騎士団の雑用係   作:技巧ナイフ。

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戦闘シーン書くと長くなる……。


メイドとシスターでレッツ、カチコミ! 後編

 ちょっと時間は遡って早朝。徹夜で飲み明かして帰宅した俺の部屋の扉には、1枚の上品な手紙が挟まっていた。

 内容は簡単。『西風大聖堂まで来るように』とのことだ。こんな事をする相手は1人しかいないので、適当に空いてる酒場からつまみを数種類テイクアウトしてから向かう。

 

「よお。待った?」

「とてもね。君はいつ来るか分からないから」

「悪い悪い。ほら、つまみ買って来たから許してくれって」

「……お酒は?」

「てっきり用意してくれてると思ったんだけど……え、ないの?」

「ハァ……甲斐性なし」

「朝っぱらから呼び出しといてその言い草はどうなんだ……」

 

 大聖堂の出入り口に1番近い椅子の隅っこに座っていたロサリアちゃんは、つまらなさそうに煙草に火をつけて吸い始めた。

 

「で、ロサリアちゃんが呼び出したってことは、また何か情報が入ったのか?」

「そんなところ」

 

 突然だが、規律違反まみれの俺が何故今まで騎士団をクビにならなかったのか。それはひとえに、彼女の協力あってのことだ。

 聖職者としてあるまじき態度とおっぱいのロサリアちゃんだが、実はアカツキワイナリーのオーナー、ディルックと並ぶほどの情報通。

 どこから得ているのか分からないが、騎士団や冒険者協会に入ってない情報を仕入れてくる。しかも、そこそこ危ない案件を。

 

「この間のアビスの魔術師の情報は助かったよ。おかげで時間外手当が貰えた」

「それでワインの1本でも買ってくるのが礼儀だと思うけど?」

「残念。我が騎士団が誇る赤色騎士2人の昼飯になっちまった」

「相変わらずの恩知らずね」

「わざわざ嫌味を言う為によんだのか?」

「まさか。私はそんなに暇じゃないわよ」

「そうだな。教会のみんなが合唱してる時に煙草を吸ったり、みんなが奉仕活動をしてる時に煙草を吸ったり、みんなが祈りを捧げている時に煙草を吸ったり、この上なくご多忙の様子だとバーバラちゃんからは聞いてるよ」

「……ふん」

 

 ちなみにそういう意味では俺も多忙だ。どうやって仕事をサボろうか、日頃から創意工夫に明け暮れている。

 だって仕事中に飲む酒が1番美味いんだから仕方ない。

 

「……本題に入るわね。君、海乱鬼(かいらぎ)って知ってるかしら?」

「知らん」

「でしょうね」

 

 じゃあ聞くなし。

 

「それなら『稲妻』は流石に分かるわね?」

「年がら年中雷が落ちまくってる鎖国中の島国だろ? 昔、璃月から船で行ったよ。辿り着く前に落雷で沈没したけど」

「よく生きてたわね……。まぁ、“海乱鬼”というのは主にその稲妻で活動している賊よ」

「宝盗団みたいなもん?」

「宝盗団は宝盗団でいるらしいけど、認識としては同じようなものね。稲妻には野伏衆って言って、鍛錬を積んだ浪人がソレに近い活動をしてるわけ。海乱鬼は野伏衆のまとめ役よ」

「はいはい。ザックリだけど海乱鬼についてはなんとなく分かった。で、そいつがここら一帯に現れたってところかな?」

「そうね。稲妻から脱獄したのか漂流して流れ着いたのかは分からないけど、今はこの辺りを根城にしていた宝盗団をまとめ上げて清泉町近くに潜伏してるらしいわ」

「それはそれは。遠路はるばるやって来たのに、大変なこった」

「集まった宝盗団の規模は40人」

「40人ッ⁉︎」

「声が大きい」

 

 バシンっと頭を引っ叩かれた。でも、俺がデカい声を出すのも無理が無いと思う。

 なにせ、宝盗団は多くても1グループに8人程度。実態がコソ泥である以上、あまり大人数で固まると足がついて活動しにくくなるからな。

 泥棒の基本はヒット&アウェイ。盗んだら即離れるが鉄則だ。

 だから騎士団の宝盗団への対策もサーチ&デストロイ。見つけ次第、即壊滅としている。

 

 だがこれは逆に言えば、その基本を覆してでも連中は何かやらかすつもりということだ。

 潜伏場所は清泉町近く。だったら考えられるのは1つしかない。

 

