──ソウル
前世界においてはこの世の全ての源とされており実際、どんな場面でもソウルは必要になりもはや万能と言っても過言じゃない。通貨であり、エネルギーであり、武器となり、魔術になり、道具になった。
不死人が彼の地を身一つで旅できるのも…英雄が生まれるのも…神を殺すことが出来たのも全部ソウルさんがあるからじゃないか…!
ソウルを操作する技術─ソウルの
そんな超便利なソウルとソウルの業を行使するのは、この世界で僕一人なのだ。決して自慢なんかじゃない。
ここアルザーノ帝国では忌み嫌われる《異能》に分類される力だ。どこかのお偉いさんが懸命に努力なさった結果、異能者は差別と弾圧のオンパレードで、悪魔の生まれ変わりとか言われて迫害されています。
そんな理由で現在僕は仕方なくソウルの業は封印し、楽しくこの世界の魔術を学んでいるのである。
…まあ封印と言っても「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」という至言があるように、人目のない時は全然使う。もし見つかったら……ね。
この先、月光の大剣が必要だ
◇◇
「魔術って……そんなに偉大で崇高なもんかね?」
今日も今日とて堕落しきった授業をするグレン先生とシスティーナさんが衝突する。本日の発端は大人しいメガネっ娘のリンが先生に質問したことから始まった。
もちろんグレン先生が真面目に回答することはなく、それに対して銀髪少女は突っかかる。普段なら無気力に「はいはい、魔術は素晴らしいですねー」とでも流すだろうに。
「何を言うかと思えば。魔術とは偉大で崇高に決まっています!もっとも?貴方のような人には理解できないと思いますが」
鼻で笑い、刺々しく語った。それに対してもいつもならテキトーに流すのがグレン先生だと思っていたが─
「魔術の何が偉大で崇高なんだ?知ってんなら俺に教えてくれねぇか?」
「そ、それは……」
一瞬返答に詰まりはしたものの、直ぐに彼女は切り替えて魔術とは真理を追求する学問であり(以下略)と有用性を説いた。
それから問答は続いたが、なんつーか大人気ない程論破していた。それして決定づけたのが
「あぁ、確かに魔術は凄ぇ役に立ってるよ
──人殺しにな」
「実際、魔術ほど効率のいい殺戮兵器は無いんだぜ?剣術が頑張って一人斬り殺す間に魔術は何十人と殺せてる。あー確かに魔術は偉大で崇高で、立派に役に立つモンってことだ!」
「魔導大国なんて呼ばれているが、他国からすりゃどう言う意味かわかるよな?毎年莫大な国家予算を帝国宮廷魔導師団に費やす意味が」
「この帝国で起こる魔術を使った凶悪犯罪が毎年何件あるのか、そのおぞましい内容を知ってるか?」
グレン先生鬼つぇぇえ─!このまま逆らう奴ら全員論破していこうぜ!
あーあ、システィーナちゃん泣いちゃいました。そのまま先生にビンタかまして教室から飛び出した。
この空気どうしてくれんの?先生も舌打ちして出て行った。アイツ絶対帰ったな。
「…どうする?」
「どうしようもなくね。見なよ、あのルミアさんでさえ引き攣った顔をしてるぞ」
結局グレン先生が帰ってくることはなかったので、カッシュに魔術を教えたり、真面目なギイブルくんと真面目に議論したりで暇を潰した。
◇◇
翌日のこと。
どういう風の吹き回しなのか、僕たちは初めてまともにグレン先生が教壇に立つ姿を目撃した。
「じゃあ、授業を始める」
ここ10日間ほど一切聞かなかった言葉に皆んな困惑した。先生は畳み掛けるように教科書を外に放り投げ、更には「お前らって、本当に馬鹿なんだな!」と言い放つ。
衝撃的な授業は、衝撃的な始まり方だった。
授業の後、僕は頭を抱えて悶えた。
「うぉぁあああ──!?僕のばかばかアホマヌケ!………心が折れそうだ」
それほどまでにグレン先生の授業は、僕の愚かさを指摘した。授業の内容は黒魔【ショック・ボルト】について。この学院で最初に習う魔術であり、完璧にマスターしていた自負があったんだが…。
とてつもない思い上がりであった。
詠唱呪文を換えると発動効果が変化する。それは当然なんだけど、その内容まで把握して好きなように改変していた。
「お前ら、何でこんな意味不明な本を覚えて、変な呪文唱えたら不思議現象が起こるか解ってんの?常識で考えておかしいだろ?」
「それは…術式が世界の法則に干渉をして…」
ギイブルがこぼした発言をグレン先生は拾って
「とか言うんだよな。じゃあ魔術式ってなんだ?そもそも式ってのは人が作った数字や文字の羅列だろ。仮に魔術式が世界の法則に干渉出来るとして、何故そんなもんが世界の法則に干渉できるんだよ?どうして魔術式と関係なさそうに見える呪文を唱えると魔術が起動するんだ?」
「おかしいと思ったことねーのか?まぁあるわけないよな。それが当たり前なんだもんな」
全くもってその通りだった。今まではとにかく魔術を覚えて、使える魔術を増やすだけ。だってそれが楽しかったから。
決して“悪”じゃない。ただ……なんて勿体無いのか!
