リベラと離れ、夢の世界に戻ってきたバーバラは、転職を通じて身に付けていた呪文や特技を封印し、普通の魔法少女に戻ることにした。
結果、彼女に残された呪文はメラからメダパニに加えて、マダンテの12個になった。
カルベローナではみんなからの大歓迎に笑顔でこたえる一方、心の中では深い悲しみを抱えていた。
そんな中、仕事でライフコッドに出かけた彼女は、同じ人と別れてやはり深い悲しみを抱えているターニアと意気投合した。
年齢はバーバラの方が上ということもあって、ターニアは彼女のことを「お姉ちゃん」と呼ぶようになった。
そんな姉妹同然の関係になった2人のもとに、ある日、映画出演の依頼が入った。
ストーリーは、故郷の村を滅ぼされた女勇者エリーゼの成長を描いたものだった。
映画の中でターニアは村の少女役を、バーバラはギラ、ラリホー、ベギラマを使えるということで、敵キャラの「まほうつかい」、「まどうし」、「だいまどう」役を演じることになった。
再び呪文を覚え直せると考えたバーバラは事前にダーマ神殿に行き、魔法使いに転職した。
エリーゼ「バーバラ様、映画とはいえ、世界を救った一人であるあなたと戦うのは恐れ多いですけれど、これからよろしくお願いします。」
「んもー、堅苦しいわね。バーバラでいいわ。あたしはあなたのことをエリーゼって呼ぶから。」
「えっ?でも…。」
「あたしは楽しくやっていきたいのよ。よろしくっ!」
バーバラはいつものおてんばぶりで、この日が初対面のエリーゼの緊張をほぐしていった。
その後、2人は戦闘シーンを模擬した稽古を行った。
結果、メラミを覚えたバーバラは再びダーマ神殿に行き、今度は僧侶に転職した。
撮影は平和な村で、エリーゼとターニアが楽しく会話をしているシーンから始まった。
エリーゼ「こうして寝転がっていると、本当にいい気分ね。」
ターニア「そうね。ねえ、私達、大きくなってもずっとこのままでいられたらいいね。」
すると、どこからともなくモンスター(実際はそれに扮した人間)が村を襲って来て、彼女達は大急ぎで地下室に避難していった。
撮影の合間に着替えて女勇者の格好になったターニアは「さようなら、エリーゼ…。」と言い残し、地下室を後にしていった。
ターニアが元の服装に着替えると、今度はエンディングの撮影が行われ、彼女が旅を終えて戻ってきたエリーゼと再会するシーンを演じて、出演終了となった。
一方、バーバラは普段着の上に灰色のローブを着て「まほうつかい」の姿になり、素手での通常攻撃に加えてギラを唱えながら、初歩的な装備のエリーゼと勝負した。
その結果、彼女はホイミを覚えることが出来た。
次に彼女はまどうしのローブに着替え、まどうしの杖(←DQ6には無いけどね)を身に付けて「まどうし」の姿になった。
そのまどうしはギラに加えてラリホーを唱えるため、バーバラは眠ってしまったエリーゼを一方的に攻撃するという、えげつないキャラを演じることになった。
ただ、エリーゼがマホトーンを使えるようになると、呪文を封じられたバーバラは無駄行動をするようになり、一方的にやられる立場になった。
さらにその後、彼女は色違いのまどうしのローブと、まふうじの杖を身に付けて「だいまどう」になり、ベギラマを唱えるキャラになった。
この時、バーバラはベギラマの威力を敵キャラ用に調整することを忘れ、フルパワーで放ったため、事故的に女勇者の負けイベントを発生させてしまった。
「きゃあっ!」
予想以上のダメージを受けたエリーゼは、その場に倒れこんでしまった。
「キャーーーッ!ごめんなさいっ!!」
バーバラはカットの声と同時に悲鳴を上げ、大急ぎでホイミをかけた。
「ごめんね、エリーゼ!やり過ぎちゃった!」
「イタタタ…。びっくりしたわ。死ぬかと思った…。」
「ごめんなさい…。」
フードを上げて素顔を見せたバーバラは手を合わせながら平謝り状態だった。
だが、監督からはドラマチックなシーンとして使えるかもしれないとフォローを受けたことで、彼女は気持ちを切り替えることが出来た。
そして2人は時には草原で、時には廃墟で、時にはラストダンジョンで戦闘シーンを演じた。
バーバラは最終的にベホイミまで覚えることが出来、撮影もそこで終了となった。
「カット!それではあなたの出演シーンは以上です。ありがとうございました。」
「こちらこそ、どうもありがとーーーっ!」
緊張感から解放された彼女はいつものおてんばぶりを取り戻し、現場を後にしていった。
その後、彼女はアイドル活動と並行してはがねのムチやメラミ、ベギラマ等を駆使して稽古をしたり、映画での戦闘シーン、ザコ敵との戦闘を通じて熟練度を上げていった。
リベラ達が水晶玉越しに見ていたあのコンサートの翌日、バーバラは再びライフコッドにやってきた。
「やあ、ターニア。お元気いっ?」