「……清泉町への襲撃か」

「まぁ、それが妥当なところでしょうね」

「でも、あそこ(清泉町)に住んでるのは狩人ばっかりだろ? むしろ返り討ちに遭う可能性すらあるはずだ」

「馬鹿ね。狩人が狩りをする上で1番気を付けないといけないことがなんだか、いくら頭の悪い君でも分かるでしょ?」

「……っ! あぁ、そうか」

 

 狩人が狩りをする上で1番気を付けないといけないこと———()()()()()だ。

 それはベテランであればあるほど身に染み付いているもの。狩人はほとんど本能的に武器を人には向けられない。

 

「加えて、海乱鬼は元素力も扱えるの。万が一反撃してくるならば、海乱鬼が文字通りの矢面に立つって寸法でしょうね」

「神の目持ちかよ……」

 

 稲妻の神様ってのは、とんだ節穴らしい。よくそんな小悪党を見出したな。

 

「流石にそれは俺1人じゃ無理だな。アビスの魔術師一体ならまだしも、規模がデカすぎだ」

「だから今回は私も行くわ」

「作戦でもあるのか? いくら相手が不摂生だからって副流煙で倒そうってのは無理があるぞ…熱っつ⁉︎」

 

 俺のフェロモン出まくりの二の腕に煙草を押し付けられた。皆さんご存知の根性焼き。やっぱロサリアちゃん元ヤンだろ。

 

「簡単よ。()の襲撃直前に私が奇襲する。逃げ出した連中は君が仕留める」

「作戦と呼ぶのもおこがましい程に脳筋だな」

「君が捕まえた分は騎士団に引き渡せば手柄になるでしょ?」

「出来高制ってことか……」

 

 ハァ……。俺、出来高制って嫌いなんだよなぁ。頑張らないといけないし。

 

 がっくり肩を落としていると、ガチャ。聖堂の扉が開き、誰かが入ってきた。

 モンドの朝が始まるな。

 

「———というわけ。頼んでいいかしら?」

 

 俺は了承と情報提供のお礼としてほっぺにキスをしたんだが……何故かめちゃくちゃ怒られた。

 たぶんヤニが切れたんだな。

 

 

 

 そして時刻は戻り、()()

 

 伝令係の男が砂埃だらけの小汚い格好で、大声を張り上げながら駆けていた。

 

「伝令! 伝令ぃ! 武装したメイドとシスターが殴り込みに来やがったぁ‼︎」

 

 周りにはいかにもな人相をした厳つい男たちが、地面に腰を下ろして焚き火を囲っている。

 彼らは男の言葉に一瞬キョトンとしたが、すぐにドッと笑い出した。

 

「何言ってんだおめぇ!」

「酔っ払ってんのかぁー? これから一仕事って時に飲んでんじゃねぇよ!」

「ほ、本当なんだ! 清泉町の方から仲間達を倒しながらこっちに向かって来てる! 早く応援に来てくれよぉ!」

 

 仲間達の嘲笑にも構わず、男は情けない声で縋るように声を上げる。

 その様子に茶化していた面々も、これが酔っ払いの戯言でもなければおふざけでも無いと悟ったようだ。

 しかしどうしたものかと、周囲の男たちの視線は1番奥———赤い兜を被った異質な雰囲気の男に注がれる。

 

「……全員武器を取れ」

 

 低い、地鳴りのような声だった。決して大きな声量ではなかったにも関わらず、赤兜の声は戸惑いのざわめきの中でも一人一人の耳にしっかりと届く。

 赤兜の男———海乱鬼。異国から来た武芸者にして、神の目を持つ男。

 本来ならば烏合の衆でしかない宝盗団を、己の力量のみで纏め上げた実力者だ。

 

「……案内しろ。迎え撃つ」

 

 海乱鬼は腰に太刀を佩き、兜の下から鋭い眼光を伝令係に向けた。

 ただ見られただけ。しかしそれだけで、伝令係はすくみ上がってしまう。

 もう一度、海乱鬼は周囲に視線を向ける。

 

「……二度目だ。武器を取れ」

 

 一言。それだけで今にも殺されそうな青い顔になりながら各々は武器を手にした。

 全員が武器を手にしたことを確認すると、伝令係が案内する。

 驚いたことに、殴り込みに来たというメイドはすぐそこまで迫って来ていた。

 

