この日、リベラはサンマリーノでハッサンと一緒に家の改装工事の手伝いをしていた。
2人の頑張りの甲斐もあって、ついに改装が終了し、コブレとサリイを迎え入れることが出来た。
彼らが喜ぶ姿を見ながら、2人は外に出てお茶を飲みながら会話をしていた。
その中で、ハッサンは仕事中では明るかったリベラの表情がいつの間にか暗くなっていることに気づいた。
「お前、またバーバラのことを考えているのか?」
「うん…。仕事中は平気だったんだけれど、手を止めると、やっぱり思い出しちゃうんだ…。」
「そうか。いい解決策が見つかればいいんだけれどな。」
「でも、未だにその手掛かりが無いままだし、それにもう時間が無いんだ。」
「彼女がここにいられるのはあとどれくらいなんだ?」
「正確には分からないけれど、光の減衰具合からして、消えてしまうまであと1週間かな。そしてバーバラがマダンテを唱えた時、グランマーズさんは『3日以内に夢の世界に帰らなければ、帰らぬ人になってしまう。』と言っていたから、いくら命の木の実を見つけてもあと10日程度だと思う。」
「それはきっとあっという間だろうな。」
「うん。その間に代償を解除するなんて、もう奇跡が起きない限り不可能だと思うんだ。」
「そうか…。」
リベラが悩む姿を見ることは、ハッサンにとっても辛いことだった。
もしミレーユとバーバラを含めた4人が普通にパーティーメンバーとしてつながっているだけの仲であれば、こんなに悩み苦しむこともなかっただろう。
しかし彼らはそれと同時に2組のカップルでもあるだけに、話は簡単なものではなかった。
さらに、ハッサンとミレーユは何の障害もなく普通にお付き合いが出来るのに対し、リベラとバーバラはほぼ確実に引き離されてしまうという、あまりにも対照的な状況だった。
そのため、リベラは過去にこの話題になった時、「ハッサンに僕の気持ちが分かるもんか!」と言って当たり散らしてしまい、お互いの関係がギクシャクしてしまうこともあった。
それでもハッサンは何も言い返さず、リベラの悩み、苦しみを最後まで聞き続けた。
(すまねえな。俺達ばかりが恵まれてしまって…。俺だってミレーユと別れるなんて想像すら出来ねえし、多少なりとも気持ちを分かってやりたいと思っているぜ。そして俺は、俺達2組がそれぞれ手をつなぎながら、みんなの前で祝福してもらいたいと思っているんだ。だからお前達が幸せにならなければ、俺達も幸せにはならねえつもりだ。)
彼は口にこそ出さないものの、心の中でそう決意をしていた。
それからしばらくして、コブレとサリイが家の外に出てきてお礼を言ってきたため、彼らは素早く気持ちを切り替え、笑顔で対応をしていた。
そして彼らはリベラのルーラでロンガデセオに飛び、機材を運び込む作業に取り掛かった。
バーバラはこの世界にいられる限界の時が近づくにつれて、段々自分の部屋で引きこもるようになってしまった。
その姿に心を痛めたターニアはホイミタンクとしての仕事を辞退して、彼女のそばに寄り添うようになった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「……。」
「ご飯の準備、出来たわよ。」
「…いらない…。」
「私、そばにいた方がいい?」
「一人でいい…。」
ターニアが何とかして励まそうとしても、バーバラは落ち込むばかりだった。
その姿を見てターニアは何も言わず、そっと部屋を後にしていった。
一人で食事をしながら彼女はバーバラに超・キメラの翼を手渡した時のことを思い出した。
『あたし、今すぐこれを使ってしまおうかしら。』
『どうして?もし使ったら、みんなにあいさつもしないまま別れることになってしまうわよ。』
『その方がいいような気がするの。リベラ達に会ったら、別れが耐えきれないほど辛いものになってしまうから…。』
『私なら、残された時間をみんなと一緒に過ごしたいと思うんだけれど。』
