ミレーユから破邪の剣を受け取ったコブレとサリイは、じっくりと時間をかけて鍛え直した。
完成した剣の攻撃力は月の扇に匹敵する程にまで上昇し、さらには道具使用した時の効果もギラからベギラマに上昇した。
リベラ「良かったね、ミレーユ。装備出来る自分専用の武器が手に入ったよ。」
ハッサン「さらに攻撃呪文もメラミ、ヒャド、イオに加えて、新しいものが加わったな。」
「そうね。それは素直にうれしいわ。でもバーバラがベギラマをベギラゴンにしたように、私もここからさらに威力を上げてみたいのよ。彼女がベホマや強力なベギラマ、そしてベギラゴンを唱えて、私を大きく上回る活躍を見せていた姿がまぶしかったし、あの時の彼女のようになりたいの。」
ミレーユは新しい武器を手に入れたにもかかわらず、笑顔はなかった。
「それじゃ、またバーバラのところに行くかい?」
「ああ。彼女ならいいアイデアを出してくれると思うぜ。」
「どうしようかしらね。彼女は痛み止めの薬を使いながら、毎日のようにシェーラさんとターニアの治療を受けているし、お邪魔したら悪いような気がするんだけれど…。」
「彼女ならいつでも喜んで協力をしてくれるよ。誰かに頼ってもらえることを凄く喜んでいるから。」
「リベラがそう言うのなら、間違いなさそうね。じゃあ、早速行かせてもらうわね。」
ミレーユが決意をすると、3人はライフコッドに向かっていった。
現地ではバーバラが氷のやいばを持っていて、腕に負担をかけないように慎重に道具使用しながら、ヒャド程度の氷のかたまりを出していた。
彼女は3人に気づくと、「おっはよーーっ!」と言いながら笑顔であいさつをしてきた。
ハッサン「今日はお前一人なのか?」
「そう。ターニアはあちこちで傷ついた人達のホイミタンクの役割をしているの。だから夕方まであたし一人なのよ。」
リベラ「ということは、バーバラ一人でも生活出来るようになったんだね。」
「うんっ!塗り薬も自分で塗れるようになったし。」
ミレーユ「でも、お料理とかは大丈夫なの?」
「ターニアがまとめて作ってくれたから、心配ないわ。それに痛みも以前よりおさまってきたから、痛み止め無しで生活出来る日も遠くはなさそうね。あと、足での呪文の威力がもう少し伸びればパーティーメンバー復帰も夢ではないと思うわ。」
「それは良かったわね。でも、無理だけはしないでね。」
「無理なんかはしてないわ。それでみんな、今日はどんな用事でやってきたの?」
彼女の質問を受けて、ミレーユは強化された破邪の剣の道具効果を上げたいことを打ち明けた。
「そうねえ…。見た感じ、この剣も炎の剣のように何か伸ばせる要素があるような気はするけれど…。」
リベラ「じゃあ力の盾のように、呪文を入れることが出来ないかな?」
ハッサン「そうだな。それが出来ればミレーユの火力もアップするからな。」
「それに今からじっくりとベギラマを伸ばしていく時間はないし、何とか早く威力を上げてみたいのよ。」
「うーーん…。道具効果がベギラマでそれを強化するとなると、必然的にベギラゴンになるから、試しに唱えてみようかしらね。ミレーユ、その剣を地面に置いてくれる?」
「いいわよ。」
ミレーユが持っていた剣を置くと、バーバラは左手をかざした。
リベラ「えっ?手でベギラゴンを唱えるの?」
「うん。足ではベギラゴンとベホマは発動しないし、それ以外の呪文も以前よりマシになったとはいえ、まだ通常より弱いから。」
「でも大丈夫?せっかくここまで治療したのに。」
「その時はその時よ。とにかく唱えてみるわね。」
バーバラは人の役に立ちたい一心で呪文を唱えた。
すると、左手から以前と変わらない威力のベギラゴンが発動し、破邪の剣に吸い込まれていった。
リベラ「凄い!力の盾と同じようなことが起きたよ!」
ミレーユ「これで私にもベギラゴンが使えるってことなの?」
ハッサン「多分間違いないな。」
「それなら強力な切り札になるわね。」
3人が喜んでいる一方で、バーバラは唱えた時の姿勢のまま顔を上げようとしなかった。
「バーバラ、大丈夫?どうしたの?」
リベラは彼女の様子に真っ先に気づいた。
「まさか、痛みがぶり返したの?」
ミレーユが心配そうに問いかけると、バーバラは「大丈夫。」と返答した。
しかし表情はゆがんでおり、右手で左腕をおさえていた。
「そんな…。せっかくここまで治したのによ。」
ハッサンをはじめ、他の2人も彼女を痛い目にあわせてしまったことを後悔した。
そしてミレーユは謝りながら、無駄と分かっていてもベホイミを唱えた。
「とにかく…、これでミレーユにも一発だけベギラゴンが使えるようになったわ…。いざという時の切り札が出来たわよ…。」
「でも、引き換えにあなたをこんな目にあわせてしまって…。ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「大丈夫…。こんなこともあろうかと、左手だけで唱えてみたの…。まだ右手が残っているし、左手もまた治療をすればいいわ。あたしは何度でも立ち上がってみせる…。」