「あなたがここのまとめ役ですか?」

「……いかにも。我からも質問させてもらおう。これは貴様がやったのか、小娘?」

 

 海乱鬼は両手剣を握るメイドの少女、ノエルの周囲で死屍累々と倒れ伏す宝盗団に視線を巡らせながら問いただす。

 

「僭越ながら、襲って来られましたので」

「……なるほど。所詮は烏合の衆と思っておったが、その細腕に倒されるとは……これでは雀以下だ」

「あなたがどこから来たかは問いません。投降してください」

「……断る」

 

 海乱鬼の目は、ノエルを静かに見据えていた。

 ある境地にまで到達した達人は、対峙しただけで相手の力量を推し量れると言う。

 この海乱鬼は、まさしくその境地に立つ者だ。

 

「……なるほど。まさかその(よわい)にしてそれほどの実力に至っているとはな。あの落雷を掻い潜って海の外に出た甲斐があるというもの」

 

 海乱鬼の鋭い眼光が、獰猛な三日月を象った。そして太刀の鯉口を切る。

 

「……名乗れ、小娘。一人の武を極める者として、立ち合いを求む」

 

 抜刀。反った片刃は月光の煌めきをノエルに向ける。

 

「西風騎士団見習いメイド、ノエルと申します」

「……然り。その名乗り、立ち合いの合意と受け取った」

「1つ、約束をしてください」

「……聞こう」

「私があなたを倒したら、他の宝盗団の皆さんと共に大人しくお縄につくと」

「……承知した」

 

 一瞬の迷いもなく、海乱鬼は頷いた。

 それに事の成り行きを黙って見守っていた宝盗団はざわめきを立てる。いくら自分達を統率する者とはいえ、行く末まで決められることには納得いかないようだ。

 そしてざわめきが徐々に怒号へと変わろうとした時———

 

「———黙れ」

 

 ただ一言。しかしその場にいた宝盗団の全員が、首を抑えた。

 一瞬だが、確かに見えた。自分たちが斬首される幻覚を確かに見た。いや、見せられた。

 

「……貴様らの生殺与奪は我が手中にある。生かすも殺すも我の自由だ。文句があるのであれば、貴様らが抵抗すれば良いだけの話」

 

 できるのであれば、とそれだけ言うと海乱鬼は今一度ノエルを見据える。

 

「……なんだ? 言いたいことでもあるのか?」

 

 苛立ち混じりの声は、命知らずにも後ろへ寄ってきた男———伝令係に向けられたものだった。

 この場にいる誰もが、次の瞬間にも伝令係の首が飛ぶのを予想したことだろう。

 

「んじゃ、1つだけ」

 

 伝令係の男は冷や汗を流しながら、大きく息を吸い込み———

 

 

 

「———死にくされゴミカスがぁ‼︎」

「ホウッ⁉︎」

 

 背後から全力で海乱鬼の股間を蹴り上げた。

 

 

 

 

「ハーハッハッハッハ‼︎ほら〜どうしたどうした〜? 圧倒的強者感出しておいて金的1発でダウンですか〜?」

「なっ…ガッ…き、貴様……なぜ……あふんッ⁉︎」

「所詮は剣振ってるだけの脳筋おサルだな! 変装にも気付かなかったか?」

 

 伝令係の男———俺は股間を両手で抑えて膝を突く海乱鬼の兜を片手で掴み、もう一方ので奴が握っていた太刀を首に添える。

 そして抑えている手の上から何度も股間を蹴り上げて抵抗させないようにするのも忘れない。いや、別にいいんだよ? 反撃の為に手を離しても? 

 自分のタマと玉がどうなってもいいならね? 

 

「西風騎士団『廃神騎士』ノア、敵大将討ち取ったり〜! コソ泥どもぉ! 約束通り大人しくお縄につきやがれぇ!」

 

 無力化した海乱鬼の首に添えた太刀をギラギラさせながら大声で呼びかける。

 へっ、こいつは宝盗団がノエルちゃんに勝つ切り札中の切り札だからな。人質に取られれば何もできまい。

 

「て、てめぇ! それは騎士としてどうなんだよぉ!」

「何言ってんだカスども! こんな男前がお前らコソ泥の一味なわけねぇだろー? 一目見て気付かなかった自分たちのガラス玉以下なお目々を呪うんだな!」

「そんな悪人面の騎士がいるかぁ!」

「てめぇの顔は宝盗団より宝盗団なんだよ!」

「一目見て、『こいつは将来宝盗団の柱になる!』と思った俺の期待を返しやがれぇ!」

 

