リベラがマーズの館でテリーと、テリーもどきになったスミスのイオラを目に焼き付けている頃、チャモロはアモスとともに腕立て伏せをしていた。
彼は以前、盗賊2人組と戦った時、通常攻撃でもバギマでも実力不足を露呈してしまった。
そのため、アモスにトレーニングをお願いして体を鍛え、さらには離脱してしまったバーバラの分まで頑張ろうと意気込んでいた。
しかしこれまで体を鍛えていなかったツケがここでも回ってきてしまった。
「ちょ、ちょっと、アモスさん…。少し休ませてもらえませんか?正直きついです。」
「どうしたんですか?それでは戦力になれませんよ。」
「そんなこと言われても…。」
「あなたはバーバラさんの穴を埋めたいのでしょう。」
「それはそうですけれど…。」
チャモロはとうとう体力が続かなくなってしまい、自分から腕立て伏せをやめてしまった。
「あーしんど…。」
「それではパーティーメンバーに復帰してもホイミンと立場を争うことになりそうですね。」
「……。」
チャモロは自分の非力さを思い知らされ、悔しさをにじませていた。
「でも、あらかじめいい人を呼んでおきましたから、この人がいればもっと頑張れるかもしれませんよ。」
「えっ?誰ですか?」
「今から呼んできますよ。」
アモスは腕立て伏せをやめて立ち上がり、一旦その場を離れると、一人の女性を連れて戻ってきた。
「ええっ!?セリーナさん、どうしてここに!?」
チャモロは思いもよらない人と出くわしてしまい、ビックリした。
「ちょっとアモスさんに呼ばれてサプライズでな。でもだらしねえぞ。それだったら私がパーティーメンバーになった方が活躍出来そうじゃねえか。」
「うっ、そ、それは…。」
痛いところを突かれたチャモロは、再び腕立て伏せを再開した。
「よおし、その調子だ。それでは私も付き合わせてもらう。」
セリーナは自分も腕立て伏せを始めた。
以前、レイドック城での懸垂大会で優勝経験がある彼女はスイスイ回数を増やしていき、あっという間にチャモロのこれまでの回数に迫っていった。
アモス「おっ、これは私といい勝負になりそうですね。」
「そうか。ならば今から何回出来るか勝負しようぜ。」
「いいですよ。では、よーい、スタート!」
2人は既にそれなりの回数をこなしていたにもかかわらず、その後もどんどん数を重ねていった。
そしてアモスが懸垂大会で負けた悔しさを晴らすような形で、今度はセリーナに対して勝利をおさめた。
(私は途中から完全にカヤの外になってしまいましたね。何だか、悔しさすらわいてこないです…。)
2人の勝負を目の当たりにして、チャモロはいつの間にか腕立て伏せをやめて呆然としていた。
すると、そこにハッサンが駆け足でやってきた。
「よお、みんな。今日はセリーナもいるのか。」
「ああ、久しぶりだな、ハッサン。あんたもチャモロの特訓にやってきたのか?」
「そういうわけじゃねえんだ。俺は今、幸せのくつで経験値稼ぎをしていてな、もうすぐリベラと交代なんだ。彼とはこの場所でこの時間に会う予定なんだがな。」
「でも、なかなか来ませんねえ…。時間ギリギリまでバーバラさんとデートしているのでしょうか。」
アモスがイジる発言をすると、そこにリベラが空から舞い降りてきた。
「リベラさん、いつの間に!」
突如現れた彼を見て、アモスはポーズをとりながら驚いた。
「みなさん、こんにちは。そしてハッサン、待たせてごめん。」
「なあに。俺も今到着したところだから、気にするな。それじゃ交代だ。」
ハッサンは靴を脱ぐとリベラに渡してくれた。
「どうもありがとう。」
「頑張って来いよ。お前の愛する人のためにもな。」
「だからその言い方やめてよ!」
みんなの前でハッサンにイジられ、リベラは顔を赤くした。
そして彼は歩き出そうとすると、ふと水晶玉でテリーが言っていたことを思い出し、アモスに伝えた。
「なるほど。ポイズンゾンビのスミスさんは、私が持っているまどろみの剣を装備したいということなんですね。」
「そうなんです。今度彼に会ったらお願いしてもいいでしょうか?」
「いいですよ。私としても、誰かの役に立つのであれば本望ですから。」
アモスは喜んで了解してくれた。
そして、リベラは辺りを歩き回りながらハッサン達の様子を見ることにした。
「じゃあ、俺はレベルアップのために1回戦闘を経験する必要があるからよ。誰か俺と勝負してくれないか?」
セリーナ「それじゃ、私とアークボルトでの格闘大会のルールで勝負してみるか?」
「あんたとか?」
「ああ。あの時はあと1秒ファイティングポーズが早かったら私の勝利だったからな。あの悔しさは今でも覚えているし、もう一度勝負をしてみたかったんだ。いいか?」
「分かった。ここにはモンスターもいねえし、俺としても早くレベルアップしたいからな。」
「おう、望むところだ。」