『あんたはこの世界にずっといられるからそんなことを言えるのよ!所詮あたしの気持ちなんて分からないくせに!』
『そんなつもりで言ったわけじゃないの。』
『とにかく、いつこれを使うのかはあたしが決めるわ!』
『ダメよ!お願いだから今は使わないで!お兄ちゃんだって最後まであきらめないって言ってるんだから!』
(お姉ちゃん、けがをした時もそうだったけれど、すっかり性格が変わっちゃったな。こうなると私としてはきついわね。けがは時間をかけて治療すれば治るけれど、今度は時間で解決出来るものではないし、私はどうすればいいのかしら…。)
ターニアはどうすればいいのか分からないまま、一人で黙々と食事をしていた。
そして自分の分の片付けが済むと、バーバラの分を持って、彼女の部屋に入っていった。
「お姉ちゃん。お願いだから食事だけはとって。私、少しでもお姉ちゃんに元気になって欲しいの。」
「うん…、ごめんね…。」
すっかりお腹がすいていたバーバラはゆっくりと手を伸ばし、食べ物を食べ始めた。
その姿を見ながら、ターニアは超・キメラの翼をしばらくの間、自分が預かることを提案した。
「えっ?それはあたしが使うものよ。」
「大丈夫。大事に取っておくだけよ。私もまだお姉ちゃんと一緒にいたいから。」
「でも、どっちにしたって時間は過ぎるし、別れの時は来てしまうのよ。いつ別れたって、同じじゃない。」
「私としては、この世界での思い出をたくさん持ち帰って欲しいの。私達も笑顔で盛大にお姉ちゃんを送り出してあげるから。」
「本当に?」
「本当よ。それに、私は信じているの。きっと別れは悲しみばかりじゃない。その先に前向きな答えはあるわ。だって、お姉ちゃんはこうやって再びこの世界に来られて、みんなに会えたでしょ?」
「うん。」
「それに、以前の別れの後は2度と姿を見ることも、声を聞くことも出来ないことを覚悟したけれど、これからは水晶玉で姿を見られるし、会話が出来るわけでしょ?」
「うん。」
「じゃあ、帰ったらたくさん会話をしましょう。それに私、エリーゼとも会話をしたいから。」
「あっ、そう言えばあたし達、エリーゼにさよならも言わないままこちらの世界に来てしまったわね。」
「そうでしょ?それはお姉ちゃんが帰ってからでないと出来ないわけだから。」
「うん、そうね。」
「それにお姉ちゃんの体もきっと元に戻るから、また武器を装備出来るし、呪文もこれまで通り手で唱えられるでしょ?」
「言われてみれば、確かにそうね。」
バーバラは多少なりとも立ち直ったのか、食事をしっかりととるようになってくれた。
ターニアはそれを見て、にっこりと微笑んだ。
食事後、2人は一緒にいられる間に何かを残しておきたいということで、以前夢の世界でのコンサートで一緒に演奏した曲に詞をつけることになった。
「お姉ちゃん、向こうでまたコンサートをすることになったら、ぜひこちらの世界とつないでくれる?」
「いいわよ。そうすれば、みんなで一緒にこの曲を歌ったり、演奏したり出来るわね。」
「ええ。そして私は事前にそれぞれのパートを決めておくから、みんなで盛り上がりましょうね。」
「うん、分かったわ。」
2人で詞を書きながら、ターニアはバーバラが徐々に明るさを取り戻してくれたことがうれしかった。
一方、ミレーユはグランマーズと一緒に異世界に来ていた。
そこで彼女はベホイミとベホマの間にもう一種類の呪文が存在することを知った。
「それにしても、その呪文の名前がまさかベホイムだったとは意外ね。」
「そうじゃろう。これまで黙っていたが、わしはお前さんがその名前に決めた時はビックリしたぞい。」
「本当に凄い偶然だったわね。」
「その通りじゃ。他にもここにはミレーユ達の世界には存在しないものがいくつもあるぞい。」
「それなら、ここでは色々なものを学べるわね。モンスター討伐が終わったら、この世界に留学してみたいわね。」