 これでも璃月の舞台で何度か宝盗団の役をやったからな。俺のプロ顔負けの演技力に騙されたな。

 まぁ、負け犬の遠吠えは放っておこう。

 

「さぁいけ、ノエルちゃん! こいつ(海乱鬼)の股間を蹴り続ける限りあいつらは抵抗できない! 蹂躙するんだ!」

「な、なんだか人として凄く大事なものを失いそうなのですが……」

 

 頬をほんのり染めて躊躇うノエルちゃん。

 相手は悪名高き宝盗団だ。何を躊躇う必要があると言うのだろう? 

 

(あぁそうか)

 

 ここで俺は、ノエルちゃんという人物を分かっていなかったことを自覚した。

 そうだ……ノエルちゃんは本来、暴力的なことを嫌う心優しい子だ。そんな子がたとえ宝盗団でも、無抵抗の相手を一方的に痛めつけるのは良心が痛むに違いない。

 ここは先輩として、一肌脱ぐしかないな。

 

「ごめんな、ノエルちゃん。配慮が足りなかった」

「いえ、わがままを言ってしまって申し訳ありません」

「んじゃ俺があいつらシバき倒してくるから、ノエルちゃんはこいつの股間を蹴っておいてね。ちなみに金的のコツは……」

「戦場のお掃除の時間です!」

「危ねぇ⁉︎」

 

 ここはノエルちゃんに金的祭りを任せようと思ったら、突如元素爆発を発動。彼女の持つ大剣に岩元素を纏わせて、刀身を伸ばしグルンと大きく一振り。慌てて屈む。

 俺たちを取り囲むだけ取り囲んで何もできなかった宝盗団の連中を大きく吹っ飛ばした。

 

 それからはノエルちゃんの一方的な蹂躙だった。あの子、華奢は体躯のくせしてヤバいくらいの怪力の持ち主だからな。

 本来は大男でも扱いに苦労する両手剣を軽々振って、宝盗団の連中をシバき倒してるよ。何故か顔を真っ赤にして涙目だけど、やっぱり辛いのかな。

 

「確かバーバラちゃんが仲良かったし、ノエルちゃんが好きなもの何か聞いておこう……」

 

 後輩のアフターフォローも仕事のうちだ。そんな事を思いながら、自分自身の勤労っぷりに拍手喝采が止まらない。あと海乱鬼の金的蹴りも止まらない———ぐしゃ。

 

「ぐしゃ?」

 

 なにやら海乱鬼の股間からあってはならない感触が足に伝わったんだけど……とっ⁉︎

 

(こいつ……ッ!)

 

「むん!」

 

 この野郎……股間を守るのやめて、俺の太刀を持つ方の手首を掴みやがったぞ。汚ねぇな! 

 さらに手首を捻りながらブンと投げ飛ばされる。組討術(くみうちじゅつ)だ。

 

 体を地面に強打しないように受け身を取り、即座に持っていた奴の太刀をポイ。ノエルちゃんの振るう両手剣の軌道に投げ捨てて、そのまま破壊してもらう。もし奪われた厄介極まりない。

 

「根性見せるじゃん。痛くないの?」

「……この程度の痛みで屈していては、稲妻で生きることなど到底できない」

「どんな修羅の国だよ」

 

 服の上からでも分かる赤く染まった股間はあまりに痛々しいが、俺が注目するのは奴の全身。()る気だ。

 両手を開いてこちらに向ける構えから、恐らく投げ技や関節技主体だろう。たぶん本来は太刀を持っていることが前提のもの。武器を持つ手を壊さず、さらに武器を持ったままでも使えるってのは投げや関節技の利点でもあるからな。

 

「……ここまでコケにされたのは初めてだ。騎士とは誇り高いものではないのか?」

「部屋の(ほこり)と間違えて捨てちまったよ。そんなもん」

「……度し難い」

 

 意外とお喋りなこいつに付き合う理由は無い。人質として使えなくなった時点で、宝盗団の連中がノエルちゃんに反撃を始めやがった。特に気にすることなくぶっ飛ばされてるけど。

 

 まるで氷上を滑るかのように一切の脚運びを排した一歩———活歩で一気に距離を詰める。

 そして奴の手を下から跳ね上げて懐に入り、その勢いのまま肘打ちを刺し込む———攉打頂肘(かくだちょうちゅう)

