残火の章   作:風梨

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約8000字


仮面

 

 

 

 遠い、遠い過去の記憶。

 微睡むような意識の中で『マダラ』はふと思い返す。

 あの、二人と出会った日のことを。

 

 

「──次こそ向こう岸に……」

 

 ポンポンと掌で水切り石を上空に放っては受け止める。

 場所はとある川辺だった。

 水幅が大きくて水量がそこそこある川で、願掛けをしながら水切りのために石を放っていた。

 

 そして、準備を整えて放とうとした時、背後から飛んできた石が、悠々と川を跳ねて横切り対岸に辿り着いた。

 

「……」

 

 少し警戒しながら振り向けば、そこにはおかっぱ黒髪の少年が立って、石を投げたであろう腕を振り切った姿勢で悪戯っぽく笑っていた。

 

「気持ち少し上に投げる感じ、コツとしては……」

 

 そのおかっぱの隣に『白髪麻呂眉の男』がニヤニヤと笑いながら立っていた。

 

「はは、そんなこと分かってるって顔してるぞ、コイツ」

 

「なんだお前ら……」

 

 げんなりしながら言えば、顔を見合わせた目の前の二人が、そっくりな仕草で頬を掻きながら苦笑いした。

 

「あー、まぁ水切りライバルってとこか?」

 

 白髪麻呂眉の男がそう言い、その後におかっぱが続いた。

 

「ん〜、そうだな! オレは届いたけど」

 

「誰だって聞いてんだコラ!」

 

 眉を怒らせて言えば、平然とした様子でおかっぱが答えた。

 

「名は柱間。姓は訳あって言えんぞ、コイツは卯月。これがまた笑いのわからん奴でなー」

 

「はぁ? お前のセンスがオカシイっていつも言ってんだろーが」

 

「やれやれ、だぞ」

 

「……」

 

 ふーっと息を吐き出して肩をすくめる柱間の姿に、ビキビキと額に青筋を浮かべた卯月と呼ばれた男が怒りを発散するため一息吸って吐いた。

 その後に目敏く、掌に持ったままだったまだ投げられていない石を見て、小首を傾げる。

 

「投げねーのか」

 

「な、投げるに決まってんだろ! よく見てろ、次はいけっから」

 

 言われて、構えて放る。

 無意識に手裏剣術を使いながら、勢いよく石が放たれた。

 着水しては跳ねる石が、二度、三度と跳ねて、よし今度こそはと思った瞬間に、トプンと無惨な音を立てて水に沈んだ。

 

 なんとも言えない間が一瞬流れて、思わず吠えた。

 

「てめェら!! オレの後ろに立ってわざと気を散らしたなコラ!! 後ろに立たれっと小便が止まる繊細なタイプなんだよォ、オレは!!」

 

 そんな言い訳を受けて、ビクッと身体を震わせた柱間がしゃがみ込んで激凹みした。

 ズーンという擬音が聞こえてきそうなほど鎮痛な雰囲気だった。

 

「ご、ごめん……」

 

「い……いや、オレこそごめん。けど、そこまで落ち込むこたァねーだろ……」

 

 思わず謝れば、そこにニヤニヤと笑っている卯月が割り込んできた。

 

「言い訳なんかしてみっともない男だなぁ」

 

「はぁ?! じゃあてめーもやってみろや!」

 

「おっ、やってみるか」

 

 そう言って、卯月は手頃な石を拾って不可思議な動きで石を放り投げた。

 左腕を壁のように突っ張って、右腕で上から下に投げるという、川切りをするなら絶対にやってはいけない動作で放たれた石は当然のように、一回もはねることなく川底に沈んだ。

 

「「……」」

 

 何とも言えない沈黙が場を満たした。

 

「マジで何なんだよお前は!?」

 

「……いや、ごめん。変なこと言ってほんとごめん……」

 

 先ほどの焼き増しを見るように、ずーんと柱間の隣にしゃがみ込んで、激凹みし始めた卯月を見てギョッとしながら声を掛ける。

 

「お、おい……」

 

「「だって、お前にそんなウザイ自覚症状があるなんて思ってなかったから……」」

 

「何ハモってんだてめェら!?」

 

 ギャイギャイと喧しく言い合って、卯月が唐突に元気になって水切りに挑戦してまた失敗するということを繰り返したり。

 ずぅーんと凹んだままチクチクと嫌味な事を言い続けるウザイ柱間に噛み付いたり。

 

 そんなことを繰り返していると、川に一人の死体が流れてくる。

 忍装束を付けた男の死体だった。

 