「元気よ、お姉ちゃん。でも、夕べはずいぶん一人で悲しい気持ちになったけれどね。」
「それはあたしも同じよ。やっぱり血はつながっていなくても、そこは共通しているみたいね。」
「そうね。お兄ちゃんに会いたいという気持ちを持っているのは同じだから。」
「それでね、今日はその件でここにやってきたの。一緒についてきてくれる?」
「どこに行くの?」
「ゼニスの城!あたしね、実はいい情報をつかんだの。」
「どんな情報?」
「耳元でそっとささやいてあげるね。誰にも聞かれたくないことだから。」
「分かったわ。」
「じゃあ、耳貸して。」
バーバラはそう言うと、そっとターニアに要件を伝えた。
「えっ?それ、本当なの?」
「100%ってわけじゃないけれどね。でも、どう?行ってみる?」
「ぜひ行きましょう!」
「じゃあ、早速行くわよ。ゼニスの城へ!」
2人は外に出ると、ルーラでその場から飛び立っていった。
ゼニスの城では、ゼニス王がある道具を持って、あの卵がふ化した場所で待っていた。
するとそこに、バーバラとターニアが駆け足でやってきた。
「ゼニス王さん、お待たせ~っ!」
「お姉ちゃん、王様にそんな口調でしゃべって大丈夫なの?」
「うんっ!もう慣れてるみたいだから。」
「私には恐れ多いんだけれど…。」
姉妹同然の関係とはいえ、こういう時にはお互いの性格の違いがはっきりと浮き彫りになった。
「ようこそ。さて、今日ここに呼び出したのは、バーバラ様の願いがかなうかもしれないことについてです。」
「お姉ちゃんの願いって?」
「決まってるじゃない!リベラに会いに行くのよ!」
「そんなこと、出来るの?」
「出来るかもしれないの。」
「出来るかもって?」
「詳しいことはゼニス王さんから聞くことにするわ。じゃあ、お願いね。」
「分かりました、バーバラ様。では早速説明をしましょう。」
彼はそう言うと、翼のような形をしたものを見せてくれた。
それは特別な布で何重にもくるまれており、まるで何か大きな力を封印しているようだった。
ターニア「これは一体?」
「これはキメラの翼を大幅に改良したもので、私としては『超・キメラの翼』と呼んでいます。この翼の力を封印している布をほどくと、世界を隔てる壁を乗り越えて、別の世界へと飛んで行けるかもしれないのです。」
ターニア「行けるかもしれないって?」
「まだ誰も使った試しがありませんので、使用後に何が起きるか分からないのです。」
ゼニス王は続けざまに、成功すればもう一方の世界に行くことが出来る半面、失敗するかもしれないこと、その場合、どこかの空間に閉じ込められてしまうかもしれないこと、もしそこに入ってしまったら出られない可能性があることを教えてくれた。
「もちろん、仮にうまくいっても1つでは行ったきり帰れないことになりますから、2つ用意しました。ですが、失敗は許されません。あなた達はこの世界、そして今までお世話になった人達と別れることになる。再び戻れる保証はない。それでもあなた達は下の世界に行く覚悟がありますでしょうか?」
ゼニス王が真剣な表情で言った言葉に、ターニアはもちろん、バーバラの表情も曇り、戸惑ってしまった。
「もちろん強制はしません。ここにとどまるのも一つの選択肢です。気持ちが固まったら、またここに来てください。」
バーバラ「…分かりました。」
ターニア「…考えさせて下さい。」
2人はうつむいたまま、答えを出すことが出来なかった。
そして重い足取りでゼニスの城を後にしていった。
カルベローナに戻った後、バーバラは自分の部屋でじっと考え事をしていた。
(行けるかどうかは分からない。行っても実体のないあたしはミレーユのおばあちゃん以外、認識してもらえない。それでもあたしは…。)
彼女は自分がどうなってしまうか分からない不安を抱えながらも、リベラ、そして大切な仲間達に会いたいという気持ちは消えたことはなかった。
もう一度リベラに会いたい。
きっと行ける方法はある。
たとえ夢見のしずくがもう効かないとしても、きっと自分の姿が見えるようになる方法はある。
その思いは帰還した直後からずっと持ち続けていた。
だが、彼女の気持ちを支持してくれる人は、ゼニス王の他にはその城にいる数人と、ターニアだけだった。
実際、カルベローナにいた人達に本心を伝えた時には
「あなたはカルベローナの長になる方ですよ!」
「たった一人の人に会うために、そんな危険を冒すなんて!」
「私達はあなたを失いたくはありません!」
と言われる始末だった。
それでもメラメラと燃えたぎっていた心の火は消えていなかった。
(むしろ、みんなが反対してきたことで、下の世界に行きやすくなったわ。みんなには本当に悪いけれど、あたしはどうしてもリベラに会いたい。やらずに後悔するのなら、やって後悔したい!)
