夢のまた夢と言われても   作:地球の星

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Quest.37 バーバラを助けて!

「バーバラ!起きてくれ!目を覚ましてくれ!」

 ドグマとゾゾゲルが倒されたことでマヒの効果が切れたリベラは、倒れているバーバラを抱え上げ、懸命に声をかけた。

 しかしすでに目は閉じられており、かろうじて息はしているものの、今にも止まりそうな状態だった。

「嘘だろ…。これからみんなで送り出すつもりだったのに、こんなことがあっていいのかよ…。」

「……。」

 ハッサンが信じられない表情をしながら声をかけた一方、ミレーユは何も言えず、両手で顔を覆いながら崩れ落ちるようにひざをついた。

 すると水晶玉が光り出したため、ホイミンが彼女に応答するように促した。

「分かったわ…。」

 ミレーユは震える手でグランマーズの姿を映し出した。

『何をしておるんじゃ!すぐにリレミトを唱えんかい!』

「えっ?でも、もう…。」

『早くするんじゃ!時間がないぞい!』

「……。」

 ミレーユは大声で催促されても、動けないまま呆然としていた。

「何やってんだよ!早くリレミトを!」

「もう…手遅れよ…。唱えたところで何が出来るの、ハッサン…。」

「あきらめるんじゃねえ!ばあさんなら何かいいアイデアがあるかもしれんだろ!」

「ミレーユさん、最後まであきらめてはいけません!」

「…分かったわ…。」

 ハッサンとホイミンの説得もあり、彼女は「みんな、行くわよ。」と声をかけ、涙を流しながらリレミトを唱えた。

 

 アジトの外に出てくると、そこにはターニアがいた。

「ごめん…。僕達のせいで…。」

 バーバラを抱きかかえたリベラは、泣きたい気持ちを必死にこらえながら謝った。

「みんな、早くお姉ちゃんから離れて!」

「えっ?でも…。」

「お願い、早く!巻き込まれてしまうわ!」

「巻き込まれるって…。」

「とにかく離れて!」

「分かった…。」

 ターニアに厳しい言葉を浴びせられたリベラは、バーバラを地面に横たわらせ、彼女から距離を置いた。

「お前、今から何をするんだ?」

「何かいい方法でもあるの?」

「とにかく何とかしてください。」

 ハッサン、ミレーユ、ホイミンはすがるように声をかけた。

 するとターニアは大急ぎで持ってきたアイテムを覆っている布をほどいていった。

「まさか!そんなことをしたらターニア、君も一緒に!」

「お兄ちゃん、来ないで!」

「えっ…。」

 リベラはターニアとバーバラのところに駆け寄ろうとしたが、彼女が怒り口調で叫んだことに驚いて歩みを止めた。

「お兄ちゃん大好き!そしてお姉ちゃんも大好きよ!お姉ちゃんを死なせない!絶対に!」

 ターニアが布をほどき切ると超・キメラの翼がまぶしく光り出し、2人を包み込んでいった。

 そして次の瞬間、光の矢となって上空に飛び立っていき、天空のかなたに消えていった。

 

 それからしばらくたってもリベラ達は現実を受け入れられずにいた。

 ミレーユはひざをついて、顔を隠したまま泣き崩れており、ハッサンは彼女に寄り添いながら、無言で励ましていた。

 そしてリベラは「さよなら」や「また会おうね」さえも言えず、あまりにも突然の別れに涙さえも流せないまま動けずにいた。

 そんな彼らを見て、ホイミンは何とか励まそうとしたが、何も出来ないままだった。

 

