翌日の午後、リベラが幸せのくつを履いて経験値を稼いでいる間、チャモロはエリザ達に会いにトルッカに行った。
その時、彼女はまずチャモロにお礼を言った後、人々を避難させてくれたリベラや彼と一緒に戦ったハッサン、そして消火活動を頑張ってくれたバーバラ達にお礼を言いたいと言い出した。
チャモロはリベラ達に口頭で言うことを伝えたが、エリザはどうしても直接会いたいと言って譲らなかった。
そのため、2人で一緒にマーズの館に行き、まずミレーユに会うことにした。
館に入っていくと、エリザはまずミレーユにお礼を言った。
「いえ、私はただ、町が危ないと思ったから、助けに行ったまでよ。」
「でも、私は皆さんに感謝をしています。あの時、誰一人が欠けていても、トルッカは助からなかったと思っていますので…。」
「そう…。ありがとう…。」
「それでリベラさん、ハッサンさん、テリーさん、バーバラさんはどうしていますか?」
「ええっと、彼らは…。ちょっとこの場で占ってみるわ。」
ミレーユはお金をもらおうともせずに水晶玉に手をかざし、まずハッサンを映し出した。
すると彼はいびきをしながら自宅のベッドで爆睡中だった。
次にリベラを映し出すと、彼は幸せのくつを履いた状態でテリー、アモスと一緒にメタル系モンスターとの戦闘に参加していた。
しかし、彼はただ防御をするばかりで何の役にも立っておらず、攻撃はテリーの気合ためやまじんぎり、もしくはアモスの通常攻撃にまかせっきりだった。
そして戦闘が終了すると、リベラのレベルが一気にアップした。
『良かった。これで呪文を一通り覚え直せたよ。』
『それは良かったですね。おめでとうございます。』
『とはいえ、リベラ。お前はまだまだこの程度で満足するわけではないだろう。』
『まあね。今の実力ではまだ戦力不足だから、アモスさん、テリー、もう少し我慢してくれる?』
『リベラさんのためなら私は構わないですよ。』
『今は我慢してやる。その代わり、絶対に強くなるんだぞ。』
『うん。バーバラのために、頑張るよ。』
次の戦闘ではリベラも攻撃に参加し、戦力として少しずつ復帰を果たしていった。
ミレーユ「どうやら彼らに会おうとしたら、あなたは戦いに巻き込まれそうね。」
エリザ「そ、それは勘弁してください…。」
結局彼女がリベラとテリー、そして睡眠中のハッサンに会いに行くことは取りやめになった。
次にバーバラを映し出すと、彼女はライフコッドの家の前でターニアと一緒にいた。
『お姉ちゃん、お願いだから休もうよ。』
『大丈夫…。やっとメラが放てるようになったし、次は武器を振れるようにならないと…。』
バーバラは震えるような声で言うと、氷のやいばで素振りをしてみた。
しかし振った途端に表情がゆがみ、武器を落としてその場にうずくまってしまった。
『もういいよ。私、そんなに痛がる姿、見たくないよ。』
『でも…、このままじゃあたし…、仲間外れになってしまう…。だから…。』
「ダメよ!ますます体を悪くするわ!」
バーバラはターニアの必死の説得もあって、最終的には家の中に入っていった。
チャモロ「バーバラさん、見るからにボロボロの状態ですね。」
ミレーユ「あんなに痛がるなんて、並の痛みではないわね。」
エリザ「どうしてバーバラさんはこんなことに?」
3人が信じられないような表情をしていると、かたわらにいたグランマーズが「これがマダンテを唱えた代償じゃ。」と言ってきた。
「おばあちゃん。あの痛み、呪文で治してあげられないの?」
「それで治せるならとっくに彼女自身の呪文か、ターニアのホイミで対処しているはずじゃ。恐らく、バーバラはこれからもあの痛みに付きまとわれることになるじゃろう。」
「そんな…。」
ミレーユは信じがたい事実を突きつけられ、言葉を失ってしまった。
チャモロ「神様は時に不公平なことをするものですね。どうしてバーバラさんばかりに試練を与えるんでしょうか…。」
「私、一旦トルッカに戻ります。戻って、お父さんや町の人達に頼んで、痛み止めの薬を用意してもらうことにします。」
エリザはスクッと立ち上がり、チャモロに送ってもらえるようにお願いをした。
「まだお礼も言っていませんけれど、いいんですか?」
「お礼も言いたいですが、それだけでは不十分です。せめて何かをしてあげたいです。痛みを一時的にでも止めてあげたいですし、彼女に何か欲しいものがあれば買ってあげたいと思います。だから、チャモロさん、お願いします。」
「分かりました。では、一緒に行きましょう。」
すると、グランマーズが自分も一緒に行かせてくれないかと言ってきたため、4人はチャモロの風の帽子で館を後にしていった。
ライフコッドに降り立つと、ミレーユはターニアとバーバラの住んでいる家の扉をたたき、「こんにちは。」と声をかけた。
すると扉が開いてターニアが現れ、要件を聞いてきた。
ミレーユはバーバラにお礼を言いたい人がいるので、彼女に会わせて欲しいと要求した。