「ただ、この世界にはまだ魔王がおる。この町はまだ安全な方じゃが、お前さんが旅をすれば間違いなく戦闘に巻き込まれる。それにこの世界ではミレーユ達の世界には存在しないアイテムや技術、そして特技や呪文もあるし、敵も強いから、戦闘は非常に厳しいものになるぞい。」
「そうなの。じゃあ、今回はこの町で情報収集をして帰ることになりそうね。」
「まあ、そうなるじゃろう。もしあの山の向こうに潜んでいる敵と戦ったら、間違いなく勝ち目はないじゃろうからのう。」
「そう。そんなモンスターがもし私達の世界にやってきたら、それこそ大変なことになってしまうわね。」
「そうじゃ。だから、そうならないように食い止めねばならんのじゃ。」
「分かったわ。」
ミレーユは改めてこれまで自分が懸命にアジトを調べてきたことの重要性を認識した。
彼女は異世界から戻ってくると早速アジトについて調べ、グランマーズの協力もあってその場所を特定した。
そして間髪入れずにサンマリーノに行き、リベラとハッサンにそのことを話した。
「2人とも、多分近日中に出発することになると思うけれど、心の準備はいい?」
「うん。じゃあ、僕はこれからレイドック城に行って、両親に会ってくる。」
「俺はもう少し作業が残っているから、まずそれを済ませることにするぜ。」
「分かったわ。私はこれからライフコッドに行って、バーバラにそのことを伝えてくるわね。」
リベラ「果たして来てくれるかな…。」
「彼女がどのような答えを出そうと、私はありのままに受け止めることにするわ。とにかく、声だけはかけてみるわね。そしてその後で作戦を考えたいと思っているから、後でマーズの館に集まりましょう。」
「分かったぜ。じゃあ、俺は今から歩いて向かうことにする。」
3人は会話を済ませると、リベラはレイドック城に、ミレーユはライフコッドに移動していった。
レイドック城に戻ってきたリベラは駆け足で中に入っていくと、早速両親に会いに行った。
「父さん、テリー達のこれまでの戦いを考えると、かなり強い敵と戦うことになりそうだから、どうかラミアスの剣を武器として使わせてください。」
「うむ、そうか。確かにそれは間違いなさそうだし、いいだろう。今回は認めることにする。それに加えて今回に限り、オルゴーの鎧の使用を許可する。」
「ありがとうございます。」
「頼んだぞ。お前なら出来るはずだ。」
「はいっ!」
リベラはお辞儀をしながら元気よく返事をすると、今度は母親のところに行った。
「母さん、以前はバーバラと夢の世界に行きたいという、無理なお願いをしてしまってごめんなさい。」
「いえいえ。あの時はムキになってしまって、私もレイドックも反省をしています。」
「でも、僕はやっぱり彼女のことをあきらめられません。それだけは分かって欲しいです。」
「それは私達も分かっています。これからどうなるのかは分かりませんが、きっと前向きな答えはあるはずです。悲しい未来にはきっとならないと思いますから、あるがままに現実を受け止めてくださいね。」
「はい、分かりました。」
リベラは両親との会話が済むと、早速オルゴーの鎧を取りに行った。
彼が再びハッサンとミレーユに会いに行くと、そこにはホイミンがいた。
「あれ?ホイミンも一緒に来てくれるの?」
「はい。テリーさんから、リベラさん達をサポートしてほしいと言われましたので。」
「確かに君はベホマに加えてベホマラーも唱えられるから、強力な回復役になれるよね。」
「そうです。それに今回はいくつかのアイテムをお借りしてきました。」
「どんなアイテムだい?」
リベラがそう言うと、ミレーユがらいめいの剣とだいまどうが着ていたローブ(通称:だいまどうのローブ)を、そしてハッサンがまじんの鎧を見せてくれた。
ミレーユ「テリー、以前私にこの剣を使わせてやるって言っていたけれど、私の破邪の剣と交換という形で本当に貸してくれたのよ。それにチャモロは炎のツメと破邪の剣を貸してくれたお礼として、このローブを手渡してくれたの。」
