に関する仕事が片付き次第、ワシは退陣してお前に『火影』を譲る。その心構えをしておくように。まぁ今更ではあるし、お主にはわざわざ言うほどの事ではないが、形式上な」

 

「……はい。謹んで承ります」

 

「そう固くなるな。しばらくはワシも補佐するつもりじゃし、相談役のホムラとコハルも居る。……良いな、ミナト。『木ノ葉』の未来をお前に託すぞ」

 

「はい!!」

 

「良い返事じゃ。して、お前に話しておかねばならぬことが幾つかあるが、その中でも重要なものを今から伝える。口外してはならん、決してじゃ」

 

 コクリと頷いたミナトを見て、筆を止めたヒルゼンが立ち上がって、背後にある窓から里を見渡すように立った。

 見えるのは里の風景。既に薄暗い帷が街を包んでおり、家々に明かりが灯っている。

 

 その光景を目にしながら、重々しい口調で、ヒルゼンは口を開いた。

 

「──ウヅキ様の、秘密に関してである」

 

 息を呑むような沈黙が場を満たした。

 

 

 

 

「──おかえりなさいませ、ウヅキ様」

 

「ああ、今戻った。……やはり慣れぬ事は任せるに限るな……。ヒルゼンの奴に迷惑を掛けてしまったわ」

 

 苦笑いしながら、羽織を手渡す。

 自然な仕草で羽織を受け取って、柔らかい笑顔をヒヨリは浮かべた。

 

「ほほ、左様でございましたか。私でよろしければ、次回は手足となりましょう。して、首尾は如何でしたか?」

 

「……終戦は成った。しかし、オレは所詮、戦しか能のない男であると再確認したところだ」

 

 鎮痛な面持ち、と言えば良いか。

 終戦したというにはあまりにも喜びの色がなかった。

 

「……」

 

「彼奴には、柱間には二度目の生涯を懸けても敵う気がせぬ。──あの、己の頭一つを下げて協定を成した男には敵わんよ、本当にな」

 

 思い出されるのは戦国時代末期。最初に行われた五影会談の風景だった。

 会談に参加できるのは影と追加で一名のみであったから、こっそりと感知能力を使って盗み聞きしていた当時の事だ。瞼の裏に想い上がるのは、真摯に頭を下げる柱間の姿だった。

 

 当時の柱間の声が聞こえてくる。

 

『国は関係なく、忍が皆協力し合い助け合い……、心が一つとなる日が来ると夢見ている』

 

 机に額を擦り付けて、両手を脇に着いて、椅子に腰掛けながらではあるが、土下座と言って良い姿勢を見せながら言葉を紡いでいた。

 

『それがオレの思う……()()()。今日はその夢への第一歩にしていただきたいのだ……! どうか! どうか! どうか! どうか!』

 

 思い浮かぶ記憶を思えば、知らず目頭が熱くなる。

 やはりあの男しか、器ではなかったのだと思う。先日の己の醜態を思えばより一層その想いは増した。威圧でしか終戦を成せない己ではなく、柱間こそが現代に蘇るべきだったと。ヒルゼンに悪いと思う気持ちはあるが、しかし思う気持ちを止める事は出来ない。

 

「柱間……。今でもオレは、お前に蘇ってもらってさ。火影をやって貰いたいと思ってるよ」

 

 知らず、前世の口調が、幼き日の友人に向けた口調が出てくるほどに焦がれた様子で続けるウヅキを、風が吹いてその白髪を揺らした。

 

 

 

 木ノ葉が舞い散る日の一幕。

 

 終戦の報は未だ知らないながら、一般市民の日常は穏やかに流れてゆく。

 日が昇り、日が落ちて、眠りについて朝に目を覚ます。

 ご飯を食べて、会話して笑い合って、働き、我が子と語らい、技を高めて、一日一日を経過してゆく。

 明言しようのない有り触れた日常。

 

 けれど、得難い日常。

 それを知る人々は今日も穏やかな一日を過ごす。

 

 そんな彼らが終戦の報を知るのはもう間も無く後のこと。

 

 

 そして時が経ち。

 今、一つの時代が終わった。

 

 3代目『火影』猿飛ヒルゼンから、4代目『火影』波風ミナトに火の意志が受け継がれる。

 

 新しい息吹を感じながら、時代は進んでゆく。

 ──ミナトの妻である『クシナ』と、その友人である『うちはミコト』の懐妊が認められたのは、終戦が決定してから少ししての事だった。

 

 運命の歯車が、動き始めようとしていた。

 

 

 

『──兄さん』

 

『ああ、間も無く時が来る。──ウヅキ。恩はある。だが、使命を忘れた一族がこのマダラの邪魔をする事は許せぬ……』

 

 男は塵をその身から漏らしながら、忌々しげに、しかし口惜しげにそう呟いた。

 

 仮面を付けた最強の兄弟が、牙を剥かんと蠢いていた。

 

 

 

 また別の場所。そこでは三人の男女が居た。

 仮面の男が問いかける。その仮面に空けられた右目には写輪眼の輝きがあった。

 

『──ペイン。準備は整っているな?』

 

『ああ、今この時、痛みを世界に示そう。未だ習熟しているとは言い難いが、この輪廻眼の力を使って、な』

 

 仮面を付けた男と、輪廻の瞳を持った男が会話をする。

 その傍らには『天使』と呼ばれる女が寄り添っていた。

 

『ペイン……。いえ、長門。無理はしないで。これはあくまでも序章に過ぎないのだから』

 

『わかっている。だが、最強の一角を間接的とはいえ、落とすことに意味がある。……これは、避けては通れない道だ』

 

『……ええ。それでも、私は……』

 

『小南、心配のし過ぎだ。……ウヅキは、業腹ではあるが、あの兄弟に任せる。オレたちの仕事は、奴の防御を潜り抜け、木ノ葉を潰すことだ。行くぞ』

 

 そこで割り込むように片目の仮面の男が言葉を繋げた。

 

『ペイン。言っておくが、失敗は許されない。オレも当日はお前の助けには動けないだろう。成果を期待するぞ?』

 

『ああ、わかっている。……ところで、お前の名はマダラ、でいいのか?』

 

『そうだ。オレの名はマダラだ』

 

『……あの兄弟といい、お前といい、うちは一族は物事をややこしくするのが好きらしいな。──まぁいい、オレはオレの平和を成すだけだ』

 

 翻すマントに記される証は『赤き雲』だった。暁の夜明けを求めて、動き出す。

 それぞれの思惑を秘めながら、兄弟は、暁は、片目の男は、似通った目的を持ちながら最終地点を異とする中で、この時は全霊を懸けて挑む事となる。

 

 恐らくは、終末の谷での『暴走』を経てより強くなったであろう『化け物』との決戦に備えて。

 

 時は進む。辿り着くは十月十日。

 

 ──運命を背負う少年が産まれる日。

 

 

 

 






活動報告にて。

2023年11月7日追記。
君麻呂とイタチの会話部分の修正をしたいのですが、先に更新を優先しまする。
後ほど少し変化加えるかもしれません。

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