格闘大会の翌日、リベラは朝食を済ませるとルーラでターニアとアモスのところへ向かった。
その間にチャモロがセリーナを連れてレイドック城にやってくると、すでに作業の準備に入っていたハッサンと合流した。
「チャモロ、私の送迎ありがとう。」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。仕事頑張ってくださいね。」
「ああ、お前もな。資金的にはまだまだ厳しいが、少しでも何とかしてやるからな。」
「ありがとうございます。私も頑張ります。ではハッサン、セリーナさんをよろしくお願いします。」
「分かったぜ。わざわざありがとうな。」
「どういたしまして。」
チャモロはお辞儀をすると、風の帽子で飛び立っていった。
「そういうわけだ。私は彼の了解を得た上で、工事終了までフル出場することになった。頑張って働くから、給料はしっかりと払ってくれよ。」
「心配ないぜ。昨日おどる宝石を倒した上に、大会で優勝したことでボーナスが入ったこともあって、リベラの母ちゃんがその分を上乗せして払うって言ってたからよ。」
「それはありがたいな。」
2人が話をしていると、リベラがターニアとアモスを連れて戻ってきた。
リベラ「ハッサン、セリーナさん、お待たせ。」
ターニア「おはようございます。私も協力させていただきます。よろしくお願いします。」
アモス「私は今日1日だけですが、頑張らせていただきます。」
彼らがあいさつをすると、レイドックとシェーラ、さらにハッサンの父親がやって来て、これからの仕事の予定について色々教えてくれた。
レイドック「ターニアさんにはみんなの昼ご飯の準備や作業服の洗濯などの仕事を頼みたい。」
シェーラ「もし分からないことがあったら、私が何でも相談に乗ってあげますよ。」
ターニア「ありがとうございます。じゃあ、私頑張ります!お兄ちゃん、そしてみんな、お昼ご飯楽しみにしていてね。」
リベラ「分かった。じゃあ、後でね。」
「うんっ!」
ターニアは笑顔で城の中へと向かっていった。
作業は古くなった城壁を壊すところから始まった。
「うおおおおっ!」
ハッサンは大金槌を手に、壁に向かってせいけん突きを放った。
するとガラガラと音を立てながら壁に大きな穴が開いた。
「じゃあ、次は私がやりましょう。」
「セリーナさんが?大丈夫かよ?」
「私だって戦士です。体は鍛えていますよ。」
彼女はハッサンから大金槌を受け取ると、気合ためをした。
そして壁に強烈な一撃を放ち、さらなる穴をあけた。
続いてリベラとアモスも壁を攻撃したが、通常攻撃だったため、さすがにハッサンやセリーナ程の穴にはならなかった。
リベラ「うーーん、セリーナさんに負けちゃったな…。」
「私をなめてもらっちゃ困る。これでも懸垂を1分間に20回出来るからな。」
「本当に?」
「ああ。何だったら、あそこで証明してやるよ。」
彼女はコブレとサリイ達が作った鉄棒を指差した。
アモス「ぜひ見たいですね。それに私も1分間に何回出来るか試したいです。」
ハッサン「じゃあ今日の作業が終わったら、みんなで懸垂大会だぜ。」
彼らが話をしていると、ハッサンの父親から「君達、ちゃんと作業に集中しなさい。」と注意されたため、彼らは黙々と作業をすることになった。
その後、城壁を崩し終えたところでちょうど昼休憩になった。
すると、ターニアが「みんなー!昼ご飯よー!」と言いながら外に出てきた。
ハッサン「OK!じゃあみんな、1時間休憩だ!」
リベラ「ターニア、ありがとう。今行くよ。」
作業に携わっていた人達は先を競うようにして城へと向かっていき、彼女の手料理に舌鼓を打った。
その様子をターニアは満面の笑みで見つめていた。
午後は崩した城壁を片付ける作業をみんなで行い、それが済んだところでこの日の仕事は終わった。
すると午前中に話した通り、1分間懸垂大会をすることになった。
