この日、グランマーズはバーバラが持ってきた超・キメラの翼を鑑定し、完全な形にするために必要なアイテムを占った。
そしてそのアイテムを特定し、それがある場所を突き止めたため、マーズの館に集まったリベラ、ハッサン、ミレーユ、バーバラの4人に伝えた。
「そういうわけじゃ。このアイテムがそろえば超・キメラの翼の完全版が出来上がる。こうなればバーバラは失敗を恐れることなく、夢の世界に帰れるようになる。じゃからお前さん達、取ってきてはくれんかのう。」
リベラ「かしこまりました。」
ハッサン「頑張って手に入れてくるぜ。」
彼らが気合を入れる中で、左手の握力がほとんどないバーバラはミレーユから止められてしまった。
「あたし、やっぱり役に立てないんだ…。」
「そんな意味じゃないわ。あなたはこれまで十分過ぎるほどに頑張ってきたから、ちょっとブレーキをかけるべき時だと思っているのよ。」
「でも、それじゃあたしは…。」
バーバラは右手であまり自由のきかない左腕をさすりながら、悔しそうにうつむいた。
現に彼女はこれまでの治療のおかげで右手は日常生活にほとんど支障が無くなったものの、もしその手で通常攻撃をしたり、呪文を唱えたりすればいつ故障が発生してもおかしくない状態だった。
そのため、戦力になるには足で呪文を唱えるしか術がなかった。
その足での呪文もベギラゴンとベホマを差し引いて考えなければならない上に、威力もまだ多少弱かった。
そして、もしマホトーンにかかったら何の役にも立たなくなってしまうことも不安材料だった。
結局彼女は他の3人と一緒に行動するわけにはいかなかったが、せめて少しでも役に立つために、力の盾にベホイミを唱え、回復量を満タンにしてくれた。
「それからね、あたしの持っている氷のやいば、ハッサンに渡すわね。」
「えっ?いいのかよ!お前の大切な武器だろ!」
ミレーユ「それに、ターニアも使っているでしょう。」
「まあ、そうなんだけれど、彼女はアークボルトの兵士達へのホイミタンクの役割が評価されて、ブラストさんから破邪の剣を渡されたの。そしてそれをサリイさんのところに持っていって、鍛え直してもらっているから、丸腰にはならないわ。それに、みんなの武器を見た限り、炎系のものが多いから、氷系もないと不利でしょ?」
「確かにそうだな。それに、俺は複数の敵を攻撃する時の手段に乏しかったからな。リベラは炎の剣の道具使用でイオラが出せる一方、俺はイオしか出せねえしな。」
ミレーユ「あら、ハッサンはセリーナさんからまわし蹴りを教えてもらったはずでは?」
「確かに教えてもらったが、どうも彼女の様にはうまくいかなくてな。最初の一匹しかまともなダメージにならねえんだ。だから言っちゃ悪いが、心の中ではマジで氷のやいばを欲しがっていたんだ。攻撃力も炎のツメより上がるしよ。」
「じゃあ、なおさらちょうど良かったわ。はいこれ。」
バーバラが右手でそっと氷のやいばを差し出すと、ハッサンはそれを受け取った。
「すまないな。そして、ありがとう。お前の分まで頑張るからよ。そして、代わりにこれをやるよ。」
彼は炎のツメを差し出した。
「でもあたし、こんなの持っていたって…。」
「持っていればきっと安心材料になるさ。」
ミレーユ「確かに丸腰じゃなくなるから、絶対に気持ちの面で変化が出るわよ。」
リベラ「それに、左腕が治ればきっと道具使用でメラミが打てるようになるよ。」
3人はバーバラにやさしい言葉をかけて説得した。
それを受けて、彼女は最終的に受け取ってくれた。
「じゃあ、頑張ってね。あたしも応援しているから。」
「うん。君のために頑張るよ。たとえ離れ離れになっても、心はいつも一緒だからね。忘れないで。君はいつでも僕らの大切な仲間だからね。」
リベラは彼女のところに歩み寄ると、自分の右手でそっとバーバラの右手をつないだ。
「俺もこの命を救ってくれたお前のために頑張るぜ。あの日以来、当たり前のように生きていられることのありがたみは、1日として忘れたことはねえからよ。」
「それに、あなたはもう十分過ぎるほど苦労をしてきたわ。だから、これからはその苦労を私達にも分けて欲しいの。あなたばかりに背負わせたりはしないわ。」
ハッサンとミレーユも歩み寄ってくると、右手をその上に乗せた。
「みんな、ありがとう…。」
バーバラは涙が出そうになるのをこらえながら、3人を見つめた。
そして彼らが手を離した後、マーズの館を後にしていく後ろ姿を優しく見守った。
3人が洞くつの近くまでやってくると、入口にはようじゅつしが2人おり、リベラ達を見るなり「通りたければ倒してから行け。」と言わんばかりに身構えてきた。
「これは戦闘になりそうだね。」
「だろうな。出来ればこのまま走って突破したいけれどな。」
リベラとハッサンの嫌な予感は見事に的中し、彼らは先制攻撃とばかりにそろってバイキルトを唱えてきた。