 しかし、驚異的な反射神経で半歩下がって避けられる。さすがは神の目所有者。身体能力の差は歴然か。

 

「ふうっ!」

「っと、危ない」

 

 返し技として炎を纏った両手刀が俺の肩口を狙って振り下ろされてきた。

 それが当たるより早く、足を伸ばして関節蹴り。反応されたせいで砕くまでには至らなかったが、手刀打ちのキャンセルには成功した。

 

 攻防は続く。たぶんこいつの組討術は当て身(打撃)を入れて重心を崩し、そこから投げに繋ぐタイプだな。1発でも当たれば、その時点で決着まで持ち込まれる。

 

 喉目掛けて放たれた貫手を躱し、体側(たいそく)に回り込んで肘打ち———外門頂肘(がいもんちょうちゅう)。さらに股間を打ち上げる掌底打ち。

 

(クソッ……反応がいいな)

 

 俺の知ってる神の目所有者に比べても、こいつの反応速度は早い。それに、俺の拳法が近接短打を得意とするのもバレてきてるな。

 どうも手刀や貫手、さらに足刀と距離を取った打撃技で対抗してきてやがる。

 ……だったら———ボン! 

 俺はポケットから取り出した指の間に挟まるサイズの小型爆弾を投げつけてやった。

 

「小癪なッ」

 

 海乱鬼の体勢が崩れたところに、さらに足元へ爆弾を投擲。砂埃を立てて視界を塞いでやり、背中全面を使った体当たり———鉄山靠(てつざんこう)で吹っ飛ばしてやった。

 

「……小賢しいな。絡め手ばかりで勝負を決めに来ないとは」

「いや、もういい。お前の動きは完全に理解した。次の1発で決めるよ」

 

 そもそも俺の拳法は一撃必殺のロマン拳法だからな。奴の言うようにわざわざ絡め手ばかり使ったのは、カッコよく1発で倒せるかわからなかったからだ。

 空を見上げれば、星々が光っている。()()()だ。

 

「ノエルちゃん! 俺のほう見て! 今からカッコいいことするから!」

「えぇ⁉︎ちょ、今は無理です! 彼らを逃してしまいます……ノアさま!」

 

 よそ見したのを好機と見たのか、炎元素を纏う首を刈り取る勢いの手刀で不意打ちされた。

 それはパシっと頭上に弾き、再びノエルちゃんに視線を向ける。

 

「大丈夫大丈夫! あと、もうそいつら逃してもいいよ!」

「えっ、えっ、ノアさま⁉︎えぇぇ⁉︎」

 

 俺の指示にお返事はせず、ノエルちゃんはこちらを見て素っ頓狂な声をあげてるよ。まぁ、これを初めて見るなら無理もないか。

 俺は海乱鬼を()()()()()、全ての攻撃を捌いてるんだから。

 ———聴頸(ちょうけい)。相手に触れた瞬間、次の動作を読み取る防技。これさえ使えば、こういった曲芸も可能なんだな。すごいだろう? 

 

「ぐ、ぬぅぅ……っ‼︎」

「ほら、もっと気合入れて頑張れ頑張れ。神の目持ってるんだろ?」

「舐めるなぁ‼︎」

「ノエルちゃん! 突然だけど、なんで俺が『廃神騎士』なんて呼ばれてるか知ってる?」

 

 両手を使うのも面倒になってきたので、片手で捌くことにした。奴が疲れてきたのか、俺が慣れてきたのか、これでも全然余裕だね。炎元素のせいでめちゃくちゃ熱いけど。

 

「今教えてあげるよ。そんなボンクラ共は放っておいて見てな」

「は、はい!」

「粋がるなよぉ……!」

 

 もはや子ども同然にあしらわれて怒り心頭の海乱鬼さん。おやおや、お顔が真っ赤っか! 炎元素を使うようだし、これ以上怒らせたら本当に顔から火を噴くかもな。

 ノエルちゃんが相手していた宝盗団の連中は流石に敵わないと分かって逃げ出したが、まぁ問題ないだろう。怖〜いヤニカスシスターが仕留めるはずだし。

 それより今は、後輩に良いところを見せるのが先だ。

 

「璃月で知り合った妖魔退治のショタガキが言ってたよ。『神の目は盲目的に頼ってはいけない』ってな。まったくもってその通りだ」

 