参加者はセリーナ、アモス、リベラ、ハッサンで、ターニアは時間を計る係になった。
最初に挑戦したのはセリーナで、予告通り本当に20回を達成した。
ターニア「すごーい!こんなに出来るなんて!」
セリーナ「ありがとう。だが、これ以上の回数は無理だったな。」
「つまり力を出し切ったってこと?」
「そう考えてよさそうだな。」
アモス「それでは私がその記録を上回ってやりますよ!」
彼は気合を入れながら懸垂を開始した。
しかし1回あたりの時間がかかったことが響き、余力を残したまま16回でタイムアップしてしまった。
「あ~あ、回数だけなら間違いなく20回を超えたはずなのに、悔しいです。」
次に挑戦したのはリベラだった。
彼は前半から飛ばし、30秒経過時点で12回に到達した。
しかし後半にガクンとペースが落ちたことが響いて、結果は19回だった。
リベラ「くーっ!惜しい!途中まではいけると思ったんだけどな。」
ターニア「そうね。お兄ちゃんなら絶対に勝てると思ったのにね。」
リベラ「早くやるコツって何かあるのかな?」
セリーナ「さあな、それは私でも分からない。あくまでも自己流で鍛えただけだからな。」
ターニア「残るはハッサンさんですね。頑張ってくださいね。」
「ああ、頑張るぜ。でも俺に『さん』はつけなくていいからよ。」
「えっ?でも…。」
「むしろ、『さん』が2回続く方が抵抗あるんだ。遠慮なくハッサンって呼んでくれ。」
「分かりました…。」
彼女は恐れ多い気持ちになりながらも、同意をした。
「それじゃやってやるぜ!」
ハッサンは優勝する気満々で懸垂を始めた。
しかし大きな体があだとなったのか、思うように回数が伸びなかった。
(うおっ!腕力だけじゃダメなのか?やはり何かコツがあるのか?)
彼の表情には次第に焦りの色が浮かんできた。
そして何とか回数を伸ばそうと頑張ったが、体をおろした時に腕がしっかりと伸びていないまま次に行ってしまう行為が目立つようになった。
それが響いて無効になった回数があり、結果は12回とまさかの最下位に沈んでしまった。
「ウソだろ、おい!俺がこんなことになるなんて!」
現実を受け止められない彼は、その場で呆然としていた。
一方、優勝したセリーナは「よっしゃあっ!」と、ガッツポーズをしながら喜んでいた。
賞金は特に用意していたわけではなかったが、リベラは何かあった方がいいということで、城に入っていき、旅の最後まで使わないままだった賢さの種3つとうつくしそう2つ、そしてアモス用に日当を持って戻ってきた。
「とっさにだったから、こんなのしか用意出来なかったけれど、いいかな?」
「15×3+37×2で119ゴールドか。それでもチャモロはきっと喜ぶだろうから、遠慮なく受け取ろう。」
「良かった。じゃあ、どうぞ。」
「サンキュー。」
セリーナは喜んで受け取ってくれた。
「それじゃアモスさん、日当です。」
「リベラさん、ありがとうございます。」
彼は受け取ったお金を手に、リベラと一緒にロンガデセオに向かって飛び立っていった。
リベラ、ハッサン、セリーナはその後もみんなの見本となるべく、他の誰よりも作業に励んだ。
一方、ターニアは食事の仕込みや洗濯などで彼らを支え、休憩時や作業後はリベラ達と楽しく会話をしながら過ごしていた。
その後、みんなの努力の甲斐もあって、ついに新しい城壁が完成した。
それに伴ってチームは解散することになった。
セリーナは給料を受け取ると、「これまでどうもありがとうございました。」と言って、みんなの前で深々と頭を下げた。
そしてリベラに送ってもらう形でチャモロのところに戻っていった。
彼が戻ってくるとハッサン、ターニアを加えた3人は、早速マーズの館に向かっていった。
そこではこの日の仕事を済ませたミレーユが部屋でくつろいでいた。
「こんにちは、ミレーユさん。今お時間大丈夫でしょうか?」
「あら、ターニアじゃない。珍しいわね、あなたがここに来るなんて。」