「これは危ない!何とかしなければ!」
リベラはこちらも応戦しようとラミアスの剣を道具使用した。
するとなぜか発動したのは凍てつく波動だった。
「えっ?何で?僕、バイキルトを発動させるつもりだったのに!」
思わぬ効果に彼はビックリだったが、相手のバイキルトを解除してくれたため、結果オーライという形になった。
続いてミレーユは通常攻撃でようじゅつしAにヒット。Aは反撃とばかりにミレーユに通常攻撃をしてきたが、身かわしの服の効果もあって回避した。
ようじゅつしBはぬけがらへいを呼び出したが、ハッサンが一瞬遅れてはやぶさぎりでBを攻撃し、1ターンで降参させることに成功した。
リベラは試しにもう一度ラミアスの剣を道具使用し、今度は自分にバイキルトがかかった。
しかしハッサンが通常攻撃と追加攻撃でAをダウンさせ、続けざまにミレーユが炎のツメで放ったメラミでぬけがらへいをダウンさせたため、結果的にリベラの行為は無駄行動になってしまった。
戦闘終了後、リベラはなぜラミアスの剣で突然凍てつく波動が発動したのかを考えだした。
他の2人も同じ疑問を持っており、彼に質問をしてきた。
「どうしてって言われてもなあ…。心当たりと言えば、水の精霊が凍てつく波動を使ってきたことしか考えられないけれど…。」
ミレーユ「それならそのラミアスの剣は一度特殊攻撃を受けることで、次回からそれが発動するようになるということなのかもしれないわね。」
「あっ、そうか。じゃあ、これからは2通りの使い方が出来そうだね。」
ハッサン「それによ、今から敵を召喚している奴らと戦うことになりそうだから、新たな手段が加われば益々心強いな。」
「うん。きっと役に立つだろうね。」
3人は会話をしながら洞くつに入っていった。
内部では特にザコ敵との戦闘はなく、彼らはスイスイと奥まで進んでいった。
そしてグランマーズに指示された場所のところまでやってくると、そこにはモンスターの集団がいた。
その中には大人の男性に加えて、女性や子供達もいた。
リベラ達は戦闘になった時に備え、とっさに身構えた。
一方の彼らもリベラ達がやってきたのに気が付くと、どうするか相談を始めた。
その結果、その中の誰かが持っているアイテムでランプのまじん3人を召喚してきた。
ハッサン「げっ!よりによってこんなタフな奴らを!」
ミレーユ「これは一気にダメージを与えなければいけないわね。」
そんな中、リベラは短いターンで勝てるように攻撃パターンを指示した。
戦闘になるとミレーユはベギラマで、リベラはライデインで全員にダメージを与えた。
ランプのまじんはAが通常攻撃、Bがかまいたちを使い、それぞれリベラとハッサンにダメージを与えた。
次にハッサンは氷のやいばでヒャダルコを発動させ、やはり全員にダメージを与えた。
ランプのまじんCはバギマを唱え、全員にダメージを与えた。
「ミレーユ、あれを!」
リベラはターンの合間に彼女に合図を送った。
「分かったわ。」
彼女はリベラの思惑を了解した。
(バーバラ、ここで切り札を使わせてもらうわ。あなたの思いを乗せて唱えるからね!)
ミレーユは彼女が破邪の剣に呪文を唱えて左腕を痛めた時や、治療のために薬を塗ったり、包帯を巻いている時を思い浮かべながら、力を込めて破邪の剣を振りかざした。
「ベギラゴン!」
彼女がそう叫ぶと強力な炎が飛び出し、大ダメージを与えた。
ランプのまじんAはバギマで全員にダメージを与えてきたが、直後にリベラがライデインを唱え、一気に全員を召喚アイテムに送り返すことに成功した。
「リベラの作戦が見事に当たったわね。」
ミレーユはほっとしながら全員にベホイミをかけて傷をいやした。
戦闘後、3人は仁王立ちするようにモンスター達の前に立ち、どのような意図でこのようなことをしたのかを問いただした。
すると、女性の大人モンスターが前に出てきて、自分達の身を守るためにようじゅつしとランプのまじんを呼び出したことを謝罪した。
そして、彼女は自分達の世界では争いが絶えず、この世界が平和であることを知ったため、カンダタ一族から召喚アイテムを渡され、これを使って逃げてきた難民であることを打ち明けた。
「そっちにも事情があることは分かったぜ。だがな、この洞くつにやってきた俺達を見て、いきなりモンスターを呼び出すのは納得いかねえぞ!」
「しかもここ最近、異世界からやってきたモンスター達が平和を乱すような行為をするから、こちらは迷惑をしているんですよ!お願いですから自分の世界に帰ってもらえませんか!?」
相手の気持ちを考慮しても、ハッサンとリベラの怒りはおさまらなかった。
一方、相手のモンスター達は帰れば命の危険を感じながら過ごさなければならないこと。お金も食べ物もなく、子供達を養えないことを話した。
