なお、この感想は原神の全キャラに当てはまる。
「ふあ〜……やっと終わったぁ」
「あら?」
時刻は夕方。いつも通り反省室からあくび混じりに退室すると、たまたま通りかかった同僚の1人と目が合った。
「おっ、エウルアちゃん。本部で会うのは珍しいね」
青空を反射する雪解け水のような髪色をした女騎士の名前はエウルア・ローレンス。『波花騎士』の称号を持つ西風騎士団遊撃小隊小隊長様だ。
遊撃小隊というだけあって、彼女の活動範囲は基本的にモンド城の外。ましてや騎士団本部に来ることなんて珍しく、さらに言えばここで顔を合わせるなんてのはレア中のレアだ。
「明日は休みだから報告に来たの。……君、また何かやらかしたのかしら?」
「大したことじゃないよ。ちょっと俺をからかってきたクソガキがいてね。ズボン脱がして広場の噴水に放り込んでやったら、騎士団にチクられちまったんだよ」
「子ども相手に何やってるのよ……」
「ま、流石に冗談」
「そ、そうよね。いくら君でも、そんな
「本当はパンイチまで剥いて放り込んでやった」
ズボンだけ脱がすなんて、大人の俺がそんな甘っちょろいことするわけないやろがい。
しかし、これに関して俺は悪くないと徹底的に抗議したい。
いつも通り仕事をサボって『鹿狩り』でテイクアウトした飯を食ってたところに、遊んでいたクソガキのボールが直撃した。当然俺の飯は台無し。
まぁ、その時点で素直に謝れば持ってる小遣いを全部巻き上げるだけで許してやったもんだが、そのクソガキは俺を舐め腐っていやがった。
『あっ! この間チャック全開でバーバラお姉ちゃんに「お金貸してくれ〜」って泣いてたダメダメ騎士じゃん! ダッセェーの!』
俺は激怒した。必ずや、この軽佻浮薄なクソガキを懲らしめなければならぬと決意した。
そんなこんなで事の経緯を話し終える頃には、エウルアちゃんは社会のゴミを見るような熱い視線を向けてきていた。よせやい。
「まぁそんなことより、だ。明日休みなら、これから俺と飲みに行かない? 奢るよ」
「今の出来事を『そんなこと』で片付けられる人間性には疑問しか浮かばないけど……奢る? 君が?」
「うん。俺が」
立場的にはエウルアちゃんは俺より上だが、騎士団に入った順番で言うなら俺のほうが圧倒的に早い。ここは先輩らしく、お仕事頑張ってきた後輩に奢ってやろうではないか。
「……君、アンバーにお酒飲ませて何かいかがわしい交換条件を提示したそうじゃない」
「…………」
「もしかして、私にも同じことしようとしてないわよね?」
俺は両手で顔を覆った。閉じた視界には、日頃の鬱憤を俺で晴らそうと高笑いする代理団長の姿が浮かぶ。
アンバーちゃんとエウルアちゃんは親友と言っても良いほどに仲が良い。日頃は塩対応だけど、エウルアちゃんがアンバーちゃんを大事に思っているのは今の態度を見れば一目瞭然だ。
ここはとにかく円滑な人間関係の為にも、俺の名誉の為にも、そして何より俺の名・誉! の為にも、弁明しておく必要があるだろう。
「そもそもそれ自体が誤解だよ」
「ふぅん。じゃあお酒は飲ませてないのね?」
「飲ませた」
「交換条件は?」
「出した」
「最っ低……」
「交換条件の内容を聞いてから断定してもらいたいんだけど……」
このまま性犯罪者を見るような目を向けられるのはいたたまれないし、今夜の飲みに彼女を誘えないのは俺としても不都合だ。
てなわけで、俺はアンバーちゃんがお酒を飲むことになった経緯とそこ理由を事細かに伝えておく。
しかし、話し終えてもまだエウルアちゃんの目には疑いの色が残っていた。
「本当だって! 今度クレーちゃんかアンバーちゃんにでも確認してくれればいいから!」
「……はぁ。分かったわ、とりあえず信じてあげる」
「俺ってそんなに信用ない?」
「日頃の行いを顧みなさい。……で、どこのお店で奢ってくれるのかしら。エンジェルズシェア? それともキャッツテール?」
「いや、どっちもツケが溜まりすぎて出禁になってる」
「さっさと払いなさいよ。じゃあどこのお店?」
「ちょっとした隠れ家的なところを見つけたんだ。一度着替えて、改めて広場の噴水に集合しよう」
「……変なことしたら銀氷にして砕いてやるんだから」
「殺意高くね?」
ていうか騎士団内でも一二を争うレベルで強いエウルアちゃんに変なことできる奴とか、はたしてモンドにいるのか?