 強者を求めてモンドまで来たみたいな事を言ってたが、結局のところこいつは『神の目』に頼りきりだ。反応速度だけはピカイチだが、それだって才能の一部に過ぎない。

 

「いくら神から認められたって言ってもさ、所詮は与えられた物だろ? それを土台にした力を“実力”と呼ぶなんて、あまりにもダサい」

「だ、黙れ!」

「おっと危ない。……だからまぁ、うん。俺が『廃神騎士』って呼ばれてるのはさ、『神の目』を持つ奴らを悉くシバき倒してきたからなんだよね」

 

『神の目』は、常人には到底敵わない身体能力と元素力という権能を与える。

 でもやっぱり、その力を振るうのは神じゃない。人間だ。

 

「相手が人間なら、やりようはいくらでもあるんだよ」

「黙れ黙れ黙れ!」

 

 俺の『廃神騎士』という称号は、西風騎士団現団長ファルカから送られたもの。

 こと対人戦に於いて俺は『神の目』を凌駕する。だから『廃神』。『神の目』すら、俺の前では役立たずの廃品にまで堕ちる。

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

 あまりにもあっさりあしらわれ過ぎて冷静さを失ったらしい。突如居合い斬りのように手刀が放たれたが、俺は敢えて踏み込みカウンターの縦拳を突き出す。

 冲捶(ちゅうすい)———基本中の基本にあたる一撃。その拳は、八方の極遠に達する威をもって敵門を打ち開く。

 

 故に、

 

「……我が八極に二の打ち要らず。一つあればこと足りる、てな」

 

 糸が切れた人形のように倒れ伏す海乱鬼へ、残心の吐気でそれだけ伝えておいた。

 

 

 

 ズルズルと人を引き摺る音だけが木霊する星空の下。俺は意識の無い宝盗団連中を5人まとめて運ぶノエルちゃんを見る。

 

「で、どうだった? これが正規騎士の仕事だけど」

 

 俺たちは清泉町の人達を守った。でも当の守った人達は、俺たちが戦ったことすら知らないだろう。

 騎士になるってことはこういうことだ。色々と面倒くさいくせに、感謝されることすらないことだってある。

 それでも君は騎士になりたいか、と。俺はアンダースローで5人まとめてぶん投げてる彼女に問い掛ける。

 

「それでも私は騎士を目指します。それに、『誰も知らない』なんてことはありませんよ」

「いやまぁ、確かに代理団長とかには報告するから事務的に労いの言葉は貰えるけどさ……」

「いいえ。違います」

 

 ノエルちゃんは首を振って否定する。その目には確かな根拠があるようだ。

 

「———私が知っています。私が見ています。ノアさまが騎士としての務めを果たす様を、私はしかと見届けました。そして……」

 

 ———ノアさまが私を見てくれていました。

 

「そうだな。うん、確かにそうだ」

「はい!」

 

 その笑顔は、きっと天上で輝くどの星々よりも綺麗で……だから。俺はずっと躊躇っていたことを告げると決めた。

 だってこんなに良い雰囲気なんだ。ここで言わなきゃ後悔するに決まってる。

 

「なぁノエルちゃん。俺と結婚しない?」

「へ? ……えぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 

 ノエルちゃんは一瞬キョトンと目を丸くしたが、俺の言ってる意味を咀嚼するように理解するとみるみる顔を真っ赤にしていく。

 赤くなった両頬をおさえる為に担いでいた宝盗団5人がドサっと地面に落とされた。哀れ、コソ泥共よ。

 

「な、なぜ突然そのような…っ、い、いえ! 決してノアさまがダメというわけでは……でも私には騎士になるとっ! それにそういった事はよく分からないですし⁉︎」

「落ち着け。何言ってるかまったくわからん」

 

 めちゃくちゃテンパるじゃん。そんなに不思議かな? 

 

「その……本気、なのですか?」

 

 俺から顔を背けてほっぺを抑え、右往左往していたノエルちゃんはおそるおそるといった様子できいてくる。

 流石に俺もこんな事を冗談で言ったりはしない。なのでしっかり頷こうとした———その時。

 

「愛の告白は、頼んだことをしっかりできるようになってからにしてくれないかしら?」

「ん? ……と、危ねぇ!」

 

 上から聞き覚えのある氷のように冷たい声音と一緒に宝盗団が降ってきた。飛んでくる人間って普通に凶器だからね。

 

「チッ、惜しい」

「惜しいじゃねぇよ。舌打ちをするな舌打ちを」

「メイドに告白する前に、私に謝罪するのが先なんじゃない? 解釈の違いなんて発生しようがないほど簡潔に伝えたつもりなんだけど?」

 

 足元に転がってる宝盗団の顔をよく見れば、さっきノエルちゃんから逃げた奴らだな。

 元々はロサリアちゃんがこの一味に突っ込み、俺が取り逃した奴らの残党狩りをする予定だったけど、それが俺の独断で変わったことにプンプンしてるのか? 