さらに別の男性は、どうか悪いモンスター達ばかりではないことを理解してほしいことをお願いした。
一方、リベラはすでにレイドック城やアークボルトの兵士達があちこちで異世界からやってきたモンスターと戦っていること。自分達もすでにカンダタ一味や精霊達と戦ってきたことを話した。
それに続くようにハッサンも、そのカンダタが因縁の相手になっていることを話した。
とにかく自分の世界に帰ってほしいという一点張りの2人だったが、ミレーユはテリーがデュランの子供達を見て助けたこと、そして自分自身が『いざという時にはたとえ敵対する立場であっても私はベホイムを唱えてあげたいと思っているわ。』と言っていた時のことを思い出した。
そして月鏡の塔ですでに定住しているモンスター達と一緒に過ごしてはどうかと提案をした。
「本当ですか?住む場所を提供してくれるのですね?」
「私達だって、むやみに戦いはしたくありません。」
「平和に過ごせるのであれば、それが一番うれしいです。」
「お兄ちゃん、そしてお姉ちゃん。パパ達のせいで、戦闘になってごめんね。」
モンスター達はミレーユのやさしさに感謝をしていた。
しかしその一方で、リベラとハッサンはその優しさがあだになってしまわないかを危惧していた。
「もうこのアイテムでモンスターの召喚はしません。信じてください。」
「お詫びに、このアイテムを差し上げます。どうか命だけはお助けを!」
男性に続いて女性のモンスターはそう言うと、モンスターを召喚したアイテムをリベラ達に差し出してきた。
「ママ。それがないと、あたし達、元の世界に帰れなくなっちゃうわよ。」
「むしろ、帰らない方が幸せです。これからはこの世界で生きていきましょう。」
「でも、生まれ育った世界が…。」
「私はあなた達を死なせたくはありません。何とかして生き延びていきましょう。」
モンスターの母親は我が子を懸命に説得していた。
「ではお言葉に甘えて、受け取ることにします。実は私のおばあちゃんがそのアイテムを必要としていますから。」
ミレーユはその女性のところまでやってくると、そのアイテムを受け取った。
そんな中で、リベラとハッサンはモンスター達が不意打ちをしてくるのではないかと思い、身構えていたが、それは杞憂だった。
そして、ミレーユがテリーとデュナン、デュアナとの出会いのエピソードを話すと、やがて双方に和解のような雰囲気が芽生えていき、警戒は次第に解けていった。
彼らが月鏡の塔に行くことが決まると、みんなで洞くつの外に出ていき、ルーラで現地へと飛んでいった。
塔の中ではスミスやホイミンをはじめ、すでに何人もの仲間モンスター達が定住しており、リベラ達は洞くつで出会ったモンスター達と対面させた。
そして住むためのスペースがあるか、食料を確保出来そうか、これから彼らと一緒に過ごしていけそうかを話し合った。
リーダー格であるスミスは、最初こそ難色を示していたが、ホイミンや他のモンスター達に説得される形で許可を出し、最終的に難民となったモンスターを受け入れてくれた。
一行が安どの表情を浮かべながら喜ぶ姿を見てリベラ達も安心し、これからはこの塔で平和に、そして幸せに過ごしてくれるようにお願いした。
「ありがとうございます。この恩は忘れません。」
「必ず平和に暮らすことを約束します。」
「お兄ちゃん、そしてお姉ちゃん、ありがとう!」
大人から子供のモンスターまで感謝され、リベラ達はうれしさを噛みしめながらマーズの館に帰っていった。
「おばあちゃん。はい、これ。」
「ご苦労じゃったの。」
グランマーズはミレーユが差し出したアイテムを受け取った。
(※バーバラは館にやってきたターニアに治療をしてもらうためにライフコッドに戻っていたため、不在でした。)
ハッサン「ばあさん、これでバーバラが100%確実に夢の世界に帰れるようになるんだよな?」
「完成すればそうなるのう。」
「あの、その時に…、もし僕がバーバラと一緒に超・キメラの翼を使えば、僕も夢の世界に行けるんですよね?」
リベラは以前から気になっていたことを思い切って打ち明けてみた。
「まあ、そうなるじゃろう。もしお前さんがこの世界を捨てて、夢の世界の住人として生きる覚悟があれば、ひとまずバーバラと別れを気にせずに過ごすことは可能になるぞい。」
「本当ですか?」
「うむ。ただし、以前も言ったことじゃが、彼女を人生のパートナーにすることは出来んぞい。」
「そうなんですか…。」
グランマーズの忠告に、リベラは素直に喜べずにいた。
(でも、思えばミレーユが水晶玉でバーバラを映し出してくれる前は、2度と彼女の姿すら見られないことを覚悟していたわけだし、あの時と比べれば十分過ぎるほど幸せな状況になったんだ。とにかく今はこの状況を前向きに考えよう。)
彼は懸命に自分を励ましながらレイドック城に帰っていった。