酒場で向かい合う私服姿のエウルアちゃんは、かすかに頬を膨らまして見るからに不機嫌そうだ。その理由は2つある。
まず1つ。
「気にすることないって。いつも言われてることだろ?」
「別に。慣れてるもの」
エウルアちゃんの姓名でもあるローレンス家。それはモンドに住む人なら誰でも知っているものであり、ほぼ全ての者が忌み嫌う旧貴族の名前だ。
詳細は省くが、言ってしまえばローレンス家はモンド人の敵。そして騎士団はその敵を倒した正義の味方というのが一般的な認識になる。
一応ローレンス家と騎士団は敵対関係にあるわけだが、じゃあそのローレンス家のエウルアちゃんが騎士団にいて問題ないのか。もちろん大問題だ。
彼女が入団した時は騎士団から即刻除名するべきという署名運動があったし、ローレンス家はローレンス家で騎士団本部に乗り込んできた。
結果としては騎士団の大団長や他の偉い人たちが入団を認めて収束したけど、当然それで全てが終わったわけではない。
まぁ、言ってしまえばエウルアちゃんは俺と待ち合わせをしている間に街の連中から心ない言葉を浴びせられたわけだ。
チッ。私服に着替えてたからわからないと思ったんだけどなぁ。特徴的な髪色や眉目秀麗な顔面が仇になったわけだ。
で、まずそれが不機嫌な理由の1つ。そしてもう1つは———
「なんでこんなボロ布被らないといけないのよ……」
「それ被るだけでタダ酒飲めるんだから、我慢してくれよ。な?」
「奢るなんて言っておいてタダのところに連れてくるなんて……この恨み、覚えておくから」
「はいはい。いつでも“復讐”に来てくれて構わないよ」
ボロ布を被ったエウルアちゃんは八つ当たり気味にグラスの中の酒を一気に呷った。
ちなみにエウルアちゃんの被るボロ布は俺が作ったもので、見た目はダニやらノミやらシラミやらが住み着いてそうで小汚い。
実際はそういう風に仕立てただけで、赤ん坊が口に入れても問題ないくらいには清潔だけどね。
昔取った杵柄ってやつだ。以前璃月で舞台の小道具を作った経験があるので、ちょっとした工作は得意だったりする。
「大体、なんなのよこのお店。明らかに危ないところじゃないの」
エウルアちゃんが周りに視線を巡らせながら声を潜めて文句を言う。
彼女の視線の先には、俺たち以外の客たち。どう見てもさっきまで地べたに座っていましたと言わんばかりに汚らしい。
まぁ、その意見はもっともだ。そもそもこの酒場の立地自体、知る人ぞ知るって感じだし。
「気にしない気にしない。ほら、せっかくタダなんだし、そんな眉間に皺寄せて飲むのももったいないだろ? それにこの店のルールには『他の客とは関わらない』ってあるんだ」
「……ふん。そうね。他のお店に行っても、大体は誰かにいじわる言われるし」
「ひどいよなぁ。別にエウルアちゃんが何かしたわけじゃないのに」
ローレンス家とモンドとの軋轢の発端は遡れば1000年前にもなる。
当然今モンドで暮らしている人は生まれてないし、当時生きていた人々は漏れなく死んじまってる。苦しんだ側も苦しめた側も、みんな仲良く墓の下だ。
結局のところ、エウルアちゃんへの風当たりは歴史の残骸でしかない。
迷惑な話だよ。1000年も前のことで、どうして今生きている人間が振り回されなくちゃいけないんだ。
「ご先祖様も、そういういざこざにはケリ着けてから死んでほしいもんだ」
「罪人の血を引いて生まれること。それ自体が1つの罪なのよ」
「誰もそんな高尚な考え持ってないよ。叩きやすい人間がいるから、寄ってたかって叩いてるだけさ」
「そんなこと……」
「人間は自分がやられて嫌なことを人にするのが大好きな生き物だぜ?」
別に説教するつもりはない。そもそも俺は人に説教できるほど上等な生き方なんてしてないし、エウルアちゃんの方がよっぽど気高い生き様を示してる。
だからこれは、ただ俺が彼女に聞いて欲しい———言い換えれば、ただの愚痴でしかない。酒の席に愚痴は付きもんだろ。
「それにさ、罪人の血を引いて生まれることが罪なんてそんな悲しいこと言わないでよ。生まれてきたのが悪いみたいじゃんか」
ここで1発肩を抱き寄せるくらいするのが男としての礼儀だろうが……それを“変なこと”判定されて銀氷にされた末に砕かれちゃ堪らない。
なので、ここは何もせず彼女が口を開くまで酒を飲む。うん。次は少しシャープなのを頼もうかな。
そんなことを考えていると、エウルアちゃんが酔いの回った甘い呂律でボソッ。
「……覚えておくんだから」
「うん? 何を?」
「私の覚悟を“悲しいこと”って一まとめにした恨み、覚えておくんだから」
「あらら。復讐されちゃう?」
「とびっきりの復讐をしてあげるわ。覚えてなさい」
「そう。じゃあその復讐の時は、せめて酒も一緒にあると嬉しいんだけどな」
ま、復讐なんて物騒な言葉のわりに緩んだ顔をしてるので本気じゃないんだろう。……本気じゃないよね? なんか急に不安になってきた。俺、エウルアちゃんと喧嘩になったら一方的にボコられる自信しかないよ?