 楽しんでいた熱も冷める。

 沈黙の中でその死体を眺めれば、凹んでいた柱間が立ち上がって()()()()()()()死体に近づいていった。

 

「……お前、忍か」

 

 そのまま視線を岸に残っていた卯月に向ければ、苦笑いをしながら足をすすめて、水の上に立ってみせた。

 コイツも忍。

 だが、この二人の身体的特徴は同じ一族であるとは思えない。

 先ほどの軽口を考えるに、稀有な友人関係と言えるだろう。

 

「……近いな。流れてきたか。ここもすぐ戦場になるぞ。お前……」

 

 呼びづらそうにこちらを見てきた柱間を察して、肩をすくめながら名乗ってやる。

 

「名はマダラだ。姓を見ず知らずの相手に口にしねぇのが、忍の掟だ」

 

「やっぱりな、お前も忍か。……卯月、今日はここまでだ。オレは行かなきゃならねェ」

 

「ああ、オレも行くよ」

 

 その言葉を皮切りに、柱間をはじめとして三人は三方へと散った。

 これが、マダラと。卯月、柱間の初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 良く晴れた日だった。

 仮面を被った男は両の目の空いた隙間から、里の光景を眺める。

 

 足元には火影岩があって、いつの日かのように里を一望できている。

 広がる光景は見覚えのある、木ノ葉隠れの里。

 

 何かの感傷に浸るように、あるいはこれから滅ぼす里のことを思うように、ただ静かに眺めている。

 人々の生活が見える。笑顔が、喧騒が、子供や母親が見える。

 それらを眺めながら、仮面の男は。

 

 ──『うちはマダラ』はただ無言で佇み続けていた。

 背中に届くまで乱雑に伸ばされた黒髪が木ノ葉を揺らす風で靡いた。

 

 気がつけば、もう一人の男が姿を現していた。

 仮面を付けている。だが、マダラが塵を漏らしているのとは裏腹に、新たな人物にそのような様子はない。

 実在する肉体を所持している証だった。

 

 僅かに戸惑っている新たな仮面の男──『うちはイヅナ』がおずおずと声を掛ける。

 

「──兄さん」

 

「イヅナ、オレの背後に立つなと言っているだろう」

 

「ああ、ごめん。……何を見てるの?」

 

「いや、何。オレたちが去ってからの里を、こうして目にした事はなかったと思ってな。……ウヅキと戦ったあの日ですら、な」

 

「懐かしいね。ボクも兄さんも、お互いイザナギがなければ死んでたよ」

 

「扉間がオレたちの遺体を保存するであろうことは予定通りだった。オレたちが互いにウヅキと柱間の細胞を奪い死ぬ事も想定内。その細胞を使い、新たな力をオレたちが得る事も、想定内だった。……唯一の想定外があるとすれば、それはウヅキ。『暴走』した奴が、あまりにも()()()()事だ」

 

 天泣灰燼。

 そう呼ばれるほどの天変地異を引き起こした当時を思い出しながら、その根拠を続けようとする前にイヅナから声が掛かる。

 

「……兄さん、そろそろ時間だ」

 

「わかっている。……ウヅキ。お前はあまりにも中途半端だ。使命も果たせず、役者不足であるなら、永遠に眠っていろ。全てが終わるその日までな」

 

 

 仮面の奥で、万華鏡の瞳が煌めいた。

 

 

 

 

 

「──四代目火影ミナト……。人柱力から離れろ。でなければ、この子の寿命は1分で終わる」

 

 とある岩場に設けられた、隔離された一室だった。

 うずまきクシナ。いや、波風クシナの出産のために封印結界を施されたその場所は、通常であれば解除せねば侵入出来る筈がないというのに、その男はこの場に姿を現していた。

 

 ミナトの胸中に焦燥感が湧き上がる。

 だが、冷静さを失うことは出来ない。

 四代目火影となってまだ若年とはいえど、その名を背負ったからには無様を見せることはできない。何より最愛の妻とその子供の命が掛かっている。波風ミナトは内心で焦りが湧き立つのを感じながら、それでも努めて冷静さを維持して両手を前に翳した。

 

「待て! 落ち着いてくれ!」

 

「安心しろ、オレは最高に冷静だ」

 

 そして、後を追うように一人の男が結界の中に入ってくる。暗部の面を外して、両眼の写輪眼を輝かせる『うちはシスイ』だった。

 

「ミナトさんッ、すみません!」

 

「……シスイくん!?彼は、何者なんだ」

 