こうして、ハッサン対セリーナの勝負が始まった。
格闘大会の時は気合ためしか使ってこなかったセリーナは、今回はまわし蹴りを駆使して先制攻撃をしてきた。
一方、ハッサンは幸せのくつを手に入れて以降、全く戦闘をしていなかったため、レベルは1のままで、特技(バックドロップやてつざんこうを含む)は全くない状態だった。
(くっ!よりによってこんなに弱体化していたとは…。しかもセリーナは手加減無しだ。こんな状況からどうやって勝てばいいんだ。)
彼が動揺していると、セリーナはいつの間にか気合ためのモーションに入っており、次の瞬間ハッサンに強烈な一撃をくらわせた。
彼はなす術なくダウンしてしまった。
「何だ?弱いじゃないか!あの強さはどこに行ったんだ。こんな勝ち方をしてもうれしくないぞ!」
セリーナは不満げな表情を浮かべていた。
するとチャモロがハッサンの事情を話し、バーバラを助けるためにレベル1になってしまったことを打ち明けた。
「なるほど、そんな事情があったのか。それならまず勝てる相手と勝負して、レベルアップしてから挑んでほしいものだな。」
「分かったぜ。では…。」
ハッサンはチャモロに背後からそっと近づき、不意打ちでキックをお見舞いした。
受け身も取れずに攻撃を受けた彼は、その場に倒れ込んでしまった。
すると途端にハッサンのレベルがアップしていった。
「ちょ、ちょっとチャモロさん、大丈夫ですか?」
アモスに声をかけられると、彼は目を覚まして起き上がった。
「ハッサン、いきなり何をするんですか!」
「わりいわりい。でもこれでレベルアップしたから許してくれ。」
「私としては許したくないです!」
自分にベホイミをかけてHPを回復させた後もふてくされるチャモロに対し、アモスとセリーナ、そして遠目から見ていたリベラは思わず笑いだした。
そしてハッサンはアモスにホイミを重ねがけしてもらってHPを全回復させると、もう一度セリーナと勝負をした。
今度はさっきよりも見ごたえある展開になったが、結局彼女の気合ためとまわし蹴りの前に沈んでしまう結果となった。
「セリーナ、すまねえ。まだ今のレベルじゃ勝てないようだ。これから経験値を稼いでもっと強くなるから、そうなったらまた勝負しようぜ。」
「分かった。その時、私は特技を惜しまずに繰り出すつもりだ。」
「まじかよ。」
「ああ。あんたは格闘大会の時、私の気合ためを見て、すぐに自分のものにしていたからな。それを踏まえた上で色々技を見せて、あんたにマスターしてもらおうと思っている。どうだ?」
「そうか。それなら納得だ。俺としても、特技を一から覚え直しになってしまったからよ。絶対にマスターしてやるから、また勝負しようぜ。」
「ああ、いつでも相手になる。あんたも早くレベルアップ出来るように頑張れよ。あんたが付き合っているミレーユを守るためにもな。」
「ちょ、ちょっと待てよ!何でお前がそんなこと知っているんだよ!」
アモス「なるほど。ハッサンにも守りたい人がいたんですね。」
チャモロ「やっぱりサンマリーノで2人一緒に歩いていたのは、デートだったんですね。」
次々にイジられたハッサンは顔を真っ赤にしながら「おい、チャモロ!お前チクったのか!」と迫った。
「私に蹴りを入れた罰ですよ。これくらいやってもバチは当たらないでしょう。」
「お前こそ、セリーナと付き合っているんだろ!」
「ま、まあ、それは…。」
「想像にお任せするぜ。」
チャモロとセリーナはそろって顔を赤らめていた。
この後、ハッサンはリベラにサンマリーノまで送り届けてもらい、自宅で食事をとった後、再びベッドで爆睡となった。
一方、アモスはまどろみの剣を手に入れるためにロンガデセオに行くことになったため、チャモロに送り届けてもらった。
そして剣を手に入れると再び元の場所に戻ってきた。
(※セリーナはその間に徒歩で帰っていきました。)
しばらくすると、テリーがスミスとホイミンを連れてその場所にやってきたため、アモスは早速スミスにその剣を手渡した。
素振りをした結果、彼にも装備出来ることが分かったため、それまでモシャスをしなければ素手だった彼は頼もしい武器を手に入れて、大満足だった。
一方、チャモロはグラコスの槍の攻撃力を加えてもなお、戦力面での不安を露呈してしまうありさまだった。
「私、呪文に活路を見出すしかないんでしょうか…。」
彼が落ち込んでいると、近くを歩いていたリベラがこっちにやってきた。
「チャモロ、呪文のことならバーバラに聞いてみるかい?」
リベラは歩きながら会話を続けた。
「バーバラさんに?けがで離脱したはずでは?」
「まあ、そうなんだけれど、僕、彼女に呪文の先生になってもらったんだ。」
「呪文の先生?」
「そう。彼女は自身のベギラマやミレーユのベホイミを強化した実績があるから。それを踏まえて、僕も炎の剣のイオをイオラにするべく、彼女にアドバイスを求めたんだ。」