「実は、私もバーバラさんの姿を見たかったので、お兄ちゃんとハッサンさん…じゃなくてハッサンと一緒にここに来たんです。お願い出来ますでしょうか?」
「いいわよ。私もあれから夢の世界の人の声も聞けるようになったから。じゃあ、3人合わせて60ゴールドだから、一人20ゴールド頂くわ。」
「分かりました。」
ターニアが20ゴールドを用意すると、リベラとハッサンも割り勘をしながら金額を支払った。
「確かに受け取ったわ。では、占ってみるわね。」
ミレーユが水晶玉に手をかざして念じると、カルベローナの光景が映し出された。
ちょうどこれからミニコンサートが行われるのだろう。会場には小規模ながらもステージが用意され、すでにお客さんが集まっていた。
しばらくすると、バーバラがステージに姿を現し『今日はあたしのために集まってくれて、どうもありがとーーー!みんな盛り上がってるーーーっ?』と叫んだ。
お客さんも『イエーイ!』と叫びながらノリノリだった。
『それからリベラ、ハッサン、ミレーユ、そしてみんな見てるーーーっ?』
「見てるぜえっ!バーバラ!」(←ノリでつられるハッサン)
『あたしの声、聞こえるーーーっ?』
「聞こえてるよおっ!」(←リベラまで)
『どうもありがとーーーっ!』
バーバラが突然変なことを言い出したため、会場のお客さん達は思わずきょとんとしてしまった。
「えっ?ええっ??私達本当に見えているの?」
「凄いシンクロね、これ。」
ターニアとミレーユは目の前で起きたことが信じられないとばかりに驚いていた。
それから間もなくコンサートが始まり、バーバラは歌いながら踊りも披露していた。
(彼女は確かアイドルになりたいようなことを言っていたけれど、本当にその夢をかなえたんだね。良かったね、バーバラ。)
そんな姿を見てリベラもうれしくなり、彼だけでなくハッサン、ターニア、ミレーユもお客さんと一緒に盛り上がっていた。
コンサートはあっと言う間に進んでいき、次がいよいよ最後の曲になった。
『今日はスペシャルゲストを呼びたいと思います。ターニア、どうぞ!』
バーバラがそう叫ぶと、ステージには本当にターニアが姿を現した。
「えっ?ええっ??私がもう一人?」
「あっ、そうか。夢の世界にもターニアがいるんだよね。」
「確か彼女は俺やリベラと違って融合していなかったよな。」
「そして私達の目の前で姿が見えなくなってしまったわね。」
リベラ、ハッサン、ミレーユは至って冷静だった。
ステージ上ではバーバラが笛を、ターニアが竪琴を用意し、演奏のスタンバイをしていた。
そして2人が一緒に『ときは来たれり』と言った後、いよいよ演奏が始まった。
その曲はとても心に響く曲で、お客さんだけでなくリベラ達4人もすっかり聞き入っていた。
コンサートが終わると、ターニアは照れ屋なのか急ぎ足でステージを後にしていった。
一方のバーバラは『みんな、今日はどうもありがとーーっ!』とお客さんに向かって叫び、余韻に浸っていた。
そして『リベラ!あたしからのプレゼント、受け取ってーーーっ!』と言った後、投げキッスをしてステージを後にしていった。
水晶玉越しにではあるけれど、彼女はリベラの真正面を向いていたため、本当に彼めがけてやった形になった。
「おおっ!バーバラ、積極的だな!って、どうしたんだよリベラ!」
「な、何だか、ドキドキが止まらなくなっちゃって…。どうしよう、ハッサン…。」
「あっ、お兄ちゃん、顔真っ赤だ!本当に投げキッスを受け取ったのね!」
「……。」
リベラは何も言い返せず、胸の高鳴りを抑えるのに精いっぱいだった。
その後、バーバラはターニアをライフコッドに送り届けるためにルーラを唱え、2人で飛び立っていった。
それを見てミレーユは「それじゃ、今回はここまでにするわ。」と言って、水晶玉の映像を消した。
バーバラの元気な姿を見ることが出来たリベラとハッサン、そして彼女に加えて夢の世界の自分まで見ることが出来たターニアは、大満足しながら館を後にしていった。