 少しでも情報が欲しい。結界の外で警護していたシスイなら何か情報を持っているかもしれない。そう考えての質問だったが、状況はそれを許さない。

 クシナから離れられず、その場に留まるミナトに業を煮やして仮面の男が言葉を続けた。

 

「言った筈だぞ、離れろ、とな」

 

 言葉と同時に放り投げる。

 ミナトの両眼は時が止まったかのように思える中で捉え続けていた。

 投げられたのは、やっとその顔をミナトに見せてくれた我が子。

 

 産衣に覆われたあまりにも小さな身体が宙に放られて、その落下地点にはクナイが煌めいている。

 

 反射的にだった。状況を考えれば、シスイに任せた方が良い。

 だが、ミナトの身体は反射的に瞬身を行い、我が子を抱え込んでいた。

 

「……ッ」

 

「さすがは黄色い閃光。だが、オレもバカじゃない。……次はどうかな?」

 

 ナルトを抱える事が出来た僅かな安堵の後、起爆札の起動する最悪な音が産衣から聞こえる。

 跳ぶ判断しかない。この場で爆破させればクシナに被害も及ぶ。

 

 ──飛雷神。

 

 ナルトを衣から離しつつ、飛雷神で跳んだミナトは転がるように家屋から飛び出した。

 爆破によって、転身先であった家屋が吹き飛ぶ。その爆風を我が身で遮断してナルトに届かないよう身を呈す。背中の向こう側から激しい爆風が吹き荒れるが、庇った甲斐もあってナルトは無傷。

 

 ほっと一息を吐いたが。

 次の瞬間には、ミナトはあまりにも鋭い眼光を宿した。

 

「無理矢理、飛雷神を使わされた……。あの場にはシスイくんがまだ残っているから、すぐにはクシナが害される心配はないと、思いたいが。けど、彼は九尾の封印式を知らない……。状況が変化する前に、早く戻らないと」

 

 それでも、ナルトをこの場に置いてはいけない。

 最寄りの拠点に飛雷神で飛び、ベッドにナルトを横たえる。そして再び飛雷神で飛んだ。

 

 

 

 

「──写輪眼!?」

 

 ミナトが飛雷神で飛んだ後の、洞窟内だった。

 シスイは、目の前の事実に動揺が隠せず、僅かな隙を晒す。

 目の前でミナトが飛雷神で跳び、仮面の男と1対1となったが、出産を終えたばかりで九尾の封印も完了していないクシナを守りながら、

 クナイで交錯する至近距離で見たその瞳は『うちは一族』固有の血継限界。

 

「そうだ。そして、お前の眼より、よく視えている」

 

「!?」

 

 ヌルリ、とクナイごと通り抜ける異様な術を前にして、しかし、シスイは遅れずに反応した。

 クシナに触れようとする男の真横。

 瞬身ですぐさまにクシナの側に戻って、クナイを振るう。頭部を狙う攻撃は透過されたが、クシナを狙った手も透過した。

 予想通りの光景に防衛策を組み立てつつ、距離を取った仮面の男から庇うように寝台の前に立つ。

 

「……結界を通り抜けたのも、その力か」

 

「判断が早いな。さすがは瞬身の名を持つ男か」

 

「何者だ。オレは幾度となく戦場で一族の者と背中を合わせてきたが、お前のような力を持った一族の者に心当たりがない。……だが、お前のその眼。その雰囲気。うちは以外の者が眼窩に写輪眼を嵌めている訳じゃないと、オレの感覚が言っている」

 

「ご名答。少し早いが、名乗らせてもらうか。──オレの名は『うちはマダラ』だ」

 

「……マダラ……だと……!?」

 

 その言葉に衝撃を受けると同時に、封印が砕け散る音が室内に響いた。

 驚き視線を向ければ、そこに新たな侵入者が二人。両者共に仮面を着けて、その眼窩に写輪眼の輝きを見せている。

 

「何を手こずっている。さっさと九尾の人柱力を移動させろ」

 

「まったくだね。こんな一族の末端一人片付けられないなんて、その名が廃るよ」

 

「……!?」

 

 3対1。一挙に不利となった状況に関わらず、シスイは引き続きクナイを構えて、その写輪眼を最大限に活かすべく瞳に力を込めた。

 ──だが。

 

 瞬身で真横に現れた新たな侵入者である二人に対する対処が、追いつかない。

 一人が先に攻撃を行ってシスイが対処した隙を突き、もう一人が蹴りを放った。

 五影を超える身体能力に加えて、完璧な連携。二人がかりの攻撃を避ける術はなく腹部を蹴りで強打されたシスイが壁に向かって飛んでいった。

 