バーバラは痛がりながらも、あきらめない姿勢を見せていた。
「でもたとえ治っても、これからあなたに再びベギラゴンを唱えてもらうわけには…。」
「それならテリーにお願いすればいいわ…。ミレーユの頼みなら聞いてくれるはずだから…。」
「分かったわ…。ベギラゴンを使ったら彼のところに行くことにするわ。ごめんね、バーバラ…。私、必ずあなたの分まで頑張るから。」
ミレーユは泣きたい気持ちをこらえながら謝罪をした。
そして彼女は塗り薬を塗って包帯を巻く役目を引き受け、バーバラと一緒に家の中に入っていった。
一方、リベラとハッサンは異性である以上、家に入っていくわけにはいかないため、何もしてあげられない悔しさを抱えながらライフコッドを後にしていった。
「僕、自分が止めに入らなかったせいで、彼女をあんな目に…。」
「やってみて分かったことなんだから、それは仕方ないさ。今回のことは授業料と考えておこうぜ。」
「でも僕…。」
「そんなに自分を責めるなって。お前はこれまで誰よりもバーバラを元気づけてきただろ。」
「うん…。」
「じゃあ胸を張れよ。俺達では体のケアは無理でも、心のケアはしっかりとしてあげようぜ。」
「うん。」
「それからよ。彼女はこのままだと俺達の役に立ちたいばかりにまた無理をしそうだから、俺達の手で適度にブレーキをかけてやろうぜ。」
「分かった。僕も協力するよ。」
リベラは相変わらず悔しい気持ちを抱えながらも、ハッサンのおかげで少しは気持ちが前向きになった。
しばらく歩いていると、前方に何やら女性の姿らしき2人が見えてきた。
「彼女達、どうしたんだろう?道に迷ったのかな?」
「そうかもしれんが、異世界からやってきた刺客かもしれんな。」
ハッサンの発言に対し、リベラは「まさか。」と言い返した。
「だがよ。これまで見たこともない姿をしているだろう。特にあっちの姉ちゃん、水着のようなすっげえ姿をしているしよ。」
「確かにね。あれで町を歩けるのかな?」
「さあな。」
彼らが会話をしていると、2人の女性が質問をしてきた。
内容は、以前カンダタと戦ったテリーに会いに来たということだった。
「俺達はテリーじゃないぜ。まあ、カンダタと戦ったことはあるけれどな。」
「ハッサン!そんなことは言わない方がいいよ!」
「えっ?なんでだよ。」
「きっとカンダタがこの世界に刺客を送り込んできたんだよ!彼は僕達が爆弾岩でやられたと考えているだろうから、生きていることが分かったら、きっと狙われるよ!」
「あっ…。」
ハッサンはうっかり口を滑らせてしまったことを反省した。
「へえ、アンタ達もあの覆面ゴリマッチョと戦ったのね。あいつに勝てるなんてすごーい!」
「私達はそんなカンダタ様の上を行く者の実力を把握するためにこの世界に派遣されたものです。」
「アタシは風の精霊。ヨロシクッ!」
「私は水の精霊と申します。」
2人のうちの一人はどこかバーバラを彷彿させるようなお調子者で、もう一人は非常に礼儀正しい感じだった。
「とはいえ、結局、僕達は彼女達と戦うことになりそうだね。」
「まあ…、そう考えることになりそうだな(汗)。」
リベラとハッサンが話し合っていると、風の精霊も「ねえねえ、あの覆面ゴリマッチョと戦った実力をアタシ達にも見せて!」と言ってきたため、本当に戦うことになった。
話し合いの結果、風の精霊はハッサンと、水の精霊はリベラとそれぞれ1対1で実力を出し合うことになった。
この時点でハッサンの所持している武器は炎のツメ、防具はプラチナシールドだったが、リベラが攻撃力を上げるために炎の剣を、さらにはHP回復のために力の盾を手渡してくれた。
「リベラ、ありがとうな。じゃあ、頑張ってくるぜ。」
「へえ、彼はリベラっていうの。なかなかハンサムじゃない。イイ男5年分の価値はありそうね。」
「あのな。こいつにはガールフレンドがいるぜ。」
「あらそう。残念ね。」
「第一、イイ男5年分ってどういう意味だ?」
「どうだっていいじゃない。それより、アンタの名前なんてゆーの?」
「俺はハッサンだ。」
「じゃあ、ハッサン。アタシ、今から全力で実力を見せてあげるからね!」
「お、おう…。」
ハッサンはお調子者ぶりを発揮する風の精霊を見て、まるでバーバラと勝負をするような気持ちになっていた。
勝負が始まると、彼女は素早い動きをいかして、早速キックを繰り出してきた。
しかしハッサンは力の盾で冷静に攻撃を受け止めると、反撃として気合ためのモーションに入った。
次に風の精霊はしんくうはを繰り出してきて、ヒットさせた。
「それじゃ、強力な一撃をお見舞いするぜ。ケガしても後悔するなよ!」
ハッサンはまじんのごとく立ち向かっていったが、彼女は素早い動きで攻撃をかわしてしまった。
(ここでまじんぎりはダメだ!通常攻撃をしなくては!どうしたんだハッサン!何のための気合ためだ!これはいけませーーーん!!)