そんな不安に駆られながら、つまみの追加を注文してしばらく。
エウルアちゃんがソワソワした様子を見せる。ふむ。
「トイレならあっちだよ」
「違うわよ! レディに対してその対応は最悪じゃない⁉︎」
「解せぬ」
恥ずかしくて言い出せないだろうから、きっかけをあげたのに。
「1つ……君に聞きたいことを思い出したの」
「彼女ならいないぜ。ちなみに好きなタイプは清楚で純情で甘やかしてくれるお姉さんタイプ。浮気は月に30回まで許してくれる心の広い人が良いと思ってる」
「君の好みに興味はないし、今改めて君がクズだってことを再確認したわ」
「えぇー……他にエウルアちゃんが俺に聞きたいことってなんかある?」
「———ご両親のことよ」
瞬間、俺の表情が凍ったのが自分でも分かった。分かったから……なんとかいつも通りのヘラヘラ笑いに戻すことができたよ。
「……モンドのみんなを恨んでないの?」
「恨んでないさ。あの2人は死んで当然だったんだ……死んでほしくなかったけどな」
俺の両親とモンド人。どちらが悪かったかと問われれば、100人が100人とも俺の両親と答えるだろう。
確かにあの2人は死んで当然のことをした。ただ……それでも俺には優しかった。
誰もが目を逸らすような悪逆非道の下痢グソ野郎だったかもしれないけど、少なくとも俺にとっては良い親だったから。
「……ごめんなさい。お酒の席で聞くような話題じゃなかったわね」
「この恨み、忘れないから!」
「裏声汚いってよく言われない?」
「この間アンバーちゃんに言われたよ。あの子にも聞いたけど、裏声汚いってどういう意味なの?」
シラけちまった空気をエウルアちゃんのモノマネで打開しようとしたら、想像以上のチクチク言葉を投げつけられた。
それにお互い小さく笑い合って、飲み直しの空気となったその時だ。
「おいおいおーい! 見せつけてくれんじゃねぇかよ〜!」
三下感丸出しの口上と共に、他の席で飲んでた客が無断で相席してきやがった。
「昔話をしながら慰め合いですか〜? おっ、よく見たら美人じゃん! 良かったら今度は俺と
酒臭い息を吐きながら、その客は下卑た表情を浮かべて馴れ馴れしくエウルアちゃんの肩に手を回す。
エウルアちゃんが俺を睨みつけてくる。店のルールはどうしたんだ、って言いたげだな。
(ハァ……もう少し堪能したかったけど、仕方ないか)
俺はテーブルの酒瓶にちょびっと残ってた酒をラッパ飲みで干してから———ガシャーン‼︎
死なない程度に加減しながらも、エウルアちゃんの肩に手を回してたアホンダラの頭に叩きつけてやった。
「ちょっ、ちょっと⁉︎」
「エウルアちゃん。もうそのボロ布とっていいよ」
「はぁ⁉︎それより、これ大丈夫なの⁉︎騎士団が一般人に暴力なんて……」
「大丈夫。ここにいる客、
「それって……」
「はーいご開帳〜」
未だ状況が飲み込めていないエウルアちゃんが被るボロ布を、俺が取ってあげる。
露になる、晴天のような髪と気高さ溢れる端正な顔立ち。それを見た他の客は思っくそ顔を顰めた。
「クソッ! なんでここに波花騎士が!」
「何故だ⁉︎なんでここに騎士団がいる⁉︎」
「どこのバカがヘマしやがった! ちくしょー!」
動揺。しかもそれはローレンス家であるエウルアちゃんを見たモンド人の反応とは明らかに違う。
あーあ。もう少し隠せばいいのに。それはどう見たって悪役の———
「あぁ、そういうこと。君、私を騙したのね?」
「騙したなんて人聞き悪い。誘う時に言ったでしょ?