「心構えは立派だが、実力が伴っていない。早死にするタイプだな」

 

「兄さん、さっさと人柱力を連れて行こう。──おい、お前の仕事だ」

 

「ああ、すぐにやる」

 

「……ま、まて……!」

 

「時間が惜しいが。お前を殺す程度の時間はある」

 

 長髪を靡かせる仮面の男が、貫手でシスイを殺害する寸前。

 ──黄色い閃光が瞬いた。

 

 空を切った己の指先を眺めて、仮面の奥でニヒルに表情を歪める。

 

「木ノ葉の黄色い閃光、か。なるほど、悪くない速度だ。……つくづくこの身体が恨めしいな」

 

 全盛期ならば殺せていた。

 そう内心で思いながら、長髪を靡かせる仮面の男は時空間忍術によって転移した。

 

 

 

「──っ!? ミナトさんっ!? なんでオレを!?」

 

「見過ごせる筈ないだろ? 大丈夫、クシナ『も』助ける。……だけど、少し助っ人が必要かもしれないね」

 

 ミナトが飛んだ先は火影室だった。

 窓から見える視線の先には、かぐや一族の集落が見えた。

 

 

 

 

「──む?」

 

「どうかなされましたか、ウヅキ様」

 

 嫌な空気だった。ピリピリと香る風は過去の戦禍を彷彿とさせた。

 鋭利になった感覚を広げる。感知タイプとなったウヅキの感覚は、それらの気配を明確に捉える。あまり感知したい類の反応ではない。

 ピクリと頬を反応させ、事態が既に只ならぬ状況であると理解する。

 

 解っている事ではある。

 だが、確認も含めて言葉にする。

 ──ウヅキが、本気を出せないという事実を。

 

「……ヒヨリ。オレが本気を出せば、里はどうなる?」

 

 間髪入れずにヒヨリが口を開いた。

 

「消し炭となります。君麻呂を除き、誰一人生き残らないでしょう」

 

「で、あろうな。攻め手はオレの弱みを良く理解しておる。里を守る限り、オレは本気を出せん。……故に、お前に任せるぞ」

 

「はっ、畏まりまして御座います。……敵は何処に?」

 

「うむ、この里だ」

 

 ウヅキの視線は一方向に向けられている。

 それは空中。何もない筈の場所に、木ノ葉の里の中央に輪廻の瞳を持つ男が両手を天に翳して立っていた。

 

 

 

「──痛みを、与えよう。神羅天……むっ」

 

 突如として飛来した骨の槍を、斥力の力を以って弾き返す。

 輪廻の瞳を持った男が地面の建造物の隙間に視線を向ければ、そこには()()()()の美女が佇んでいた。

 その身に純白の衣を羽織る姿は神々しさすら感じさせる。

 

「何者だ?」

 

「賊に名乗る名はありません。そう、言っても構いませんが、あえて名乗りましょう。──『百公(びゃくこう)』ヒヨリと申します。以後、お見知りおきを」

 

「……そうか。情報では()()()()であったと思うが、記憶違いか?」

 

「おや、それは随分と杜撰(ずさん)な情報収集ですこと」

 

「ふっ、いや。下らん事を言った。それがお前の『分身』か」

 

「・・・そうですね。油断させるには、私の名は些かに通り過ぎていますから」

 

 次の瞬間、四方八方から無数の骨の槍が飛んでくる。間断ない攻撃は斥力で弾くインターバルを考えれば最良の攻撃。

 空中では良い的だ。狙いを絞らせぬためにも下に落ちる。

 落下地点では、待っていたとばかりにヒヨリが佇んでいた。

 

 そして増える。人影が増え続ける。

 

 続々と姿を表すのは全く同じ姿をした瓜二つの存在。それが大凡『百名』。

 それぞれが独立したチャクラを持つ、意識を共有した人の群れが姿を現した。

 

 

『百公』

 その名は、ヒヨリが大戦中に『木ノ葉防衛の任』を担った末に付けられた名だった。

 かぐや一族が中立を保っていられたのも、政治力と宗教の特色、政教分離の考えによるものもあったが、何より。

 ヒヨリただ一人による防衛の戦果が、あまりにも多大である故であった。

 

 その数は名が表すように百名。

 全てが五影クラスの実力を持ち、さらに連携を取って襲いかかってくる悪夢である。

 その中に本体はおらず、決死の攻撃すら仕掛けてくる。そしてしばらく経てばひょっこりと復活している。

 