その日の夜、ミレーユは夢の世界のターニアのことが気になり、水晶玉で映してみることにした。
彼女はライフコッドの自宅で一人暮らしをしており、自分で作った夕食を一人で食べていた。
すでに実の兄であるリベラには2度と会えないことを自覚しているのだろう。食器やベッドは一人分しかなかった。
その表情には昼間のような明るさはどこにもなく、食事を終えて食器を洗い終えた後、悲しげな表情で竪琴を演奏していた。
『お兄ちゃん…、また会えるよねとは言ったけれど、そんなのは夢だよね。夢のまた夢だよね…。2度と会えないよね…。本当にさようならだよね…。お兄ちゃん…。』
現実世界のターニアはいつでもリベラに会えるのに対し、夢の世界の彼女は実の兄を失ったこともあって、その悲しみは深いものだった。
『私、体が消えたあの時、お兄ちゃんについて行けば良かった。そうすれば、お兄ちゃんと一緒に過ごせたのに…。でもあの時はお兄ちゃん一人と引き換えに、この世界に戻れなくなることが怖かった…。村のみんなと2度と会えなくなることが怖かった…。そしてチャンスを逃してしまった…。もう下の世界には行けなくなってしまった…。私…、悔しい…。本当に悔しい…。』
その痛ましい姿を見て、ミレーユは何かをしてあげたくなった。
しかし向こうからはこちらが見えず、こちらの声も聞こえないため、ただその姿を見ることしか出来なかった。
(ごめんね。出来ることなら今すぐにでもこちらのターニアと融合させて、リベラに会わせてあげたい。でも、夢と現実の世界をつなぎ合わせることなど、私には到底出来ない。おばあちゃんでも出来ない。どうか許してね。)
彼女は心の中で謝りながら映像を消した。
しばらくして、バーバラも気になったミレーユは、水晶玉に姿を映し出すことにした。
彼女はカルベローナの自分の部屋におり、一人ぼっちで椅子に座りながら、新曲をアカペラで歌っていた。
彼女もまた昼間の明るさとは打って変わり、ターニア同様に寂しそうな表情をしていた。
曲が終わると彼女は独り言を色々言い始めた。
『みんな、どうしているのかな…。あたし、自分の実体がなかったために、あたしだけがみんなから引き離されて…。あたし、こんな運命になってしまったことが悔しい…。もう一度みんなに会いたい…。会いたいけれど…、もう2度と会えないのかな…。リベラは今でも会いたいと思っているのかな…。もし会えたら、あたしと手をつないでくれるかな…。今度こそあたしに好きって告白してくれるかな…。』
そう言うと、彼女の表情がさらに寂しげなものになった。
「バーバラ、リベラもあなたに会いたがっているわよ。あの日、水晶玉であなたの姿を見た時は、泣きそうな顔になりながら食い入るように見つめていたわ。そしてあなたのことを思い出しながら頑張るよって言っていたわ。あなた達は今でも両想いの関係よ。」
ミレーユは水晶玉に向かって語りかけたが、いくらしゃべったところでその声はターニアの時と同様に、バーバラに届くことはなかった。
『みんなはあたしのこと、忘れてしまったのかな?あたしがいなくても元気に過ごしているのかな?みんなはあたしと別れただけで済んだから、あたし一人いなくても平気かもしれないけれど、あたしはみんなと別れたから、みんなの何倍も悲しい思いをして…。』
泣きたい気持ちをこらえているバーバラを見つめることは、ミレーユにとっても辛いことだった。
(確かにそうね。もし私があなたの立場になったらどんな気持ちになるか…。とても私では想像出来ない。ごめんね。あなたの気持ちを分かってあげられなくて…。)
夢の世界でひとりぼっちになってしまったふたり…。
そんな彼女達の姿を見て、ミレーユは何もしてあげられない無力さを感じずにはいられなかった。
たとえ直接会うことが不可能だとしても、誰でもいいから向こうの人がこちらに気付いてくれれば…。
そして、せめて会話だけでも出来るようになれば…。