騎士団の雑用係   作:技巧ナイフ。

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今回はノエルとロサリア回です。ノエルちゃんには初心者応援ガチャからお世話になっております。
ロサリアさんはバーバラ回の時に入れたかったけど、長くなったのでこちらで活躍してもらいましょう!


メイドとシスターでレッツ、カチコミ! 前編

 それは早朝のこと。

 

「———というわけ。頼んでいいかしら?」

 

 西風大聖堂の椅子に俺と並んで座るシスター———ロサリアちゃんは紫煙を燻らせながら俺と返答を待っている。

 いやシスターが煙草とかいいのかよ、とか、そもそも聖堂の中で煙草吸うなよ、とか。

 そういった注意をする人は周囲にいない。ていうか、何度注意してもやめないので誰も注意しなくなった。たぶん俺と彼女の共通点だろう。

 

 不健康にすら見える白い肌と鋭い目つきはちょっと聖職者には見えないが、たぶんそれは彼女の過去とか色々関わってくるのかもしれない。昔は地元でブイブイ言わせてた元ヤンなのかもと俺は予想してる。

 

「……何か失礼なこと考えてない?」

「いやまったく。いつも助かってるよ。愛してるぜ、ロサリアちゃん!」

 

 ちゅっ、とお礼としてほっぺにキスをしてやった。不良シスターというど、聖職者にこういうことをすると背徳感でゾクゾクくる。

 

「っ⁉︎」

 

 一瞬何もかもからやる気を失っているような目を見開き———フッと姿を消した。次の瞬間、俺の首には何やら布が巻かれてグググググッ。

 

「死ねっ! 死ねっ! 君に懺悔の時間は必要ないわ!」

「あかんあかんあかん! ちょっ、マジごめんって!」

 

 どうやら瞬時に俺の背後を取った彼女は、被っていたウィンプルで首を絞め上げるという暗殺者みたいなことをやってきているようだ。

 

「きゃあぁーーー⁉︎えっ⁉︎ロサリアさん何してるの⁉︎」

「助けてくれバーバラちゃん! こちらの情緒不安定なヤニカスシスターのせいで聖堂内が血の海になっちまう!」

「大丈夫。絞殺で血は出ないわ」

「そういう問題じゃないから! ほ、ほら! ノアさんを放してあげて!」

「チッ……」

 

 舌打ちを1つ漏らして、なんとか解放してもらった。ほとんど危険人物だろ、この人。

 

「もう……なんでこんな事になったの?」

「ロサリアちゃんに良い事を教えてもらってね。お礼にほっぺへちゅーしたら怒り出したんだよ。なぁ、これって俺が悪いと思うか?」

「一から十までノアさんが悪いと思うけど……」

「そっかぁ。やっぱりちゅーするなら唇だよな。よし、ロサリアちゃん目を瞑っ……冗談だ。冗談だからその振り上げた長椅子を置いてほしい。ほら、10モラあげるから」

 

 横薙ぎに振われる長椅子を、バーバラちゃんと並んで屈んで避ける。どうやら交渉の余地はないらしい。

 俺はダウナー系暴力シスターから逃げるように大聖堂を飛び出した。

 

「こんなに感情剥き出しのロサリアさん初めて見たかも……」

 

 何やら驚き(おのの)くバーバラちゃんの呟きが聞こえたが、俺はやっぱりロサリアちゃんは元ヤンだと確信する。

 

 

 

 俺はちょっと早めの昼休憩を取る為に、団長室を訪れていた。理由は簡単。

 

「おぃ〜っす、代理団長。昼飯代ちょーだい? あ、これコーヒーのおかわりね」

 

 お小遣いを貰うためだ。ちなみにコーヒーは賄賂代わり。騎士団の備品だけど。

 この間、何が気に入らなかったのかは未だに分からないが、エウルアちゃんにしこたま奢らされて俺の財布の中は閑古鳥がぴーちくばーちく鳴いている状態だ。せっかくエンジェルズシェアの出禁が解除されたのに、また最速で出禁食らうところだったよ。

 

「お前なぁ……まず借りたものを返すのが先じゃないのか? 私が一体いくら貸してると思っている?」

「いやいや、代理団長。『金は天下の回りもの』って言葉、知ってます?」

「なんだ急に。それくらい知ってる。金銭は世の中を巡るという意味だろう」

「金は使う為にあるものでしょう? でも、代理団長は仕事仕事で金を貯め込むだけで使おうとしない。つまり世の中に巡らないわけですよ」

「むっ……」

 