アモス「それで、イオラは身に付いたんでしょうか?」
「いや、まだなんだ。でも、イオラの威力はすでに見て覚えたから、これから伸ばしていくつもりなんだ。」
リベラはそれに加えて、バーバラが威力は弱いながらも足で呪文を唱えられるようになったこと。これからはホイミタンクとして貢献しようと意気込んでいることを話した。
アモス「彼女も頑張っているんですね。何だか励みになります。」
チャモロ「私も頑張ります。必ず戦力になってみせます。」
「じゃあチャモロさん、これから夕方までみっちりとトレーニングですよ。」
「ええっ?体もたないですよ!」
「バーバラさんの分まで頑張りたいんでしょう。」
「ま、まあ、そうですけれど…。」
「じゃあ、私もお付き合いしますよ。頑張りましょう。」
「……。」
チャモロはそれ以上何も言うことが出来ず、体がバッキバキになるまで鍛え続けた。
一方、リベラはテリーにお願いしてメンバーに加えてもらい、異世界からやってきたモンスターのいるところに一緒に向かっていった。
そして戦闘をしながら炎の剣を積極的に道具使用し、イオの効果を伸ばしていった。
その姿に即発されたスミスはまどろみの剣でラリホーの、ホイミンは毒蛾のナイフで敵の動きを止める効果を発動させる特訓をするようになった。
戦闘後、リベラは歩きながら力の盾を使い、事前にバーバラが唱えてくれた呪文でHPを回復させていった。
バーバラ、今は離れ離れだけれど、この盾があれば、心はいつも一緒だよ。
これからも僕の大切な回復役になってね。
おまけ
今回はちょっと本編が短いため、おまけとしてQuest.11で出てきた、バーバラ、ターニア、エリーゼが出演した映画について補足します。
彼女達は試写会でその映画を全編見ることになりましたが、そこで衝撃のシーンが明かされました。
衝撃のシーン
エリーゼはラストダンジョンで、魔王を名乗る男性と女性のところにやってきました。
エリーゼ「あんた達は私の村を襲った!私の両親を殺した!」
女性「違います。あなたの両親は私達です。」
「嘘よーーーっ!!!」
そのシーンを見て試写会場は騒然となり、バーバラとターニアをはじめ、その場に居合わせた人達はビックリしていた。
この影響で、試写会はしばらく中断となった。
一方、すでにそのセリフを知っていた監督とエリーゼ、そして女性の声を担当した人だけは冷静だった。
バーバラ「ちょっとエリーゼ!あの場面のセリフは『殺したのはあくまのきしです。』だったはずでしょ!どういうことよ!」
「私だって撮影直前にこのセリフを知った時はビックリして監督さんに『ちょっと!嘘でしょ!』って聞き返したわ。さらに彼からかん口令を敷かれていたから、今日までバレないように隠すのは大変だったわよ。」
このシーンは非常に有名になり、後にパロディー化されるなど、大きな影響を及ぼしました。
映画のエンディングではNGシーンが流されました。
NGシーン1
村が襲われ、エリーゼとターニアが地下室に逃げ込み、ターニアが女勇者の姿になった時のシーンです。
「さようなら、エリーゼ…。」
「待って!置いていかないで!」
エリーゼが泣き叫ぶ声を背に、ターニアは部屋の外に出ると、扉を閉めて駆け出していった。
タッタッタッ…、ドタッ!
「痛ったああっ!つまずいて転んだ!」
「ちょっとターニア!ここ、めちゃくちゃ大事なシーンなんだから、こんなところでNG出さないでよ!」
「ごめんなさい!」
「はっきり言って演技で泣くの、大変なんだからね!」
「本当にごめんなさい!わざとじゃないの!許して!」
NGシーン2
村が襲われた後、エリーゼが焼け野原を歩いているシーンです。
「これは…、ターニアがかぶっていたはね帽子…。」
彼女は風にのって足もとに転がってきた帽子を拾い上げると、涙を流しながら地面にひざをつき、「ターニア…、私のために…。」と言いながら両手で抱え込んだ。
監督「はい、カット。」
「熱ーーい!ひざ、熱ーーーい!!」
エリーゼは大声を上げながら立ち上がり、その場を駆け回り出した。
するとターニアが慌ててその場にやってきて、水筒に入っていた飲み水をひざにかけてくれた。
「ちょっとスタッフさん!もうちょっと地面を冷ましてから撮影させてくださいよ!これじゃやけどしちゃうじゃない!」
エリーゼの忠告に対し、スタッフの人はその場で平謝りだった。
他にもエリーゼがまどうし(中身はバーバラ)のラリホーで眠らされた時、それまでのハードスケジュールがたたって爆睡してしまい、いっこうに目を覚まさずに負けてしまったシーン。
だいまどう(もちろん中身はバーバラ)がベギラマを唱えた時、火力が強過ぎてエリーゼが倒れてしまい、「キャーーーッ!ごめんなさい!」と叫んだシーン(Quest.11参照)などが上映され、一同の笑いを誘っていた。