「えっ?あの、今お姉ちゃんは両肩や両腕が包帯だらけで、とても人に姿を見せられない状態だし、痛みとショックで泣いてばかりなんです。だから面会はちょっと…。」
「分かったわ。じゃあ、水晶玉越しにリモートで会話という形でもいい?」
「それでお姉ちゃんが同意してくれるかどうか、ちょっと聞いてきます。少し待ってもらってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。」
「では、今から聞いてきます。」
ターニアは急ぎ足で家の中に入っていった。
バーバラはミレーユ以外に自分の姿を見せないという条件でOKを出してくれた。
「分かった。それじゃ、ミレーユはここにいて、わしらはトルッカからリモートで会話をすることにしようかの。」
グランマーズの提案を受けて、彼女とチャモロ、エリザは現地に向かって飛び立っていった。
ミレーユとターニアは3人を見送った後、家の中に入っていった。
「こんにちは、バーバラ。」
「ミレーユ…。」
バーバラは脇の下から先を掛布団で隠し、その上に両腕を乗せた状態でベッドに横たわっていた。
「ごめんね…。あたし…こんな姿になってしまって…。」
彼女はこらえ切れなくなってしまい、目からは涙があふれだした。
「大丈夫よ。トルッカを、そしてリベラとハッサンを守ってくれてありがとう。」
「でも、こんな状態じゃ…、仲間外れにされてしまう…。」
「大丈夫。そんなことはしないわ。」
「でもあたし、武器が持てないし、通常攻撃すら出来ない…。呪文もメラですら痛みをこらえないと唱えられない…。とても戦力になんか…。」
「そんなふうに考えないで。あなたは大切な仲間よ。」
ミレーユは見るからに痛々しい姿を見て、もらい泣きしそうになるのを我慢しながら優しく語りかけた。
そしてリベラとハッサンが助けてくれたお礼として、レベルが1になるのと引き換えにバーバラがこの世界に居続けられるようにしてくれたこと。彼らは今幸せのくつで再び経験値を稼いでいることを打ち明けた。
「彼らは今懸命にレベル上げをしている最中だから、なかなかここに来られないけれど、あなたに凄く感謝をしているわ。会えたら色々お礼を言ってくれると思うわ。」
「会えたらって言われても…。」
「何?」
「あたし…、こんな自分のみにくい姿見せたくない…。見たら絶対に驚くし、一目で戦力外を宣告されてしまう…。」
未だ現実を受け入れられないまま、打ちひしがれるバーバラを見て、ミレーユもさすがにこれ以上は何を言えばいいのか分からなくなってしまった。
すると水晶玉が光り出したため、彼女はターニアと協力して壁を作り、バーバラの姿が見えないようにしながら映像を出した。
そしてトルッカにいるグランマーズ、チャモロ、エリザと彼女の父親に対し、声だけでの会話になることをお願いした。
4人は事情を理解した上で承諾をしてくれた。
町長『バーバラさん。こんなタイミングで会話をさせてほしいとお願いしてしまい、本当にごめんなさい。でも、せめてあなたにお礼を言わせてください。』
「……。」
エリザ『この度はあなたの勇気ある行動でトルッカを救っていただき、誠にありがとうございました。』
「……。」
エリザ『もし、何か欲しいものがあるなら、出来る限り協力をします。ミレーユさんから聞いた話では、あなたはリベラさんのために、大事に使っていたはがねのムチを手放したそうですから、もし望めば私達が買い直してあげます。』
「あたしの武器は…気にしないで…。こんな腕じゃ…とても使えないから…。」
一旦は泣き止んでいたバーバラは、再びこらえきれなくなって泣き出してしまった。
『あ、あの…。ごめんなさい…。泣かせてしまって…。私、そんなつもりじゃ…。』
「あたしより…、ミレーユのために武器を買ってあげて…。」
『えっ?』
「私の武器?」
「うん…。」
バーバラはそれっきり黙り込んでしまったため、ミレーユは自分が専用の武器を持っておらず、借りもので済ませていたことを話した。
町長『それなら炎のツメはどうでしょうか?』
「炎のツメですか?」
『はい。山賊の2人が持っていたものなんですが、持ち主が不明で、引き取り手がいない状態なんです。ですから、ミレーユさんの武器としていかがでしょうか?』
「そうですねえ…。」
炎のツメ自体はハッサンが既に持っているため、彼女は2つも必要かどうか、しばらく考えこんでしまった。
でも、たとえ装備出来なくても、道具使用で誰でもメラミが打てるという点は魅力的だったため、最終的に受け取ることにした。
町長『分かりました。では、あなたのために炎のツメを、バーバラさんのために痛み止めの薬を用意することにします。それでよろしいでしょうか?』
「はい、それで十分です。」
「あたしもそれでいいわ。だから、後はそっとしておいてくれる?」