 普段から働き詰めで、色々なところから休めと言われている代理団長は俺の言葉に口を噤んだ。

 

「そして、金が巡らないということは不景気の前兆だ。そうすれば貧困が蔓延する。代理団長はモンドの民が貧しさの果てに飢え死にするのが見たいんですか?」

「そ、そんなわけあるか! 私の目の黒いうちは、誰も飢え死になんてさせない!」

「でしょう? でも代理団長は仕事で金を使う時間がない。だから俺が代わりに金を使ってモンドを貧困から救おうってわけですよ。俺の言いたいこと、わかります?」

 

 コーヒーを淹れながら考えた我ながら隙のない理論武装に内心惚れ惚れしていると、代理団長はジト〜と冷たい目を向けてきやがる。

 

「……お前、そんな子どもみたいな屁理屈を言ってて恥ずかしくないのか?」

「な、なんですか? 俺の言ってること、間違ってますか?」

「間違ってはいないが、私が金を使わない程度で傾くほどモンドの経済状況は脆弱じゃない」

「傾いてるじゃないですか。俺の経済状況が」

「自己責任だろう」

 

 まったくのど正論に、今度は俺が口を噤む番だった。クソッ……これだからブルジョワは。

 モンドの経済格差を憂いながら俺と代理団長が睨み合う中———コンコン。控えめなノックが団長室内に響く。

 代理団長が「どうぞ」と返事をすると、銀髪ボブカットの可憐な少女メイドが入ってきた。

 

「失礼します、ジン団長。コーヒーのおかわりはいかがですか……あら?」

「あぁ、ノエルか。すまない、既にこのバカが持ってきてくれたからおかわりは必要ないよ。ありがとう」

「このバカって……。あ、じゃあ俺がコーヒー貰っていいかな?」

「はい、もちろんです」

 

 西風騎士団が誇る騎士見習いのメイド———ノエルちゃんの登場に団長室内のトゲトゲしい空気がやんわりと和む。

 ふんわりと広がるコーヒーの香りは、それだけで俺が淹れたものとは別格であることを悟らせるよ。代理団長はそっちが飲みたいと言わんばかりに羨ましそうな目をしてる。

 それでも残さず俺が淹れたコーヒーを飲んでくれるところは、さすがと言えるけど。その優しさをモラに還元してほしい。

 

 優雅な所作の中、それでも手際良くコーヒーを淹れる様をじっと見られていたノエルちゃんは恥ずかしそうに口を開いた。

 

「お、お二人は何を話し合っていたのでしょう? 廊下まで声が漏れていましたよ」

「あぁ。こいつが昼食代をせびりにきたことに対して、少し説教をしていたんだ」

「ノアさまが……? 失礼ですがノアさま、お財布の事情が芳しくないのですか?」

 

 コーヒーがすぐ冷めないように温められたカップを渡してくれながら、ノエルちゃんは純粋な目で首を傾げてる。うっ…その純粋さか眩しい。

 

「まぁね。でもどうやら代理団長はくれないらしいし……はぁ、仕方ない。鹿狩りで匂いだけでも嗅いでくるよ」

「やめろみっともない!」

「あれもダメ。これもダメ。まったく代理団長は文句ばっかりだな?」

「誰のせいだと思ってる!」

「そ、その! 僭越ながら、私にノアさまのご昼食を作らせてもらえないでしょうか?」

 

 険悪になりそうな空気を察したらしいノエルちゃんは、そんな提案をしてくれる。

 

「ノエル。私には代理団長として騎士団の皆を守る義務がある。まだ見習いとはいえ、君に寄生虫を寄生させることを看過できない」

「しかし困っている人を助けるのは騎士としての責務です! 私には、ノアさまがひもじい思いをしてることが我慢なりません」

 

 寄生虫呼びに対してまったく疑問を持たず反論するノエルちゃんには色々言いたいが、それはそれ。

 確か彼女は代理団長に憧れていたはずだが、まさか言い返すとは思わなかった。

 それは代理団長も同じらしく、言葉を詰まらせている。その姿を了承と見たのか、ノエルちゃんは俺に笑顔で問いかけてくれる。

 

「ノアさま。何かリクエストがあれば遠慮なくおっしゃってください」

「あ、あーそうだなぁ……腹に溜まるならなんでもいいよ。ノエルちゃんに任せる」

 

 そう返すと、ノエルちゃんは嬉しそうに目を輝かせた。なんで? 