彼女は揺るがぬ決意をすると、こっそりと外に出て、ルーラでゼニスの城に飛んでいった。
「ゼニス王さん、あたしは行きます。どれだけみんなから反対されても行きます。」
「そうですか。バーバラ様は本当に行くんですね。」
「はいっ!それ程リベラはあたしの大切な人なんです。」
「分かりました。私は止めません。あなたの意見を尊重しましょう。でも、相手の人があなたを認識出来ないとなれば、それは不便でしょうから、下の世界の人達にもあなたが見えるようになる方法を用意してあげますよ。」
「そんなことが出来るの?あたしが見えるようになるのなら、喜んでそうするわ!」
「ただし、それと引き換えにあなたは代償を背負うことになります。それでもいいですか?」
「代償って?」
「それは…。」
ゼニス王はその内容について詳しく話してくれた。
「えっ?本当に?」
「はい、間違いなくそうなるでしょう。ですが、仮に代償を背負っても、あなたの実体を見つけ出して融合すれば、その時点で解除されますよ。」
「でも、あたしの実体って…。」
「恐らく間違いないでしょう。ですから事実上、あなたは2つの選択肢からどちらかを選ぶことになります。とはいえ、あなたの性格であれば、代償を背負ってでも行くでしょう。」
「ま、まあ…。姿が見えないせいで、あたしは本当に寂しい思いをしてきたから…。」
「ですから、私は城の人達とひそかに特別なアイテムを用意することにします。」
「特別なアイテム?何それ。」
ゼニス王は、それが何かをバーバラに教えてくれた。
「本当?あたしのためにそこまでしてくれるの?」
「はい。ただし、準備にはそれなりの時間がかかります。さらに使えるのは1度だけですから、それは忘れないでください。」
「はーい!分かりました!」
持ち前の明るさを取り戻したバーバラは、元気よく返事をした。
「では、私はこれからその準備に取り掛かります。出来上がったらお呼びしますので、その時にまた来てください。」
「オッケーイ!じゃあ、ゼニス王さん、まったねえ~。」
バーバラは威勢よくあいさつをすると、駆け足で城を後にし、ライフコッドに向かっていった。
「お姉ちゃんはみんなからどれだけ反対されても行く決心をしたのね。」
「うん。行かなかったらきっと一生後悔すると思ったから。」
その気持ちは、ターニアの心を大きく揺さぶった。
私はあの時、お兄ちゃんについて行く勇気がなかった。
そのためにこの世界に取り残され、深い悲しみを背負うことになってしまった。
もし行かなければ、その悲しみを一生背負いながら生きていくことになる。
そんなのは嫌。
もうこんな思いはしたくない。
兄に会いたい。もう一度会いたい。
たとえこの世界を捨てることになったとしても!
すると、ターニアの心にもメラメラと火がついてきた。
「お姉ちゃん、あなたが行くのなら私も一緒に行くわ。」
「いいの?」
「うん。お姉ちゃんと一緒なら怖くないわ!」
「分かった。じゃあ、あたしがゼニス王さんから教えてもらったことを話してあげるわね。」
バーバラは姿は見えないけれど代償なし、もしくは姿は見えるけれど代償ありという2つのパターンがあることについて伝えた。
「どうかしら?仮にあなたの姿が見えなくてもあたしがもう一人のあなたのところまで案内するわ。そして融合してしまえば姿が見える状態になってリベラ達と会話が出来るようになるわよ。」
「分かったわ。じゃあ、私はその方法を選ぶ。でも、それでお姉ちゃんに余計な負担をかけることにならなければいいけれど。」
「あたしは大丈夫よ。妹のためなら喜んでやるわ。」
「じゃあ、一緒に下の世界に行ったら、案内お願いね。」
「うんっ!」
この時点で、2人の決意は揺るがぬものになった。
後日、ちょうどベホマを覚えた時点でゼニス王から連絡を受けたバーバラは、はがねのムチに加えて、映画撮影時の思い出の品である、まどうしのローブとまふうじの杖を持ってダーマ神殿に行き、僧侶の職を解除した。
そしてすっかり家を片付けたターニアと合流して、ゼニスの城に向かっていった。
ゼニス王は下の世界に行くために必要なアイテムとして、超・キメラの翼2つと、何かオーブのような宝玉を用意し、その宝玉の効果について教えてくれた。
バーバラはそれらを受け取ると、「どうもありがとう。じゃあ、あたし達、行ってきまーす!」と言って、城の外に出ていった。
ベランダにやってきた2人は(どうか無事に下の世界に行けますように。)と心の中で祈りながら、翼を覆っていた布をほどいていった。
するとその翼が光り輝いていき、バーバラとターニアの体を包み込んでいった。
そして2人の体が完全に光に包まれると、光の矢となって下界に向かって降下していった。
あの人のもとへ。
彼女達の願いは果たしてかなうのだろうか…。
名前の由来
エリーゼ(Elise)
ベートーベン作曲のクラシック曲「エリーゼのために」から命名しました。
僕自身がとても気に入っている曲で、執筆中もよく聞いています。
この作品の主人公の名前はリベラですが、もし女性だったらこの名前にしていた気がします。