 すると、グランマーズがテリーを連れてやってきた。

「姉さん、それにみんな。ずいぶん落ち込んでいるじゃねえか。」

「テリー…。」

 ミレーユは涙をボロボロ流しながら声をかけた。

 しかし彼女は泣いてばかりで会話にならなかった。

 テリーは他の人にも声をかけてみたが、ショックが深すぎるために誰も状況を説明出来ずにいた。

「そういうことか。分かった。姉さん達がこれじゃ、とてもアジトをぶっ潰しにいくのは無理だろうから、俺が協力してくれる奴らを集めた上で、やってやるよ。」

 テリーは打ちひしがれるリベラ達の姿にショックを受けながらも、彼らを連れてルーラで飛び立っていった。

 マーズの館に降り立つと、彼はらいめいの剣とはやてのリング、まじんの鎧を受け取り、破邪の剣をミレーユのそばに置いた。

 そしてホイミンを連れて月鏡の塔に向かって飛び立っていき、スミスとドランゴに会った。

 未だに深いショックを受けたままのホイミンを、ドランゴは優しくねぎらった。

 そしてスミスが代わりに仲間に加わってくれたため、2人で塔を後にしていった。

 彼らはゲントの村でセリーナと一緒にいるチャモロに会い、事情を話した。

 すると、彼らも一緒に来てもらえることになったため、4人で向かっていくことになった。

 テリーはさらにアモスにも会いに行こうとしたが、スミスが早くアジトに向かうべきだと主張したため、この4人で向かっていった。

 

 彼らがアジトの内部に潜入して残されたアイテムを手に入れ、異世界へ旅の扉をふさいでいる頃になっても、マーズの館にいるリベラは深いショックと悲しみの中に沈んでいた。

「バーバラ…。お願いだ。どうか死なないでくれ。夢の世界のみんな、どうかバーバラを助けてくれ。もし彼女が助かるのなら、僕はどんな償いでもする。君と直接会えなくなってもいい。記憶が全て無くなってもいい。2度と元の関係に戻れなくなってもいい。どうか命だけは…。」

 リベラはバーバラが置いていったまどうしのローブを見つけると、それを手に取ってぎゅっと抱きしめた。

ハッサン「ミレーユ。バーバラが無事かどうか、水晶玉で確かめてくれないか?」

「……。」

「なあ、確かめなければ分からないじゃないか。頼むよ。」

「…ダメよ…。私…手が震えて…。怖くてとても…。」

 ミレーユは恐怖のあまり、水晶玉に手を伸ばせずにいた。

 すると館にグランマーズが入ってきたため、ハッサンは彼女にバーバラがどうなっているのかを問いかけた。

「彼女はのう…。きっとゼニス王や城の人達によって、懸命の治療を受けている頃じゃろう。」

「じゃあ、生きているのかよ。」

「まあ、お前さん達が今まで集めた命の木の実のおかげで、マダンテを唱えた後、少しだけ時間が残された。その間にターニアが夢の世界に連れて帰ったおかげで、ひとまず手遅れになるのは免れたが、それでも死の淵をさまよっているのは間違いないじゃろう。恐らく今夜にかけてが山場じゃ。何とか頑張りぬいてほしいがのう。」

「……。」

「……。」

 2人は最も恐れていた言葉だけは聞かずに済んだものの、まだ予断を許さない状況を知り、再び重苦しい気持ちになった。

「私のせいだわ…。あの時すぐにリレミトを唱えていれば、バーバラはそこまで衰弱しなくて済んだはずなのに…。」

「だからやめろって!そんなこと言うのは!」

「だって私…。」

「そんなことを言ったって、バーバラは喜ばねえぞ!誰よりも頑張っているのは他でもない、彼女なんだ!絶対に彼女は助かるさ!俺達を助けてくれた人が、そんな簡単にくたばってたまるか!」

 ハッサンは自身も恐ろしいまでのプレッシャーと闘いながら、懸命にミレーユを励ました。

 そんな彼らを見ながら、グランマーズは事前にターニアに見せた光景を思い出した。

 