リベラは2ターンを無駄にしてしまったハッサンに対し、心の中で猛ツッコミを入れていた。
(※説明しよう!ハッサンはまじんの金づちを装備した状態で気合ため→通常攻撃をして、会心の一撃が必中になるのを応用したわけだが、気合ため→まじんぎりでは必中にならないのを忘れていたのである。)
風の精霊はそんな隙を逃してくれるはずもなく、チャンスとばかりにかまいたちを繰り出してきた。
「ぐわあああっ!」
力の盾で防ぎきれなかったためにダメージを受けたハッサンは攻撃を一旦休止し、力の盾でHPを回復させた。
しかし、風の精霊が切り札としてバギクロスを唱えてきたため、回復量を上回るダメージを受けてしまった。
(ベホイミでは不十分だな。せめてベホマを使える仲間がいれば…。でも攻撃しなければ勝てないわけだし、何か強力な一撃を出さなければ。)
ハッサンは覚悟を決めるとまじんぎりを繰り出し、今度は会心の一撃を叩き込んだ。
一方、風の精霊はHP回復手段こそ持っていないものの、しんくうはやバギクロスが強力だったため、ハッサンはその後のほとんどのターンで力の盾での回復に追われるはめになった。
そんな持久戦の中で、風の精霊の攻撃をうまくかわしたハッサンは、チャンスとばかりにせいけん突きを繰り出した。
しかし、ほとんどダメージを与えることが出来ず、しかも彼女の反撃でダメージの大きい部分にキックを受けてしまった。
「ちょ…、ちょっとタンマ!」
思わぬ一撃で顔が青ざめたハッサンは、うずくまりながら勝負を一時中断させた。
「ねえねえ。大丈夫?そんなに痛いもんなの?」
「痛いんだよ!!お前には分からんだろうけれどな!」
状況を理解出来ない風の精霊に対し、ハッサンは逆ギレするように突っ込んだ。
それから数分後、勝負はようやく再開となり、ハッサンはしぶとくHPを回復させながら少ないチャンスをいかしてはやぶさぎりや捨て身を繰り出した。
しかしその捨て身で隙が大きくなったところを狙われ、しんくうはを叩き込まれて、とうとうダウンしてしまった。
風の精霊は性格こそバーバラのように(むしろバーバラ以上に?)お調子者だったが、実力は確かなもので、持久戦の末に勝ってしまった。
「ちくしょう…。悔しいけれど、負けだ。俺を煮るなり焼くなり、好きにしろ。」
「そんなことはしないわよーーん。アタシ達はアンタ達の実力を見たかっただけだから。」
彼女がこの世界にやってきたのは決して侵略のためではないこと。
そして戦った相手に勝てばこの世界に居続けられるが、負ければ元の世界に帰らなければならないことを打ち明けた。
「そうか。危害を加えるわけではないなら良かったぜ。だが、お前強いな。完敗だ。」
ハッサンは仰向けになったまま、リベラにホイミをかけてくれるように頼んだ。
そして彼のおかげでHP満タンとまではいかないまでも元気を取り戻したハッサンは、炎の剣と力の盾を返した。
(この2人、カンダタよりもずっと強そうだな。心して戦わなければ。)
彼は水の精霊との戦闘が厳しいものになることを覚悟した。
というわけで、今回はDQ7に出てくる風の精霊と水の精霊が登場しました。
僕はこの作品を書くにあたり、参考資料として他のドラクエ作品を色々調べましたが、その中で風の精霊のセリフが大ウケで、ぜひ出したいと思いました。
でも彼女だけでは何だか物足りなかったので、水の精霊とセットで登場させることにしました。
それにしても、ドラクエのわき役の中で、バーバラのさらに上をいくキャラがいたとは…。