カンダタの攻撃を受けた爆弾岩は、奇妙な声を発しながら激しく振動を始めた。
「まさか、これは!」
「まずいぞ、これは!」
リベラとハッサンが叫んだその直後…。
「2人ともよけて!マダンテーーーッ!」
バーバラが大声で叫ぶと、彼女の体はまぶしく光り輝き、魔力が一気に暴走していった。
そして敵のメガンテよりも先にマダンテが着弾した。
辺りには目がくらむほどの光がほどばしった。
しばらくするとそれはおさまっていき、爆弾岩は跡形もなく消え去っていた。
「お前のマダンテはすげえ威力だな。とにかく助かったぜ。」
「君は僕達の命の恩人だ。本当にありがとう。」
命拾いをしたハッサンとリベラは、安どの表情を浮かべながらバーバラを見た。
するとそこにはうつむきながら両腕をだらりとおろし、今にも倒れそうな彼女の姿があった。
「バーバラ!どうしたんだよ!」
リベラは急いで駆け寄り、彼女を受け止めた。
幸い息はしているもののすでに意識はなく、ぐったりと目を閉じていた。
するとそこにチャモロ、テリー、ミレーユの3人がやってきた。
チャモロ「どうしたんですか?」
リベラ「みんな!実はバーバラがマダンテを唱えて…。」
テリー「それは上空から見ていたぜ。確かにすげえ威力だったな。」
ハッサン「ああ。だが、彼女がその後、気を失っちまってな。」
ミレーユ「それは変ねえ。以前なら唱えた後もピンピンしていたはずなのに。」
チャモロ「もしかしたら、彼女が背負っている代償と関係があるのかもしれませんね。」
リベラ「じゃあ、今のバーバラはこれを唱えたらMPだけでなく、意識まで失ってしまうってことなのか?」
「そうかもしれませんね。」
「……。」
リベラが呆然としていると、ミレーユの水晶玉が突如光り始めた。
彼女は驚きながらも急いで応答した。
『ミレーユ!』
「おばあちゃん、いつの間に帰ってきたの?」
『先程な。それより、このままではバーバラが危ないぞい。』
「えっ?危ないって?」
『彼女が持っている命の宝玉を見てみなさい。』
「分かったわ。」
ミレーユは言われたとおりに、宝玉を取り出した。
すると、その光は今にも消えそうなほど弱くなっていた。
リベラ「どうしてなんだ?トルッカに来て、エリザに見せた時にはもっと強く光っていたのに。」
テリー「多分、マダンテの影響だろうな。」
チャモロ「これも代償と関係あるのかもしれませんね。」
『分かったじゃろう。このままではあと1時間で光は消えてしまう。そうなれば、彼女は3日以内に夢の世界に帰らなければ最大HPが枯渇して、帰らぬ人になってしまうぞい。』
ハッサン「じゃあ、どうすればいいんだ!ばあさん、何とか光を戻す方法はないのかよ?」
『リベラ!ハッサン!お前さん達がバーバラを連れてこちらに来るんじゃ!』
リベラ「どうして僕達なんですか?」
『お前さん達はバーバラに助けてもらった身じゃろう。』
「はい…。確かに彼女のおかげで命拾いしましたから。じゃあ僕はバーバラを連れて、ハッサンとともに直ちに戻ります。それじゃ、みんなも気をつけてね。まだ町に誰かいるかもしれないから。」
チャモロ「分かりました。どうかバーバラさんを助けてあげてください。」
「うん、絶対に助けるよ。」
リベラが会話をしているかたわらで、ハッサンはバーバラを抱え上げ、テリーはミレーユにきせきの剣を渡して、いつ戦闘になってもいいように備えていた。
その様子を見ながらリベラはルーラを唱え、ハッサン、バーバラと一緒に飛び立っていった。
マーズの館にたどり着くと、バーバラはベッドに横になり、グランマーズの治療を受けることになった。
その様子をリベラは憔悴しきったような表情で見つめていた。
(僕、君を守るって約束したのに、守ってあげられなかった…。こんな目にあわせてしまった…。悔しい…。本当に悔しい…。)
彼が精神的に打ちひしがれていることは、ハッサンにも一目で分かった。
「そんなに自分を責めるなよ。あの状況では仕方がない。もし、あと少し彼女のマダンテが遅かったら、バーバラを含めて俺達3人はもうこの世の人ではなくなっていただろうからよ。彼女に感謝しようぜ。」
「分かっているよ。でも…。」