 それともあれか? 

 

「悪いなロサリアちゃん。俺、ロサリアちゃんのことは酒飲み仲間としか見れてなかったよ。まさか君が俺のこと好きだったなんて……」

「殺す」

 

 風切り音と共にどデカい槍が突き出された。仮にもシスターがなんでそんな危険物持ってるのかは謎だが、彼女もモンドの女だ。槍くらい持つだろう。

 とりあえず槍を躱して、追撃されない為にノエルちゃんの後ろに隠れる。

 

「やべーよノエルちゃん。この不良シスター、『あなたが私のものにならないなら、あなたを殺して私も死ぬ』みたいな展開に持ち込んできたよ」

「今のは明らかにノアさまが挑発したように見えたのですが……」

「これはツンデレってやつだぜ? なんだかんだ言って、ロサリアちゃんは俺のこと好きで好きで仕方ないんだ。ほら、メモメモ」

「え、えっと……」

「どきなさい、ノエル。その男は風神ブットバースの名の下に私が断罪するわ。地獄に落とすとも言うわね」

 

 殺意てんこ盛りのシスターと俺の間で、ノエルちゃんは見てて可哀想なくらい戸惑ってるよ。

 てかシスターが地獄に落とすとか言うな。

 

「言っておくけどノエル。そいつにあなたが守る価値なんて無いわよ」

「そんなことないだろ! 俺はノエルちゃんと結婚するまで死ぬ気はない! さぁノエルちゃん! 俺を守ってくれ!」

「その……どうしましょう……?」

「ならあなた、なんでノエルと結婚したいのか言ってみなさい」

「んなもん、ノエルちゃんなら喜んで養ってくれるからに決まってるだろ‼︎」

 

 前に代理団長から聞いたが、ノエルちゃんの幸せとは他人が幸せになることらしい。

 誰かのお手伝いをすることを至上の喜びとするノエルちゃんは明らかにダメ男製造機だ。しかも素直で純粋。こんなの、悪い虫が寄ってくるに決まってるだろう。

 だったら悪い虫が付く前に、俺が彼女とくっ付けば全てが解決する。完璧。

 

「ノエルちゃんは俺を支えられて幸せ。俺もノエルちゃんに支えられて幸せ。誰も不幸にならないこの結婚を、シスターであるロサリアちゃんが邪魔するのか?」

「なんでその考えを真顔で口にした上で私を悪者のように言えるのか、この上なく謎だわ……」

「もし邪魔をするというなら……ロサリアちゃん。俺は君を倒すよ」

 

 何故か俺の熱い決意表明と反比例するようにノエルちゃんの目が冷め切っていたが、きっと戦闘で疲れたんだろう。お疲れ様。

 

「なんかもうシスターとか風神とか関係無く、1人の女として君をぶん殴るわ。いい?」

「来いよロサリアちゃん。槍なんか捨ててかかって来い」

 

 なんだかものすごく会話が噛み合ってない気もするが、たぶんお互い戦闘後で気分が高揚してたからだろうな。

 この日、俺とロサリアちゃんは初めて戦った。普通に負けた。

 ノエルちゃんは転がってる宝盗団を1人で1箇所にまとめてくれていたよ。ありがとね。

 

 後日、何故か西風教会を中心に俺がノエルちゃんに『男の股間を蹴るように命じ、拒否したので彼女の大事なモノを奪った』という噂が立った。

 ほとんど事実なんだけど、明らかに悪意と語弊がある。しかし見事に騙された騎士団内のノエルちゃん推し共に、俺はシードル湖へと叩き落とされたが……まぁ、これは語る必要もないか。







はい、いかがでしたか? もちろんノエルちゃんにはフラれました。

『廃神騎士』という称号に関して、今回明かしたのも1つの由来であって全てではありませんので悪しからず。皆さんの考察をいつも楽しみにさせていただいております!

次回は少しオリキャラとか男性キャラを出していこうと思います。
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