 仮にウヅキを『かぐや一族』最強の矛とするのであれば、ヒヨリは最強の盾。

 大戦中一度も抜かれたことのない、盾であった。

 

 情報を脳裏で反芻しながら輪廻の男──ペインが口を開いた。

 

「……分身の術の応用。そう聞いているが、影分身のようなものか」

 

「はてさて、種明かしは最期というのが、お約束でございますれば。──お命、頂戴いたします」

 

「その最期はお前のものになるだろう。──ペインは、一人ではないのだから」

 

 対抗するように、続々とその場に集うのは五名の輪廻眼を宿した人型たち。合わせて六名となった六道。

 僅かな静寂の後に、両者が駆ける。

 

 周囲では避難を誘導する人影があった。ヒヨリの分身たちが彼ら彼女らを守るように展開する。

 ペインは、その隙を突くように広範囲の攻撃を仕掛ける。

 

 ──輪廻眼を持つ者と、その血に『かぐや』の特徴を残す者とが、激突した。

 

 

 

 

 満月の夜だった。

 冷たい夜風が感じられる、どこか不安になるような夜だった。

 封印を解除するための呪印が刻まれた岩場の中央には『波風クシナ』が縛られて、その身から膨大なチャクラを溢れ出させている。

 

 その正面に立つ三人の男。

 内の一人が、その口を開いた。背に黒髪を大きくバサつかせる仮面の男。

 本来の『うちはマダラ』が、別の者に向けて名を呼んだ。

 

「──九尾如きに、これほど拘るのが不思議か? ()()()

 

「いや、意図は理解している。オレも感傷ではあるが、攻撃する意味を見出している。……だが、それほどウヅキという男を警戒すべきか、という意味なら少し疑問が残る」

 

 仮面の奥で口角を上げる。

 疑問。内容は安易に予想できるが、暇潰し程度にはなる会話だ。

 

「ほう、聞かせろ」

 

「あんたたち兄弟が警戒するほどとは思えん。加えて、あんたは穢土転生だろう? 何度だろうと蘇るのだから、警戒する意味がわからん」

 

「くっくっく。まぁそうなるか」

 

 心底面白そうに、『マダラ』は笑う。その疑問も理解できなくはないと思いながら、しかし訂正するために口を開いた。

 

「それは、些か過小評価と言わざるを得んな。穢土転生など使いたい部類の術ではないし、所詮この身体は紛い物。今のオレは生前の半分以下の実力しか出せまい。そして、確かにあの男は、オレが想定したよりも『弱い』が、奴が『本気』を出せば、この地上に勝てる者など存在しない。そして今回は、奴を倒すことを目的としていない。幾つか狙いはあるが、最も大きな狙いは──」

 

 語るところで、イヅナから声がかかる。

 緊張感と冷たさの滲んだ声だった。

 

「兄さん」

 

「おっと、さすがに速いな」

 

 笑みを形作ったまま、本物の『うちはマダラ』が振り返る。

 

 そこに立つのは、白髪白目の美丈夫。

 馴染み深い因縁の相手が、堂々と歩を進めていた。

 

「──やはりお前か、マダラ」

 

「久しいな、ウヅキ。息災(そくさい)で何よりだ」

 

「嫌味のつもりか。お前らしくもない」

 

「……そうした意図はない。許せ、些か気が昂っているらしい」

 

 仮面の下で笑みを浮かべるマダラに、ウヅキは続ける。

 内心では残念な気持ちよりも困惑が強い。一言で言うならば、何を今更、という気持ちだった。

 

「何故、木ノ葉を襲う? お前が欲しいものなど、里には残っていまい。今更火影の座に座りたい訳でもなかろう?」

 

「くっくっく。わからんか、ウヅキ」

 

 底から響くような声を漏らした。

 仮面に手を掛ける。外された面の中から顔を見せたのは、表面が剥がれ塵と成りながらも維持し続ける『穢土転生』の身体。

 

「──居るだろう、お前が。お前の存在そのものが、オレの計画には邪魔なのだ」

 

「……そう言われて、大人しく死んでやるほどオレは物分かりが良くないのでな。──もう一度、黄泉に送ってやる」

 

「そうだ、来い」

 

 沸々とした静かな怒りを湧き上がらせるウヅキを前にして、マダラが野太い笑みを浮かべた。

 

「──お前の新しい身体が、()()()()()()かな?」

 

 不吉な予言のように、マダラが口内で呟いた。

 

 

 

 

 








お待たせして申し訳ございません。
続きはさほどお待たせしないかな、と思いますが、長いとまた1ヶ月ほどお待たせしてしまうかもしれません・・・。



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