 

「はい! お任せください! なんでも私にお任せください!」

 

 そのまま見事なカーテシーで一礼して団長室を出て行った。もちろん代理団長に反論した無礼への謝罪も忘れていない。

 俺たちはノエルちゃんの出て行った扉をボーっと見ていた。

 

「あの子、本当にいい子だよなぁ」

「あぁ。無理をしていないかいつも心配になる」

「下手したらその辺の一般騎士より優秀だぜ? モンド城内の知名度、バーバラちゃん並みだし」

「困った時に彼女の名前を叫ぶと現れるという都市伝説もあるくらいだ。お前も少しは見習ったほうがいいんじゃないか?」

 

 挑戦的なことを言ってくる代理団長に言い返してやろうかとも思ったが……やめておこう。

 なんかノエルちゃんの淹れてくれたコーヒー飲んでたらそんな気分じゃなくなっちまった。

 

「まぁ、確かにな。ノエルちゃんを見てたら、俺も少しは正規騎士として真面目に頑張ろうって思えてきたよ」

「っ‼︎そ、そうか。その心意気、(ゆめ)忘れるな」

「んじゃ休憩いってくるわ」

「……おい」

 

 

 

 昼食はパンケーキだった。しかも女学生など若い女の子が洒落たカフェで友達とおしゃべりしながら食べるような、ファンシーなやつ。ノエルちゃんの得意料理“ふわふわパンケーキ”。

 それを、俺のような男が食べるのは……うん、なんという羞恥プレイ。

 騎士団本部の食堂でふわふわパンケーキを食す俺を、他の連中はクスクス笑いながら見てたよ。

 笑ってた奴ら、全員顔覚えたからな。今度城内を見回りしてる時に後ろからズボン下ろしてやるぜ。

 閑話休題。

 

「ほ、本当によろしいのでしょうか? 私のような若輩者が、正規騎士であるノアさまと行動を共にするなんて」

「代理団長が言うんだからいいんじゃないか。何かあったら責任は代理団長に押し付ければいいし」

 

 緊張した面持ちで隣を歩くノエルちゃんは、落ち着かない様子でソワソワしてるよ。

 というのも、意外なことに彼女は騎士団の入団試験を7度も落ちてる。普通なら諦めるところだが、ノエルちゃんの騎士団への憧れはそんなもので折れることなく次の試験に向けて日々努力しているらしい。

 正直、見習いの身でありながら騎士団の中でもこの子はズバ抜けて優秀だと思うけど、どうやら他人への行き過ぎた奉仕の精神が試験に落ちている原因とのことだ。

 

 有名な話だと、モンド一過酷と呼ばれる雪山“ドラゴンスパイン”で三日三晩遭難者を捜索した挙句、高熱で寝込んでしまったらしい。

 今はそういう事態に陥らないよう、騎兵隊長のガイアが仕事を調整してるみたいだ。

 他人を守るという行為は、まず自分を守れなければ成り立たない。だからまずは自分を守ることを教えてほしいと代理団長に頼まれて、今日1日彼女を連れ歩くことになった。

 なんで俺なのかと聞けば、自己保身に走ることにかけて騎士団の中で俺の右に出る者はいないとのことだ。よせやい。

 

「まぁ、ノエルちゃんが期待してるほど騎士の仕事なんて華やかなものじゃないぜ? 大体は見回りや立番で1日が終わるし」

「いえ! それを行う騎士1人1人の尽力がモンドに平和をもたらしていることを私は知っています。華やかである必要はありません。そこに騎士がいること。ただそれだけで、皆さんの平穏は守られているのです」

 

 キラキラとした尊敬の眼差しが眩しい。なんだこの純真無垢なメイドは。危うく浄化されそうになったぞ。

 

「それで…その……本日のノアさまの見回りルートはどのように?」

「主に酒場周辺を軽く回ってから、夕方あたりに清泉町あたりまで足を伸ばしてみようと思う」

「わぁ! 城内だけでなく、城外の皆様まで守ろうという意志、感服致しました!」

 

 酒場周辺を見回るのは良い酒が入ってないか聞き込む為だし、城外に出るのはサボりやすいからなんだけど……。

 なんか、何をやってもノエルちゃんの理想の騎士像に結び付けられてやりづらいなぁ。

 