文字通り、悪い奴らの隠れ家だったわけだ。
「さてと……んじゃ、ちょっと残業していこうか。エウルアちゃん?」
エウルアちゃんと同系色の髪色をした璃月の秘書さんを真似て、そんなことを言ってみる。
対して彼女は深いため息を溢して、俺に向けて一言。
「この恨み、覚えておくわ」
今から時計の短針を半周ちょっと巻き戻した頃。
クソガキを噴水にぶち込んでスッキリしていたところを、俺は深刻そうな顔をしたエンジェルズシェアのバーテンダー、チャールズさんに呼び止められた。
「お前に頼みがあるんだ……」
10年以上もエンジェルズシェアでバーテンダーを務める彼のそんな顔は初めて見る。モンド1の酒場のバーテンダーにそんな湿気った面をさせるなんて、一体何があったのか。
気になった俺は、人払いされたエンジェルズシェアの中に招かれて話を聞くことにした。
中にはチャールズさんの他にエンジェルズシェアのオーナーである赤髪の色男、ディルック・ラグヴィンドが立っていた。
ちなみにこいつは昔騎士団に所属していて、元後輩だ。とんでもなく優秀で俺より先に出世しそうだったので、何度もその足を引っ張ってやろうとしたが、ことごとくが無駄になったのは苦い思い出だよ。
「んで、頼みってのはなんだい? あぁもちろんいつも世話になってるチャールズさんの頼みだ。内容に関わらず引き受けさせてもらうつもりだよ。……ただ、ねぇ?」
俺はヘラヘラ笑いながら人差し指と親指で丸を作って、ディルックとチャールズさんの前でユラユラ。
説明するまでもなく、報酬の話だ。
「はぁ……可能な限りは譲歩してやる。何が望みだ?」
「ツケ、チャラにしてくれない?」
「ダメだ」
「えぇ〜。じゃあ出禁の解除は?」
「……お前1人の時はダメだ。誰かと一緒なら認めよう」
報酬の話で時間を取る気は無いのか、ディルックにそれだけ言われてぶった切られた。
チッ……まぁいいか。モンド1の酒が恋しくて仕方なかったところだしな。
俺は承諾の意味を込めて頷き、カウンターを指でトントン。
仕事ができるチャールズさんは何も言わずに
「へへっ…やっぱこれだよなぁ」
久しぶりに飲むモンドの名酒はやっぱり美味い。目を瞑り、モンドの風を感じさせる口当たりを心ゆくまで堪能してから本題に入ることにした。
「で、頼みってのは?」
「最近、夜中に路地の方で良くない連中が酒盛りをしているんだ」
「良くない連中ねぇ……」
「怪しいと思って僕も調べてみたんだが、どうやら宝盗団らしい。そいつらが何者かの手引きによってモンドに入り込み、大規模な事をやらかそうと準備しているようなんだ」
「回りくどいな。お前ならその『何者』ってのにも当たりが付いてんだろ?」
ディルックの情報網は時に騎士団を凌ぐ。そんな奴が、中途半端な情報しかないなんてあり得ない。
「宝盗団を集めたのはファデュイ。そしてファデュイと繋がっているのは———ローレンス家だ」
「あれ? ローレンス家って確か捕まってなかったっけ?」
「シューベルト・ローレンスはな。だが、それ以外は別だ。いくらモンド中からの嫌われ者だとしても、何もしてない人間を捕まえることはできない」
「つまり、以前は何もしてなかったローレンス家が動いたと」
まぁ、貴族は面子を重んじるって言うしな。やられっぱなしでいられないからって暴走したんだろ。
ある程度の事情は分かった。その上で、俺には1つ疑問がある。
「なんで騎士団なり冒険者協会なりにこの情報を持っていかないんだ? いくら元身内とはいえ今のお前は一般人だろ。誰も無下に扱わないはずだぜ?」
「この件が表沙汰になれば、遅かれ早かれエウルアの耳に入る。彼女はローレンス家がモンドに牙を向ければ、自身で抹殺するつもりだ。いくら傲慢極まりない旧貴族であっても、彼女に自身の一族を殺させるのは忍びない。……
「……そうだな」