「でも、何だ?」
「どうしてバーバラばかりがこんな目にあわなければならないんだ…。せめて僕が少しでも代わってあげられたら…。」
「……。」
ハッサンもそれ以上は何も言うことが出来ず、打ちひしがれるリベラをじっと見つめていた。
すると治療が終わったのか、グランマーズは「ふう…。」と言いながら大きく息をし、ほっとしたような表情を浮かべた。
ハッサン「ばあさん、バーバラは助かるのか?」
「ひとまず、宝玉の光さえ戻れば命に別状はないぞい。」
「それなら良かったぜ。」
「しかし、ただでさえ代償を抱えている状態でマダンテを唱えたわけじゃから、相当体に負担がかかっておる。たとえこの世界に居続けられるようになったとしても、今後パーティーメンバーとして戦うことはちょっと難しいかもしれんな…。」
「そんな…。バーバラは誰よりも消火活動を頑張ってくれた上に、メガンテを阻止してくれたのによ…。」
「今日、僕と一緒にトルッカに向かった時は、あんなに元気な姿だったのに…。ということは、今まで集めた命の木の実は意味をなさなかったということなのか…。」
「いや、意味はあったぞい。」
「本当にですか?」
「うむ。もしバーバラが実を食べていなかったら、もはや手の施しようがない状態になっていたはずじゃ。じゃから、お前さん達のこれまでの努力が彼女を救ったんじゃ。」
「でも…。バーバラがこんな状態になって、救ったなんて言われても…。」
グランマーズに励まされても、リベラの気持ちは前向きにならなかった。
ハッサン「とにかくよ、早く宝玉の光を戻してくれ。そのために俺達を呼んだんだろ!」
「そのとおりじゃ。では、今からその方法を話すことにしよう。聞いても驚くでないぞ。」
グランマーズはその方法を2人に話した。
「えっ?それが光を戻す方法なんですか?」
リベラはその内容に驚きを隠せなかった。
「そうじゃ。お前さん達はそれと引き換えに、これまでの経験値を失い、レベル1になる覚悟があるかの?」
「そ、それは…。」
ハッサンは信じられない内容を聞いて、それっきり黙り込んでしまった。
レベルが1になる。
それはHP、MPをはじめ、全てのステータスが大幅に下がってしまい、呪文や特技を忘れてしまうということを意味していた。
「もしそうなれば、お前さん達は到底戦力にはなれなくなる。バーバラを守ってやれなくなる。しかも…。」
リベラ「しかも、何ですか?」
「お前さん達がそこまでして命の宝玉に光を取り戻したとしても、またいつか消えてしまう。しかも、先日それを鑑定して分かったことじゃが、取り戻せるのは1回だけじゃ。今度はそのような手は通じんし、光が消えれば宝玉は砕けてしまう。それでもやるかの?」
「……。」
2人は何も言えないままだった。
「リベラ、今回はバーバラを助けても、所詮彼女は夢の世界の住人じゃ。どんなに両想いの関係になったとしても、彼女を人生のパートナーにすることは夢のまた夢じゃ。」
「……。」
「どうじゃ。彼女が意識を取り戻したら、すぐに超・キメラの翼を使わせて、彼女を見送ってやるという手もあるぞい。恐らく彼女は夢の世界に帰れば、ゼニス王か誰かにお願いして、こちらと連絡を取れるようにお願いするじゃろう。それでいいではないか。」
「……。」
「分かったじゃろう。たとえ直接会えなくても、これからは水晶玉で会話が出来るんじゃ。じゃから、悪いことは言わん。バーバラはあきらめい!」
グランマーズはまるで敵に寝返ったかのような衝撃発言をしてきた。
「ばあさん!リベラに向かって何てことを言うんだよ!」
「わしは事実を言っただけじゃ。殴りたければかかってくるがよい。」
「何だと!」
「よせ、ハッサン。」
グランマーズのところに向かおうとした彼を、リベラは手を伸ばして制止した。
「何で止めるんだよ!お前はバーバラをあきらめるのか!」
「あきらめないよ。1ミリたりともあきらめてはいない。たとえ世界中の人達に夢のまた夢と言われても、僕はあきらめない。」
「お前、本気か!」