エリザ『かしこまりました。バーバラさん、お邪魔して本当にごめんなさい。でも最後に私からもうひとこと言わせてください。私達はあなたの勇気ある行動を決して忘れません。町を救ってくれてありがとうございました。』
彼女がもらい泣きしそうになりながら会話を締めくくると、ミレーユは「みなさん、どうもありがとう。あなた達の気持ちは、バーバラの心にしっかりと届いているわよ。」と言って、映像を消した。
そして彼女はバーバラとターニアに声をかけた後、キメラの翼でマーズの館に帰っていった。
翌日の朝、チャモロは炎のツメと痛み止めの薬、そしてトルッカの人達が書いたバーバラへの寄せ書きを持ってマーズの館にやってきた。
「みなさん、本当にありがとう。この恩は忘れません。」
炎のツメを受け取ったミレーユは寄せ書きを見ながらお辞儀をすると、チャモロに連れられてライフコッドに行き、ターニアに薬と寄せ書きを手渡した。
その日の昼前、薬のおかげで痛みがどうにかやわらいだバーバラは、両腕と両手の皮膚がほとんど見えないほどの包帯を巻いたまま、ターニアの制止を振り切って稽古を開始しようとした。
するとリベラがルーラでやってきて、2人の前に降り立った。
「バーバラ、しばらく会えなくてごめん。」
「リベラ…、い、いやあああっ!」
バーバラは突然悲鳴のような声を上げ、持っていた氷のやいばを落として彼に背を向けた。
「えっ?どうして?」
「あたしを見ないで!あなたにこんなみにくい姿見せたくない!」
事前にミレーユから近況を聞いていたとはいえ、すっかり心が荒れすさんでしまった彼女を見て、リベラはさすがに驚きを隠せなかった。
かたわらにいたターニアも兄に向かって帰ってと言うわけにもいかず、オロオロしていた。
「バーバラ、きれいだよ。」
「やめてよ!そんな言い方するの!」
バーバラは背を向けたままムキになってしまった。
「本当だよ。きれいだよ。僕とハッサンを守ってくれてありがとう。」
「そんな感謝をされたって、あたしはパーティーメンバーに戻れるわけじゃない!言葉では優しいことを言ったって、心の中では戦力外って思っているんでしょ!」
バーバラは気持ちを抑えられずにいた。
するとリベラは歩いて彼女の正面にまわると、にっこりと微笑みながらそっと包み込んだ。
「きゃっ!一体何?」
「焦らなくていいよ。僕、パーティーメンバーとしてのバーバラだけじゃなくて、普通の女の子として生きるバーバラも同じくらい好きだから。」
「えっ…。」
再び思わぬ発言を聞いて、彼女は顔を赤らめた。
「あのね、もしよかったら、僕の頼みを聞いてくれる?」
「何?頼みって。」
「呪文の先生になってくれる?」
「呪文の先生?」
「うん。」
リベラは両腕をバーバラから離すと、トルッカでの出来事について話した。
その中でビッグとスモック、そしてカンダタ達と戦っていた時、自分がホイミしか使えなかったために思わぬ苦戦を強いられ、回復役の重要性を再認識させられたこと。
そして、自分も回復役になりたいという思いを両親に伝え、これから力の盾を用意してもらえることを打ち明けた。
「それでね、僕、炎の剣のイオと力の盾のベホイミを強化したいと思っているんだ。そこで、君に呪文のことについて色々教えてほしいんだ。」
「そんなの、あたしに出来るのかしら。」
バーバラは自分に自信が持てずにいた。
「出来るよ、きっと。だって君は自身のベギラマをベギラゴンにしただけでなく、ミレーユに色々アドバイスをして、ベホイミの威力を上げてくれたから。だから、僕の先生になってよ。アドバイスをすることなら出来るだろ?」
「うん、多分…。」
「じゃあ、お願いします。バーバラ先生。」
「リベラ…。うん、いいわよ。」
バーバラはリベラが自分を頼ってくれたことを受けて迷いを振り切り、同意をしてくれた。
すると、かたわらでじっと会話を聞いていたターニアが突然「あっ、お姉ちゃん、笑ってくれた。」と言ってきた。
「えっ?あたし、今、笑ったの?」
「うん。良かった。目を覚ましてから泣いてばかりだったから、正直、笑い方を忘れてしまったと思っていたの。でも、これで安心したわ。」
「ターニア、ごめんね。迷惑をかけてしまって。」
「私は大丈夫よ。それじゃ、お兄ちゃんをビシバシ鍛えてあげてね。」
「うんっ、分かったわ。」
バーバラはニッコリと微笑んだ。
「それじゃターニア。僕は彼女を連れてルーラで空を飛びまわってくるね。」
「ちょっとお兄ちゃん。早速呪文の先生になってもらうんじゃないの?」
「まずバーバラにしっかりと立ち直って欲しいんだ。だからまず2人で空を飛びまわりたい。いいだろ?バーバラ。」
「うん。」
「それじゃターニア、僕達は今から空の旅に出かけてくるからね。」
「分かったわ。お兄ちゃん、そしてお姉ちゃん、行ってらっしゃい。」
ターニアが笑顔で手を振るとリベラはルーラを唱え、2人で一緒に飛び立っていった。
眼下に広がる景色を見ながら、彼はバーバラの顔もしきりに見つめていた。
バーバラ、忘れないで。
一人じゃないから。僕が君を守るから。