前の世界でも、この世界でも、
「いよいよこれから基礎的な文法と公式を解説すんぞ。ま、興味ない奴は寝てな。正直マジで退屈な話だから」
寝゛る゛わ゛け゛な゛い゛!一生ついてくぜ旦那!
…ビックハット ローガン?デカい帽子被ってパンツ一丁で発狂しながら襲い掛かってくるHENTAI爺さんのことは記憶から消しておきます。
◇◇
今日は本来なら休日だけど、前任のヒューイ先生が失踪してからグレン先生が来るまでの分取り返さないとなのでウチの組だけ休日出勤です。
「あ、ファイくん!おはよう!」
登校中のこと。声をかけてきたのはルミアさんで、その隣にはシスティーナさんもいた。気分転換にいつもと違う道を通ったら、丁度彼女たちの通路だったらしい。
ちなみにルミアさんとは結構話す仲だけど、もう一人の方とはあんまり仲良くない。僕は嫌いじゃないんだけど…なんか
「おはようルミアさん。あとフィーベルさんも」
「…おはよ、う」
「あはは、ごめんねファイくん。本当は仲良くしたいのにシスティってば素直じゃないから」
「は、はぁ!?全くそんなことありませんけど!?貴方も勘違いしないでよねっ!」
人生初の「勘違いしないで」頂きましたー!あと、流れでそのまま学院まで一緒に行くことに。
「ねぇ、前から聞きたかったんだけど、ファイくんの着けてるその指輪とってもお洒落だなって思ってて…どこで買ったの?」
「ああコレね。実は知り合いから貰ったもので何処に売ってるのかは分かんないんだよ。ごめんね」
僕の手には『寵愛と加護の指輪』と『吠える竜印の指輪』が。どちらも前世界から愛用している。そしてこの世界でも指輪の効果は健在なので、場面に応じて付け替えたりもする。
それからは食堂で一番美味しい料理は何か話したり、最近のグレンTの授業、人気が凄いとか本当はとても優しい人でーとか、ルミアたん今一瞬恋する乙女顔じゃなかった?
はい、学院に到着。
やっぱり2年2組の生徒以外いないので校舎内は静かだった。授業の開始まで時間があるので魔術教本を読む…フリをして、所持するソウル内の武具道具のチェックをする。
ぬるま湯のような平穏を過ごしても、染み付いた習慣はそう簡単に抜けるものではないのだ。
「……遅いっ!」
教室にシスティーナさんの声が響いた。時計に目をやると確かに、授業開始時間から既に二十分ほど経過している。最近のグレン先生は遅刻もしていなかったが…今日を休みだと勘違いしたんだろうか?
教本を閉じると同時、何者かの気配を感じ取る。グレン先生ではない、荒々しい気配が2つ教室に近付いている。
扉が開いた。
「もうっ先生!何してたんですか!?遅刻ですよ!」
「あーここか。いやぁ皆んな勉強熱心でゴクロウサマ!」
現れたのはチンピラ風の男と、ダークコートを着た男。見覚えのない二人組に教室はざわめいた。
「今、君たちの先生は取り込んでるのさ。だから代わりに俺たちが来たっつうことでヨロシク!」
「貴方達、一体何者ですか?ここはアルザーノ帝国魔術学院です。部外者は立ち入り禁止ですよ?そもそもどうやって学院に……」
「あーあー!ちょっと黙れよガキ──《ズドン》」
ふざけた呪文だった。けれど放たれた雷光は空気を切り裂けて駆け抜ける。生徒たちにはその軌跡を追うこともできず、ただ背後の壁が穿たれたという結果だけを知る。
「…え?」
「《ズドン》《ズドン》《ズドン》」
更に三閃、光の線がシスティーナさんに掠めて走った。この時、他の生徒たちはようやく放たれた呪文の正体を悟っただろう。
黒魔【ライトニング・ピアス】
指差した相手を一閃で刺し穿ち殺害する、軍用の
それを一節詠唱で、
「はい静かになったねー。オレたちはテロリストってやつ?要は女王陛下にケンカ売ってる怖ーいお兄さんって事だよ!つーわけで、この学院はオレたちが占拠しましたー!君たちは人質、逆らうヤツはぶっ殺しまーす!」
放つ殺意は本物で、耐性のない生徒たちは沈黙し震え上がった。
「おー良い子良い子だ。やっぱり教室では静かにしないとねー」
思考する。
今なら不意をついて確実にチンピラ風は殺せる。が、もう一人が未知数だ。負けはしないと思うが…足手まといが超大勢で、ソウルの業を全員に目撃される。助けたけど、口封じに生き残りも全員殺します!じゃあ意味が無いよなぁ。
ここは静観だな。今のうちに指輪付け替えておくか?『吠え竜』外して『犠牲の指輪』に変えておこう。
「このなかに、ルミアちゃんって女の子いるかなー?いたら手を挙げてー?もしくは知ってる人は教えてチョウダイ?」
キリ悪いけどもここまで。
矛盾、問題点があったら教えて貰えるとありがたいです。
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