どんな下痢グソ野郎であっても、やっぱり血の繋がりがあれば情も湧く。
ここまで弱音1つ吐かずに頑張ってきたあの子が背負うには、その業はあまりに重すぎるな。
「いくらローレンス家とはいえ、彼らだけでは何もできない。事件を起こされる前にその手段を潰しておけば、この件を闇に葬ることができる」
「なるほどな」
「僕はファデュイを潰す。宝盗団はお前に任せた」
「あいよ。……と、その前に最後の質問」
「……なにか」
「なんで俺なんだ? エウルアちゃんの為なら、って連中はお前だって知ってるだろ?」
「あぁなんだ。そんな事か」
ディルックはケロッとした顔で言い放つ。
「お前なら万が一があっても罪悪感を覚えることはないからだが?」
少しは覚えろや。
他の客改め、宝盗団を全員シバき倒すのは5分もかからなかった。
どうもこの酒場は営業前にオーナーになるはずだった人が失踪して、そのまま空き家になったもの。
だからバーテンダーも客も、みーんな宝盗団。カモフラージュの為に最低限酒場としての体面を保ってただけらしい。
ま、どうせ今夜で閉店ならってわけで潰す前に店にある酒をたらふく飲んでやったわけだが……やっぱり
まぁ、とりあえず大立ち回りは終わった。俺の近接短打を得意とする拳法もこの狭い酒場とは相性が良かったし、なにより一緒に戦ってるのは我が騎士団が誇る波花騎士。
所詮は下請けの下請けに利用されたコソ泥に負ける道理はない。
問題は———
「で、説明してくれるかしら?」
その波花騎士が大変ブチギレてることだ。やっべ超怖ぇ‼︎
「いやぁ……ほら! こいつら悪い連中だけど、ここにある酒に罪はないじゃん? だから証拠物件として抑えられる前に飲んであげるのが酒好きのモンド人としての責務かと思ってさ! ね?」
「…………ふんっ!」
「ひぃ…っ⁉︎」
エウルアちゃんが力むと、拘束された宝盗団の連中が瞬時に氷漬けになった。彼女の扱う氷元素による元素反応、“凍結”だ
それから何も言わずに俯いているので、これは俺も宝盗団と一緒に氷像の仲間入りを果たすかとビビっていると———スッ。
エウルアが優雅な所作でこちらへ手を差し伸べてくる。まるで騎士が令嬢をダンスに誘うように。実際はどっちも騎士だけど。
「……復讐よ」
「はい?」
「一曲踊りなさい。それで今夜の復讐をまとめて精算してあげる」
「話の流れが全くわからんのだけど……」
何故この流れで踊ることに? あれかな? 酔っ払ってるのかな?
……ま、いいか。エウルアちゃんの言い分を信じるなら、踊れば今夜騙して残業させたことは水に流してくれるらしいし。
「Shall we dance? ———忌み嫌われた罪人の手、君は掴めるかしら?」
「廃人騎士と揶揄される俺で良ければ、喜んで」
挑発的な笑みに応えるよう、俺は彼女のたおやかな手を取った。
そして、どちらからともなく罪人と廃人は舞い踊る。
場所は埃臭いバー。観客はブサイクな氷像たち。曲は澄んだ彼女の鼻歌。
「今度はちゃんとしたお店で奢りなさい?」
「それも復讐?」
「いいえ。これは———
キラキラとした笑顔を振りまいて、エウルアちゃんと俺はターンを切る。確かここからは連続ターンだったっけ。
ついていくのがやっとだけど、そこはなんとか踏ん張って…踏ん張って……踏ん張って………あ、やべ……
「おぼろろろろろろろろろろろろろろっ‼︎」
俺も、胃の中のキラキラをぶち撒けた。
……いや、酒飲んだ後に連続ターンはきついって…。
それから休暇が終わるまで、エウルアちゃんは口をきいてくれなかった。
出禁が解除されたエンジェルズシェアではしっかり奢らされだけどな。
はい、いかがでしたか? ちょっとシリアスも混ざりましたが、基本ギャグがこの小説のモットーです!
さらっとディルックも登場しましたが、彼の口調に違和感などあれば教えてくれると助かります。