ハッサン「そしてドランゴからはこの鎧を渡されたんだ。見た目はアレだし、動きが鈍くなるというデメリットもあるそうなんだが、守備力と耐性は相当あるから、受け取ることにしたんだ。」
「そうか。優しいんだね、彼らは。」
ホイミン「そうです、リベラさん。それを見て、僕も頑張りたいと思いました。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。じゃあ、早速武器を整えよう。僕はラミアスの剣を正式に武器として使えるようになったから、炎の剣はハッサンに渡すことにするよ。」
「おおっ!これはありがたいぜ。これで攻撃力は氷のやいばより格段にアップするからな。」
こうしてハッサンは炎の剣、ミレーユはらいめいの剣、ホイミンはハッサンが持っていた氷のやいばを装備することになった。
リベラ「これで僕達の装備は整ったけれど、バーバラは来ないんだね。」
ハッサン「ああ。もしかして彼女の復帰はかなわないままなのかもしれないな。」
ミレーユ「出来れば、以前のように4人そろってパーティーを組みたかったけれど…。」
「僕ももう一度バーバラと一緒に冒険をしてみたい。でも、彼女にけがをさせるわけにはいかないし…。」
リベラ達はこのまま離れ離れになってしまうことを覚悟した。
すると、空から誰かがこちらに向かってくるのが見えた。
リベラ「あれは、バーバラ?」
ミレーユ「間違いなさそうね。」
ハッサン「来てくれたのか?」
それから間もなく、バーバラが彼らの近くに降り立った。
「みんなお待たせ。心配かけてごめんね。」
彼女はどこか吹っ切れたような表情をしていた。
リベラ「バーバラ、来てくれたんだね。」
「うん。一時はどうすればいいのか分からずに悩んだけれど、ターニアのおかげで吹っ切れたわ。」
「じゃあ、立ち直ってくれたの?」
「多分ね。正直、みんなと離れ離れになるのは避けられないでしょうけれど、それまでにたくさんの思い出を作って、笑顔でみんなに送り出してもらいたいと思ったの。」
「そうか。じゃあ、一緒に思い出を作ろうぜ。」
「ありがとう、ハッサン。」
「じゃあ、チャモロからもらったローブをあなたに渡すわね。」
「えっ?でもあたしにはまどうしのローブがあるのに。」
「チャモロの話ではそれよりも防御力が高い上に、呪文のダメージをかなり軽減してくれるそうよ。だから、こちらの方が役に立つと思うわ。」
「そうなの。じゃあ、チャモロの好意に応えて、ありがたく受け取ることにするわ。」
バーバラはそれを受け取ると、早速装備してみた。
「これでみんなの役に立てればいいわね。」
「君ならきっと役に立てるよ。そして僕達が君を守ってあげるからね。」
「リベラ、ありがとう。あたしも頑張るわ。」
バーバラは笑顔でパーティーメンバーに復帰してくれた。
ハッサン、ミレーユ、ホイミンは心の底から喜んでくれた。
そして彼らはバーバラを立ち直らせてくれたターニアにお礼を言うために、ライフコッドに向かっていった。
その日の夜、一行は現地で泊まることになり、彼らはターニアの作った手料理に舌鼓を打った。
翌日、ミレーユは敵のアジトで大金といくつものアイテムを手に入れたテリーのところに行って、お金と祈りの指輪、はやてのリングを手に入れた。
その後、もらったお金と自身の貯金と合わせて水の羽衣を買いに行き、再びライフコッドに戻ってきた。
そして水晶玉でこれから行くことになる場所を映し出し、ターニアにこれから出かけることを告げた。
「お兄ちゃん、そしてみなさん、どうか無事に帰ってきてください。私はマーズの館に行って、グランマーズさんの水晶玉越しに、みなさんを見守ることにします。」
「大丈夫。みんなそろって元気に帰ってくるよ。心配しないでね。」
「はい。信じているからね。」
リベラ達は超・キメラの翼を大事に抱えているターニアの姿を見届けながら、目的の場所へと向かっていった。