 アジトの最深部で泣いてばかりだったミレーユは、ハッサンにせかされる形でようやくリレミトを唱え、地上に出てきた。

 しかし、リベラはバーバラを抱きかかえたまま、どうすればいいのか分からずにいた。

 するとハッサンは怒鳴るように『おい!早くルーラを!』と声をかけた。

 しかし、リベラはバーバラに『目を覚ましてくれ!』と言うばかりで、何も出来ないまま時間だけが過ぎていった。

『早くしろ!』

 ハッサンはさらに大きな声で怒鳴りながらリベラにげんこつを加えた。

『ルーラって…、どこに行くんだよ。』

『マーズの館に決まってんだろ!ぐずぐずしてんじゃねえ!』

『…分かった…。バーバラ。今からグランマーズさんのところに行くからね。』

『早くしろ!手遅れになるぞ!』

 再度ハッサンに怒鳴られたリベラはようやくルーラを唱えようとした。

 するとミレーユがバーバラの体が少しずつ光り始めていることを指摘した。

『えっ?まさか?』

 リベラが彼女を見ると、すでにその光は段々まぶしくなっていった。

『そんな…。バーバラ、死ぬな!死んじゃダメだ!』

 彼の必死のお願いにもかかわらず、バーバラの体はまばゆいばかりの光に包まれていき、やがて跡形もなく消え去っていった…。

『バーバラ…。バーバラ!嘘だ!夢だ!夢であってくれ!彼女が死ぬなんて、そんなバカなことがあってたまるか!バーバラ…。バーバラアアアアアァァッッ!!』

 リベラはひざをつくと、崩れるように地面にうつぶせになり、その場で泣き崩れた。

 彼のあまりにも痛々しい姿を見て、ハッサン、ミレーユ、ホイミンも泣き崩れてしまった。

 そして大切な人を失ったリベラは、その後…。

 

(当初はこうなる運命じゃった。じゃが、もしこうなっていたら、人間であるエルトリオを失った後の竜神族の娘ウィニアのように、どんどん衰弱していき、最後には取り返しのつかないことになったじゃろう。ターニア、その運命を変えてくれたこと、礼を言うぞ。)

 グランマーズは自身が夢の世界に行くのと引き換えに最悪の事態を回避してくれたターニアに感謝をしていた。

 

 やがて日も西に傾き、辺りの景色が赤く染まってきたため、リベラはまどうしのローブを持ったまま、ルーラでレイドック城に帰っていった。

 それから間もなく、テリー達が館に戻ってきた。

テリー「ばあさん、アジトは俺達の手で木っ端みじんにぶっ壊してきたぜ。」

スミス「そして石像から復活した人やモンスター達は元の世界に帰っていったぞ。」

 目的を果たした彼らはほっとしてはいたものの、部屋の奥で未だに打ちひしがれているミレーユと、彼女に寄り添うハッサンの姿を見ると、とても喜ぶ気にはなれなかった。

「ご苦労じゃった。戦いそのものはもう少し続くかもしれんが、今回の件を引き起こした張本人達は退治されたわけじゃから、これでこの世界は平和になっていくじゃろう。」

「そうなってくれるといいんだけれどな。あとは彼らに笑顔が戻ればいいがな。」

「そうですね。バーバラさんがいなければ、私達も幸せになれませんから。」

 セリーナとチャモロもバーバラのことが、そしてリベラ達のことが心配でたまらなかった。

 

 城に帰ったリベラは憔悴した表情のまま、凍てつく波動以外の効果を失ったラミアスの剣と、オルゴーの鎧を返却した。

 彼は両親や城の人達にいくら言葉をかけられても打ちひしがれたままで、食事もほとんどのどを通らなかった。

 彼の脳裏には、バーバラが残していったメッセージや、(さよなら…。)という言葉の後に自分の目の前でマダンテを唱えた時の姿が何度もよぎっていた。

 そのことは夜になっても続いており、彼はまどうしのローブを抱えながらベッドに横になった後も悪夢のようにうなされ続け、結局一睡も出来なかった。

(バーバラ…。どうか命を取り留めてくれ。そして水晶玉越しでもいいから、僕にもう一度その笑顔を見せてくれ。たとえ一緒になれなくてもいい。恨まれたっていい。記憶が無くなってもいい。どうか生きてくれ!お願いだから、誰か…、バーバラを助けて!)

 

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