「本気だ。僕、約束したんだ。バーバラを守るって。彼女がダメージを受けるなら、彼女のダメージになってやるって。もし彼女を助けられるのなら、僕はどんな代償を背負ってもかまわない。この命はバーバラがくれたものだから、彼女のためなら喜んでレベル1になってやる。」
「お前、そこまでバーバラのことを…。」
「うん。そして、見つけ出してみせる。彼女の背負った代償を解除して、ずっと一緒にいられる方法を。」
「そうか…。」
「だからハッサン、止めても無駄だよ。」
「止めやしないさ。俺も協力するぜ。俺もレベル1になるぜ。そうすればバーバラがこの世界にもっと長くいられるようになるからよ。」
「本当にいいの?」
「ああ。俺の命も彼女がくれたものだからよ。」
「ハッサン…。」
リベラは彼の発言に驚きながらも、やがてうれしさがこみ上げてきた。
「そういうわけだ。ばあさん、俺達2人で彼女を助けてやってくれ。」
「その発言に二言はないか?」
「ないぜ。」
「僕も二言はありません。バーバラのために、自分の経験値をささげます。」
「分かった。じゃあお前さん達、こちらに来なさい。」
2人「はいっ!」
リベラとハッサンは元気よく返事をすると、グランマーズと一緒にバーバラのところにやってきた。
そして彼女のかたわらに置いてある命の宝玉に手をかざすと、グランマーズが何か言葉を唱え始めた。
(バーバラ、今助けてあげるからね。)
リベラがそう思っていると、2人の体が光っていき、その光が宝玉の中に吸収されていった。
その後、命の宝玉は再び光を取り戻したのと引き換えに、リベラとハッサンのレベルは本当に1になってしまった。
さらにこれまで覚えた呪文も特技もすっかり無くなってしまった。
(本当に僕、こんな体になってしまったんだな。これから何て言われるのかな。テリーからは戦力外級の力不足って言われるのかな。再び戦力になれるまでにはどれくらいかかるのかな…。)
リベラが落ち込みながらそう思っていると、グランマーズは急に「よくぞわしの揺さぶりに耐えたのう。お前さん達の勇気、確かに認めたぞい。ご褒美として、いいアイテムを貸すことにしよう。」と言い出した。
「ばあさん、いいアイテムって何だ?」
「これじゃよ。」
グランマーズは自分の机のところに行くと、袋から1足のくつを取り出した。
リベラ「それは何ですか?」
「これは『幸せのくつ』じゃ。これを履いて歩けば、戦闘をしなくても経験値を獲得出来るぞい。」
「本当ですか?じゃあ、またレベルアップしていけるんですね。」
「まあ、レベルアップするには1回戦闘を経験する必要があるが、経験値そのものは歩いたり、走ったりすればたまっていく。これで少しずつ能力を取り戻していくとよい。」
グランマーズはそう言った後、ミレーユと連絡を取り、これを借りるために異世界に出かけて音信不通にしてしまったこと。そして何も言わずに装備品を持ち出してしまったことを謝った。
「おばあさん、ありがとうございます。僕達、早速使わせていただきます。」
「うむ。ただし、1足しかないから交代で使うことになる。じゃから、履いていない時はゆっくりと休むがよい。」
「分かりました。そうさせていただきます。」
「じゃあ、どちらが先に使うかをじゃんけんで決めようぜ。」
「うん。」
2人がじゃんけんをすると、ハッサンはチョキ、リベラはグーだった。
「というわけで、僕が今から使わせてもらうね。」
「お、おう、分かったぜ。じゃあ俺は今から寝ることにする。」
ハッサンはそう言いながら、自分のじゃんけんの弱さを悔やんでいた。
「それじゃ、バーバラ。僕は今から出かけてくるよ。少しの間、君を一人にさせるけれど、絶対に強くなって戻ってくるからね。」
リベラは目を閉じたままのバーバラに向けて言うと、自分の顔を彼女の顔にゆっくりと近づけていき、くちびるをほっぺたに当てた。
「わーーーっ!お前、やっちまったのか!」
「なかなか積極的じゃのう。」
ハッサンとグランマーズにイジられながらも、リベラはいたって冷静だった、
そして彼はスクッと立ち上がると、駆け足で館を後にしていった。
バーバラ。助けてくれてありがとう。
君がくれたこの命、大事に使わせてもらうよ。
そして、絶対に見つけ出してみせる。君とずっと一緒にいられる方法を…。