「はぁ……そんなに畏まる必要は無いぜ? ノエルちゃんだって、俺が周りからなんて呼ばれているか知ってるだろ?」

「存じていますが……ですがあれは! 騎士であるノアさまに対してあまりにも失礼だと思います!」

「でも間違ってないだろ?」

 

 廃神騎士にして廃人騎士。騎士団のロクでなし。何も間違ってないし、誰も嘘は言ってない。

 この子のような真っ直ぐな性根を持った子に、俺が一体何を教えられるって言うんだ。

 

「確かに、今のノアさまを表す言葉としては一部……一部? 適切な表現かもしれません。でも、昔のノアさまは違ったじゃありませんか! だからあなたは……私が憧れた騎士様の1人です」

「昔は昔。今は今。どれだけ偉大なことを成し遂げたとしても、今がダメならそれはもうただのダメ人間だよ」

「違います‼︎」

 

 突然のノエルちゃんの大声に、周囲の視線がこちらへ集まる

 

「それは違います! 昔があるから今があるのです! ノアさまが守った平和があるから、それを連綿と繋ぐことができたはずです‼︎」

「俺が守ったのはいつだって小さな平和だよ」

「平和に大きいも小さいもありません! ノアさまが守らなければ、幸せになれなかった人はいるんですから」

「…………」

「……あっ! も、申し訳ございません! 私、先輩になんて無礼なことを……」

 

 慌てて頭を下げるノエルちゃん。

 まさか、未だにこんな事を言われるとは思わなかった。そしてなにより、この子がみんなから好かれる理由が分かった気がする。

 

「……君は、意外と頑固だな」

「よく言われます。うぅ……申し訳ないです」

 

 ぷるぷる震える彼女に、俺は頭を上げるように言う。

 

(憧れの騎士なんて……久しぶりに言われた気がするな)

 

 誰に言われたかは覚えてない。忘れたと言うより抜け落ちたという感覚に近いが、この原因はよく分からん。そして分からんものは考えない。無駄だからな。

 それより今は、こんな俺に憧れてくれた見習い騎士メイドにして、未来の後輩ちゃんを見るべきなんだろう。

 

「あの…お叱りならなんなりと」

「叱らないさ。今ノエルちゃんを叱ったら、偉大な俺を否定することになるだろ?」

「でも、見習いの分際で生意気な口を……」

「あとここで叱ったら、たぶん街中から袋叩きに合う」

 

 どちらかと言うとこっちが本音だ。

 だってほら……顔を上げて見てごらん。周囲のみんなの目を。『これ以上ノエルをいじめたら打ち首獄門』って訴えてきてる。殺意がすごい。

 どっちかと言うと騎士団の俺は打ち首獄門にする側のはずなのに。

 

 さて逃げようと考えていると———ジィーと俺のズボンからチャックを下ろす音。

 見下ろすとそこには、いつの間にか忍び寄っていたいつものクソガキの姿があった。

 

「おいチャックナイト! チャック全開のくせにノエルいじめんなよな!」

 

 それだけ言い残して、クソガキは逃亡。

 ふっ、だが残念だったな。今は俺を尊敬する随分奇特な後輩の前だ。尊敬される先輩として、取り乱すわけにはいかない。

 なので俺は璃月にいた頃、劇団で習ったよく通る声でクソガキの背中に言ってやる。

 

「おいクソガキ! 今度てめぇの家に俺が読み古したエロ本を着払いで送ってやるからな!」

「はぁ⁉︎大人気ねぇぞチャックナイトぉ‼︎」

「バカが! 人を散々バカにしたツケは自分で払うんだな!」

 

 あのガキが家にいない時間は把握済み。せいぜい親に見られて家庭内で腫れ物に触るような気まずい空気に晒されるがいい! 

 

「ノアさま……さすがにそれは人として引きます」

 

 なんだか裏切られたような気分になった。

 

 

 

 それからは当初の予定通り酒場を中心に見回り、少しだけ酒を呑み、ノエルちゃんには黙っておいてもらう賄賂としてぶどうジュースを奢ってあげた。

 その時のノエルちゃんの目には、もはや尊敬の眼差しなど一欠片も無かったように思えたが別に気にしない。

 

「いいかノエルちゃん。1つ、騎士として良いことを教えてあげるよ」

「良いこと……ですか?」

「騎士として、って言うより組織で出世する方法だな」

「私、出世にはあまり興味は……」

「いやいや! 出世するといい事尽くめだぞ? 重要な場での発言力が手に入る」

 

 俺は騎士団の中でも所属年数はそこそこ長いが、不思議なことに発言力というものが皆無だ。

 そのせいで代理団長からはパンツを見せるようにとセクハラを受けたり、エウルアちゃんからは酒を奢らされるパワハラを受けている。なんてひどい連中なんだ! 俺が何をしたって言うんだ! 

 なので自分の身を守る為にも、出世はしておいて損が無いのだ。

 

「出世の基本は3つ。自分の手柄はできるだけ誇張して伝えること。自分のミスは極力誤魔化すこと。人のミスはとことんまで糾弾すること。ほら、メモメモ!」

「は、はい! 自分の手柄は……はっ! こ、これはダメな気がします!」

「大丈夫大丈夫。ほら、一回だけやってみ? すっごく楽だからさ」

 

 まるで年端もいかない少女をイケナイ遊びに誘惑する悪い大人になった気分だ。

 

(と、時間だな)

 

 酒場の壁掛け時計を見ると、そろそろ夕方。清泉町に行く時間だ。

 ノエルちゃんのぶどうジュースをチルドカップに移してもらい、俺たちは城門を出た。

 ノエルちゃんと2人で出るところを見た門番から誘拐犯を見るような目を向けられたのがとてつもなく不服だったが、そこは我慢の子。

 

「あの、ノアさま? どうしてわざわざこの時間に清泉町へ?」

「それはもちろん、騎士としての務めを果たす為」

「……そう言ってまたお仕事をサボるつもりですか?」

 

 ジト目を向けてくるノエルちゃん。ふむ。今日半日一緒に過ごして、随分と俺のことを分かってきたみたいだな。

 

「いや、正真正銘ここからは騎士団の仕事だよ」

「見回り……ですか? しかし以前あの辺りの魔物はアンバーさまが退治したと聞きましたが」

「残念ながら魔物じゃないんだなぁ」

「と言いますと、宝盗団などでしょうか?」

「正解」

 

 頷くと、分かりやすくノエルちゃんの顔が強張った。

 

「あるスジから今晩、清泉町に宝盗団が襲撃を仕掛けると情報が入ってね。それを阻止する」

「そ、それは一大事じゃありませんか⁉︎なぜ騎士団に言わないんですか?」

「理由は色々あるけど、端的に言えば『みんなの生活を守る為』だな」

「どういう意味でしょう?」

 

 清泉町は主に狩人が暮らす小規模な町だ。狩人の仕事には基本的に朝から夜まで仕事などという区切りが無い。労働時間は獲物次第だ。

 だからわざわざ守りも十分なモンド城内ではなく、すぐに狩りへ出られるように校外に居を構えている。

 

「もし清泉町の人が宝盗団の襲撃に遭えばどうなる?」

「それは……モンド城内に避難するしかないかと」

「だが残念ながら、モンド城内に清泉町全員を養うリソースは無い」

「……っ⁉︎」

 

 もちろん襲撃で何人か殺されるだろうが、それは今言う必要が無い。わざわざしたくもない想像をノエルちゃんにさせるメリットなんて無いからな。

 

「だから秘密裏に俺たちで片を付ける。清泉町で暮らす連中には、今晩もいつもと同じ夜を過ごしてもらわないといけない」

 

 避難民の流入はどうしても治安の悪化を招く。

 リソースは無いと言ったが、どちらかと言えばこっちの方が重要だ。狩人なんて、血の気の多い奴らばっかりだしな。

 

「まぁ、だからさ。ノエルちゃん風に言うなら『戦場のお掃除の時間です!』ってところか」

「ノアさま……まずはノアさまの裏声をお掃除したほうがいいと思います」

「汚いってか? 汚いって言いたいんだな?」

「その……はい」

 

 なんか遠慮が無くなってきたなぁ。まぁ、これくらいの方がやりやすいか。

 

「頼りにしてるよ。君がいるなら百人力だ」

 

 文字通りの意味でな。







はい、いかがでしたか? なんだかんだで頑固なノエルちゃん。意外とノアとは相性が良かったり?

ちょっと長くなりそうだったので、前後編にしていきます。今回はメイン2人だからいいよね……?
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